表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
最終戦争編
256/361

ex1話 謀略と戦火


 最終決戦、多くの兵が犠牲になった。910名が『鋼』を纏い、参戦したその戦争。その中の2割ほどは、ルナの手術を受け四肢のどれかか複数を機械化した強化兵である。

 ――彼らは勇敢に戦い抜いた。だが、生き残ったのはたったの27名だった。その27名も機械化手術を受けていなかった者も居るが、今では全員が受けている。”無事”だった者は一人もいない激しい戦いであった。生き残れたのは幸運以外の何者でもなかった。

 そして、モンスター・トループもまたしぶとくもそのコアを遺していた。彼らはシリンダーの中で新しい機体を待っている。


 この1週間の間、【鋼鉄の夜明け団】は戦力の再編成に力を注いでいた。いや、それは再編成などと言えるのだろうか。

 国は民が居て成り立つものと言われるが、こと超合衆国に限れば”傭兵”が居なければ成り立たない。ルナの擁する鋼鉄の夜明け団の存在がなければ、大国に踏み潰される定めにある。

 ……が、その夜明け団はどうなった? 壊滅だ。戦闘兵が27名だけなど勢力とさえ呼べない残党だ。


 ルナを始めとした終末少女は健在――が、それ以外は壊滅してしまった。人類の未来をつかみ取るための最終決戦に勝利した代償であった。

 ありふれたストーリーだ。魔王を倒した勇者(特記戦力)は次の魔王となり、人に殺される。魔王は勇者に倒され、勇者は人間に葬られ、人間は魔王に虐げられる三すくみだ。

 今ここで夜明け団を倒さねば、王を超えた”支配者”が誕生する。それは、既存の権力者にとって許せない。

 1週間は、人間の側にも準備が必要であると言う話。まさか、13遊星主に喧嘩を売って、人類の領域に戻ってくることなど想像していなかった。すぐにでも踏み潰さなければ、自らの地位は瓦解すると分からぬ馬鹿は居なかった。


「彼らか、我ら。共に天を頂かずと言う(ことわざ)通り、夜明け団か既存の権力者どもか……生き残るのは二つに一つである。まあ、我々としては譲歩して共同統治にしてやっても良いのだけどね」


 ルナは今、動かせる全兵力を招集していた。……とはいえ、オペレーターの4名を加えても31名しか居なかったが。

 彼らは会議室の中、神妙に話を聞いている。


「『キャメロット』の現状を公表していないから、向こうも情報戦の構えを見せているようだ。僕とアルトリアお姉ちゃんは姿を見せてやったけどね、生きてはいるがお姉ちゃんは動かせる身体じゃないことは見抜かれた」


 31対の視線の中、ルナは大仰な身振り手振りで演説をぶつ。後ろのアルカナとアリスに見守られながら。


「いずれ兵力が君たち27名しかいないことも漏れるだろう。それに、彼らも戦力増強を行っているようだ。魔導人形製造の利権は僕が握っているはずだが、奴らは無視している。条約違反をシャルロットの方から責めさせているが、製造責任者を犯罪者に仕立て上げて回避したつもりになっているようだ」


 ダン、と床に足を叩きつけた。手は背丈が小さいから机に届かない。


「ならば、夜明け団が犯罪者を取り締まろう。元より国家で解決できない問題を暴力により粉砕するのが我らが『鋼鉄の夜明け団』の存在意義であるのだから」


 パチパチパチ、と拍手が響く。内政干渉どころか戦争を仕掛けているようなものだが、戦力が整えば向こうの国家から宣戦してくるだろう。

 ゆえに正義を謳っていても、その内実はどちらの宣戦布告が速いかの違いでしかない。


「そして、諸君らは夜明け団であるのだから、僕は盟主として知恵を授けよう。我らが人類文明の礎となった魔導工学、魔力さえあれば全てが可能になる。けれど、その魔力は使えば”汚れる”。世に跋扈する魔物どもは魔導工学が生み出した、いわば環境汚染のようなものであるのだ」


 いきなり講義が始まったが、皆は必死にその一言一句を脳内に刻み込む。この知識はその道の人間であれば初歩の初歩だが、実際重要なのは”何を”ではなく”誰が”しゃべるかだ。

