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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
翡翠と鋼鉄の激突編
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第15話 決戦前夜 SIDE:サーラ


 【鋼鉄の夜明け団】、それは襲われていたマルルーシャ村を助けてくれた人たち。そして、襲ってきた野盗たちに”何か”をして眠らせた人外。彼らは幸せそうに眠る盗賊達たちをどこかに運んで行ったのだが、末路は知らない。想像したくもない。

 私は夜明け団の旅路について行っている。彼らの目的はよくわからない。あの子の道楽に付き合わされているだけ……なら、良いのだけど。

 ルナ。恐ろしい幼女、彼女が何を考えているかはわからない。この旅路の果てに何が待ち構えているか、想像もつかない。けれど、碌なことにならない予感がする。


 馬車を走らせて町に着いた。彼女たちはいつの間にか現れた女の人と女の子と、5人で遊びに行ってしまった。

 私は私で、貰ったお金で遊びに行った。食べ物はしなびている上に値段も高いと、現状を思い知らせるかのような暗澹たるものだったが奮発して買ったスイーツは甘くておいしかった。別に村の助けにもならない程度のお金だし、別にこれくらいの贅沢は許されるよね? 妹には金平糖のおみやげを買っておいたから許されると思いたい。


 そして、馬車のところに戻ってきたのだが。


「む? 早かった……のかはさておき、もう良いのか?」


 女の人、アルトリア様が待っていた。馬車に背中を預けて目を閉じていた彼女がこちらを見た。疲れたような、がっかりしたような顔をしている。

 まあ、町があの様子では仕方ないと思う。お上りさんみたいに楽しんでしまったが、町の実際の雰囲気は沈み込んでいた。


「あ、ごめんなさい。待たせてしまいましたか?」


 気合を入れて遊びに行こうとしていた彼女たちを見ていたから、こんなに早いとは思っていなかった。けど、実際にはあれだから、うん……失敗した?

 少し、声が震える。迷惑をかけてはいけなかったのに。


「ああ、いや。気にするな、思ったよりも遊べなくてルナが引き籠ってしまっただけだ。なんなら、今からもう一度遊びに行けばいい」

「え……いえ、やることもないですけど」


 彼女が苦笑してふるふると手を振る。気にするな、と言ってくれているのがありがたい。まあ、この人の立場が分からないのだけど。

 別に私を待っていたわけでもなかったらしいと安心した。


「――アルトリア様」


 兵士の一人が跪いて報告する。……実は偉い人だったんだと感心する。


「私には不要と言っているのだがな。そう言うのはどうにも隙を晒すようで好かん」

「アルトリア様であればどのような体勢からでも問題にはなさらぬでしょう。しかし、私めでは頼りになりませぬか。この鋼の身を更に鍛え上げ、あなた様の影を踏めるように精進致します。……失礼します」


 立ち上がった。その場から去ろうとするが、手で制する。くつくつと笑っている。先ほどとはうって違った楽しそうな様子だ。

 まるで玩具を買ってもらう子供のような純粋な瞳で宙を見上げている。


「ああ、報告とはあれだな。気付いているさ。さて、どうするかな」

「ルナ様にも報告しましたが、返事が返って来ておりません」


「ふむ、そうか。ルナにも考えることが多いだろうしな。だがまあ、サーラのことは決めておこうか」

「……」


 2対の瞳が私を捉える。……え、私?


