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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
最終戦争編
257/361

ex2話 殲滅


 3国に寄生して生きる小国、共和国『リベレッジ』。首都の外れに設けられたモラレス工場、その所長室。紙が散乱し、薄汚れた部屋で脂ぎった男が必死に電話口に叫んでいた。


「――どうなっているんだ!? 【鋼鉄の夜明け団】が攻めてくるだって? 宣戦布告か? ここは共和国直轄の工場だぞ! 魔道人形の生産がどうの、夜明け団にそれを取り締まる権限があるものか!」


 電話先に居るのは部下だ。共和国上層部へと繋がるパイプ役の男、王国の二重スパイでもあったのだが。所長も大きな地位を持っているだけに、そのような関係は持っている。

 この所長本人としては、あくまで自分は愛国者の一員と思っている。

 魔道人形生産は細かな利権が関わってくる。ルナ・アーカイブスが魔石を独占して権利関係を買い上げたと聞くが、それがどうした? 取り締まるのはあくまで”国”だ。共和国が国として動く以上、他国が口出ししていいものではない。

 そこに”犯罪者の摘発”ではなく”宣戦布告”と言った理由がある。例え王国の操り人形でしかなかろうと、それでも『超合衆国カンタベリー』などが口を出す筋合いではない。


「わ、分かりません。なにせ、上層部としても寝耳に水だったようで……確かに魔導人形の生産量削減、というか禁止要請が出ていましたがあくまでも検討中で返答していません。奴らに暴力で脅されれば、いつかは頷くこともあったかもしれませんが」

「だから我々は今のうちに昼も夜もなく出来る限り生産を続けていたのだろうが! 奴らに奪われた戦力をわずかでも補うために!」


 ルナは最終決戦のため、武力にものを言わせて世界中から魔道人形を巻き上げた。反発する、隠すなどして滅ぼされた都市も枚挙にいとまがない。

 鋼鉄の夜明け団は強硬に物事を進める。ゆえにその総帥であるルナは表裏問わずに命を狙われている。世界を救ったから許されるなどという話があるわけがない。


「そんなことを言われましても……! それに、国の方でも超合衆国に問い合わせしているのですが。しかし奴ら、犯罪者をかばうなら共犯とみなすとの一点張りで取り付く島もありません」

「だから、奴らに犯罪者を裁く権限はないだろうが! そんなものを他国に渡す間抜けがどの世界に居るか!? 奴らとの協定を見返してもそんな文章はどこにもないわ、ばか!」


「その通りなのですが、奴らは本気です。魔導人形の生産は犯罪だと言うばかりで、こちらの言葉に何一つ耳を傾けないのです……!」

「くそが! 奴ら、正気か? 本気で我が国の侵略戦争を始めたのか……!」


「分かりません……所長、こうなれば逃げなくては」

「逃げてどこへ行くと言う? ハゲタカにたかられ、骨までしゃぶりつくされるだけだ。それとも機体を持ち逃げするか? それこそ国も、夜明け団も血眼で探すだろうな……!」


「ですが、奴らは遊星主を打ち倒した化け物どもです。まともに戦って勝機なんて万に一つもない……ッ!」

「分かっている……! だが、どうすれば良い? どうすれば良かった? まさか、遊星主に勝ってしまうなどありえんだろうが……!」


 電話の向こうの彼と二人して頭を抱えた。 

 それこそ、悪いことをやっている自覚はない。というか、元来これはそういうことではないだろう。

 例えばA国に所属する研究者が居るとして、国のためにB国の兵士を殺す武器を作るのは悪いことでも何でもない。B国の人間にとっては悪魔と罵られるだろうが、A国の人間にとっては必要不可欠な人”財”だ。

 そう、”悪い”ものがあるとすれば時世に他ならない。そのA国は負けたのだ。ならば、力は削ぎ落しておくほうがいい。力の論理である。弱い者は虐げられ、強い者は世にはばかる。そうしなければ強い者は寝首をかかれるのだ。


