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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
最終戦争編
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第91話 決戦最後


 そこは死の国、無数の葬列が並んだがごとき腐臭の気配が立ち込める墓地である。そここそ冥府門番ヘカトンケイルが支配する領域。生命亡き冥府は生者の侵入を許さない。

 ボロボロの黒い神父服を来た男は死臭を発している。だが、顔無しの死蝋で呟く言葉には苦々しい生の感情が込められていた。


「……ああ、強いなあ。人間ってのはどうしてこんなに強いんだろうなあ」


 倒れ伏すレスキオ・スパラディを睥睨する。13遊星主を同時襲撃するキャメロットの作戦、そして彼は果敢に挑みかかったのだが――ただ顔面を殴られてこうなった。

 異能だとかは関係ない、ただの基礎スペックが違いすぎると言う残酷な事実だった。


「ぐぐ……! ふざけるな。俺はまだ戦えるぞ!」


 崩壊したマスク、奥の素顔は鼻血が出ている上に歯が折れていて酷い有様だが、それで素直に諦めるようなら夜明け団ではない。

 死ぬまで敵に喰らい付くのだ。それこそが鋼の意思であるのだから。


「まったく、しぶとい。そのしぶとさも強さだよ。雑草のごとく踏まれても踏まれても立ち上がる。そして、次の瞬間には別物になっている。さっきまでだったら、これで駆除できたはずなんだがなあ」


 冥府門番は何の気なしに近づいて、ハエでも払うように打ち払おうとする。それは、特に力を込めても居ないが、存在強度が違えばまともに戦うこともできやしない。


「……チィ、皇月流【瞬き】!」

「だが、無駄だ」


 皇月流の力を使おうと、使う本人が未熟では意味がない。強力な魔導人形を使い、そして操縦者も人体改造を受けることでスペックを上げている。その強さは人類を守り続けてきた者たちと互角に戦えるだけのレベルになっている。

 ――のだが、すでにルナと敵対した”彼ら”では遊星主に勝てないことは述べた。彼とて同じ。技ごと掌で打ち払われ、数mは飛んで地に落ちた。


「がはっ! これが、遊星主……!」

「ああ、嫌になっちまうな。さっきより力を籠めたんだぜ? それで、なんで頭が吹き飛んでねえんだよ」


 レスキオは血反吐を吐きながらも立ち上がる。魔導人形の全身にも罅が入っているが、それは3秒で治した。


「だが、負けん。ルナ様は、俺を信じて託してくれた! あのお方の御業をもって、負けるわけにはいかんのだ!」


 三度、遊星主に立ち向かった。


「もういいよ、お前。人間は滅ぶべきだ、醜くて仕方がない。どうしてそこまで生きあがく? 力弱き者が、生き残れる世界ではない」


 神父服の声に殺気が籠る。拳を握り、振り抜いた。


「……」


 それでエンドだ。レスキオの頭は砕け散った。


「さて、破壊神の眷属か。奴らが来ているのなら、遊星主でも対抗できるかは怪しいだろう。援護に行かなくてはな」


 狼面が背を向ける。


「ま……て……! 俺はまだ、負けていない……!」


 再生、立ち上がる。そう、頭だの心臓だのに意味はない。核を破壊されなければ死なない、大きなくくりで言うのなら、レスキオとて遊星主の同格だ。まあ、ルナのドーピングありきだから本当の実力は怪しいが。


「煩わしい! ゴミがしゃべるな、蠢くな! 気色悪いのだ、貴様らは!」


 ぐしゃりと蹴り潰す。そして、拳を振り下ろし――


「そいつは仲間だ、殺してもらっては困るな」


 超高速の蹴りで吹き飛ばされた。現れたのは金の上に赤を塗りたくった『ミストルテイン・エクスカリバー』。

 戦姫が、血装束を纏って戦場に現れた。


「……がっ! 馬鹿な、遊星主が、竜が倒されたというのか!? 炎源竜プロミネンス・ドラゴンよ、この者は!? 答えはないか……!」


 冥府門番は驚愕する。竜の元へ向かったはずのアルトリア、それがここに来たと言うことは相手を倒したということだ。遊星主、それも強力な力を持つ竜が倒されたことに驚愕する。それは、人間には不可能だと思っていたのに。


「時間はない。さっさと決着を付けさせてもらおうか」


 タイムリミットの話ではない。勝負は一瞬のものであるゆえに、どれだけの実力者だろうと決着には10分もかからない。

 かつてのガレスとその師のように別の思惑があるために勝負を長引かせない限り。だから、時間がないのはアルトリアの身体。彼女は今も全身から血を流している。


「ふん、瀕死の身で何ができる!?」


 今のアルトリアは全身から鮮血を噴き出して、魔導人形は朱に染め上げられている。それは、致死量を超えるダメージを受け、そして治す拷問じみた悪循環。

 ルナからくすねたフェイク・スカーレッド、それを使用した代償だった。

 

