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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
王国介入編
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第65話 人と人の戦争


 攻めよせてきた教国の軍。しかし『アダムス』では迎撃準備が整っていた。

 ジャイアントキリングを旨とする奇械の側に旨味がなくても、ルナが抜けた『アダムス』を攻め落とすために軍勢を派遣する可能性はあった。遊星主まで出張らなくてもその場合なら撃破は可能だ。だからアダムスとしては可能性が低くとも迎撃準備を整えておく必要があった。

 準備は怠っていなかったが、しかし固定兵装だけは後ろ側に撃てない。それだけが不全だが、逆に言えばそれ以外は十全に準備されている。


 ゆえに、これから始まるのは教国もアダムスも真正面からぶつかる正面戦争。悲惨な総力戦が幕を開ける。


〈総員、出撃準備! 我々にはルナ様のご加護が付いている! 不埒な政府高官どもの犬を叩いて潰せ!〉


 この『アダムス』の司令官、今となってはルナの忠実な右腕として働いているモンティナ・エクシード。でっぷりと太った腹を揺らし、白髪が混じった髪に油じみた汗をにじませて宣言した。


〈了解! 我らが女神に、勝利の栄光を!〉

〈俺たちを戦場に送ったクソどもの好きにさせるかよ〉

〈ここは鋼が支配する地! 人相手なら戦えるような痴れ者の居場所などないと知れ!〉


 答える声が唱和する。

 彼らは敵の領域への出撃要請があってもテコでも戦おうとしなかった者たちだった。なお、彼らの態度に痺れを切らして自分で兵を用意して奇械の領域に向かった者たちは全滅した。

 それはすべてルナの意思。彼女の一言さえあれば、この狂信者どもの死ぬ理由として十分だ。そう、人間同士の戦いであろうと迷うことはない。



 一方、攻めてきた”走る要塞”。見た目でいえば巨大な砲塔を二つ付け、いくつもの機械羽を生やした要塞……そんな馬鹿げた代物が車輪で走っている。

 それこそが『アームズフォート』。どれほどの民草が反旗を翻そうとも、まとめて潰せる巨大兵器だ。

 一般人にはオリジナルなど夢物語、『鋼』ですら高嶺の花だ。ゆえに、現実的に考えれば多くの『銅』を兵士として育成し軍と成すのが現実的だ。その軍が寝返ったとしてもまとめて潰せる”それ”を潰せる兵器を用意した。

 ……まあ、難点を言うならば。ルナの人体改造など誰も予想していなかったことだ。『アダムス』が丸々裏切ってもアームズフォートならば蹂躙できた。できたのだが、モンスター・トループだけは例外だということだ。

 というか、ルナなら”槍”で一刀両断にできるのだが……まあ、彼女としてもそんな無粋をする気がないのが攻める側にとって最も幸運なことだった。


 教国の側も部隊を展開して敵とぶつかるのに備える。


「さて、部隊の展開をお願いします」


「了解しました。イスペラル閣下」

「閣下、報告します。敵戦力の発信を確認、こちらに向かってきます」


 閣下と呼ばれた彼、責任者は『666人委員会』の人間だった。そう、ルナを相手にするにあたって最も嫌らしいのがそのことだった。


 666人委員会は戦争のために生み出された『シザース』だが、彼はあいにくと戦闘を得手とはしていない。その意味では失敗作だ。あればあるほどいい……というのは誤りで、選択肢がありすぎると悩んで先制を取られてしまう。

 幾多の人間の集合体で、どんな状況にも対応できるからこそ。”逆に”、まっすぐ行って叩くが致命的な弱点となった。これでは前線に出れやしない。


 指揮官としても、できないことはないが〈もっと優れた人間が他に居る〉という事実がある。戦うことを専門にする”軍人”が教国に席を置いているのだから、彼らに任せておけばいい。

