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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
最終戦争編
250/361

第87話 終末の獣


 そして、次なる戦いはイヴァン・サーシェスだ。

 キャメロットに出会う前の彼はただの暴走族の一人であった。仲間とバイクで走っているのが好きな、何の変哲もない頭の悪いが気風は良い兄貴分であった。

 その幸せな日々は唐突に終わりを迎えた、奇械に滅ぼされるというありふれた悲劇によって。彼は今や復讐者と成り果てた。……いや、もう人と呼べるのか。ルナに聖印を刻まれ、そして強敵と戦うためにルナの予想を変えた成長、いや狂化を果たした。もはや彼に人の言葉は通じない。

 残るのはただ、敵への殺意のみ。


「GUruuUURaAaaaa!」


 弾丸に乗せられ、射出された。そして敵を感知した。ならば、ただ――殺意を向けるのみ。彼の選択肢には〈破壊〉以外など残っていないのだから。

 人との関わりすらも捨て、全ては奇械打倒のために。彼は止まらない、何があろうともただ憎い奇械を破壊するためだけに他のすべてを捧げたのだ。炎源竜に纏う魔導人ごと焼き潰された折、地下に潜って回復した。そこで自らの身体ごと改変して『デッドエンド・ダインスレイフ』から『フォールダウン・ダインスレイフ』へと進化させた。その本領が初めて発揮される。


「この……禍々しい気配は! そうか、人間め。よくも邪悪な進化を遂げたものだ。この清冽な場所を汚すと言うのなら、死と言う報いを受けてもらおう!」


 竜が叫ぶ。そこに広がるは破滅と言うにはあまりにも穏やかな光景。美しく形を保った廃墟の中、ビルの残骸を蔦が覆っている。そして煉瓦の隙間には草が生えている。

 彼こそは【樹源竜ネイチャー・ドラゴン】、ただ滅ぼし尽くすだけの遊星主の中にあっては異色の存在である。まあ、ここに生えた木や水を口にすれば、生物であれば体の中身から腐るけれど。


「ZyAaaaAAAAAAA!」


 イヴァンが病毒のオーラを撒き散らす。草木が枯れ、ビルが腐食して倒壊する。

 どちらが化け物か怪しくなるような光景だが、しかし全ては勝利のため。イヴァン・サーシェスは元からルナにはキャメロットには相応しくないと言われていた。才能も、努力も、全てが足りていなかった。

 弱い彼が戦うためには、”こう”なるより他になかっただけのことである。


「我が領域を土足で踏み荒らすか!」


 蔦が伸びる。それは、イヴァンを拘束しようと迫って――


「IaaaAARAaRARaRaRAaaaAA!」


 イヴァンが拘束を力づくで振りほどき、竜へと手を伸ばす。ただし、それはわずかな間なら竜の拘束が通用するということである。

 本来であれば様子を見るところだが、このイヴァンに様子を見るなどという選択肢は人間だったころからありはしない。


「愚か者が! 我が権能をただの草木と同類と侮るか!? 喰らい尽くせ【スプリット・ボム】」


 拘束のための蔦に木の実のようなものが宿る。その木の実は大人の掌ほどの大きさで黒光りしていて……弾ける。もちろん、それは人類世界にあるのと同じ代物ではない。遊星主の攻撃なのだ。