 何一つ光明を見出せぬまま、声が響いて来た。拡声魔術による大音響、プラスしての放送機へのハッキングだ。その街に居る者は誰一人例外なくその声を聞くことになる。


〈私は【鋼鉄の夜明け団】所属の騎士レスキオ・スパラディである。盟主より【白崩】の異名を頂いている〉


 彼は空に浮かんでいた。砦でなくとも兵器工場、空から侵入する敵への備えくらいあった。……が、敵があまりにも速すぎた。今気づいたかのように至る所で警報が鳴り響く。

 とりあえずは結界の向こう側の出来事と住民はパニックこそ起こしていないが、一撃で守りが崩壊したならどうなることか。一般人は攻撃と防御で威力が違いすぎることを知らない。あれが『鋼』ならば容易に壊せるのだ、結界と言うものは。


 さらには追加で8機の魔導人形の接近も感知している。これは絶望的と言えるだろう。

 工場に魔導人形があっても、兵士がいない。着てすぐに戦えるのが利点だが、素人に熟練者が敵う道理がないのはどの世界でも同じことだ。

 もっと悪い事には兵士が居る場所は別だ。ここはあくまで兵器の生産工場、基地は権力者を守る場所に置かれている。……少し遠い。


〈この都市では許可を得ない魔導人形の違法な生産が行われていることが確認されている。ゆえに、我らは工場を破壊することを決定した〉


「何だ? 奴は何を言っている!? そんな法は成立していない!」


 と、言うが当然ながら聞こえていない。

 本人と直接話そうにも、通信はカットされている。責任者の指示がなくともここのオペレレーターは呼びかけをしているのだが、一切反応がない。


〈1時間待つ。我らは罪なき民間人の殺戮はしない。1時間以内に工場から退去されたし。……繰り返す、1時間以内に退去せよ〉


 そして、8機の『鋼』が到着した。彼らも上空で待機している。思い出したかのように自動防衛機構が動いて火器を向けるが、奴らは何も堪えちゃいない。

 発砲し始めたが、当たり前に効いちゃいない。自動のそれは小型奇械を相手にするものだ、『鋼』相手に何も意味がない。奴らは何事もないように空に居座っている。


「……」

「……」


 工場長も、電話の先の彼ももはや言葉が出てこない。指令室から電話がかかってきているのだが、取る気にもなれない。

 重苦しい雰囲気の中、カードリーダーの音が響き厳つい男が入ってきた。初老に差し掛かった年、髪には白髪が混ざり始めているがその眼光は鋭く想い。


「奴らは遊星主と戦い、次は人間にすら牙を剥く戦争狂どもだ。だが、敵となり得る者を奇襲して先んじて潰すのは兵法に敵っていると言えるな」


 鋼鉄の夜明け団は人類を救ったが、その行いを他者が見てどう思うかは別だ。そもそも団にしたって、今も国を守る兵器を作り続ける愛国者を踏み潰そうとしているのだ。

 正義も悪も、所詮は陣営の違いでしかない。

 ――鋼鉄の夜明け団が、夜明け団である限り。そして共和国が己の国を守ろうと誓う限り、この戦争は避けられない。なぜなら、頭を下げることは隷属することだから。他者に己の命運を預けることを良しとできない。


「パトリック・ティンズリー少佐。呑気にしていて良いのですか? この工場が落とされればあなたの責任も追求されますよ」

「なあに、ここに居るのは工場見学って名目ですが、持ってくるものは持ってきてるんでさ。それに、やっぱり仮想敵国は夜明け団でしてな。この攻撃も予想していなかったわけじゃない」


