100万PV記念 6人だけのお茶会
実は100万PV行くかと思って始めた第2部ですが、読者の方々のおかげで無事達成することができました。私の趣味を書き散らしているだけの作品ですが、楽しめていただけたら幸いです。
人間の誰にも知られずひっそりと上空に浮かぶ箱舟。そこがルナを初めとする終末少女の本拠地、人知の及ばぬ究極を超えた絶対の城――人類の領域では認識すらできない防壁に囲まれた魔城。其は滅んだ世界を跡形もなく消し飛ばす『エッダの箱舟』である。
箱舟の一室。そこはフリル、人形――女の子の部屋の非現実的なモデルケースに飾られていた。しかし視線を走らせれば標本のように飾られた黒い石、そして遺物が見える。
まるでメルヘンという狂気で、忌むべき知識を隠すように彩られたある種のホラーのような部屋。ここはルナの部屋である。
最初の剣が無数に飾られた剣山のような部屋は、ずいぶんと様変わりしていた。もはやルナは自分が男であったことも思い出さない。誰よりも可愛らしい女の子として振舞いながら、その実は人体改造を得手とする錬金術師……まさにその二面性を現わしたような場所だ。
上機嫌にお茶会の準備をしていた彼女は、部屋の外の気配を感じてその人を招き入れる。
「いらっしゃい、アリス」
最初に来たのは幼いアリスだ。基本的にはいつでも一緒に居るが、一旦外に出した。まあ、そこは部屋で待つということをやりたい乙女心だ。
「はい、ルナ様。おまねきいただき、こうえいです」
小さく頭を下げた。しゃちほこばった態度が可愛らしい。
「うん。入って」
そっと椅子を引く。小さめの椅子だが、アリスにとっては大きすぎる。とん、と小さくジャンプして飛び乗った。そして、他の4人が続々と到着する。
それは円卓、ルナの隣にはアリスとアルカナが座る。そして向かい側にはプレイアデス、コロナ、ミラがちょこんと座っている。この瞬間だけはミラもお嬢様みたいな顔をしていた。
「あれ? ミラの分は?」
6つ分の席はある。ただし椅子は5つだった。
「ミラは空気椅子ね」
「はあい♡」
とても嬉しそうに虐められるミラ。もうボロが出てしまった。まあ、部屋の主はルナで、ボロを出させたのもルナだからミラが責められるようなことではないかもしれないけど。
「あ、ズルはだめだよ?」
身体能力を弄って女子小学生相当にまで落とす。ルナは自分のステータスだけでなく、終末少女なら誰の設定でも弄れるマスター権限を持っている。
もっとも、鍵を開けっ放しにしているため、逆に誰でもルナ=マスターの設定すら弄れるような有様だし、もちろんミラ自身も自分で元に戻すことも出来るのだが。
「あ……! くぅぅ……♡」
幼いミラは頬を染めて歯を食いしばる。少しでも油断すれば後ろに転ぶ、そして転ばなくても刻一刻と限界は近づいて行く。
よだれを垂らし、とても幼女には見えない顔をしていた。
「うん、ミラは放っておいてお茶会を始めようか」
ルナは上機嫌にくるくる回りつつ、皆に紅茶を淹れていく。中心に置かれたクッキーはもちろんルナのお手製だ。
こういうものを好むルナだ、もう何回やったのかも分からない。アリスにでも聞けば正確な回数が帰ってくるだろうけど。
「……ふふ。こんなにゆっくりとした時間を過ごすのも久しぶりだね?」
淹れ終えたルナは自分の席にちょこんと乗る。
「ああ。儚き者達の世界、謁見後にはまた巡礼に出た。星のごとく巡り合わせは数寄なもの。だが、我らは太陽に付き従う月のごとく」
「そうだね、プレイアデス。僕たちの間に距離なんて関係ないけれど、あちらでは式典で少し顔合わせしただけだった。ふふ、人間界を楽しんでくれているようで嬉しいよ」
顔を見合わせてくすくすと笑う。基本的にルナはアリスとアルカナを自分の傍に置いておくが、他のメンバーは自由にさせている。
永遠を生きる終末少女にとって、この滅びかけた世界を楽しめる時間は一瞬だ。ルナとなら、いくらでも遊ぶ時間はある。
「人は儚い。だが、儚き物だからこそ、良い終焉を迎えてほしい。悲鳴を上げ、逃げ惑う家畜のごとく消え去るのは醜い。月のごとく、静かであるべきだ」