 そう、それは同量のフェンリルと同じ効力を持つ。そして、一つ当たり銅に積むそれのおよそ30倍といったところである。そして、今成ったのは”6つ”。


「BAAAASSYAAAAA!」


 イヴァンはそれ以上の病みでもって浸食する。フェンリルと言えど腐るのだ、が――成功したのは4つ、残りの2つは残っている。


「人は”それ”で死ぬものだろう? ならば、最期くらいは人間らしく逝くが良い。なあ、人間はフェンリルとやらで死ぬものなのだろうがよ」


 炸裂する。圧倒的な黒い光が現実を浸食する。それは防御力では防げない、呪いにして空間異常。全てが漆黒に飲み込まれる。

 漆黒の中でイヴァンの身体が削れて行き――左足、そして右目の周囲ごと虚空に消えた。だけではない、その周辺にも相応の被害をもたらしている。……だが、耐えた。


「……UBASSYAAAAA!」


 吠える、と同時に再生――どこまでも人間離れしていくが、この最終決戦に参戦する資格を持つのならばこのくらいは出来なければ。


「ふん、その程度はできるか。だが、次の一撃は防ぎきれまいて。喰らうがいい【スプリット・ボム】」


 縦横無尽、四方からフェンリルの実を宿した蔦が迫る。巻きつかれたら拘束どころではない。逃げ場など一つもない絶死の空間だ。

 先の攻撃さえ防ぎきれなかったのに、これでは死を免れることなどできやしない。無論、他からの手助けもありえない。


 彼に理性はないのだ。作戦を思いつくという選択肢自体があり得ない。いや、不良であったときから碌に考えて行動したこともなかったが……


「KAaAaaAAA!」


 けれど、彼には野生がある。考えて動いたことはない。常に直感で動いていた。ならば、理性を失ったことなど関係がなく……むしろ、今の彼は勘に純化している。

 四の五の余計なことを考えていた時よりもむしろ強い。


 敵の攻撃の瞬間こそが絶好の隙と、獣性が見逃さない。攻撃を喰らうにも関わらずに踏み込んだ。


「なんだと!? なぜ踏み込んでくる? 定命の存在で死を恐れることなど、あるか!」

「ThIIIREAAaaAA!」


 両足と胴体の一部が消し飛ばされてもなお、樹源竜に組み付いた。そして、両者ともに最大の攻撃を放つ。


「砕け散れ! 【クリエイト・ハンマー】!」

「SYYAA、【怒津幾(どつき)ィ】!」


 木々を集めて作った巨大なハンマーで敵を圧殺しようとする樹源竜。対するイヴァンは頭突きだ、それも全ての力を籠めた。

 ハンマーは力が宿っていて、殴られれば”中身”にフェンリルの実を宿してしまうことだろう。だが、イヴァンのそれとて”触れずとも呪い殺す”病みと闇の集積だ。


 イヴァンのそれは当て字である。人間を捨てた彼だが、思い出まで捨てたわけではない。そう、彼はこの有様でも憶えているのだ。かつてのレッドワイバーンのことを。


「っぬぐ!」

「GYAAA!?」


 イヴァンは廃墟の中に叩き落され、樹源竜は腹を削られ呪いを受けた。


「UUUUUUUU」


 イヴァンとて鋼鉄の夜明け団に席を置いている。そのため、というわけでもないが――学ぶところは学んでいる。だから、傷ついても動く。

 大して樹源竜は互角の戦いなどしたことがない。それが、”ここ”に来て最大の陥穽となる。傷と言うものに耐性がない。


「RaaaRRRARARARARARA!」


 廃墟が爆砕する。一つところで破裂した破壊の仕方ではない、そうイヴァンは体の中に成った実を抉り出してどこかに投げた。

 夜明け団は現状を冷徹なまでに観察し、自らを犠牲にしてでも戦い続ける性を持っている。傷を負えば、その追加効果と戦うよりもさっさと抉って捨ててしまった方が速いと合理的な判断を下す。

 対して遊星主にその考え方はない、ただ力技で回復しようと苦慮していた。それでは”遅い”。


「ぐぐぐ……! これでも倒れぬか! 貴様と私、どちらか化け物だと言う!? 次こそ砕け散れ、【クリエイト・ハンマー】!」

「GagAGAGaGAgAga【怒津幾(どつき)ィ】!」


 超巨大なハンマーと頭突きがぶつかりあった。イヴァンは実に冒された頭を斬り落として捨てた。炸裂すると同時に引きちぎった首から頭が生えてくる。

 一方で樹源竜は作ってしまったハンマーの処理で一手止まった。ここで連撃を許せば各党のできない竜では不利になる。ゆえ、無理にでも攻撃を続けることを選択した。


「ちィ……! どこまでも盾突くか、人間め! もうよい、我が全霊の一撃にて魂ごと砕け散れェ! 【フォレスト・ストリーム】!」


 ここに来て樹源竜は全ての力を使って敵を倒すことを決心した。このイヴァンはただ倒すにはあまりにも強く、悼ましい。

 できれば一瞬たりとも視界に入れたくない病毒の塊だ。人間だって、そういうことがあるだろう。例えばハンセン病、病気に冒された者をコミュニティの外に追いやるのはいつだって変わらない。

 その感情に飲まれ、竜は牙を剥く。巨大な木が生育していく。それは一つの世界の始まりと言っても過言ではない。その大いなる樹木に飲み込まれ、そして世界が滅ぶのだ。


「GAHAHAHAHA! 【薙愚瑠(なぐる)】!」


 大してイヴァン、理性なくして動く男は複雑な術理を解さない。ただ、渾身の力と全ての異能を籠めてぶん殴る。

 それに武は存在しない。魔導人形である意味がないが、しかしもはやイヴァンの纏うそれは託された当時と大きく異なっている。もはや人の姿すら外れかけている彼は、もはや触手と呼んだ方が良い腕を掲げ、思いきりぶん殴った。


「消えろ……! 消えろ、人間ども! 世界の理だ。生まれ落ちた全てのものは死んでいく! 道理に反するのだ! いつまでも醜く生にしがみつくな!」

「KIIIKKYAKKYAKKYAAA!」


 衝突し、遠く離れた地面すらも揺らし廃墟が倒壊していく。それはまるで終末の一章、黙示録の具現。病毒が、悪徳の木々を腐らせ殺すのだ。


「ぐぅ……! だが、いい気になるなよ。貴様はもはや限界だ! 我はすぐにでも復活する! この地の加護を受けし我が魔石は貴様らには渡らん。その寿命、瞬きする間のみ預けるとしよう! しかし、貴様を殺すのはこの我だ!」

「HE。【卦莉(けり)】」


 世界すら内包しかねないそれはクリフォト(邪悪の樹)と呼ばれるにふさわしいものだった。それが世界に解き放たれれば100秒も数えないうちに地表が沈むほどのものだった。

 それすらも破壊したイヴァンが、全霊の蹴りでもって樹源竜を蹴り殺した。


「HYAHAHAHAHAHAHA!」


 亡骸を殴りつけ、笑い続ける。だが、もはや限界だ。立っているのも奇跡、”次”などなかった。

 どこまでも辛勝、やはり遊星主は恐ろしい敵なのだ。ルナがこれほどまでに人類側へ加担しても敗北する公算は大きい。なぜなら、イヴァンはアルトリアに及ばずともガレスと同格の上澄み、そしてキャメロットに属しただけの他メンバーはこれよりずっと劣るのだ。

 動かない天秤を、ルナが指を出して傾けた。――未だに人類は不利ばかり。


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