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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
王国介入編
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第68話 皇火流の師弟


 そして、時と場所が変わってとある寂れた神社で。二機の『黄金』が剣を合わせていた。

 ガレス・レイス、『キャメロット』の一員であり『アダムス』の護衛を任されていた彼は師に呼び出されてこの地に赴いたのだった。

 そして、その隙を狙って砦にアームズフォートで乗り込んだというのがこの戦争のあらましである。彼が居なかったのは怠慢ではなく、敵の戦略である。


 敵の策に落ちたという意味では何をやっているのかと言われてしまうかもしれないが、しかし先手を取られた以上どうしようもないことだろう。


「……先生。お久しぶりです」

「久しいな。……この愚か者が! 我、護国の鬼と罷りならん『アルフヘイム・ギャラルホルン』!」


 こうして問答無用と始まった戦。

 剣を向けた彼の名をフィレス・レイス。彼こそ、前代の『アダムス』の守護者にしてガレスの師。ガレスが使うレーヴァテインはもともと彼が所有していた。

 次代に守り手を引き渡し、己は老獪な老人共の巣食う政治の世界へと赴いた。……顔を合わせたのはレーヴァテインを渡したとき以来だ。


「燃え上がれ『ヨトゥンヘイム・レーヴァテイン』。剣でしか道の正しさを証明できないのならば、私はあなたを超えて見せる!」


 ガレスが炎を纏い、剣を合わせた。その熱量はただの余波が石畳を熱し溶かすほど。そう、彼らは師弟だったのだ。

 言葉でどうの、等と言う生温い師弟関係ではなかった。時には本気で死を感じるほどの訓練の中、鍛え上げられた。見て盗め、と言葉もなく技の威力を身体に刻まれた。

 ゆえに、今――殺意を籠めて剣を振るうことに躊躇はない。かつてはともかく、今や腕の一本が飛んでもくっつけておけば治るから。


「ぬるい! その程度の炎で何を守れる!? 敵を殺し尽くし、絶滅することでしか民は守れぬと教えたはず!」


 かの敵、フィレスもまた炎を使う。炎と炎のぶつかり合いが神社を焼き尽くし、ガレスを地に叩きつけた。

 ――さすがは師、というべきか。師は訓練の最中、実力を見せてはいなかったらしい。ルナに刻まれた聖印により異能の出力が上がっているにも関わらず、軽々と上回られてしまった。


「……ぐ。何たる熱量。だが、レーヴァテインは貴方から譲られたもの。炎を力とする『黄金』はただ一つのはず。この、炎は……?」

「その通り。この『アルフヘイム・ギャラルホルン』の力は幻術。世界を滅ぼし尽くす幻影である。……炎はその力の一片よ」


 つまりは質量のある幻、それは炎に限らない。雷だろうが電磁砲だろうがその幻は再現する。だが、彼は自らが背負うのは炎だと言わんばかりに熱量を吹き上げる。

 何でも使える力を一つに限定するのは愚かと笑われようが、一つのものを極めた以上は浮気はしない。これ以上きっぱりとした態度もない。


「この力……そうか、『聖印』の量が違うか」


 そう、ルナの改造は時計の秒針を進めたに過ぎない。オリジナルの魔導人形による回復能力、そして異能を通じて中身すらも人間離れしていく。その影響を『聖印』と呼称した。

 ならば、師である彼にはどれだけの聖印が刻まれているのか。


「そうだ、かの錬金術師により無理な力を得たようだが、この力は改造などで楽に得られる力ではない。ひたすら戦場を生き残ることで得られる究極の力。貴様も、あと30年も戦い続ければ我が足元くらいは見えるようになると期待していたがな……皇火流【一徒火】」


 炎の斬撃が迫る。それは砦さえ焼き切るほどの熱量。世界を焦がす人類最強の力。


「皇火流【一徒火】! っぐ! ですが、いいえ。力が必要なのは今なのです。それに、時間をかけて修行することが至高だと? 下らない。その錬金術師が言ったことじゃあない。技術の発展が、魔道人形を使って高度なことが可能になるならわざわざ修行などと言って苦しむ必要などない」


 ガレスは対抗するも、届かなかった。一筋の傷がつき、自己修復能力で治る。だが5分と5分などと言えようか。

 現実に、ガレスは膝をつき、師は期待外れだと言わんばかりの厳しい眼を向けている。


「苦労もなく得た力は人を歪ませる。貴様もその様だ、俺の敷いたレールを走っておれば、このような中途半端を晒さずに済んだものを」

「それこそ下らない感傷ですよ。ルナ殿に会わなければ、今の一撃で死んでいた。胴体が泣き別れた程度で死ぬ只人だった。苦労こそ人を歪ませる、とルナ殿は言った。修行と称して弟子を痛めつけるのが大好きな変態になるってね」