「いいや、こんなんだが今は限りなく力が湧いてくる。全力で抗えよ、遊星主。さもなくば、魂ごと砕け散ると知れ!」

「ならば、我が全力にて冥府へと葬ってくれる! かの竜を倒した力、放置すれば再び我らが妨げになることは必定! 黄泉平坂にて永久にさまようがいい【ゲート・オブ・ネザー】!」


 冥府へ繋がる門が現れる。それは魂をあの世へと送る門。現世においてどうであろうと何も関係がない。それが魂そのものを破壊する術式。


「それがどうした? 三つの重力に導かれ、崩壊を辿れ【トリニティ・ブラックホール】」


 それが、現実の理さえねじ切る3重のブラックホールにより砕かれた。冥府門番の最強の攻撃、それがいとも簡単に崩された。”それ”は物理法則上崩すことができなかったはずだが、まあアルトリアの前ではこんなものだ。


「ちィ……! こうなれば、我が手に直接冥府へ旅立て! 【ヘル……」

「どうした? 遊星主にしては嫌に鈍いな。ここで散れ、皇月流【瞬き】」


 拳を握り、満身の力を籠めて撃ち放とうとした冥府門番。しかし、気付いた時には敵の手刀が己の核を貫いていた。


「馬鹿……な……!」

「我らは勝つ、必ずな。では、さらばだ」


 塵となり、消えゆく冥府門番を見送り、空の彼方を見る。……そこには光の柱が立っていた。いよいよ作戦は最終段階に入るのだ。




 そして、最終決戦にあたり暫定的に選出されたもう一人。アースト・グラナトスの相手は堕天竪琴。

 遠距離を得手とする遊星主であり、ゆえに幾多の装備を与えられた夜明け団とは相性がいい。冥府門番は普通に殴りかかってきたから、アイテムを使う暇がなかった。


「くははははは! 我らがルナ様がもたらした鋼の恩恵を見るがいい!」


 遊星主、その彼女は人魚だった。透き通った死の湖の上で竪琴を弾いている。見る者の魂すら引き込みそうな絶景だが、夜明け団の魔人にそれを愛する感性などない。

 敵ならば美女だろうが幼女だろうが、殺すのだ。全ては人類のため、正義も感傷も全てを乗り越え救済をもたらすのだ。


「私の音をかき消すなんて……!」


 アーストは黄金の力を存分に活かし、敵の音をかき消しつつ多種多様の砲撃で対抗する。幻想的な音色を銃火のかなでる爆発音がかき消した。

 ある種、印象的な光景だ。人間を滅ぼそうとする自然と、銃火で何もかもを汚し尽くしても生き残ろうとする人間たち。


「……くははははは!」

「この……!」


 声を聞いていると誤解しそうになるが、刻一刻と敗北が近づいているのはアーストの方である。

 敵の音を消しきれていない。今も装甲はひび割れて砕けつつある。砲撃も、撃ち切るより先に限界がきて放り投げざるを得ない。そうしなければ自分の近くで爆発する。敗北が見えているのは一方的にアーストの方だ。


「潰れろ! 砕けろ! みじめな残骸を晒すがいい! この世界を支配するのは人間だ! くたばれ、おらああああああ!」

「調子に乗るな、人間め。恐るべきは破壊神の眷属のみ。貴様らなど奴らに集る虫けらのくせに! 砕け散りなさい【フィアー・オブ・ロアーズ】」


 竪琴に歌声を乗せる。威力が倍加する。


「おお? ぐおおおおおお!」


 身体の中身すらひび割れて、死湖の中へと沈没していく。今の魔導人形に防水など出来るわけがない。溺れ、そして死ぬ。そこは遊星主の支配する湖、生者が生きて出ることなど許されない。


「少し手間取ったわね。さて、他の奴と破壊神の元へ向かわなくてはいけないわね。奴ら、何をするつもりだか……」

「まだだァァ! 【ガンズ・オブ・レイン】!」


 死が決定されている。それがどうした? 夜明け団を名乗るのなら、死んでも敵を殺す。その意思こそが変わらぬ絆にして証明。

 なんでもかんでも召喚して撃ち放つ。この湖の中では不発になるもの、暴発するもの色々あるが武器がある限り撃ち続けるのだ。


「……っち! なんてしぶとい……! ならば、とどめをくれてあげる。私の湖の中では逃げ場などない。もう一度喰らいなさい。【フィアー・オブ……」

「させんぞ! 皇月流【瞬き】」


 上から振ってきた乱入者が竪琴を砕いてしまった。


「な……!? うそ、何よ、その力……?」

「がはっ! ぐ――。は、流石はルナ・アーカイブス。失敗作とてこうも、か! 使えるじゃないか!」


 紅の装甲の上に、己が鮮血で染め上げた真っ赤な魔導人形。ベディヴィアの『スカーレット・ティルフィング』。紅に染まった瞳が堕天竪琴を射貫くが、もう片方は赤く濁って見えていない様子。

