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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
最終戦争編
255/361

第92話 決戦終局


 『キャメロット』が戦う最中、鋼鉄の夜明け団の兵士たちも同じく自らの命を使って戦っていた。犠牲を覚悟し、アームズフォートを一歩でも進ませるために。

 あるいは指令室にいるルナを守るために――その命を散らした。


「「「「「………………」」」」」


 戦場を俯瞰するアームズフォートの指令室、そこは不気味なほどに静まり返り、機械の動作音だけが多重奏を奏でていた。

 この戦場をコントロールするのに、一々声を出していてはとてもでは変化する戦局のスピードについていけない。戦場を徒歩で歩いていた時代とは兵器が違う。

 要は、オペレーターは己々の職分の範囲内を管理し、ルナとコミュニケーションを取ればいいだけの話。隣の人間など関係がないトップダウンだ。それには文字情報と位置情報で十分、それならばPCのキーボードを叩けば済む。


「――」


 そして、ルナもそれをよくわかっている。指示はPCを介して出す。一つ一つの指示をわざわざ声には出さない。

 1秒で5つは判断する必要がある、わざわざタイピングする時間さえない。終末少女ならば自らネットに接続するなど改造の一つも必要ない。


「来た」


 だが、”その時”が来れば話は別である。ルナが立ち上がった。そう、待ちかねたとき。情報伝達に不足はなくとも、ここぞという時で使えばこの上ない戦意高揚の手管となる。


 全ての遊星主を倒した。人類の勝利、その最後の一手をルナが指す。


「すべての条件は達成された。さあ、全てを終わらせよう」


 人の声がしない指令室にルナの声が響き渡った。声を出すのは、演説と同じ効果を狙ってのことである。


「「「承知しました! 鋼の恩恵をここに! 今こそ我らが悲願を果たすとき!」」」


 熱狂する声が応えた。戦闘時間はわずか20分に満たなかった。だが、オペレーター達は精も根も絞りつくした20分だった。

 ……すでに戦力は初期の30%を切っている。ここに居る皆は知り合いだ、準備期間は短かったが絆を育むだけの時間はあった。しかし悲しむのはあとでいい、今はやるべきことを果たすのみと心を押し殺して己が職分を果たす。


 だが、佳境であるかがゆえに問題が刻一刻と爆発的に増えていく。

 

 ルナの元に届いた幾多の報告の内の一つ。このアームズフォートは荒野を進む8本足だが、その足の4本までもが折れてしまったと。

 ……そして響くは悲鳴のような金属音。ルナが察知し出し抜けに叫ぶ。


「全員、対ショック姿勢! 何かに掴まれ!」


 ベキベキベキ、と悲痛な音が響いた。敵の攻撃は激しく、このアームズフォートとてなぜ動いてるのか分からないほどにボロボロになっている。

 砕けていくのか歩いているのか分からない巨体が、ついに傾いた。5本目が折れたことで、ダメージを受けていた他の3本が自重に耐えられなくなった。


 どおん、と倒れ伏した。


「最終機動装置『ビフレスト』を起動する。諸君は脱出装置に乗りなさい」


 ルナは床が120度に倒れても平然と立っている。スイッチを押しても動かないドアを無理やり腕力でこじ開けて、坂どころか天井と呼べる傾きを歩いていく。

 指令室の面々は身体をぶつけて切った血を被っていたり、衝撃で腕や足が折れたりなど悲惨な有様だが、泣き言は言わない。非戦闘員だが、この作戦に望む以上は死を覚悟しているのだ。

