表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
最終戦争編
243/361

第81話 最終作戦『ラグナノク』前夜


 ……1か月後。


 アームズフォート内に残った団員全てが倉庫に集められた。会議室とか応接室でないのは、合理を重視するゆえの虚飾を無視した選択だ。

 いつもの豪奢なフリルを纏ったルナが、鉄パイプで組まれた壇上に上がる。上と下が違い過ぎて逆に違和感を感じない。千を超える瞳の前で恐れることなく、凛とした瞳で宣言する。


2200(ふたふたまるまる)、全非戦闘員の撤収を確認。よって全ての準備は完了された。ここに【鋼鉄の夜明け団】総帥、ルナ・アーカイブスの名において最終作戦『ラグナロク』の始動を宣言する!」


 その言葉に湧き上がる団員達。この先は死地に等しいが、しかし人類の未来を守るために立ち上がった勇者達だ。死など恐れることはなく、己が栄誉と人類の未来のために進むのだ。

 総勢910名の兵士達。戦力という括りで言えば、全人類の戦力の内3割が揃ったことになるのだが、その全員が精鋭だ。

 詳細に言えばその全ては『鉄』以上を操る。王国は失われ、残る教国と王国が所有するは『銅』と徴発を免れたいくらかの『宝玉』のみだ。上位奇械の襲撃があれば砕け散るだろう脆弱な戦力しか残っていない。

 ――ルナとアルトリアは、強引な手腕でほぼ全ての戦力をここにかき集めてしまった。負ければ人類に後はない。文字通りの最終作戦である。


「そう、キャメロットも鋼鉄の夜明け団も……そして超合衆国カンタベリーすらも、この作戦を決行するため用意した。その全てがここに結実する。全員、魂をかけて励むがいい。その献身を、僕は永久に忘れない」


 ルナが手をかざすと一瞬にして会場が静まり返る。阿吽の呼吸だ。


「ラグナロクは第3段階より成る! 第1段階『ニグレド』。僕とアリス、アルカナにより開幕の一撃を叩き込んだ後にこの新生したアームズフォート、『SOFスピリット・オブ・フルメタル』にて奇械帝国に乗り込む!」


 大げさな身振りでがつんと殴るパントマイムをした。これがお遊戯会ならば微笑ましい光景だが、現実では軍人たちが凶悪な笑みで瞬きすらせずにその様を見守っている。


「そして第2段階『アルベド』。初撃を受け混乱した敵軍を後目に、我らが【キャメロット】が【奇械13遊星主】を撃破する! 傲慢で無慈悲な暴虐と怠惰の化身共をぶん殴ってやろう! そして、双首領が片割れアルトリア・ルーナ・シャインが勝利の証たる『心御柱』(しんのみはしら)を打ち立てるのだ!」


 バ、と手を広げた。その後ろにはキャメロットの13人が静かに立っている。彼らこそ人類の希望にして最終戦力である。


「最終となる第3段階『ルベド』、13遊星主撃破後にこのスピリット・オブ・フルメタルを中心地に安置、封印処理を実行する! この僕が自ら『黄金六芒星』メギストス・ペンタグラムを絶対錬成する。奇械帝国そのものを地の果てに追放し、世界を人類の手に取り戻せ!」


 そして、もう一度手を上げると歓声が爆発した。戦争を行うためには兵士に加えて様々な職務の者が必要とされ、ここに居るのは1200名を下らない。

 その人数が一糸乱れずルナに従っている。その理由を一言で言えば『力』だ。ルナの持つ魔導人形に似た力、そして改造技術を信仰している。


「さあ、キャメロットのメンバーを紹介しよう」


 ひゅ、とルナが数m先にマイクを投げる。と、同時にその先がライトアップされる。


「私は戦うことしかできない女でな。一言で終わらせてもらおう。……私は勝つ」


 それだけ言ってアルトリアがマイクを投げ返した。ルナと違い、彼女は飾り気のない軍服を着ている。団員も好きに改造している者が多い中、彼女だけはお手本のようにピッシリした恰好をしていた。

 だが、これでも数ヵ月前まではメタルスライムをやっていた。もはや人間と言うくくりでは表せない強者である。


「ふふ、お姉ちゃんは相変わらずだね。我らがキャメロット、我らが双首領の片割れアルトリア・ルーナ・シャイン。彼女こそ人類最強と言っても過言ではない。決戦では炎纏いし龍を沈めてもらうことになっている。雪辱戦だ」


