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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
最終戦争編
246/361

第83話 妖精騎士


 放たれた13の人間弾丸は13遊星主の元へ向かっていく。遊星主はそれ自体が環境を改変する生態を持つ。ゆえに互いに相容れず、同じ場所にとどまることはない。だからこそ、各個撃破の作戦は絶対に成功する。

 ――だが、各個撃破(戦力の分散)は遊星主にとっても望むところである。元より協力して敵を倒すなどという思想は奴らにない。極大戦力による圧殺こそが彼らの正道。1対1で雌雄を決するというのなら、一つの勝利すらも渡さないと誓っている。

 確かに遊星主本人は人類領域に攻め込むことは出来ない。しかし、ここならば全力を出せるのだと気炎を上げた。


 まず、一つの弾丸がそこへ着く。そこは【雷源竜オヴィオニア・ドラゴン】の領域……雷を支配する竜王の支配地は暗雲が立ち込め、無数のプラズマが常に空を焼く地獄である。

 量産型、いやオリジナルの宝玉ですら、特別な防御能力を持たなければ一瞬で焼き尽くされてしまうだろう。そこは人が踏み荒らすことなど許されない禁断の地なのだ。


「――それがどうした、電気トカゲ。この妖精騎士トリスタンと『ライトニング・クラレント』の前ではこんなもの、餌でしかないと知るがいい!」


 トリスタンが、トリスタンの声で叫ぶ。彼女が操っていた『ビルスキルニル・クラレント』はルナの手により新生した。操縦者ごと改造し、より強力に力を発揮できるよう(あつら)えた。”それ(人形)”にはもうトリスタンと呼ばれていた女の意識は残っていない。

 ゆえに、その異能は生前とは次元が違う。周囲のプラズマごと巻き込んだ雷の一撃が空気を振るわし竜を焼いた。出力にして元の10倍以上、それがルナが施した改造の成果である。


「面妖な、死体がしゃべっている。人間とは、かくもおぞましいものよな」


 竜は目覚めにちょうどよい刺激とばかりに目を開く。トリスタンを睨みつける、それだけで先に倍するプラズマが吹き荒れた。

 彼こそ竜、本来であれば人間が敵うような規模の災害ではないのだ。それは世界を滅ぼす癌細胞、終わりを告げる終末の鐘。


「アハ! 人の勇気を舐めるなよ、魔物風情め。顔も知らない誰かのために、どこまでも道を踏破する――それこそが人間であるのだから! 【Gelber Weg(偽金の道)】」 


 取り合う筋合いもないと言わんばかりに、トリスタンは雷のように――雷の速度すら超えて疾走する。そのすべて、ルナが操るままに。

 そして、背後を取る。その剣を振りかざし、その首を叩き落そうとうなりを上げる。


「それは貴様ではなかろう? 破壊神め、貴様は人間ですらないだろうが」

「だが、このトリスタンの想いは此処に残っている。【|Schwert erhitzen《雷炎の剣》】」


 先に倍するほどの雷を一極集中、ようするにウォーターカッターの要領で竜の首を一閃した。

 戯画的な絵のごとくあっけなく首がずれた。討伐成功と言える光景、それで生き残れるならば生物ではないだろう。


「その程度で、か? 【プラズマホールド】」 


 わずかな瞬き程度の時間で首が戻る。並外れた再生能力、どんなに大きな大砲を用意しても傷の一つも付けられないが、一方で傷を与えたところでコレだ。

 竜は全身から雷の網を放つ。それは自身の周囲に放つ無差別攻撃。先のトリスタンとは性質が真逆だ、急所を抉るための力と、当たればいいというだけの技がぶつかる。

 

「……ッチ。【Gelber Weg(偽金の道)】」 


 トリスタンは先と同じ移動技を使って後方に退避する。腕を確認すると、焼け焦げて棒のようになっていた。それだけではない、足とて殆ど炭化している。それでも視線をやっただけで竜と同じように治る。


 ――それが、異能をフルで回すということだ。


 トリスタンは、ルナが操ることで異能を限界以上に引き出している。だから魔物程度に絶対に負けない? そんなうまい話があるわけがない。

 使用する身体が違う。ルナは神であるが、トリスタンは所詮死体を改造しただけだ。神が魔物に負けることはないが、神の操り人形は所詮人形に過ぎない。


「は。逃げるか、破壊神よ。我ら世界を貪る者の天敵、世界樹の枝より生まれた神よ。この世界は貴様の遊び場ではないと知れ。……【プラズマボルト】!」

「いいや、遊び場さ――ゆえにお前達を滅ぼすこともなく、この世界を存続させよう。仕事場とは、つまり滅ぼす世界であるということなのだから。【|Armbrust-Pfeil《弩弓の矢》】!」


 竜が吐いた雷球と、トリスタンが放った極限まで収束させた弓矢の一撃は一瞬だけせめぎあい――相撃つことなく砕けながらも互いの敵を貫く。雷球はトリスタンの全身を焼き、そして矢は竜の逆鱗を貫いた。