 まだ無事な3人ほどが敬礼で見送った。


 そしてルナは、その装置にたどり着く前に居丈高に命令する。ルナへの忠誠のため、人の姿を捨てた者たちは未だ生き残っている。

 その4人こそ最後の砦。鋼鉄の夜明け団の盟主たるルナが誇る懐刀。


〈道を開け、我が下僕達よ〉


 その声に応え、唱和する声が4つ。


「「「「御心のままに、ルナ様!」」」」


〈そして、この僕に従う鋼の使者よ。今こそ黎明が終わり、夜明けの時が来た。人類に救済(夜明け)をもたらさんがため、奮起せよ。醜い奇械どもを鉄くずに変えてしまえ〉


 そして、その他の生き残った兵士たち。全員が命を捨てる覚悟はできている。ゆえに最後の一機になるまで戦い抜くのだ。

 すべては鋼鉄の夜明け団が信念に従わんがため。ひいては人類の未来をその手に掴まんがために。


「「「「「「「応!」」」」」」」」


 未だ減らない奇械の軍勢、並み居る敵を――4体の異形と鋼を纏う戦士たちが殲滅する。己が身を犠牲にしながらも、道が開いた。

 すでに残った戦力は3割まで減っているが、強引に攻勢に出て道を切り開いている。至る所で魔導人形が爆散する光が上がるが、それでも彼らは果敢に挑むのだ。


 その戦場音を聞きながら、ルナ達は最後の道具にたどり着く。


「さあ、アルカナ。終わりを始めよう」

「うむ、既に準備は出来ておる。フィナーレは迎えた、ならば後は熱狂のままに閉じるのみ。さあ、その小さくて可愛らしいお手を」


 そこにあるのは戦闘機。やはり宙にひっくり返っているが、アルカナが先に乗り込んでルナの手を引っ張り上げる。


「――終わりを飾ろう、何よりも尊きルナ様の御手で」

「全ては僕の計画通り。ならば、終わり方を間違える間抜けはしまい」


 アルカナはルナを抱き上げ、一人席に座ってスロットルを開ける。アームズフォート崩壊も予想の内、ならばひっくり返っただけでしくじるなどありえない。


「しかたない、そっちはアルカナにゆずってあげる。じゃまなとびらは、こわしちゃえ【やみ】」


 アリスは戦闘機の上に立っている。スライムじみた闇を固めた粘体が障害物を壊し曲げて空への道を作る。


 ……そして、既に中央への道は開いている。4体のモンスター・トループと夜明け団の兵士たちが全ての力と『フェンリル』で強引に突破した。それ(自爆)しか方法がなかった。だが、己が役目は果たしたのだ! 

 

 そのまま暗黒島の中心に戦闘機を突っ込ませた。爆炎が上がる。ルナが手を振ると一瞬にして爆炎が掻き消えた。

 人類未踏の暗黒島、何も感慨を抱いた様子もなく無遠慮に両の足で立つ。儀式を開始する。


「さあ――絶対錬成を始めよう」


 懐から取り出すは紙片と本。黒く脈動するそれは、どう見てもマトモな代物ではない。人類を救うほどの一品が、よもや普通などあてはまらないのだから。


「構成開始。緑色秘本(エメラルドタブレット)の6紙片、起動作業開始」


 6つの紙片をばらまいた。それは舞い上がり、まるで夢幻のように輝いて……空中に静止する。

 それは魔術の基礎たる六芒星(ペンタグラム)を描く。基礎から始まり、応用へと至る。


「起動完了、所定箇所への移送開始――完了」 

 

 緑色をした光の柱が立つ。数は6、ちょうどルナを中心に6等分の位置。それはとてつもない規模の魔力嵐を放出する。

 空に居た奇械どもは巻き込まれ、ひしゃげて爆散していく。遊星主でもなければ生きていくこともできない領域。このために遊星主は先んじて潰したのだ。


「大錬成、三色方陣の精錬を開始する。心御柱(しんのみはしら)、創造作業開始――点火(イグニション)


