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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
「勇者」登場編
237/361

第75話 モンスター・トループ撃破と新たな旅筋


 通信を開いた直後、モンスター・トループの襲撃を受けてしまった勇者パーティ。瞬く間に分断され、それぞれ戦うことになる。

 夜明け団に対抗するには『黄金』の力が必要だ。よって、彼こそがもっとも危険な状況下に置かれたことになる。ランスロットは2対1で耐えることになってしまった。


「『黄金』の力を舐めるな。異能を使えるようになった俺ならば……!」


 ランスロットが剣を握る。そして、全身が光り輝く。それこそが彼の異能、光ある限り無敵……要するにステータスアップだが、単純ゆえに強力。そもそも階位が二つも違えば練度や小手先で跳ね返せるレベルにはない。

 さらに、皇月流の力を合わせればどちらが勝つかなど言うまでもなく。


「一秒で倒す」

 

 大地を砕きつつ踏み込む。この『黄金』はシンプルに強力だ。簡単に砦を引き裂き、空を割る力を持つ。

 アームズフォートに攻め込もうと言うのは無謀ではない。砦規模の敵軍団に加えて多数の火砲……その程度を相手取るならば彼一人で事足りる。並み居る雑魚を轢殺し、放たれる砲弾を殴り壊し、壁のようにそそり立つ装甲を引きちぎれば良いだけなのだ。

 ゆえに敵となるとなるのは【キャメロット】のみ。まあ、恒常的に8人も居るので絶望的なのはそこなのだが……しかし、モンスター・トループごときに止められるようでは反逆者として恥ずかしい限りだろう。


「――皇月流奥伝【神威】」


 更に、彼は皇月流を完全にものにしていることを忘れてはならない。アルトリアが使った奥伝を、彼もまた使えるのだ。その一撃は強大無比の一言に尽きる、それだけはルナでさえ真似できない。

 ジェリーフィッシュにギア? 人を捨てた異形? そんなものは一欠片も残さずに一瞬で倒しきればただの量産型と変わらないだろうが。その一撃は誇大ではないのだ。異能を合わせれば、細胞の一片まで消滅させられる至高の御業である。


「……で?」

「無意味に剣を振るうなど、(わらべ)でもせんな」


 『ギア』が何かを地に投げ、それが砕けた瞬間にランスロットの異能が消えた。ゆえに剣は無意味に空ぶった。嘲り笑う声が聞こえる。

 神威が無効化された。異能を前提とした武術である以上、そちらが消失すればどうにもならなかった。


「なぜ? まだ、日は昇っているのに……!」


 太陽は高く昇っている。通信を開けば襲撃されるのが分かっているから、異能を使える昼間の時間帯を選んだ。戦場を選んだのは勇者側のはずなのに。

 だが、現実として発動条件を満たしているはずの異能が使えていない。


「これこそがルナ様の大いなる御業(みわざ)。何も知らぬ愚者よ、『黄金』の本領を知らぬ者では勝てるはずがないと知れ」

「王国に残された資料、そして先の戦闘データを紐解けば――それを攻略するアイテムを創れるのだ。それが錬金術師たるルナ様であられる」


 天に魔法陣が浮かんでいる。周りを見れば、その範囲内の全てに影が差している。つまり、魔術的には今は”夜”――ただの明かりに堕した太陽からは力を得られない。


「――そして、第二の矢が放たれる」


 その魔法陣が黒く(けが)されていく。遠くでもう一人がアイテムを作動させた。これは、元からそのように設計された結界だった。これこそが結界の二層目、結界内を漆黒に染め上げた魔術的な”夜”の領域だ。


「トリス・メギストス。3つの円環の循環こそが錬金の秘奥にして最終。ルナ様の御業がここに顕れる――(こうべ)を垂れ、拝謁(はいえつ)せよ」


 そして、そこまでが”準備”だ。大儀式は手順を踏まなくてはならぬゆえ。4人、同時に掲げた宝石のようなそれを地面に投げ付け、砕いた。


「「「「顕現せよ、夜の加護。全てを闇に閉ざし、我らに夜を歩む力を。光を閉ざせ『アイ・オブ・バロール』」」」」


 これにて完成。日の力を殺し、人を超越したモンスター・トループを強化する領域が出来上がった。そこではもはや、日の光はなく、雷の力は殺され、闇は真上に佇む一つ目の制御下におかれる。