 大仰に彼女を指し示したルナは、次はと言わんばかりに手を掲げた。その手が指し示す先は空中だ。鎖に縛られた魔導人形が晒された。


「ガレス・レイス。彼はキャメロット結成前より『地獄の門』で人類を守っていた。だが、我々の理想に共感し手を取りあった。天すら焼き尽くす炎にて、神を僭称する龍を焼き尽くしてしまうがいい」


 ライトアップされた先でわずかに頭を下げた。彼だけは、協力者と言う名目が強い。人類の存亡をかけた最終決戦に参戦するが、彼は団員ではないのだから。

 しかし、彼とてルナの(改造)は入っている。数百年戦い続けて得られるクラスの聖印を刻み込まれ、そしてルナの企みにより皇火流の先代と戦い――彼の武を盗み勝利した。


「イヴァン・サーシェス。もはや言葉を話すだけの知能すらも失ったようだが、その能力は一線級だ。彼ならば樹を司る龍を汚し尽くし、破壊できるだろう」


 封印するように鎖でがんじがらめにされた呪われた鎧、鎖、鎖。彼こそがキャメロットの一員、紹介に預かったイヴァンだ。

 もともと彼は暴走族をやっていて、復讐のために奇械と戦い続ける最中、行きついた果ては奇械よりもおぞましいナニカと化した。実は彼に関してだけは、ルナお手製とは呼べない。

 元はルナの聖印だった物を取り込んで変質させた彼は、紛れもなく人を超えた化け物である。


 そして、実は真の【キャメロット】の騎士はこの3人で終わりだった。次からは、舞台装置として用意された養殖品。改造の有無ではなく、『箱舟』製の異世界技術で作られた終末少女と同じこの世界に居るべきでない存在だ。


「妖精騎士トリスタン、補助はこの僕ルナ・アーカイブスが務めよう。僕はここで封印処理の準備を進めるが、彼女の人類救済にかけた想いは本物だったと僕は知っている。さあ、雷の龍を共に血祭りに上げてこようじゃないか」


 ルナの暴虐……その被害者であるトリスタン。彼女は既に死んでいる。その実力こそ不足であるものの、英雄としての魂を認められた彼女と彼はその死体を改造されて人形となった。

 今や彼女はルナが操る通りに動く人形だ。『黄金』の力を十全以上に使うことができるように強化された。生前は万に一つも無かった勝機、だがルナは彼女(人形)を勝たせるだろう。


「そして同じく妖精騎士ランスロット、補助はアルカナ・アーカイブス。トリスタンを愛し、そして人類救済にかける想いは彼女以上でありながら恋を捨てず。人も、愛も救うことを諦めなかった勇者よ。さあ、嵐纏いし龍をその光で打ち滅ぼすがいい」


 こちらも同じく死者である。アルカナが操る以上、敗北はない。

 アルカナは不敵な笑みを浮かべてアリスの反対側に立っている。ちなみにアルカナの方が男を操っているのは、ルナが男を操るのを嫌がったためである。


「……『白金』の出力ユニット、『メビウス・アイン』改めアインス。これには星の龍撃破の役を与える」


 そして絶対の存在である『白金』、人形のような彼女はライトに照らされるとより一層非生物感が強くなる。ルナも、これは生きた機械の一種と扱っている。

 瞬きすらせず、光に何も反応を返さない。これが人類の歴史を守護してきたものの真実だった。


「合計、6体。一体でも放たれれば即座に世界が瘴気に沈むほどの超ド級の災害……人類では歯が立たない龍だ。”これ”が人類に牙を剥いた例は歴史を紐解いてもただ一度、アルトリア・ルーナ・シャインを狙ったあの時だけだ。だが、我らは勝てると信じている」


 龍、究極域に達する災害に等しいモンスターだ。『地獄の門』の時も、龍自身は戦いに加わらずに領域を支配するのみだった。人間では決して勝てなかったはずの”世界の癌”である。


「そして、残り7体の遊星主。油断するなよ、その総力こそ劣るが特異な能力を見抜けなければ死あるのみと心せよ。黄金の力を最大にまで発揮したところで、敵の異能が分からなければ犬死にだ」


 そして、人型――こちらは格が落ちるとはいえ遊星主には変わりがない。その特異なる能力をもってすれば、人間による打倒など夢物語である。


「ベディヴィア・ルージア、君には屍聖弦祖を担当してもらおう。だが君は未だキャメロットとして相応しいほどの力を持っていない。だが、知っている相手だぞ。ゆえに打倒して見せよ」