 ……ただ、『軍』の人間はルナに洗脳されているかもしれない。洗脳といっても魔力を使って何かをしたわけではない。思想だ、鋼鉄の夜明け団という理念に共感すればルナに付く。魔法でも脳改造でもないから、裏切り者を事前に見つけることもできやしない。

 国を支配しながらも、”戦うことを専門とする人間を信用できない”という大問題。人が足りない、それが666人委員会が現場に出なければならない理由だった。指揮官も熟練兵士も足りないのである。


「敵部隊フォルケル小隊と推定、ライン中隊と接敵」

「推定レーゲンリヒト小隊が高空より突撃してきます」


 推定推定言っているのは、元々奴らが教国の管轄だったからである程度知っているからだ。教国に背を向けルナに頭を垂れた裏切者ども。ならば、ある程度のデータは揃っている。

 ただし、それで用意できた兵隊は質も数も劣っているという事実も自明となった。なにせ、ルナが居るのは最前線だ。後方の兵では、当然劣る。


「この『スピリット・オブ・ゴッドファーザー』の全機能を解放。魔導人形の部隊は余計なことを考える必要はない。ただ敵に向けて撃ち続ければそれでいい」


「了解、アームズフォート外の各部隊に伝達」

「レーゲンリヒト小隊を撃破。撤退を確認、しかし推定マルムリヒ大隊、推定スウィズニル大隊が左右に展開。トライアングル中隊、スクエア中隊が迎撃に向かいました」


「相手を倒す必要はありません。敵の撃破はSOFスピリット・オブ・ゴッドファーザーに任せ、牽制に集中するよう指示を」


 その数も質も、どちらの派閥も分かっている。向こうはこちらの兵士の練度が低いことを知っているし、こちらは敵戦力の詳細を知っている。モンスター・トループの研究データさえも持っている。

 ただ一つ、アームズフォートだけは機密のヴェールに包まれて情報がない。”それ”への対処が勝敗を分ける。


〈……アングル小隊? アングル小隊、応答を〉


 一人のオペレータが怪訝な声を上げている。発進するはずの兵士がまだ格納庫に居る。そして、通信がカットされている。


「どうしました?」

「いえ、閣下。どうも通信機の不調か何かで指示が伝わっていない部隊があるようで」


「では、その区画を爆破なさい」

「……え?」


「閣下! SOF内部で爆発! 格納庫です。SOFに攻撃は届いていないはずなのに!」


 別の人間が叫んだ。


「アングル小隊の位置ですか?」


「え……位置はD26区画です」

「そこは、アングル小隊を格納した場所とは隣の区画ですね」


「ルナ・アーカイブスに洗脳されたのでしょう。D22から28区画までパージしなさい」


 頭が悪ければ何が起こったのか分からないまま中心部にまで踏み込まれてしまうだろう。要は信頼できる子飼いに裏切られると言うことだ。

 信頼できる人間を集めたとはいえ、敵は思想。選別を重ねたつもりで漏れていたということも考えていた。金や人質なら通信を監視すれば摘発できた。が――鋼鉄の夜明け団に組すると決めて、夜明け団に連絡することもなく反逆を決めたならば、SOF内部から破壊活動ができる。


 味方と思ったら敵だった。それは、ルナという異物が教国に入り込んだことで内部分裂して始まった戦いである以上頭に入れておかねばならないことだった。


「了解、切り離します」


 合計16ある羽の一つから羽毛が落ちる。要塞から不規則に突き出した長大な羽、その一部が剥がれ落ちた。

 16機分を納められる格納庫が、まるで羽毛の一つにしか見えないほどに巨大なアームズフォートだ。その威容だけで反逆者の心を砕くはずが、現実には裏切者が入り込んで破壊工作までしてくるという窮地。

