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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
父娘決戦編
240/361

第78話 父と子、王と英雄

挿絵(By みてみん)


 そして、視点をアルトリア・ルーナ・シャインに移そう。

 この物語(第二部)は元々彼女の逆境から始まった。ルナという魔女に見出され、世界を救うストーリーの主人公に抜擢された。

 実際として、アルトリアはルナに会わなければただ覚醒すらしていない黄金遣いだった。先に勇者がルナに負けたように、覚醒は遊星主に挑むための足切り条件だ。その程度の力もなく最強ともてはやされようと、裏には国を支配する覚醒済みの『黄金』が居た裸の王様だ。本当の”最強”は表に出ていなかった。

 結局、アルトリアは国家の反逆者として民主国を追われた。が、それは積極的な暗殺を意味しない。他の貴族に助けを求めて官憲に突き出されそうになったことはあったが、殺し屋の派遣はあくまでルナと出会った後だった。後に勇者とともにルナを討とうとしたラモラック・ギネヴィアも、当時なら殺せたがその指令は出されず終いだった。


 そして数々のストーリーを経て、アルトリアは逃亡者から人類全ての戦力を束ねた英雄へと返り咲いた。

 しかし、それでも……その本質は最初から何も変わってなどいないのだ。国家の機密を世間に公表したことも、そして教国を破壊し尖兵としようとしていることも一つの想いから始まった。


 全ては、奇械を倒すため。


 このまま手をこまねけば、力を蓄えた遊星主に人類が滅ぼされる。奴らは魔力が貯まるのを待っているに過ぎない。自ら人界に出撃し、全てを滅ぼすために。

 その魔力は人間からも観測されていたため、未来を予想するのは簡単だった。皆、それから目を背けているだけだ。ルナとともにキャメロットを組織したのも、遊星主への対抗手段となりえる以外に理由はない。そこはブレていない。


 だが、国家の上層部が出す結論「奇械への反抗作戦は馬鹿げた自殺だ」という見解も、実は間違いとは言えなかった。

 それこそ、かつてのアルトリアの力は先の勇者と同程度だった。そして加わった三名、ルナから『黄金』を与えられたベディヴィアはもちろん、他の二名も遊星主と会ったら殺される程度の”人間”でしかなかった。

 現在のキャメロットの構成員は半数以上がアーカイブスの血族だ。ルナの気まぐれ一つで瓦解する作戦行動を、国家は承認しない。そもそも国家の威光に恭順しないルナは敵であることもまた忘れてはならない。


 そのことをアルトリア自身が一番分かっている。

 彼女をただの妹好きと思う人も居るかと思うし、彼女自身とて立場ある者として自覚はあるから自重は心がけている。

 それでも、ルナの存在が危ういものと知っている。あれは、人間ではないのだから。彼女は人の味方ではなく、”英雄”の後援者だ。キャメロットが全滅した時、彼女は人類を見捨てるだろう。


「――全ては奇械との決戦のため。正義とは言わない、正しいとは言わない。滅びが決まっているとはいえ、束の間の安寧に価値がないなど誰が決めた。ただ安楽のうちに滅ぼされる、そんな自由もあるだろう」


 自らのルーツを確かめる。

 何をもって何を始めたか、それを再確認する必要がある。なぜなら、これから向かうのはもう一つのルーツ(根源)

 それが精神的なルーツならば、肉体のルーツ。逃れ得ない血縁。


「しかし、私は選択を奪う。キャメロットを作った。そしてアームズフォートには人類の総戦力が集いつつある。……全てを使うのだ。負ければ、後は人類が殲滅されるだろう。ここで我らが降れば、まだいくらか安らぎの時が過ごせるはずだ。だが許さん」


 そう、アルトリアはここまで来た。苦難の道のりであった。だが、それ以上に屍を踏みしめてここまで来た。

 ならば、道を違えることは許されない。死者にお前たちの死は無駄だったと、そんなことを言うわけにはいかないのだから。今さら引けないだけの犠牲を積み重ねてここまで来た。