 ルナが傲岸に言い放つ。ベディヴィアがしっかりと頷いた。自らの実力不足は知っている。

 ルナの望みが高すぎるだけだが、しかしアルトリアと言う実例がある以上は彼にどうこう言えたものじゃない。たとえ数合わせだろうが、姫とともに戦えるなら構わない。必ずや役目を果たして見せると、静かに闘志を燃やしている。


「ファーファレル・オーガスト、そして補助に付くアリス・アーカイブス。冥界煙鏡もまた、能力は割れている。アリスがついていれば十分と思うけど、死なないように気を付けてね? 死んでいなければ、治してあげるから」


 小さく可愛らしいファーファが、アルトリアの横でちょこんと頭を下げた。ルナの背後では澄ました顔でアリスが立っている。

 実はファーファはキャメロットの一員ではなかった。それが、実力者が足りないと言う事情、そして何よりアリスがファーファに友情を示し一緒に戦いたがったことで参戦の次第となった。実際、ガレスのような外部協力者を何人も仕込む予定だったのが……元の『黄金』の持ち主たちは、敵対した時に実力不足と切り捨てた。

 ……現実のことを言うと、ルナと敵対した黄金遣い達は幕下に加わることを良しとしないが。協力しないのと出来ないでは大きな隔たりがあるが、人数が足りないのは瞭然だった。


「コロナ・アーカイブス。君の担当は殺塵亡剣だ。よく考えて戦うんだよ? いくら君と言えど、敵の異能を見抜けずに勝てる相手ではないのだから」


 コロナはダン、と地を踏み床を揺らす。そしてパン、と拳を打ち鳴らす。拳を掲げると歓声が上がった。

 実のところ、美女という意味ならコロナが一番人気が高かった。幼女趣味は言うまでもなく特殊であり……アルカナとコロナは若すぎる、という程度には大人だ。その豊満な身体は男女関係なく魅了するが、”アルカナは怖い”という共通認識があった。


「プレイアデス・アーカイブス。冥界喰狼を倒しておいで? 君は頭がいいから平気だろうけど、相手をよく見るんだよ」


 す、と観衆を睥睨すると一瞬で静まり返った。ルナが家族と言っていることもあって、周囲に受け入れられている。

 その彼女が静謐を好むというのは知られている。


「ミラ・アーカイブス。真理哲学――まあ、潰して終わりだね? うまく出来たらご褒美を上げる」


 一転、こちらは兵士たちも戸惑いの雰囲気だ。ミラもまた特に何かを思っている様子すらない。あまり人間と関わっていない、被虐趣味はあくまで終末少女の仲間にされることを望んでいる。


「そして新顔となるレスキオ・スパラディには冥府門番を。アースト・グラナトスには堕天竪琴と戦ってもらう。死力を尽くし、限界を超えろ……でなければ生き残ることすらできないのだから」


 そして、所在なさげに立つ二人の男。こちらはこちらで委縮している。逆に珍しい光景でさえあるが、それもそうだろう。何もかもが足りていない。

 ファーファまで駆り出してなお、まだ人手が足りていない。モンスター・トル-プを使うのは駄目だった。あれはあくまで『鋼』を操縦者ごと改造したものだ。『黄金』を合成錬金したところで高がしれている。まだ元操者達を洗脳した方がマシだ、殺してしまったが。

 そう言うわけで、夜明け団の中から更に適性の高い人間を選びモンスター・トループ以上の改造を加えたのが彼らだ。再生能力を合わせて考えても、かの元操縦者達と同格でしかなかった。

 委縮しているのは、自分が1段どころではなく劣っているのを自覚しているからだ。


「そして910名の兵士諸君、24名のオペレーター、167名のエンジニア。君らの勇名は黄金時計塔(ゴールデン・レコード)に刻まれた。願わくは、塔に勝利の二字を加えんことを」


 す、と杯を掲げる。酒杯である。


「「「――」」」


 全ての人間が一糸乱れぬ動作で杯を掲げる。ただ一人、封印されているイヴァンだけは無理な話だが。


「現時点をもって、最終作戦『ラグナロク』を開始する!」


 ぐい、と一息で飲み干して床に叩きつける。次の瞬間、杯の割れる音が重なる。それは死出の旅立ちを彩る号砲、鋼の決意。


「「「鋼の恩恵こそ永遠なれ! ルナ様万歳! キャメロット万歳!」」」


 幾多の称える声が唱和する。……全てが終わる時が来た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