「……だが、光が見えなくなっても熱は見える! こんなもので……ガッ」


 何かに殴られた。感触から剣だと知れる。『ジェリーフィッシュ』が、投げるのではなく射出した。

 やはり人外、その戦闘方法は常識を外れている。人間が手で持って投げたのなら、ランスロットの実力ならかわせていた。

 そんなものを相手にするのだ、目が見えないのはもはや取り返しがつかない。今のも、振りかぶって投げるのであれば避けられた。相手が人間であれば。


「その様で支障なしと、どの口が言うのか」

「貴様の自慢の武術すら通じんというのにな」


 『ギア』が向かう。異能が使えないとはいえ、それは『黄金』、強化されたモンスター・トループよりも速く重い。そして機械でできた手足は熱源がある。つまり、その姿は丸見えではあるのだが。


「皇月流『驟雨』!」


 その埒外の異形から放たれる連撃を、こちらも連続攻撃で弾くしかない。どうせ人体の構造をしていない、輪郭が認識できれば問題ないと思っていた当てが外れた格好だ。

 予備動作がまったく見えない。迫りくるのが爪か関節かわからない。これではカウンターができない。馬鹿正直に攻撃に攻撃を当てて弾くしかない。相手が十全に機能が発揮できても、ランスロットの方はいいところ出せて3割だ。しかも、異能も封じられている。


「『ギア』ばかりに構ってていいのか?」


 数十の針が襲って来る。異能なしでも防げたはずの攻撃だったが、先の『ギア』の攻撃には何かしらの加護が乗っていた。

 ……装甲を当てにはできない。飛びのいてかわした。


「――異能が封じられたとしても! 俺には皇月流がある! 今度こそ奥伝で葬って……アッ!?」


 飛びのいた先、踏みしめた地面が崩れた。所詮はお座敷流、実戦ではなかったことが裏目に出た。人相手に訓練したときは整備された石畳だったから、その癖が残っていた。


「愚かな。所詮は奇械とも戦ったこともない新兵未満よ」

「ルナ様の元で戦い続けたモンスター・トループには及ばん」


 『ギア』の刃が腹を抉る。そして、腕の装甲の隙間から『ジェリーフィッシュ』が侵入する。肌をずたずたに引き裂き、筋肉を溶かす。


「っが! ギギ……アアアア!」


 『黄金』の異能を使えないままでは勝機はない。このまま死んでしまう。身の程知らずが、その付けに死んだというよくある物語だ。

 そして、貴重な『黄金』がまた夜明け団に渡る。その結果として、人類と奇械の血みどろの最終決戦に向けて時計の針が進む。


「死ぬがいい」

「死ね。いや、殺す」


 バロールの加護を受けた攻撃が、『黄金』の装甲を貫いてランスロットの身体がぐちゃぐちゃの血袋にするのだ。

 血が臓腑からせり上がる。激痛を感じるのに、指先の感覚がない。それは訓練を受けた兵ですら死にたいと思うような拷問だ。『黄金』の回復力があろうとも心が死ぬように、と――モンスター・トループには油断も隙もない。