「勝つのは私だ。人類の全てをチップにして、【奇械】どもとの決戦に賭ける。勝利の栄光を目指さずして何が人だ。その命も、意思も、全てを使い果たしても必ず勝つ。どのような非道も実行しよう。私は正義でも悪でもなく、ただの人として挑む」


 それが彼女の覚悟だ。あるいは生き方と呼べるものか。彼女は民主国で生まれた象徴としての王族、そのお姫様として生を受けた。

 自由のない人生だ。権力はなく、ただ国民にあるべき生き様を見せるための虚構に満ちた生き方。そこで武に適性がありすぎたのが行けなかった。遊ぶのも、贅沢も、”いけないこと”だから許されない。けれど修行なら許された。ゆえにそれだけをやってきた。意見をかわした友も、切磋琢磨したライバルも居ない。ただ磨き続けた。

 ――そして人類の終わりを知り、遊星主に対抗する術を求めた。


「思えば、貴方とは建前でしか話したことがなかった。あるべき父と娘の姿を定められ、観衆の前で言葉を交わした。誰にも聞かれない場所で本心を打ち明ける、そんなこともしていなかった。……なあ、父上」


 そして、アルトリアは父を見定める。この場に呼び出した男、もはや共には並び立てない相手と。

 ルナは色々なことをやっている。例えば勇者への対処、そして時計塔『ゴールデン・レコード』の建造、アームズフォートの改造etc……ゆえにここでは助力は期待できない。

 いざとなれば頼る他ないが、それはあまりにも情けないだろう。


「おお、心ならずも追放してから顔を見ていなかった。元気な姿を見せてくれて嬉しい。その顔をよく見せてくれ」


 ここは、とある秘密の喫茶店だ。しかしそこは要人が秘密の取引に使う場所だった。そこに来た事実さえ知られることもなく、例え敵対勢力が来ても容易に逃げられる裏口がある。

 そこでアルトリアは父、民主国の国王と再会を果たすのだった。


「父上」


 アルトリアは最初から頭を下げてなどいない。その瞳を真っ向から睨み返していたのだが、対する父はまるで柳だ。

 何も返ってくるものがない。いや、柳と言うより演劇か。まるで定められた科白を情感たっぷりに(そら)んじているような。こんな喫茶店でさえ、まるで謁見室の中のようなふるまいだ。


「よくやってくれた。『黄金』の操者の多くは死んだが、そこはアーカイブスの連中を使えば埋め合わせができるだろう。そして、今や残る『黄金』はお前の元に集った。……民主国のものとなったのだ」


 冷めたような表情をぴくりとも動かさないアルトリアに、父は構わず続ける。


「そう、我が国が全てを支配する。歴代の王達の誰も出来なかったことを、私が成し遂げた。いや、まだ早計か。手順を踏む必要があるな。ギネヴィアの小娘の役目はもう終わりだ。鋼鉄の夜明け団は解体して我らが軍に組み入れる」


 そこまで好きに言わせていたアルトリアだが、頬がピクリと歪む。


「お前も嬉しいだろう? アルトリア。お前もまた、輝かしい民主国の歴史の1ページとなる。名前が刻まれ、永遠に尊ばれることだろう。……それは何よりも価値のあることだ、アルトリア」


 不快気に顔を歪めたアルトリアは、次の瞬間には悼むような顔でため息を吐く。


「む? どうしたと言うのだ、アルトリアよ」


 父は心配そうな表情を見せる。だが、それもまた――


「ここでは誰も見ていないぞ。下手に取り繕われる方が返って不愉快と言うもの。表情を消した上で笑顔を貼りつけても薄っぺらにしか見えん」


 アルトリアはにべもない。父を恨んではいない。だが、生きてきた中で会った回数は両手の指に満たない相手を敬愛できるかと言えば……彼女の場合は違った。

 ただ武人として生きる彼女は、その父が言い訳程度にしか鍛えていないのが透けて見える。いや、健康のためにやっているから真面目な方だろう。民主国の”王”とはそういうものだ。武人として鍛えているアルトリアの方がおかしい。

 だが、勝手な言い分ではあるが、アルトリアとしてはやはり弱いのはいただけない。尊敬する気にはなれない。”強くなる”必要など本来ならばないのだが、理屈で人は動かない。


