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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
王国介入編
225/361

第64話 裏話


 裏に黒いものを抱えつつ、二人の女子によるお茶会はつつがなく進んでいた。話題は女の子らしさとはかけ離れた政治的な話をしているが、まあお茶とお菓子があるのだ。女子会といっても問題ない。


「――さて、ご老人たちも痺れを切らしたかな」

「私の魔道人形に反応はありませんが」


「連中、どうやら『アダムス』の方に仕掛けるつもりらしい。『地獄の門』の修理は、臨時大佐君を処断した時点で急ピッチで進められているからな。彼が死んだ以上、彼らとて邪魔立てする理由はなくなった。それでも時間が足りないから、まだ修理できてないと思うんだけどね」

「どうせ奴らは砦に自分の足で踏み入れたこともないのです。外見が完成していれば問題ないと判断したのでしょう。……経験者から言わせてもらえば、重要なのは壁ではなくレーダー類と管制室。加えて部隊の練度なのですが。まあそこを分かっていたらこんなことにはなっていません」


「中々手厳しいことを言うじゃないか。だが、僕は別のことが原因だと思っているけどね?」

「ほう? では、どういうことでしょう」


 シャルロットは優雅にお茶を嗜む。……のだが、顔をしかめた。ガニメデスの淹れ直したお茶はお眼鏡に叶わなかったらしい。

 ルナはそれを見てけらけら笑い、自分の分を一息に飲み干した。


「奴ら、どこまで行っても自分を偉いと勘違いしているのさ。だから、あそこまですれば分からせられると思っている。なぜなら、この戦力がぶつかり合えば笑うのは奇械だ。ハハ。僕たちが降参するだなんて、あるわけないのにねえ」

「……厳しいのはあなたでは? そこで譲ればあなたが政権を取る、どちらにせよ破滅するのです。それではまるでチキンレース。勝利などありえず、どちらも敗北する結末に終わります」


「僕は負けるのは好きじゃない」

「ご老人たちには自覚がないでしょうね」


 無論、シャルロットはそのご老人たちも負けたくないと、ルナと同じようにしていると言っている。負けたくないのだ、例え人類が滅んでも。ゆえに頭は下げない、お互いに。

 正しい方が勝つ? 否、勝った方が現実に策を実行できる。敗北者は夢に思い描くしかできないのだ。

 これは、次なる試練に挑むための戦い。奇械との生存競争に打ち勝つため、まずは人間を倒す必要があった。


「さて、この戦い……僕が動くべきかどうか」

「奴らを使う、というわけですか? あなたに従う、あなたが作った異形たち――モンスター・トループを」


「……ふふ。僕の部下は、その子たちだけではないよ?」

「あなたが高みの見物を決め込むならば、見せてもらいましょうか」


「よいとも。ああ、お茶のお代わりをもらえる?」

「ガニメデス」


「……あ、はい」


 所在なさげにしていたガニメデスがもう一度台所に向かった。金があっても人が居ないとはこういうことなのだった。



 時間は少し巻き戻る。某所、ラスティーツア・オーガストはとある孤児院の一室に呼び出されていた。ユスティーツア、彼女はファーファレル・オーガストの姉だ……血縁はなく同じ孤児院出身というだけだが。

 ちょい役でハイ終わり、と覚えていない読者が多いだろうがアルトリアに負けた彼女で、『ツインブラスターカノン』を始めて使ったのが彼女だ。

 部隊を率いて民主国のクレティアンという都市を奇械ごとせん滅するために遣わされたのがアルトリアとの初コンタクトだった。ちなみにルナは居なかった。その結果は何故かファーファはアルトリアの妹にされるというものになったが。

 奇械の全滅という任務は果たせたものの、本人はアルトリアに一蹴されたこともあり因縁が残っている。


「……666人委員会、教国を裏から操る勢力。そして、どこか私の居た孤児院”オーガスト”の影が見える。特攻部隊の構想を作り、現実に作り上げたのは委員会なのだろうがな」


 オーガストの一族、その孤児院が果たす役割は知っている。『フェンリル』を使う要員がほしいのだ。発展した魔道人形技術は兵の育成期間を大幅に短縮したが、特攻要員が生えてくるわけでもない。

 これは当然のことだ。刀を持って切りあっていた時代、銃を持って塹壕に籠った時代。そして、魔道人形の時代へ。時代を経るごとに武器は高度に、そして育成期間は短くなっている。だが、逆に時代を経るごとに人の命の値段が高くなった。安い兵の命でも、大昔に比べたら高いのだ。使い捨てにするにはあまりに惜しい。――ならば、やることは一つ。使い捨て用に”作る”だけ。