 ……しかし、その窮地すら破壊する巨大な力がアームズフォートである。戦争の行方はまだ分からない。


「敵戦力の発進が途切れました」

「……よし! 奴らの戦力とて無限ではない。一度耐えきり、膠着状態に持ち込めさえすればSOFは無敵だ!」


 思わず口調を崩して快哉を叫ぶ。666など遥かに超える人数を取り込んだ『シザース』とて人だ。このような苦境にあたり、光明が見えれば叫びもする。

 そもそも、全体を統括するためにシザースをSOF各地点に送り込んでいる。更に、このSOFを統括するコンピュータはシザースと同じく制作物だ。オーバーテクノロジーの性能を持つ感情を持つ人工知能。

 彼らとて追い詰められている。状況を好転させるために悪の根源のルナを倒すのだと息巻いているのだから。


「戦況は?」

「SOFの能力、94%にまで低下。敵の攻撃よりも各所に不具合が起きています」

「敵戦力、総勢150機中14機の撃墜を確認。対してこちら側の機体は222機中63機が落とされています」


「――脱落者の救護は?」

「つつがなく行われています。抵抗も確認されていません。また、救護班への攻撃はありません」


「なるほど、そこは予定調和ですね」


 これは戦争だが、内戦だ。ゆえに最低限のルールはお互いに守る。

 そして、内戦だからこそ勝ち方が重要だ。なぜなら、相手をぶちのめすことは必要だが殺してしまっては最悪だ。これは相手を屈服させるための戦いであり、殺すためではないのだから。

 そう、砦を破壊すればルナに勝利したといえるかもしれないが……そんなことをすれば『地獄の門』が危険だ。『アダムス』は修理できる状態で残す必要がある。もう一つの『ゴルゴダ』は、すでに消滅しているのだ。


「このまま行けばSOFの火力で押し勝てる。そうだな、あの悪趣味な旗を主砲で撃ち抜いてください。いえ、かすらせるだけで十分ですね」

「了解、照準を旗の上部にセット……」


 そして、主砲が放たれた。

 錬金術は三位一体を旨とする。トライアングルを二つ重ねた六芒星、それをルナは鋼鉄の夜明け団、団旗のモチーフと定めた。その旗が蒸発した。


「何もないな。おかしい……奴ご自慢のモンスター・トループはどこだ?」

「レーダーを確認。各機の信号、見つかりません」


「ルナ・アーカイブスと同じく留守でしょうか? だが、間者の情報ではモンスター・トループは彼女についていない。ならば奴らはこの戦域に残っているはず。ならばどうする? 旗を焼いても出てこない。奴の係累ならば、何か恐ろしいことをす考えているはず……」

「ライン中隊が堕ちました。魔道人形部隊のキルレシオはこちらが不利です。このままでは魔導人形部隊が全滅する危険も……」


「分かっていたことです。こと魔道人形での戦いとなれば、歴戦の勇士である向こうに軍配が上がる。だからこそ、あまり殺したくないのですよ」

「交戦開始から5分、SOFの攻撃は確実に敵兵力にダメージを与えています。予想せん滅時間、出ました。62分」


「ふん。とてもではないが、参考になりませんね。しかし、予想できるというだけ我々が有利か。モンスター・トループの捜索を続けて下さい」

「了解」


 戦争は続く。オリジナルのない、泥臭い戦場だ。だが、それでも飛び交う銃火は鮮烈で美しい。

 数万発の弾丸が1秒ごとに消費されていく狂気の戦場。それが魔道人形の真価、亜空間に物体を仕舞う空間技術だ。

 ただ1機、そして最低の『銅』の装弾数ですら万を超えている。その過剰な暴力がこの場所に集中している。音を遮断する機能がなかったら鼓膜が敗れていただろう。


 また、救護班に当たっていないのは〈狙わない〉からではない。それなら流れ弾でハチの巣だ。言い訳ではなく、それだけの火力がある。両陣営ともにIFF(火器管制装置)に味方と登録して、救護班への誤射を防いでいるのだ。

 そう、この大火力を手にした人類の、世界初の”総力戦”。煉獄の坩堝こそがこの世界の戦争だった。



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