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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
最終戦争編
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第88話 炎の意志


 ガレス・レイス特務大尉。彼は唯一キャメロットの中で異色となる、ルナに反抗しうる人材だ。彼だけは、ルナに身を捧げるのではなく取引の結果としてここに居る。彼だけが信頼だのではなく、状況における最善手を選んだ結果としてここに居る。

 ゆえに、彼こそが人類最後の砦と呼べるだろう。アルトリアではルナに甘すぎる。


「……やはり、奴は甘くないな。アレに従えば安泰などと、団員の連中はどうして思えるのか。魔人に人を救う義理などないと言えばその通りだが、これほどの試練はな」


 苦笑する。目の前の竜は、あまりにも大きすぎた。身体が、ではない。確かに全長10mを超えるが、今のガレスならば100mの鋼鉄の砦すら一刀両断で切り捨てることができる。

 あれの内包する魔力は馬鹿馬鹿しくなるほどに強大だ。ガワなどどうでもよい、ただ圧倒的な魔力の前にはどんな異能も通じない。異能を発揮する太源はすべからく魔力であるのだから、下位は上位には届かない。


「ヒトよ、何故此処を訪れた? 此処こそは我らが故郷、魔の支配する暗黒島。我は強大すぎる魔力のためにヒトの地に足を踏み入れる事は出来ない。我は倒せない、格が違うのだ。ヒトの領域に閉じこもっていれば、貴様らは決して我にだけは相見えることなどなかっただろうに」


 それは慈悲だった。圧倒的な存在からゴミのような虫けらにかけられる慈悲である。其は神源竜、竜の中でも格差はある。支配する者とされる者。量産機と指揮官機。……要するに彼は指揮官なのだから、他とは隔絶した強さを持つ。


「あまり舐めてくれるなよ。対抗する術ならば、此処にある! さあ、力を寄越せ『哲学の血石』フィロソフィカス・スカーレッドよ」


 懐から血のように紅い石を取り出し、喰らう。それはルナが作った賢者の石の集積体、人に過ぎたる力をもたらす異世界技術。前の世界にて魔人に与えた致死の加速薬(ドーピング)。水司りし元素龍を呪い殺した最悪の顕現。

 もっとも、製造方法は異なっている。あれは、魔人になり損ねて命を失った者たちの成れ果ての集積体。今取り出した1個は滅んだ世界でのみ得られる魔核石を原料として複製した。


「術式発動……! 『フェンリル=邪龍神呪乖転(ファフニール=シフト)』。我が炎は邪なる紅に染まり、敵を呪殺する神殺しの炎と化す!」


 これこそが秘策。万回戦ったとて順当に万回負ける戦いは詰まらない、それがルナのやり方だが……これは流石に肩入れしすぎと言うべきだろう。もともとルナは自分が情勢を崩すのを好まない。街が滅ぶとて、座して見ている幼女である。

 そこは、まあそれだけ気に入ったと言うことだろう。ガレスだけではない。確かにルナは政府側の人間を殺してきた。敵として会ったなら殺すのが終末少女だ。だが、殺したなら嫌いは早計が過ぎるだろう。彼らも必死で生きようとしていて、そして未来を決める権利はキャメロットが勝ち取った。

 過剰なまでの肩入れはその政府側の人間たちへの追悼でもあるのだ。ルナと敵対した人間たち、彼らの戦いにも意味はあった。彼らが居たからこそ、ルナは人の側に力を与えた。


「……ふん。何だ、それは? かの破壊神が創りし呪物、確かに我にも通じるだろうがな。しかし、その前に貴様が死ぬぞ。随分と身の程知らずだな、ヒトよ」


 その声に焦りはない。天空を回遊する竜は、その神のごとく平坦な視線を眼下に注いでいる。

 その呪いは確かにこの奇械を支配する竜神にも通じるだろう。だが、操るのが人であるなら脅威足りえないと傲慢に見下している。


「それがどうした!? 私には弟子が居る! 未だこの場には連れてこれない未熟者なれど、いつかきっと私を超えてくれると信じている! そして、私の仲間は他にもいるぞ。私も、仲間もどれだけ絶望的な戦いであろうと諦めることはない! そして、最後に必ずや勝利し未来を人類の手に掴むのだ!」