 柱は暴力的なまでのスピードでその版図を拡大する。ルナの周囲を幻想的な炎が舞った

 それはかつてとある錬金術師を滅ぼし尽くした炎。死の宣告、決して回復しない呪いそのもの。彼女は代償を受け入れ、自らの魂と身体を人類の未来のために消費した。

 おもわずルナの顔に笑みが浮かぶ。あの彼女と同じことをしていると思うと、どうしようもなく心が浮きたった。


「心御柱、創造完了まで残り10分」


 緑色の柱が天空に届き、錬金的文様が柱を縛り戒める。それは光の身体を宿した錬金生物のようで、意志を持っているかのように明滅を繰り返す。


「――完全錬成完了。これより黄金錬成を開始する」


 これで準備は完了した。ルナの気配が希薄になっていく。もっとも、それも演出だった。世界を滅ぼし尽くすことができる終末少女には、どれだけの消費でもない。

 だが、遊星主やアルトリア当たりであれば二度と再生できないほどの負荷であった。その他ではそもそも起動すらできないはずだ。


「黄金錬成開始。三色方陣のセットを終了。エメラルドラインの敷設を終了。ヘルメス・トリス錬金方式による偉大三角形グレートトライアングルの錬成を終了」


 そして、本番はこれからだ。緑色の柱はいよいよ荒魂(あらみたま)を連想させるほどに暴力的な光の明滅を繰り返す。

 それは、わずかでも拘束を緩めれば世界すらも焼き尽くしてしまう哲学の炎。それは、世界を焼く終末の火であるのだ。


「二重の偉大三角形の融合を開始、デュオ・トリス変換公式の埋設を確認。『黄金六芒星メギストス・ペンタグラム』、絶対錬成に移行――」


 三点をつなぎ、三角形とした。トリス・メギストス……三重に偉大なる者の言霊と同じく、三は錬金的意義として特別な数字である。そして、それを二つ。


「――くは! ぺ!」


 血を吐いた。

 前に儀式を行った”彼女”はそれだけの消耗を強いられた。だから、ルナも同じように儀式を辿った。


「三重錬成発動、そして6重錬金方程式から3元3変数絶対方陣錬金に移行――3から6へ、そして3*3の9重黄金方程式へ」


 目から血が。口の端からどす黒い血を流して。


「束ね、変換され81元異世界方程式の起動を機動し、機動から鬼道に至れ。翡翠から黄金に至り、概念方程式を連結せよ。融合し溶融を経て二つより一つに閉じよ」


 ぎしぎしと音がする。肉体の中身が錬金術に侵されて結晶化してきている。それは神の力を使う代償。身の程を知らずに絶対錬成を行う者への神罰だ。

 もっとも、神がそれをしているのだ。これも人間の”振り”に過ぎない。


「――『黄金六芒星』メギストス・ペンタグラム!」


 ここに人類最後の大錬成が完成した。そして、反応は劇的。そう、世界の外は終末少女ですら箱舟でなければ生きられない絶対真空。

 そこへの穴が開いたのだ。


 “闇”が蠢く。


 絶対の深淵、人間が覗いてはならない世界の果て、そこは世界と世界の間に横たわる絶対真空の暗闇だった。黄金六芒星から漏れ出る理解不能の”それ”は、何かの力が働いたかのように世界を侵食することなく掻き消える。

 しかし”その闇”は刻一刻と己の領土を広げていく。まるで世界を喰いつくすイナゴのような恥知らずさをもって世界を()む。

 地を這いずる幾多の奇械どもは、その虚空に消えた。


 そして世界を穿つ穴を支える心御柱は、儀式が完成した今も凄まじい魔力嵐を放っている。たかが上級奇械程度では魔力嵐に巻き込まれてスクラップになるのみ……だが、ゲート型は違う。

 元々それはこの奇械帝国本土から戦力を輸送するためにあるもの。つまり、この帝国の中ではどこでもいつでも好き勝手に転移できる。

 つまり、特攻が可能である。ルナの兵士もアームズフォートを守るために自爆していた、彼らだって自爆することは出来るのだ。


「は、間抜けな奇械どもめ。判断が遅い、手遅れだよ馬鹿が」


 ルナが呟いた。転移して自ら衝突したゲート型は、心御柱の前に砕けて爆散した。柱には何の痛痒も与えていない。

 そう、豆鉄砲を撃っても無駄なのだから体当たりしても砕けるのは自分だろう。


「――封印、完了」


 そして、闇が帝国のすべてを飲み込んだ。それは破壊ではなく、ただの保留。世界の外側と内側、その中間点に膜を作って引っかけておくだけだ。ルナが術を解けばその瞬間に再侵攻する棚上げ。だが、それでも脅威が消えたのは間違いない、今だけは。


「さて、物語の幕を降ろした。エピローグを綴ろうか。アルカナ、基地へ連絡を取り脱出艇を送らせろ」

「了解した」


 空を見上げたルナ。そこに声がかけられた。


「戻りました、ルナ様」


 プレイアデス。


「コロナ、ここに」

「ミラも居ます」


 コロナと、そしてミラだ。ミラはなぜか頭にタンコブを作っているが、ルナは見慣れたものだから何も言わない。

 どころかミラも神妙に頭を下げている。柄にもないシリアスな雰囲気だ。


「彼女たちをお願いします」


 コロナは何一つ斟酌せずにアルトリアの身柄を差し出した。フェイク・スカーレットの副作用で身体が崩壊しかけている。


「……」


 そして、プレイアデスも一人の男を差し出す。ベディヴィアである。彼はそう、”小さく”なっていた。つまり既に四肢が砕けていた。

 治療しなければ、いやルナ以外の者であれば延命すらもできないだろう。


「へい」


 ミラはでかいゴキブリでも差し出すかのように二人を積み上げた。レスキオとアースト、彼らも命を長らえたようだ。


「……やれやれ、黄昏(たそがれ)てもいられないな。よろしい」


 ルナは通信機のスイッチを入れる。


〈生き残った者はアームズフォートの元に集合せよ! 敵は放置しろ、もはやこの場から逃れられん! 全員、自分と戦友の命を再優先しなさい!〉


 魔導人形を纏い、飛んだ。闇に吸い込まれて行く奇械ども、しかし逆方向に走るルナは奴らをただの一刀で破壊して一直線に進む。


〈地上を歩け、諦めるなよ。諦めるのは死ぬ時だけで良い。アームズフォートまで来れば、この僕が現世(うつしよ)に引き上げてやる〉


 どうやらまだまだ仕事はあるらしい、と口の端を上げた。



 お付き合いありがとうございました。PV100万行くかなと思って始めた第2部ですが、無事行けて何よりです。

 ちょっとだけexストーリーが続きます。



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