「がぐっ! まだ……だ!」

「ぎ――ィ! あは、勝手に声が出た!」


 両者、普通ならば致死に等しい傷である。血の花が咲き、だが――しかし血を振り払った後は跡形もなく消えている。これが遊星主クラスの闘争と言うものだった。


「おのれ! だが、今度こそ焼き尽くしてくれる。【プラズマボルト】!」

「【|Schwert erhitzen《雷炎の剣》】。……やはり経験不足だな。技の繋ぎが甘いぞ、【|Armbrust-Pfeil《弩弓の矢》】!」


 雷球を切り裂き、伸ばした雷剣を凝縮して弓へと変換、そのまま矢として放つと敵を貫いた。そこは急所だった、竜の身体がボロボロと崩れ始める。

 如何に遊星主といえど魔物。その核を破壊すれば死に、魔石に帰る。


「おのれ……おのれおのれおのれェ! だが、我は決して負けん! この地にある限り、遊星主に敗北はないのだ! 消え去るがいい、運命を弄ぶ神よ。【プラズマクラスター】!」

 

 だが、雷竜はトリスタンに勝ち誇ることを許さない。クラスターは集束爆弾、要するに”ホールド”と”ボルト”の合わせ技。

 トリスタンは既に敵以上にボロボロだった。強力な力を使用した代償として体の各部が焼け焦げ、そして回復力で無理やり治す。消耗という意味では二重だ。

 

 そして、そこに竜自身の命すら懸けた最期の一撃が放たれた。消えかけた自分の身ごと全てを塵に帰す気だ。……そして、竜は魔石に帰らない。そう、それがこの地の加護。彼らは人類領域まで来れなかったが、逆に人間が彼らの領域に行っても相応のハンデはある。

 ここで一度死のうと……敵に重傷を与えれば、復活した後に丹念に殺せばいいのだ。帝国そのものを封印しない限り、必ず彼らが勝利することになっている。


「……は! 馬鹿め、勝利するのは人類だ!」


 だが、トリスタンは知ったことかと特攻する。雷に焼け焦がされながらも敵に到達し、全身の輪郭すら失ってもなお核を貫いた。


「ふふ、まずは一つ勝利。そして、これよりおよそ1時間……それがタイムリミット。奴らは復活し、我らは八つ裂きにされるだろう」


 その勢いのままに地上へ墜落した。腕も足もちぎれ、もちろん胴体もその4割ほどがつながっているのみだ。一言で言えばバラバラ死体で、回復する力も残っていない。

 ……異能は使い果たした。妖精騎士トリスタンは限界以上を発揮し、結果として再び繋ぎ合わせることも出来ないほどのダメージを負ってしまった。


「この身体はもう無理だ。後は託すよ、この妖精騎士と同じくキャメロットに席を頂く者たちよ」


 トリスタンは瞳を閉じた。




 次は嵐の領域。アルカナ・アーカイブスが操る”彼”が向かう地である。そこは雨と風が支配する人知及ばぬ土地であった。


「我は妖精騎士ランスロット! 人類救済を志す有志にして、『黄金』を操る騎士である! この輝く『シャイニング・カリバーン』を恐れぬならば、かかってこい!」


 ランスロットが漢らしく剣を向けた。『ブリスタブラス・カリバーン』が元となった『シャイニング・カリバーン』もまた、改造によってその出力を規格外にまで上げている。

 ゆえに、というわけではないが操るアルカナは役者のような立ち居振る舞いを自信満々に行っている。……理由は一つ、ルナの好みがそういったものだからだ。


「黙れ、死体めが。臭うぞ、”それ”は分身ですらないだろうが。そのチグハグな動作、見間違うものかよ。塵は塵へと帰れ!」


 嵐竜の怒りを現すように風が吹き荒れる。

 生きとし生けるものは例外なく死を迎え、そしてその死体は時を経て風化する。それを自然の理というのならば、死者を人形にして戦うのは確かに愚弄と呼べるだろう。


「クハハ! 馬鹿め、これは役者の嗜みというものだ。コロナのような武辺者は知らぬだろうがよ、舞台には魅せるための動きというものがある! 【Weiber Weg(輝白の道)】」


 それは一直線である代わりにトリスタンよりもずっと速い。瞬きすら許さずに懐まで入り込んだ。

 逆鱗は見えた。急所など、探すまでもなく見れば分かる。そもそも終末少女にとって魔物など見飽きたものだ。検討を付けるのが容易いほどの戦闘経験をアルカナは積んでいる。


「くだらん小技など叩き潰してくれる! 砕け散れ、【テンペスト・ブレス】!」

「踊れ踊れ、全ては我が愛に捧げる供物に他ならんのだから。さあ、ダンスを踊ろうか! 【|Leuchtendes schwert《輝光の剣》】」


 嵐と光の束が衝突し、相殺した波動が遥か下まで到達し地表が削れていく。そして、肝心の両者は衝突した技の勢いで共に押し返された。

 輝白の道は超高速移動、反応できる速度ではない。しかし、悲しいかな。それは月読流ではなく、ただの異能による技――力押しと言ってしまっていい。要するに、技と技の間に隙ができる。そこに攻撃をねじ込まれたために同士打ちという形になった。