 吠える。全身に激痛が走っている。戦う前に五体がバラバラになりそうだ。それが賢者の血石の力。強すぎる力は自分すらも滅ぼすのだ。そも、それの本質は”毒”である。

 だが、それでも膝を折ることはない。必ずや、人類の未来を掴むと仲間たちに誓ったのだ。気合いと根性、陳腐だが最後に頼るものはそれだけだ。


「そうか、ではその幸福な妄想に溺れ、死に逝くがいい」


 す、と竜がガレスに視線を合わせる。

 それだけで彼の背中に泡立つものが走った。それは死の予感だった。殺意とは違う、それは例えるならば大災害に巻き込まれて瓦礫に潰されて死ぬ1秒前の心地。


「皇火流狂理糸が崩し――【宣死万象】!」


 網の目状の斬撃を放つ、スカーレッドの呪いがあれば絶殺の領域が迫ってくる必殺技だ。ガレスとて最終決戦を前に何もしなかったわけではない。むしろ師匠を殺し皆伝の理を会得し、更に修行を重ねることで無限に変化する武の深奥を掴んだ。


「全ては無為。滅びこそ生命の摂理と知れ……【天輪】」


 竜の頭上に光のリングが浮かぶ。それは天使のように神々しい光景だったが、ガレスとしては見惚れるわけにはいかない。

 攻撃を見て、解析しなければ。敵の術理を知り、対抗策を作って殺す――それが人類の知恵であれば。


「が――はっ!」


 全てがかき消える、放った技も空を飛ぶ力すらも霧散した。

 ……結果は墜落だ。

 言葉にすればそれだけだが、そこには”その前”が欠けている。倒されるにしても炎か氷か、それとも衝撃波か。そこを知らなければ敵の殺し方を組み立てられない。


「な、なんだ……ッ!? 何が起きた? 私は一体何をされたのだと言う!?」

「勝利、敗北。それはヒトの理だ。神の前に頭を垂れ、死の運命を受け入れよ」


 それは勝負の土台にすら上がれていないのだと言う残酷な宣告。蟻と象の間で勝負が成立するわけがないのだと、幼子に言い聞かせるように説いた。


「ちィ。だが、皇火流に様子見などない! どんな異能だろうが構わず切り開くまでだ! 皇火流十都禍並びに華漸李が崩し……【千都斬越】!」


 墜落するガレスは再びブースターに火を灯し、上昇する。そして技を放つ。けれど――


「学ばぬな、ヒトよ。【天輪】」


 しかし、全てが無駄。何をしようと霧のようにかき消える。そして、消費した力は戻って来ない。


「それがどうした!? 皇火流【燎原之火】!」


 だが、ガレスは進む。スカーレッドの毒は己の身にも及ぶ。呪いの火が消えようと、代償は消えない。どころか、より深く毒を刻み込む。

 身体が鮮血に染まり、逆に肌は青を通り越して浅黒く成り果てた。血を吐き、目がかすんでいく。


「【天輪】」


 全ての力が消えた。


「【火途々日】ィ!」

「【天輪】」


 奥義ですらも何も変わらない。ただむなしくかき消えるのみ。しかし、それでも――牛歩であろうと竜には近づける。

 消えるたびにブースターを再点火、そして技の威力で己が身を前に押し出す。天輪が放たれる瞬間にその速度も0となるが、そうなればもう一度放てばいい。


「ようやく、貴様の顔を見せてもらえたな!? 皇火流【一徒……」

「それがどうした? 【天輪】」


 技を放とうとしたガレスは、気付けば下に叩き落されていた。……凄まじい衝撃が走り、落下する。


「ぐぐ――ぬああ!」


 墜落したガレスは潰れたトマトのようになってしまったが、気合いを叫ぶと回復する。剣を握り、飛ぶ。


「見苦しい。自らの運命を悟り、滅ぶがいい――【六連天輪】」


 竜の頭上に6の輪が浮かぶ。それは光り輝き、神の裁きをもたらす。


「な――かはっ!」


 速度0、それどころか全ての力を失い落下する。……立ち上がることすら出来はしない。毒が全身に回っていた。

 あまりにも早すぎる。これはおかしい。


「我が異能は世界を征する。そのまま死ぬがいい」

「……なるほどな。これは確かに世界を支配するにふさわしい異能だ。……貴様の異能は時間操作だな?」


 ガレスは敵の力を見抜いた。要するに技を1日後にでも飛ばしたと言うことだろう。放たれた炎は永遠に保つことはない。 

 6連の方は、単純に効果量が増えただけだ。星印の耐性を突破する程にまで。未だ戦闘時間は1分を切る。ガレスの身体はもって10分とルナは言っていた、にもかかわらずリミット超過。ガレスも覚醒済、体内環境は異界と化し耐性もついているが……それを超えて時間を進められたのがその絡繰り。すでに十数分の時を経過させられた。