「――錬金術師は生意気な口ばかりは得意らしい」

「あのお方より冷静に世界を見ている者は居りませんよ。なにせ、人間の誰も信じていないのだから」


 ガレスは立ち上がる。ここで、師弟は決定的に決裂した。先までであれば、ガレスが頭を下げれば師弟に戻れただろう。

 師であるフィレスもまた、それを期待して……あるいは当然と思ってここに来たのかもしれない。

 だが、決裂したならば後は殺し合うしかない。


 ”政府側”とそれを内部から食い荒らす”現体制の敵”、互いに重要人物を見逃す理由はない。


「楽を知って性根が腐ったか。ならば、屍拾い(ハゲタカ)のように無様な屍を晒すがいい」

「いいや、全ては先に進むため。古い世界ばかりを恋しがる老人はご退場願おう」


 炎と炎がぶつかる。


「「――皇火流【一徒火】」」


 ぶつかり、更に――


「「……【妃喰】、【威赫】」」


 連続して技がぶつかり合う。皇火流とは皇月流と同一の派生元を持ち、”触れれば終わり”のディアボロ型を抵抗も許さず切り刻み続けるためのものだ。

 ゆえに必然、師弟の戦いとあれば練度の高い方が競り勝つこととなる。


「【狂理……」

「【狂理糸】」


 ガレスの出した無数の斬撃は、同じく無数の斬撃によって切り払われて身体に斬撃が刻まれる。


「……まだだ!」


 だが、覚醒した『黄金』同士の戦いはこれで終わらない。筋肉が焼き千切れた? ならば0.1秒で回復する。そして、剣を握って技を繰り出すのだ。


「愚かな。実力の差が分からんか」


 また、激突する。


「「皇火流【一徒火】、【妃喰】、【威赫】、【狂理糸】……【十都」 禍】」


 また負けた。が――


「まだだ! まだ終わらん! ルナ殿に施して頂いたものは楽などではない。更なる先へと進むためのショートカットに他ならないのだから!」

「下らん。正しい道程を踏まずして何が道か。錬金術師の外法に頼った時点で、貴様の性根は腐り果てたのだ」


 何度でも打ちのめす。この領域のレベルにあれば、ラッキーパンチなどありえない。ただ、実力のままに勝敗が着く。

 それは、10回やっても20回やっても変わらない。……それでも、彼は立ち上がって剣を構える。


「――それは違う」

「なんだ……この、異常な回復力は」


 そう、何度だって立ち上がる。生きている限り、チャンスはあるのだから。


「まだだ! まだ、まだ、まだ――ッ! もしや、体力が尽きたなどと言うまいな、ご老公!」


 そして、吠えるのだ。


「小癪な。ならば、何度でも打ち払うのみ!」

「私は、あなたを超えて人類を救うのだ!」


 すでに焼け焦げ、荒れ果てた荒野に大量の血が流れても、なお――ガレスは立ち続ける。剣を握り続ける。


「大言に似合わぬサンドバッグ。……なれど、このしぶとさは」

「剣が鈍って来たぞ。それとも、恐れをなしたか?」


「ほざけ!」

「そうこなくてはな!」


 そして切り刻まれては立ち上がるガレス。そう、これが遊星主ほどの力を持つ者の戦いだ。所詮は物質、いくら刻まれようとわずかに魔力を消耗するのみ。

 本当の意味で”殺す”には、核を破壊しなければならないのだが。


「ふざけるなよ。恐れているのは貴様だろうが! あと半歩踏み込まずして、俺の首が取れるか!」

「完全勝利でなくては意味がないのでね!」


 そう、激しい殺し合いに見えてガレスは安全策を取っていた。互いの絶死の領域にまでは踏み込まずに小競り合いをしている。

 負け続けているにせよ、あと一歩踏み込まなければガレスもまた敵に致命傷を刻むことなどできないのだ。


「貴様ごときに我が技を超えることなど……今、何を言った?」

「見て盗めと教えたのはあなただ。私は師匠の教えに倣っただけです。あなたの意思を受け継ぎはしない、けれど尊敬はしているのです。我が師匠」


「……き、貴様。我が技を”その身に受け盗んだ”と?」

「ええ、あなたが私に全てを教えてはいないこと。なんとなく分かっていました。特別な技など皇火流にない。だが、その身のこなし、技の繋ぎこそが奥義……!」


「馬鹿を言うな! この死合の中で技を盗んだなど、あるかァ!」

「最期の実地授業、承った。――おさらばです、師匠」


「「――皇火流【一徒火】」」


 二つの技が、同じ軌道で、同じ速さで放たれて対消滅する。


「「【妃喰】、【威赫】、【狂理糸】」」


 それはまるで演武のような。しかし、それは究極であるからこそ鏡合わせ。そう、”究極”が二つ相争えばその結末は引き分け以外にない。


「「【十都禍】、【華漸李】、【燎原之火】」」


 そこに違いがあるとすれば――


「「――【火途々日】!」」


 道具以外にない。なぜなら、師匠はレーヴァテインを弟子に譲っていて。ギャラルホルンは”それもできる”ということでしかない。

 同位階が、一つのことで争えば”汎用”が”特化”に敵うはずがないのだ。同じ剣筋、しかしレーヴァテインの熱量がギャラルホルンを凌駕した。


「……」


 ガレスが剣を納める。敵の技の威力を凌駕した炎が、師の身体を蒸発させた。断末魔さえなく、この世から焼滅せしめた。

 ただ、『黄金』だけが待機形態でそこに残る。


「あなたは討伐すべき悪ではなかった。ただ、目指した方策が違っただけだ。犠牲を無駄にしないため、私は必ずや人類を救って見せる」


 だから、決意を新たに勝ち得た『黄金』を手に『キャメロット』の元へ結集する。



 どっちが間違っているということではないです。

 まあ、基本的に奇械を始めとした魔物はあらゆる生命を殺すためだけの生物ですが、攻めるより守るを選択した方が寿命が伸びることは普通にあります。

 このSSには正義も悪もありません。強いて言えば自分が正しいと思う政策が正義、別の政策は悪です。


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