「へえ。プレイアデスは、人間は布団の上で大往生してもらうのが好みかな? うん、それも面白い。僕は目的を果たすために命を賭けるのを見るのが大好きだけれど。それがプレイアデスの獲得した個性なんだね」
晴れやかに笑うルナ。個性を獲得していく娘にも等しい終末少女の姿に、喜びを隠せない。もの真似では、これまでと何も変わらない。感情を得た意味がない。
「ルナ様の仰ることは時々難しい。けれど、あなたが私たちを温かく見守ってくれているのは分かる」
「それを言われると照れてしまうね。でも、責任は感じているからね……この感情と言うバグは明らかに僕が発端なのだから」
ルナの表情に少し影が落ちる。個性を獲得してもらうのは確かに嬉しい、けれど永遠を生きる終末少女にとってそれは苦痛でないのかと不安でもある。
若い今はいい。だが、永遠を生きるにあたっては感情など初めからない方が良いのかもしれない。なぜなら楽しみを知らなければ、苦しむこともないのだから。
「だが、それがなければ我らが退屈であるということすら分からなかった。じき、他にも自我に目覚める者も出るだろう。例えば、ティターニアやディラックだな。なに、あの二人はルナ様がよく遊んでやっているしな」
「そう言うコロナも、僕が遊んであげたのが感情の芽生えだったかな? やたらと組み手をせがんできたよね」
コロナ。今は喧嘩を楽しんでいるようだが、飽きたらどうするのかな、ともルナは思ってしまう。永遠に遊び続けていられたら、と思ってもやはり永遠と言うのは永いから。
「うむ、やはり身体を思いきり動かすのは気分がいい。それに、魔物のカードを使うのはアレだな。……ルナ様に当てた感触が残っていてな」
「あら、それはごめんね。でも、気にしなくていいのに。ただの実験だし、それにHPを半分削ることくらいカードを使ってればざらでしょう? どうでもいいことじゃないか」
「それでも……な」
「ふぅ……ん。そう言えば、プレイアデスも言葉が通じないのが嫌だって言ってたね。自我の獲得には毒を一滴垂らすことも必要なのかな」
楽しい、という感情があるから苦しむことを知るように感情は表裏一体。苦しむことを憶えるのが感情の獲得の一歩目だとするならば……それでもルナは変わらない。やりたいようにやればいい、目覚めないのなら”まだやりたくない”だけだから。
「ふむ。では、あやつらにもするか?」
「そんなことはしないよ。……まあ、最近時間が取れなくて遊んであげられてないけれど。これが切っ掛けになったりするものかね」
「それは、ないのではなかろうかね」
「おや、アルカナ。何か知ってる?」
アルカナ。思えば、彼女が苦しむことというならば心当たりはありすぎる。ゲームの時代、ずっとアリスを秘書にしていた。恋人と言っても2人目でしかない。
……彼女の積極的な性格もあって、いちゃいちゃする時間は彼女の方が長いけれど。
「様子を見たが、何も変わりはなかったな。あやつらは、あやつらでアレで完成された存在だ。プレイアデスは星見、コロナは竜。対して奴らは妖精と天使だ、遊びで殻は割れんだろうよ」
「なるほど。僕らは作られた存在だからこそ、モデルが存在するからね。星見は地上の星に焦がれ、竜は牙と爪を捨てて殴り合う。なるほど、真っ向から逆らっている。……アルカナは吸血鬼、何が切っ掛けかな」
「ふむ。吸血鬼には吸血と魅了の属性がある。手に入らぬものを求めたからこそ、ということかもしれぬな。吸血鬼には主が居ないが、終末少女には存在する」
「……僕の身体も心も、アルカナのものだと思うんだけどな?」
ルナが少し苦笑する。少し憶えた罪悪感を誤魔化すようにすす、とアルカナに向けて身を寄せる。
「くふふ。ルナちゃんは可愛いな?」
「うん」
アルカナは抱き寄せて背中を撫でて、次第に手が下がってくる。お尻にまで行って。
「今はだめ」
ぺし、と手をはたかれた。
「あ……っ」
する、とアルカナの腕から抜け出して席に座り直す。むぅ、いけず……とアルカナが残念そうな顔で感覚を反芻するように宙で手をわきわきさせた。