「見抜くか。だが、もはや貴様に時間は残っていない。その毒に侵された身体で何をする気か?」

「無論、勝つ!」


 全身が毒に侵され、痛み以外に何も感じない。剣を握る感触でさえ返ってこない。だが、それでも立つ。 無茶、不可能? そんなことは知ったことか、気合いと根性で通すまで。


「愚かさ、ここに極まれり。……何も状況は変わっていない、貴様は私に近づくことさえできないのだ」

「……は。時間というものを操りながら、なぜ私は死んでいない? スカーレッドの呪い、1日も経てば気合いも根性も関係なく我が身は消失するか魔物にでも成り果てるはず。確かに貴様は強いが、私とてステージには立てているぞ。貴様の力、スカーレッドの力を得た私自身にはそれほど効力を及ぼせまい!」


「……【天輪】」

「おおおおお! 皇火流妃喰が崩し――【緋駆威】!」


 ガレスが宙を疾走する。魔導人形のブースターで飛んだのでは奴の力に消される。ならば、己の力で飛べばいいだけのこと。

 そして、カラクリが分かれば敵の力も最低限は防げる。要は体の中に打ち込まれた毒を消す感覚だ。そして、その瞬間は天の輪が光った瞬間、タイミングも分かっているならば、あとは気合いと根性で乗り越える。


「だが、貴様の力ではこれは防げなかった。浄滅せよ【六連天輪】」

「斬れぬものを斬り、倒せぬ敵すらも斬り伏せることが皇火流ならば。今こそ奔れ我が剣技! 我が師より受け継ぎし皇火流、その果てに見つけた我が神髄! 皇火流奥義火途々日が崩し……【夢幻円環】!」


 それは超神速の無限連斬。16連斬りだの32連斬りだのと、色々あるがこれは敵を斬り伏せるまで終わらない無限の太刀。

 時間を操ろうが、それは悪意持つ攻撃に他ならない。ならば斬り伏せるのだ。ルナのあらゆるものに干渉可能なワールドブレイカーがなくとも、互いに魔力を糧とする存在ならば斬れないはずがない。


「馬鹿な。我が光が……砕かれるだと!?」

「これで……倒す!」


 ガレスが血を吐き、身体の至る所から噴出した鮮血が鎧を濡らす。1度目の六連天輪ですでに瀕死だった。それを、更なる無茶で敵の力に対抗している。

 とっくにデッドラインは超えている。だが、それでもガレスは止まらない。限界を超えて舞う。


「おのれ! おのれ、ヒトよ! この世の理、時間ですらも砕くと言うのか!? それほどまでに生きたいか? 世界を汚すゴミクズめが!」

「そうだ! 人間は誰かのために立ち上がれる! 顔も知らない誰かの明日を作るため、どこまでだって頑張れる! それが、人の意思だ!」


 とうとう――その刃が神の竜へと届く。


「……っが! ぐぐ――この程度の傷、すぐに回復する。時間を巻き戻し、無かったことにしてくれるわ」


 竜が、ガレスを憎悪の目で睨みつける。その彼は墜落する、限界以上の力を使い果たした彼にもはや成す術はない。


「その五体を砕き、無限の時間の牢獄の中で塵としてくれる。決して逃がさぬ。貴様は我が手で……! ぐ。がはっ!? 馬鹿な、毒は消したはず……!」

「……」


 地に堕ちたガレスが天を見上げてニタリと笑っている。何も言えないが、言いたいことは瞭然だ。ルナがもたらした呪い、たかが時間を操るごときで解毒できると思うなよ、と。


「げぼっ! ぐはっ! 何故だ? 何故、解毒できぬ……! おのれ、おのれェェ! 貴様、死に逝くを待つまでもない。我が手で……! がはっ!」


 竜が血を吐く。先の神々しさはもうなくしていた。そこに居るのは血に濡れ、全身の至る所が毒に侵されて腐った哀れなただ1匹の竜だ。


「が――貴様、人間! そして、破壊神! この私によくもこのような……! 殺してやる! 無限の時の牢獄にて、何度でもその五体を砕いてや……!」


 堕ちる。その間にもぼろぼろと崩れ行く。


「……勝てた、とは言えんかな。だが、人類の未来は繋いだぞ」


 激高しながらも天から落ちる竜。その最期も見れず、先に落ちたガレスの意識は闇に落ちた。



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