 煙草を取り出し、良いかと視線で尋ねた。工場長は葉巻を二本取り出し投げつける。こりゃ良いものですな、とパトリックは口角を上げ紫煙をくゆらせた。


「……勝てる、と? あの化け物どもに」

「人間には人間の戦い方があるってのを見せてやりましょう。当然、新規製造した『鋼』は私の部隊に貸していただけるのでしょうな」


「もちろんだ、破壊されるくらいならば……な。だが、本当に勝算があるのか? 未出荷の魔導人形は残っているが、兵士は居ないぞ。1時間待つといっていたが、援軍を要請しようにも時間が足らない」

「なに、彼もそのくらい調査済でしょうて。ならば、工場の人間を集めてください。最下級の『銅』でも、豆鉄砲をもたせりゃ”かかし”くらいの役にゃ立つでしょう」


「そうか。……だが、それでも数が足りないだろう。それに、奴らを載せても逃げ出すだけではないか? 期待できんだろう、お世辞にも頭の出来が良いとは言えん奴らだぞ」

「ならば数を集めればいい。都市の人間からも徴兵を。こちらの部隊から人員を出して、逃げれば撃ちます。馬鹿とハサミは使い様ですよ、自分の命がかかれば必死になりますからね、あいつらは」


「ならば、まずは門を閉鎖しよう」

 

 内線をかけたが、表情が固まった。門が動かない……それどころか、多くの機能に支障が出ている。


「……どういうことだ?」

「すでに攻撃は始まっていると言うことですな。奴ら、逃げる者は本当に追わないようで」


「これでは兵の数を確保できん! ええい、オペレーター。命令だ、この工場より出ることは許さんと伝えろ。そして一人でも良いから多く集めろ!」


 内線に怒鳴りつけた。


 そして、55分後。


「――おお、これほどの軍隊とは」


 864機の『銅』と、24機の『鉄』、そして8機の『鋼』。対して相手は『鋼』と言えどもたったの9機。

 整然と立ち並ぶ姿は圧倒的の一言に尽きた。まあ、突っ立って引き金を撃つのがやっとの急造ですらない素人だが、この工場長も戦場という意味では素人だ。


「はは。かかしとはいえこれほどなら壮観ですな。それに、奴らは戦争というものを甘く見ている。不死身の軍隊? ルナ・アーカイブスの改造手術なら頭さえあれば生きれる? 分かっていないな、人は銃弾の一発で死ぬ」

「迎撃の用意は出来た。たかが工場と思って侮ったな、奴らに目にものを見せてやろう」


 少佐が一歩進み出て怒鳴りつける。


「貴様ら、心の準備は出来ているな!? お前たちに多くは望まん! ただ指定された場所に行って魔道人形が指示する方向に銃を撃てばいいだけだ!」

「「「了解!」」」


 前方に居た何人かが声を張り上げた。続いて小さな声がいくつも聞こえる。桜、というか軍隊経験のあるその何人かに前もって声をかけ前に並ばせておいた。


「声が小さい!」

「「「「「了解!」」」」


 少しはマシになってきた。


「いいな、貴様らがやるのはたったの二つ! 指定された場所に立て! そして引き金を引け! それすら出来んクズはそのまま突っ立ってろ!」

「「「「「了解!」」」」


「では、戦争の時間だ。ケルベロス小隊、ペルセウス小隊は私に続け!」


 飛び上がる。


「戦闘の意思を確認。武器を持って立ち向かう相手に戦意を聞く無粋はせん。【白崩】、参る」


 最初の高速で飛んできた機体が真っ先に向かってきた。


「……へ! 上等だ、やってやるよ!」


 最終決戦には参加しなかったとはいえ、少佐は実力者だ。奪われた『鋼』は、新しいものを手にした。そして、相手も『鋼』ならば負ける理由がない。人体改造? 鍛え上げた己が身体に敵うものかと。