 諦めるとか以前に、薬で感覚を殺していない人間では激痛で発狂しているはずだった。だからこそ、言うのだ。


「……まだだ」


 そう、諦めない。心が砕けるほどの拷問の中、彼はまだだと意気を吐く。諦めないと、自らに誓う。

 心が死んだ? いいや、否。ここで自分が死んでいいわけがない。そんな甘えは許されない。自分のためなら耐えられなかった。けれど。


「負けるわけにはいかない。俺が負ければ、人類の未来はないのだから!」


 彼とて人類を背負っている。ルナ・アーカイブスを倒さなければ人類が滅ぶというのは彼の中では真実だ。

 何も背負っていないなければ、舌を噛んで生きることから逃げていた。けれど、顔も知らない誰かのために、諦めることは許されない。


「力を寄越せ、『ブリスタブラス・カリバーン』! この程度で砕けて壊れるお前じゃないだろうが!」


 叫んだ。その瞬間、闇に光が差した。


「そうか。これが真の『黄金』の力か。場所と時間に縛られるのではなく、領域を支配する。……そうだ、俺自身が光となるのだ!」


 ランスロットの身体が逆戻しのように再生する。光の加護が戻っていた。バロールの力により闇に閉ざされた世界、全ての光は殺されるはずなのに。

 太陽を受けて輝く月ではなく、自ら輝きを放つ太陽のように全てを照らし――彼は征く。


「馬鹿な……! 覚醒、した?」

「ルナ様に逆らう愚か者が、なぜ……!?」


 二つのモンスター・トループが無駄と知りながら、攻撃を仕掛ける。そう、異能さえあれば改造しただけの『鋼』が、『黄金』に敵うはずなどないのだから。


「闇ごと切り裂け! 【スフィアライザ・インパクト】ォ!」


 溢れた光が塔のごとき剣と化す。そのまま振り下ろす。圧倒的な光輝が、バロールに支配された領域ごと闇を消し飛ばした。



 そして、トリスタン。彼女もまた異能を封じられていた。


「――チ。雷撃放射が封じられては、あの訓練も無駄骨ですね」


 剣から発された雷はその瞬間に黒く汚され霧散する。異能が使えたのであれば辺り一面を焼き尽くし敵の逃げ場を失くすこともできたのだが、この空間では無理だ。


「また……!」


 一方で、相手の『スティール』は遠距離砲撃を延々と叩きこんでくる。かわせない攻撃ではなかった。だが、殴るために近づけば当たることもあるだろう。

 それの最初のコンセプトは重装甲のはずだったのだが、今では砦だ。防御力を頼みにするのではなく、火力で相手を近づけさせない。


「さあ、なすすべもなく死ぬがいい。これこそが人類の力、発展する錬金の業である」


 あの大砲も、『スティール』自身も、大きな熱源だ。そして、トリスタンはこの荒地でも問題なく戦えるだけの技量はある。昼と変わらず戦えるだけの訓練は積んでいるのだ、照準に狂いはないのだが。 

 しかし、この闇により自分だけ一方的に遠距離攻撃を封じられてしまった。雷の力が闇に溶けていく。それが錬金術師の施した加護とやらだろう。


「ぐぐぐ……”それ”は盗んだもののくせに……!」


 そうだ、その砲台はルナを強襲した新型の敵から奪ったものだ。それを改造、流用して取り付けたものを、この敵は我が物顔で使っている。


「この状況では『黄金』も宝の持ち腐れだな、疾く死ぬがいい」


 何発も撃ち込まれる。攻撃が途切れない。トリスタンとしては回避に集中するしかないのだが、しかしそれでは相手を倒せない。

 挑発を吐くが、弾切れも不用意な接近も期待できないのは分かっていた。


「――だから、どうしたと言うのです」


 だが、それで負ける? そんなことはありえない。自分は人類の未来を背負っている。それに、そもそもとして。


「所詮は『鋼』、絶対に『黄金』に敵うことはない。それこそが世の理というもの」


 剣に雷撃を纏わせ、そのエネウギー弾を切り裂いた。しかしそのエネルギーは消失しない、周りに撒き散らされトリスタンを焼くが……耐える。

 耐えて、飛ぶ。


「……無謀な特攻を選ぶか! ならば惨めな死にざまを晒すがいい!」


 トリスタンはそのまま突貫する。バロールの加護を得た砲撃は『黄金』の装甲を破壊して余りあるものだ。斬り裂いて威力を落としたとしても、おおよそ三発が耐えられる限界だった。