「あの……私がどうかしましたか?」


 首をかしげる。全く話が見えてこない。


「なに……我々の客が来るのでね。君のことをどうしようかと思っていた。別に金をやってこの町に泊ってもらうのでも良いのだが」

「泊まるって……何ですか? それに客と言うのは、私が会わない方が良いんですか?」


「いや、そこは別にどうでもいい。ただ戦闘が起きる可能性が高いから君が危ない。この機動力は、話し合いに来ているものではないからな」

「戦い……野盗ですか!?」


 剣の音。戦う音。――人の死ぬ音。あんなものは二度と聞きたくない。なのに、この人たちはそんなことばかりだ。


「そんな程度の代物ではない。子供の遊びではなく、命を削る本当の戦争なのだよ」


 息を呑む。戦闘なんて……そんなもの。それに、本当の戦争だって? 皆が死んでしまった”あれ”が違うとでも? 誰かの命が失われることはとても悲しいことなのに。


「止めることは出来ないのですか?」

「――止め……る?」


 彼女は心底不思議なものを見る目で私を見た。まるで子供が道理に合わないことを言い出したように。

 戦うことを疑問に思っていない。止めようなんて、その発想自体が存在しない。


「戦うのは良くないです。話し合って何とかできるなら、その方がいいじゃないですか」

「クハハ! 戦いではなく話し合いで、か! 面白いことを言うな、お前は。なるほど、貴様もやはり”姉”だったと言うことか」


「……は? 姉?……え?」


 確かにアンは妹だけど。と、胡乱な目をする私に構わずアルトリアさんはうんうんと頷いている。


「戦いこそ誉れ。殺し合いの中でしか生きられない、手段のために目的を求めるどうしようもない奴らが我々なのだ。君には理解できないだろうし、分かるべきではないことだがね。……サーラ」


 初めて目が合った気がした。ナインスさんとて、子供にするように目線を合わせると言うものだった。

 酷薄な笑み、心の奥底まで除いてくるかのようなその視線が心を突き刺す。だが、それが対等の証だった。


「……」


 その目をしっかり見つめ返す。俯いてなんか、やるものか。だって、私は間違ったことなんて言ってない!


「私と目を合わせるか。面白い! いいぞ、ルナには私から言っておく。お前もついて来るがいい。【鋼鉄の夜明け団】と彼らと戦争の見届け人になれ」


 ぽん、と肩に手を置かれた。


 あ、と気付く。これ、もう逃げられないやつだ。戦闘が始まるのなら、危険だから逃げた方がいい。たぶん、この人は最初はそんなことを言っていた。

 でも、肩に置かれた手はその気が変わったことを告げている。お前も連れて行く、とそう言っているのだ。


「さて、今度こそ私も終わりかもしれんな。だが、あのような者も居るのなら報われるような気がしてこないか。どう思う、ベディヴィア?」


 幽鬼のようにひっそりと佇んでいた老人が答える。というか、居たんだ。あまりにも気配がなさすぎて驚いてしまった。


「あなたは殺そうにも殺せないでしょう。それにファーファはアリス様が守ります。妹を残してあなたが死ぬことはない。違いますか?」

「ああ、妹をおいて死ぬ姉など居るものかよ。だが、お前にももう少し私の執事をやっていて欲しいと思っているのだぞ?」


「ありがたいお言葉ですが……良い機会があれば逃すつもりはありませんよ。アルトリア様、私はあなたの部下ですが同時に共犯者です。散り様の指図までは承っておりませんので」

「ふっ。まあ、お前はそういう奴だよ。だがな元【キャメロット】、お前にはキツい相手が指名されるぞ。覚悟しておけ」


「それこそ、あなた様に言われるまでもありません。キャメロットが双首領閣下」

「問題ない。私はお姉ちゃんだからな」


 そう言ったアルトリア様の顔には疑念が一切なく晴れ晴れとしていた。この人、なんで自分の発言に疑問を抱かないのだろう?