「アルトリア……!」


 誰が見ても完璧なアルカイックスマイルが即座に剥がれ落ちた。そこに見えたのは憤怒の表情、それは恐怖の裏返しであるからこそ……より苛烈に燃え上がる。


「やはり数回会っただけでは情の湧きようもないな。これは、私がそういう人間だからかな?」


 アルトリアは一瞬で憐憫の表情を冷たい相貌へ切り替えた。だが、この”父”にとっては憐憫こそが最も唾棄すべき顔だ。ただの一瞬であったことなど関係ない。

 自分はそれを民に向ける側だ。決して、向けられる側ではないのだと怒りの業火に薪をくべた。


「お前は……お前は、私のことを憎んでいるのか? あれはしょうがなかった。オリジナルは誰にでも扱えると言うことは機密だ。誰にも知られてはならないものだった。私は、お前のことを守ろうとしたのに」


 感情が乱れる。今、この父は誰にも明かさなかった本当の顔を見せようとしている。例えそれが、論理の通らぬ被害妄想であれど、王ではない彼としての本心からの言葉。アルトリアだけでなく、他の子であろうと一度も見せたことのない本音が顔を覗かせていた。


「父上、やめてくれ。それが本当でも、嘘でも。……私にとってはどうでも良いことなのです。私が全てを始めた。そのために教国すらも巻き込み、今や3国の戦力を結集させて奇械帝国にぶつけるところまで来ている。――私には責任がある。今更私情を挟むことなどできようか」


 王としての重圧、立場。そのために結べることもない家族の絆、この場であれば父と娘が手に手を取ることができたかもしれない。

 それを分かってなお、アルトリアは何もしない。キャメロットの者として……全ては奇械との決戦のため。彼を哀れみ、彼とともに歩みを止めることなど許されないのだから。


「お前は奪うのか? 私から、全てを。現状はうまく行っていた。教国は奇械に削られ、弱い王国は草刈り場だ。あと1年、1年もあれば民主国が全てを従えていたはずだったのに」


 見違えたように憔悴する父。だが、その懇願をアルトリアは一顧だにしない。確かに1年あれば、教国に有無も言わさず従えるだけの力を持てただろう。……今のルナと同じように。

 だが、アルトリアは知っている。ルナとの最初の戦、『地獄の門』で奇械が消耗しなければ遊星主が1年より前に三つの首都を破壊していたのだと。


「……そうだ。ラモラックはただの暗殺者。我らキャメロットにない『黄金』は残り二つ、その二つはお前たちが持っている」

「させん! させはせんぞ。これだけは絶対に渡さない」


 王は髪を振り乱し、叫ぶ。それを失えば大国は龍から、ただの眠れる豚に堕する。黄金はイコール軍であり、武力を有せずに通せる意見などない。


「抵抗は無意味だ。残り二つの『黄金』ではキャメロットには対抗できない。確かに現状私が動かせるのは三つだけだが、退けたところでルナは見逃さんぞ。……そして何より、私は負けん」

「させるものか!」


 だん、とテーブルを叩いた。今にも脈々と受け継いできた権力の全てが消えようとしている。それを失うことなど、祖先に誓って許されようか。

 可能かどうかなど考えるまでもない。やらなければならないのだから、例え娘であろうと痛む心は胸にしまう。誇りのために、目の前の敵を誅さなくてはならぬ。


「一旦、失礼する。あなたは公式会見の前に頭を冷やしておくことだ」


 アルトリアはもはや何も感情を見せることもなく、席を立った。それは冷たい通告、逆らうならば潰すと暗に示している。


「……リネット!」


 王が叫ぶ。そう、ここは彼が指定した場所だ。敵対勢力が来ても容易に逃げられるのは、それはここを利用する者の話である。

 ならば、ここにアルトリアの逃げ道などどこにもない。きちんと人員は配置されているのだ。何か起きた時のための要員が、殺すために動くのだ。


「なぜ私が一人で来たのか分からないのか?」


 魔導人形を纏う暇も与えないと放たれた凶刃、しかしその刃が届く前にアルトリアは空間の歪みとともに消失した。


「~~~ッ!」


 逃がしたと悟った王はダンと机を叩いた。



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