 明らかに無理やりなドーピング。ここまでの無茶は不死の遊星主ですらやりはしない。


「もう一度喰らえ! 皇月流【瞬き】」

「あ……っが!」


 修復した竪琴を盾にして、かろうじて核を守った。だが、主武装である竪琴はまたもや砕け散った。


「――」


 ベディヴィアの意識が一瞬切れる。フェイク・スカーレッドを飲んだときから現れた後遺症。あまりにも強力な力が脳神経を何本か焼き切ってしまった。そして、1秒ごとに断裂する脳神経は増え行くのだ。


「よくも、私の身体に傷を。【フィアー・オブ・ロアーズ】!」


 遊星主はその隙を見逃さない。唄で敵を中身から破壊する。超至近距離、さらにこの唄は特殊装備がなければ威力を軽減することもできはしない。

 薬に侵された今のベディヴィアにそれに対応できるだけの理性は残っていない。


「……ぎゃは!」


 狂った笑みが堕天竪琴の首を掴んだ。そのまま折る。声が出せない、いや竪琴を持っていれば関係がなかったが、この状況では堕天竪琴に成す術はない。

 とてつもなく長く感じる1秒で堕天竪琴は己の琴を修復する。が……敵に待つ理由はない。


「ぎひひひひ!」


 腕を、胸を、頬を――力任せにわし掴みにされて”もぎ取られた”。強力な腕力による蛮行、その美しい身体を醜く変えられた堕天竪琴の頭に血が上る。


「この……人間が! 壊れろ! 【ハープ・オブ・ストリングス】」


 琴の音を叩き込み、相手は大量の血を噴出しながら死の湖に沈む。そして、抉られた体は元通り。再生は人間の専売特許ではない、というかむしろというかそれは遊星主の十八番だったはずなのだが。


「お前もうるさいんだよ! もう一度受けろ、【ハープ・オブ・ストリングス】!」


 仲間を巻き込もうが構わずに砲火を撃ち続けていたアーストだが、ベディヴィアと諸共に砕くために琴の音が叩き込まれた。

 その湖の中では一切威力は減衰せず、そして全てに平等に降り注ぐ。


「不快な人間どもだったわね……! 破壊神の玩具、これほどとは思わなかった。けれど、絶対に勝つのは私たち(遊星主)よ。待っていなさ……え!?」


 勝利を確信した堕天竪琴が沈めたはずのベディヴィアを見る。死の湖は彼女の感覚を通している。それが、一撃で粉砕された。

 ……湖が、割れる。


「殺す! 貴様を殺し、はく製にして飾ってくれる! くは! ひゃはははは! 鋼の力、その目に焼き付けよ!」


 湖の中から現れたベディヴィア、堕天竪琴は首を掴まれて空へ向かって堕ちる。狂った笑み、フェイク・スカーレッドの副作用は彼のすべてを壊している。身体も、人格も。

 しかし、それでも……キャメロットの騎士として遊星主を殺す。何を失おうと、ただそれ(殺意)だけは残っている。


「ふざ……けるな! 【ハープ・オブ・ストリングス】!」

「がはっ! が――効かん!」


 堕天竪琴の女の身体を握りつぶし、引き裂き抉る。攻撃は通っているのだが、ベディヴィアにはもはやその痛みが副作用なのか攻撃なのか分からない。


「この……! このこのこの……! 人間ごときに、これほどの屈辱を……!」

「見つけたぞ、貴様の心臓!」


 殴り、抉り、ひきちぎる。その中で脈動する核を見つけた。


「あ……待……!」

「これで私の勝利だ! 私だけの勝利だ! くははははは!」


 握りつぶした。



 ちなみに、ルナはフェイク・スカーレッドの使用は把握しています。

 描写外で大量のアイテムを作っては無意味に隠すことを繰り返していますが(良い武器を作るための失敗作)、魔力増幅系ドーピングは基本的に人間に渡さないスタンスです。


 それ系で各勢力のパワーバランスを崩すのは面白くないと、勝手に使われてもメリットだけ消すと言うことをルナはよくやっていたという設定です。

 ただし今回は人類側の内輪もめで総戦力が減っていたから特別に許しました。もっとも、抵抗していた勢力も生半可だったら役立たずが消えただけと許可していませんでした。そんなわけで、王様とかルナに暗殺者を送り続けていた人も戦った意味はあったと言うことです。


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