「我らが鋼鉄の夜明け団が双首領、アルトリア・ルーナ・シャイン様より教えを賜りし我が力。異名にて分け頂いたその名を見るがいい。……皇月流【瞬き】!」

「下らん! 鍛え抜いた我が技の冴えを見るがいい! 蓮華流【みぞれ】!」


 レスキオの抜き手とパトリックの剣が衝突した。一瞬だけ拮抗し、剣に亀裂が入る。


「脆弱だな。ルナ様が改造したこの機体、貴様ごときに太刀打ちできるものではないのだよ」

「――確かにな。だからこそ、俺がお前の相手をしてやってんじゃねえか。蓮華流【はっさく】から【はちほう】」


 抜き手を受け流し、そのまま下方に落とすと同時に首を狙って剣を振り下ろす。


「……やはりな、下らんよ。貴様ら」


 振り下ろした剣は狙い違わずレスキオの首に迫った。鎧の隙間を狙った神業、例え剣が折れ欠けたと言えども人間の身で耐えられる道理はない。

 殺した、と思った。のに――


「馬鹿な。剣が、折れた……?」


 狙い違わず。しかして現実は想像を凌駕した。そんな馬鹿なことがあるか? 人間の首に剣を突き立てて、しかし剣が折れるなど。


「これこそルナ様より賜りし加護。一時キャメロットに身を置いた私に、ただの人間の部分など残っていない。では、死ぬがいい人間よ」


 拳を握り、殴る。それだけなのに恐ろしいほどの圧力。受ければ死ぬと直感で理解した。急降下、曲芸の範囲だけれど芸は身を助けた。


「……はァッ! くぅ――」


 敵より離れ、助けを求めるように下を見れば。


「貴様ら、揃いも揃って弱すぎる。所詮は遊星主から尻尾を撒いて逃げた奴らだ、根性がない」

「馬鹿な。そこまでの性能差があるわけがない……!」


 彼以外の『鋼』は全て落とされていた。夜明け団の『鋼』は全員が健在、見たこともない武器を振り回して鎧袖一触に蹴散らしている。

 ……最上級とはいえ、量産機でこれは信じられる光景ではなかった。


「ははは。なるほど、馬鹿だなお前は。夜明け団が接収した『宝玉』をどう使ったのか予想もついていないのか」

「……何!? まさか、『宝玉』が来ているのか。だが、そんな気配などないぞ」


「まさか。俺たちが戦っていたのは奇械だぞ。付け焼刃で宝玉を使っても物の数にならん。ゆえ、鋳溶かしたよ」

「は? いや、待て……壊したのか? 歴史あるそれを……?」


「歴史で強くはなれん。使いやすくする必要があった。……こういうことだよ」

「ちィ……ッ!」


 レスキオが向けたのは『ツインブラスターカノン』。だが、必殺技の充填には時間がかかるはずだった。少佐はその隙を狙おうとして――


「発射」

「……ッ!」


 撃ち放たれたビームに片腕が蒸発した。


「このように有効利用させてもらった。そして、この傘盾もその一つ。『宝玉』を原料とした武器だ。貴様らは『鋼』を相手にすると思っていたのだろうが、こちらの戦力は『鋼』を凌駕する」

「ああ――」


 絶望した。夜明け団? 相手が『鋼』ならば、鍛え上げたテクニックで倒せると思っていた。人体改造などと言う外法に手を染める者など、ものの敵ではないと。

 だが、テクニック以前に敵は半分『宝玉』の域に達している。武器の違いがそのまま戦力の差だった。人数の差など、武器の質に比べれば考慮にも値しない。


「そして、雑兵……しかも『銅』ではただの的だな。数で質を上回るなど、弱者の理論だ。我ら夜明け団には当てはまらない」

「この……化け物どもめ! くたばれェ!」


 新しい剣をロード、最高速で突っ込んだ。


「やぶれかぶれでどうにかなるレベルではない。もう一度喰らうがいい」


 二発目のブラスターが放たれ、ただ一つ焼け残った左腕は無慈悲に地に落ちていく。


「さあ、全てを壊せ。魔導人形は世界を汚す。ならば、それを持つのは我ら夜明け団だけでいい」


 レスキオが眼下を眺める。……火の手が上がっていた。攻略完了、後は鴨打ちだった。


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