「潰れろ! 潰れるがいい! 世界を貴様達の好きにはさせん。世界を弄ぶ破壊神よ……本体を出せ! 偽物ではなく、本物を砕いてくれるわ!」

「くはは。なあ、魔物よ。貴様程度の知能ではわかるはずもなかろうが、演劇には間というものがある。勘違いするなよ、お前はただ生かしてやっているだけよ。元より、出て行って殴って終わりではあまりに味気ないというもの」


「ふざけるな! 遊びのつもりか!?」

「それがルナ様の望みである。(わきま)えよ」


 竜が遠く離れたランスロットを睨みつける。嵐は彼の怒りを表すように1秒ごとにその勢力を増している。


「この戦い、我は負けるわけには行かん」

「おっと、俺はランスロットだったな。敵と語るべき言葉などない! 命を賭け、互いの存亡を競おう! この地上を支配するのは人類だ!」


 思い出したように剣を構える。それは皇月流の猿真似、恰好こそついているものの脅威とは程遠い。


「滅べ、【テンペスター・ストーム】!」

「人の業を舐めるなよ、【|Leuchtendes schwert《輝光の剣》】!」


 天災どころではない、鋼すら圧壊する威力の嵐が、触れただけで死ぬ猛毒の瘴気を乗せて迫りくる。

 そして、それを最小限の動きで切り払いつつ前進するランスロット。腕が砕け、胴体に風刃の傷跡が刻まれようと、最小限のコストで前進する。

 痛みを受け入れ、(いたずら)に強力な技に頼ることもなくひたすら前へ。


「死ぬがいい! 【テンペスト・エンド】!」

「これ、以上だと……ッ! 【|Leuchtendes schwert《輝光の剣》】、最大出力……切り裂けェ!」


 圧力が増す。それは終焉、デッドエンド。人間の武術など何も関係がない、それはただの力押し。ただ強力なだけの異能が全てを破壊し終わらせる。

 一際強い輝きでさえ、飲み込まれて引き裂かれ、地へ叩き堕とされた。


「――人形に、これほど消耗させられるとはな。だが、この地であればどれだけでも戦える。神よ、そこに居るか!? 待っていろ」


 アームズフォートを見据え、飛ぼうとして。


「待て」

 

 声がした。


「馬鹿な。あれほどの攻撃、防げるはずがない!」

「いいや、防ぐとも。俺は背中に人類の未来を背負っているのだから!」


 ランスロットは立つ。全身から血を流し、それを修復するわずかな魔力も惜しみ、残された全てをもって特攻する。


「繰り言を! 次なる一撃で完全に滅ぶがいい、【テンペスト・エンド】!」

「俺は! 勝つ! 【|Mondlicht-Zeichen《月光の加護》】」


 大地ごと砕かんと迫る大嵐、だがランスロットの光はそれに伍する。世界すら終わらせかねない狂乱の嵐と絶滅の光……これこそ終焉に相応しい演劇の舞台。


「拮抗するか。だが、人間の出力ではいくらも持つまい!」

「いいや、疲れが見えるぞ。最期に勝つのは人間だ!」


 嵐と光、ぎりぎりと光の方が押されている。圧倒的な嵐が吹き荒れる。ランスロットはわずかな余波が身体に触れる度に大量の血を流し、しかし一瞬後には回復する。


「なにを言っている……? がッ」

「見えた。勝利への道!」


 嵐の竜を止めたのは疲れではない。”ここ”でならば1時間でも粘れるのだ。ゆえに拮抗を崩したのは刻まれた傷、もうしゃべるなと言わんばかりのそれは彼に声を出すことも許さない。


「あ……がぁ……おの――れェ!」

「これで終わりだ……|【神話の再演】《Mythische Illusion》!」


 そして、最期を飾る圧倒的な光輝。光を纏ったランスロットが自らを槍として嵐の竜の核を砕いた。


「……皆、あとは頼む」


 それだけ言い残してランスロットは身体を宙に投げだす。もはや空を飛ぶだけの力も残っていない。


 ――否、全ては演出。あとを頼むその言葉さえも演劇の一幕に他ならない。なぜなら、操るアルカナはそんな殊勝なことは思っちゃいないのだから。

 嵐の竜を止め、隙を作ったのもアームズフォートに居るアルカナの攻撃ならば、【テンペスト・エンド】の威力を弱めてぎりぎりで耐えられるよう調整したのも彼女だ。そして、その彼女は後でルナを楽しませる実写が撮れたことでほくそ笑んでいることだろう。


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[良い点] 時々出てくるアルカナのルナ様呼び好き
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