「さて……と。ただ、コロナには随分と僕の趣味を押し付けたような気がするんだよね。まあ、終末少女が終末少女のまま力を振るえば世界は崩壊してしまうからセーブは必要だけど。だから、相手と同じところまで力を落とす必要があるわけなんだね」
「だが、それにつけても人間は面白いことをする。ルナ様の月読流は、そのステータスを最大限に発揮させるという思想だ」
「ふふ。そうだよ、故に同じ身体能力で戦えば、勝つのは必ず月読流だ。理論上は、ね」
「だが、実際はどうだ? アルトリアは私に打ち勝ってしまった。理論上の最大、それを儚き人類が凌駕した。尊敬に足ると私は思う。そして、アルトリアになろうとする人間を多く見た」
「それは駆け引きという奴だ。月読流はその肉体単位での最大を引き出す、いわば3次元の最大能率だが――勝負では、ルールがあり更に時間という4次元目の変数がある。それが面白いと思うなら、学ぶといい。それが月読流にない戦術というものだ」
「ああ、とても楽しい。まだまだこの世界で楽しませてもらいたいと思っている」
くっくっく、と笑い会話を打ち切る。
「……っぐ。……っう♡ はぁ♡」
ミラが呻き声を上げて終に倒れてしまった。その頬を上気させて、よだれも垂らして――とてもではないが他人様に見せられる顔ではない。
「ミラだけは、本当にどうしてこうなってしまったんだろうね」
ルナがため息を吐く。
「被虐趣味、痛みも快楽も電気信号には違いない――となれば、何を好むかはその魂が導くだろう」
プレイアデスが言いながら錫杖で悶えるミラの足を突く。奇声を上げつつ、もっともっととねだっている。表情を変えずに行動で応えた。
「魂レベルのマゾって、それはそれで嫌だな。でも、ミラはユニコーンだから乗られるのが好きってのはあるかもしれないけれど」
「ミラのあれは違うだろう。まあ、構ってほしいのではないか? あ奴、現に人間には興味がないようだし」
コロナが指を鳴らす。その一瞬で酸素が燃え尽き、ミラが酸欠になって顔が蒼くなる。もっとも、人間が首を締めに言ったところでお返しとばかりに首を刎ねられて終いだ。あくまで被虐のターゲットは終末少女の仲間に限られる。
「あれ、器用だね。わざわざ酸素が必要にするなんて、僕でもあまり設定しない」
「それが酸欠を楽しむためとは理解しがたいものじゃがな。ま、アレが好きならば妾達は付き合ってやるだけだな」
アルカナも指を鳴らす。こちらは棘付きの手錠で四肢を地に縫い付けた。思いきり手首に喰い込んで激痛が走ったはずだが、まあミラにとってはお楽しみだ。
「ま、いいさ。誰もが自分の好きなことをやればいい」
ト、とミラの上に飛び乗る。今日一番うれしそうな悲鳴を上げた。
「……ま、こんな一日もいいものだ」
ふう、とルナがため息を吐いた。そのまま歩いて奥に行く。もう一度、ポットで紅茶をいれようとして。
「ふふ、かわいいおててじゃな?」
後ろからアルカナが抱きしめて手を弄ってくる。ふわりと良い香りがした。
「アルカナ、みんなの紅茶を淹れてるから、邪魔しないで?」
さすさすと色々なさするが、ルナはされるがままだ。くすくす笑いながら、その行為を受け入れている。
「のう、ルナちゃん。ここで……」
「あとでね」
キスしようとするアルカナを押しのけて、皆の元に戻る。アリスの機嫌が少し悪そうだったので、アリスを持ち上げて膝の上に座らせた。
ミラはまだ気持ちよく悶えているし、プレイアデスとコロナはクッキーに舌鼓を打っている。
ぐだぐだなだけで終わったが、そう言うのも悪くないとルナは思う。
終末少女は永遠の存在だ。だから、燃え尽きるのは人間だけでいい。その輝きを永劫に称え、人間の一生程度は寄り道として、神としての役割に従事しよう。
終末少女の仲間内でのイチャイチャ回でした。仲間だけだとこんな感じです。ルナが精神的に疲れているとアリスかアルカナに甘えながらやることもありますが。
こんな感じで永遠に生きる少女たち、これが終末少女です。