「――私、いつまで経ってもそのお姉ちゃんとやらが理解できないのですけど」


 ベディヴィアさんはやれやれと呆れた顔をしていた。



 そして無言になること、しばし。


「「「――ルナ様の御元に到着。時刻は予定通り」」」


 三体の化け物……モンスター・トループが降ってきた。これで見たことのある異形は全員揃った。おそらく、この4体で全てだ。

 彼らが想定している相手とは一体なんなのだと恐怖に背中が走る。


「来たか。そして、残りも」


 アルトリア様が上を向く。釣られて上を見ると。


「……ッ!」


 理解しがたい魔法のような光景がそこにあった。全身を鎧で覆った兵士が空に浮いている。その数にして、9。


「来たようですね。では、私はこれにて失礼します。アルトリア様にご迷惑をかけないようにするのですよ、サーラ」


 離れていたナインスさんが何事かを呟くと鎧が装着される。それは上の人たちとは違う鎧だった。

 文字通りに飛ぶ。上に浮かぶ彼らと同じように、魔法のように空を飛んでいた。


「ああ、そうだ。降りてこい、ベッギ、カティエク、ラマーナ、オツィテ」


 アルトリア様がかすかに笑いながら呟く。上からでは聞こえないはずなのに、即座に上の四体が墜落――いや、跪く体勢で着地する。

 あ、もう一人が別の方に降りて行ってる。代わりにナインスさんが村の方へ、いや方舟に向かって飛んでいく。


「お前たちはこの村娘の護衛だ。悪いが頼むぞ?」


 苦笑しながら言う。


「「「「は! 我ら、アルトリア様のご命令とあれば、この身体に代えても任務を果たして見せましょう!」」」」


 力強い返答が返ってきた。安心……できれば良いのだが、怖い。なぜなら、ナインス以外は人間の形すらしていないのだから。

 義腕、義手。そして仮面に機械の瞳。ノーマルな人間など、一人もいない。


「……おや、そういうことになったか」


 いつのまにか馬車の扉が開け放たれていた。その奥で、ルナが鈴のような音色で笑い声を上げている。


「ルナ、すまんな」

「いいよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんのわがままはいつものことだしね」


 仲良さそうに言葉を交わす。その様は姉妹のようには見えないけど。この光景は、そう、何かすごく悪い人に見える。

 ルナがたたずまいを直し、前に進み出る。その小さな手を掲げ、宣言する。


「――決戦の時だ」


 ぽつりと言い放った。4体の化け物が、16人の異形の戦士が、そしてアルトリアとベディヴィアが真剣な面持ちで次の言葉を待つ。その隣にはアルカナとアリス、そして少し離れてファーファが一人で手遊びをしていた。

 かつん、と軽い足音がした。何かが馬車に乗った音。そんなこと、あり得るはずもないのに。それは唐突にそこに出現した。


「鼓動が我が耳を揺らす。開戦の号砲は指折り数えるばかり、鐘の音が鳴るのはすぐだ。戦士たちよ、唯一絶対の神の元で命を燃やす時が再び巡り来たのだ」


 現れたのは錫杖を持つ幼女。赤い瞳の綺麗な女の子。不思議な言葉を小さな口から吐き出す。


「戦いはすぐそこだ。喝采を上げよ、戦士達よ! ともに戦の愉悦を味わおうではないか」


 現れたのはおかしそうに好戦的な笑みを浮かべている少女。同じように赤い瞳をしているけれど、この子よりはずっと大きい。のに、やはり幼い雰囲気だ。


「さあ行こう、我が【鋼鉄の夜明け団】よ。その鋼の意思を存分に見せてくれてやろうではないか!?」


 ルナが号令をかける。野太い鬨の声が上がった。



 ちなみにナインスが別の魔導人形なのは、ルナからの支給を固辞して量産型最安の『銅』を自費で購入したからです。兵隊に買える値段じゃないけど、世界を救ったときにルナがいっぱいお金をくれたので。鍛錬には便利ですね、高級品には勝てないしツインスパイラルブラスターも撃てないけど。

 団員の通常装備は量産型最高性能の『鋼』、しかもそのルナ改造品です。個人の改造個所によって異なるオプションパーツが付いてるイメージ。



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[一言] 人外同士の戦争に巻き込まれるサーラちゃんw
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