 ならば、やられる前に倒すまで。


「必ず倒す! ランスロット様のために!」

「男のためか? 色に目が狂ったな」


 スティールは計算を済ませている。トリスタンが相手ならば必ず倒し切れるからこそ、この位置に陣取っているのだ。

 何より、トリスタンは異能を使えるようになっただけで覚醒していない。それではバロールの力は超えられない。


「……シィ!」


 剣を投げた。


「馬鹿め、バロールの力を忘れたか」


 一瞬でボロボロとなり、届く前に壊れ――


「いいえ、これで終わりよ」


 神速の武器召喚。スナイパーライフルで剣の柄を狙撃、押された剣が『スティール』に突き刺さる。


「下らんな、豆鉄砲ではこのスティールを堕とすことはできん!」


 だが、そんなものは重装甲の鎧の前ではかすり傷だ。何も構わず大砲を向けて……だが、発射されない。


「けれど、エネルギーケーブルは違う。失敗したわね? サーモセンサーを使っているから、流路がよくわかるのよ」


 弱い場所、大砲のエネルギーを供給するためのケーブルが断ち切られた。もう、次の一発は放てない。

 急造品だからこその弱点。つまり、その武器は”後付け”で接続部が弱い。敵の兵器を流用したからこその欠点だった。


「……なんだとォ!?」

「そのルナ・アーカイブスとやらも失敗するのね? こんな闇の領域を創ったら、それの弱点が目立つじゃない」


 そしてこの敵はその砲台が沈黙すれば何もできない。両翼の砲撃では黄金の前に文字通りに豆鉄砲。諦めず打ち続けてもその装甲を傷付けることすらできない。


「ルナ様は失敗などしない!」

「そう、じゃあ貴方が死ぬことも計画のうちかしらね」


 二本目の剣が『スティール』の装甲を易々と切り裂き、続く連撃が重装甲を細切れに変えた。




 そして、最期のモンスター・トループ。


「馬鹿な……」


 血のりのようにぶちまけれた『ブラッド』が、再生能力すら使用できず液状になったまま呆然とつぶやいた。


「下らん。やはり『鋼』は『鋼』だな。しかし、ランスロットが覚醒したようだ。少しは貴様らも役に立つらしい……では貴様らの役目は終わりだ。退場するがいい」


 拳を振るい、潰した。二度と動くことはない。強化された毒にも、液体のように変形する体も意に介さず、ただ殴って倒した。

 異能が封印された? そんなもの、真なる黄金遣いであれば使うまでもないだろう。その毒すら通じることはないのだから。


 今まで『黄金』を纏ったこともない、急遽でっちあげられた勇者ではない。これこそが本当の暗殺者。勇者を囮にルナを殺すための本命だった。


 ……けれど。



 戦闘は終わった。ルナの派遣した刺客、モンスター・トループを打倒はしたけれど。


「どこへ向かいましょう?」


 集合したトリスタンが独白のような問いをこぼす。敵は凶悪だったが、しかしルナの下には他の兵士が山ほどいるのだ。それがたとえ格下であったも。

 協力者と連絡するたびにツインスパイラルブラスター等を叩きこまれては、移動どころではない。


 ……それ以前に、トラックに積んだ通信装備が破壊されてしまった。ならアームズフォートまで飛んで行くのか? 相手はそれごと移動できるのに?

 そもそも勇者パーティとはいっても、諜報機関と連携を取って主戦力が居ないタイミングで強襲するのが作戦の肝だ。更に3人増えて合計5人の護衛、さらにプラスして最強のアルトリアなどと戦ってはいられない。ルナが一人で居るタイミングを狙わなくては、勝機すら伺えない。

 とにかく、何か指示を貰うために街に行く――としても、先の街のように狙われてしまうだろう。このご時世、顔写真も出回っているに違いない。


「あちらへ」


 ランスロットが指を差した。そこはどこでもない場所だ。アームズフォートでもなければ、街でもない。それは適当に指さしたとしか思えない方向。しかし、それは。


「あっち? どこですか?」

「ルア・アーカが言っていた。鋼鉄の夜明け団は何かを作っていると」


 前の街で出会った少女。彼らを逃がしてくれたが、いつのまにかどこかに消えていた彼女。その彼女が消える前に言い残した言葉だ。


「確かに資材の動きがあったと聞きます、何か建造物を作っているのもあるでしょう。ですが、だからと言ってあの少女を信用するのですか? 奴らはその場所を隠している。ただの少女が知っているわけがない」

「でも、それを信じる以外に道はない。だろう? トリスタン。何より、アームズフォートには兵士の人もたくさん居る。襲ってはいけない」


「……」


 トリスタンはそれでも頷けない。あまりにも無謀すぎた。……誰ともわからぬ幼い少女を信用するなんて。 

 そもそも善意を信じたとしても、普通に考えればそれは勘違いや噂である可能性の方が高い。


「行くぞ」

「R?」


「勇者が決めたのなら、仕方ない」

「……R?」


 トリスタンが言い淀む。彼女は知っている、むしろ本命はRだ。勇者など囮に過ぎないのだから、本来聞くべきは彼の指示であって勇者ではない。

 彼が駄目だと言えばトリスタンも賛成するしかないのに。


「ま、仕方ねえわな」

「諦めなよ、お姫ちゃん。言い出したら聞かない子だって、一番知ってるでしょ?」


 そして、残りの二人にまで言われてしまっては苦笑しかできない。


「そうでした、ね。まったく、もう――」


 これで全員の意見が一致した。分かるのは方向のみ。何かがあるかさえ確信はない。だが、希望はそこにしかないとその方向を目指して出発した。




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