 ルナ・アーカイブスの言葉を聞き逃す人間は夜明け団には居ない。


「まあ、遊星主を始めとした暗黒島から発生した勢力は別だけれどね。小型奇械は人間が生きるために生み出した資源が、大型は魔導人形を生み出すために使った魔力が巡り巡ったものだ。人類と魔物は密接に結びついている。文明がある限り魔物は発生して、魔物は人類が居なければ生まれることはなかった」


「――さて、僕は別に人間が生まれることの是非を問いたいわけではない。人間が、人の手によって生き残ることを肯定するのが”夜明け団(ドゥーン)”だ。人のために戦うことが間違いであるはずがない。誰が否定しても、僕だけはその行いを肯定しよう」


「ゆえに、未来のことを考えよう。遊星主は倒した。が、奇械はまだ残っている。戦力は必要なのだが……そこはオール オア ナッシングではなく最適を目指して行こう。魔導人形は作っても動かしても奴らの餌なのだから、切り詰めるしかない」


 空気がざわめく。


「だらだらと話を続けることほど無駄なことはない。人類の支配者になることを夢見て世界を汚す愚か者には退場してもらおう。……魔導人形を作る技術を持つのは我々だけでいい」


 これがルナの語る”正義”である。戦争は正義のために行われる。この戦争は人が生きていくための環境を死守するための戦いであると。

 バ、と手を広げた。それに応えるように団員たちが左手を掲げる。その手に魔導人形のアクセサリを握って。


「戦争を始めよう。掴んだ人類の未来のため、障害は根こそぎに叩いて潰せ!」


 皆が楽し気に頷く。

 左方、顔の右半分が火傷に覆われた男が楽しげに訊く。火傷痕に覆われた蒼い機械眼が瞬いた。


「共和国、リベレッジにあるモラレス工場は?」

「爆破しろ。必要な箇所はこのアームズフォートに組み込んだ。欠片も残すな、『鋼』の新造など不要」


 次は右。一見、健常者に見えるが手には絹の手袋、そして軍服の硬いコートの上からでもわかるほど不自然なごつごつのある腕が生えている。見てわかるが彼も強化兵だ。


「アルストン橋を抜けた先にあるリーマ工廠研究所は?」

「新たな魔導人形の研究など許さんよ。燃やせ、周辺の製鉄所もだ。全てを破壊しろ」


 その隣。一見気弱な優男、だがその両腕がなくなっているのを見れば印象は完全に変わるだろう。相手を伺うそれは弱気ではなく、狼が獲物の隙を疑うそれだ。


「キャサディ大工場は?」

「落とせ、都市『サラム』ごとだ。豚のように」


 前方右。仮面を被った男。否、それは彼の素顔だ。四肢、そして顔面に至るまで機械を移植した半モンスター・トルーパー。それだけの激戦であり、治療したのがルナでなかったら死んでいた。


「王国直轄、王都の西方に位置する魔導人形生産工業都市『アルバレス』は?」

「潰せ、目障りだ」


 前方真ん中。彼は下半身が”ない”、魔導人形に乗ればそんなハンデは関係がない。もちろん、それだけの重症だったから退職金をもらって左団扇の生活も出来たはずだが、そうしなかった。

 いや、彼だけではない。全員が”そう”だ。


 夜明け団を辞め、兵士を止める選択肢があった。世界を救われたのだ、1家族くらい楽に生活できるだけの賃金が支払わなくてはおかしいではないか。幸い、ルナにはそれだけのポケットマネーがあったから、やらない理由はなかった。


 なのに、彼らはここに残っている。


「人類の未来のため、遺すべきものを遺し、他は破壊しろ。遊星主を倒したとて、我らは何も変わらない。全ての力を尽くし、人類のために戦え」

「「「「我ら、鋼の誓いとともに!」」」


 唱和した。移動し、ヘリに乗って飛び立っていく。


「さあ、僕らはコントロールルームに移動しようか。何の罪もない民間人の誘導をしなくてはね」


 攻める隙を狙うのは常道ではあるが、このアームズフォートは未だ修復が進んでいなくとも決戦兵器である。

 動けなくともいくつかの火砲は使える。それに、コロナが屋上で守っている。彼女が言うには、遊星主を倒した人間たちが別の人間たちに倒されるのは違うとのことだ。

 守りは万全。そして、攻めにおいて激戦を潜り抜けた彼らが負けるはずなどない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