 兵を育てるための孤児院は国内に幾らでもある。だが、その中でも良い設備を持つ一方で、孤児の地獄行きが確定した最悪な場所がある。それこそが『オーガスト』。


 ラスティーツアの存在感が大きいのは当然だ、使い捨てなのに幾多の戦場を超えて生き残っている。

 彼女の場合、”生きている”というだけで敵前逃亡が適用される。なぜなら自爆要員なのだから、自爆せずに負けたら背任だそれは。

 それにもかかわらず、十分な戦果を上げ続けた実力が彼女の生存を担保した。アルトリアと比較すればかすむが、人間としては十分に超人の域に達している。


「いきなり呼び出して済まないな」


 呼び出したのは白衣のスーツの男だ。気障ったらしいが、色眼鏡抜きで見れば有能で格好良いように見える。

 実際、彼は『666人委員会』の一人だ。こうして現場に顔を出すあたりその中の地位は高くないのだろうが……『教皇庁』と並んで教国を操る二つの機関の一つだ。そして、『軍』の地位は頭一つ下となる。

 本来ならラスティーツアと会えるはずもないほどに”偉い”人物だった。


「問題ない」


 ラスティーツアは顔を背けた。

 不敬と知っているが、我慢できなかった。彼は機嫌一つで自分を銃殺にできる権力があると知っている。だが、そんな身勝手をすれば滅ぶ程度には人類は追い詰められている。破れかぶれだ。


(――666人委員会、こいつらはやはり気色が悪いな)


 思うだけで顔には出さない。

 彼の顔を見ないようにしているが、そこも本来であれば一般の軍人より下であるラスティーツアの身分を考えれば妥当な動作だ。下を見るのではなく横を見ているのだから、軍人のふるまいではない。


(奴ら、どいつもこいつも同じ顔で笑いやがる)


 それが、ラスティーツアに嫌悪感を抱かせる。この男に会ったのは初めてだ。いくらラスティーツアが異常な戦果を上げたところで、本来なら会える相手ではない。

 そして666人居ると言っても、会ったのは5人ほど。

 2人目では気づかなった。だが、3人目で気づいた。体格も、顔も、性別も違う。なのに、まったく同じ笑い方をしている。1人と会うだけなら気付くはずがない。だが、コレが666人も居ると言うのなら……ああ、それは悍ましいことこの上ない事実だ。

 ……そして。


「お前の顔は知っている」

「おや、会ったことはないと思うのですが」


 ぶしつけなことを言われても彼は微笑んだままだ。前に会った5人とまったく同じ表情で、ラスティーツアの殺意すら込めた視線を受け止める。


「フィーヴィの奴が写真を隠していた。どうも、仲の良い兄だったらしいな?」

「……ふふ、懐かしい名前ですね。しかし、子供の頃の面影はそれほどないはずですが。それもどうでもいいことですね。ああ、オーガストの真実に気付きましたか?」


「知らん。【戦姫】と組んで教国を脅かしている誰だったか……錬金術師か? 奴ではないのでね、超常現象など専門外だ」

「はは。我々も彼女に直接会ったことなどありませんよ。死ぬのが怖いということもないのですが、見抜かれそうでね」


「話すなら話せ。話さんのだったら、さっさと任務を置いていけ」


 ラスティーツアはにべもない。『666人委員会』と呼ばれる組織が、まさかまさかの同じ孤児院出身という事実を聞いても眉も動かさない。

 まともな考え方をするなら孤児院出身者がお偉いさんの地位に就くなどありえない。よって、何かカラクリがあるはずなのだが……まるで嫌な上司の自慢話を我慢して聞いているような顔だ。”おこぼれ”を期待する厚顔さもない。


「まあ、あなたには話しておきましょう。『オーガスト』の孤児院は、身寄りのない子供を集めて育て、そして特攻要員として使い潰している。一応、これは国家の暗部に当たりますが貴方はご承知でしょう?」

「空の飛び方、そして引き金の引き方。それだけ教えられ『フェンリル』片手に敵軍の中心に突っ込まされれば、悟らん方が難しいというものだ。私たちは親に捨てられた子供だ、良い人生になるはずもないとはいえエグいことをする。そう思ったが、それだけではないな?」


「ご名答。とはいえ、ここまで前振りをされれば分からないはずもありませんね」

「そうだな。オーガストの一族、血縁でもないとはいえ私の家族だ。どのような悲惨な末路を辿るのか、知っておくのが義理だろう」


「ふむ、君にも親愛の情があるのか。報告書とは違うが。まあ、興味を示してくれたことだ。ご清聴願おう。あるところに、狂った科学者が居た。いえ、今にして思うと彼も錬金術師だったのかもしれません」

「……錬金術師。ルナ・アーカイブスの同類か」


「彼は脳改造の権威でした。魔道人形にこれ以上改造する余地はない。ならば、改善の余地があるのは人体だと主張した。後年、彼は三つの作品を作り上げました。そのうちの一つが……『シザース』」


 シザース……鋏。二つで一対のそれ。刃に対応するもう一つの刃の意味を冠した制作物。


「ツインブラスターカノンを始めとした追加武装、そして噂には『鋼』の特殊追加装甲も聞くがな」


 とはいえ、ラスティーツアが指摘されたように、”魔道人形の改造の余地がない”というのは間違いだ。実際に、今あげられた追加パーツが開発されたのだから。

 そこは話している彼も認める。


「ええ、それが彼の限界だったのでしょうね。まあ、専門分野が違ったということでしょう。ですが、作り上げた兵器はある種それ以上に凶悪です。なぜなら、『シザース』とは『666人委員会』そのものなのですから」

「どういうことだ? 説明したいなら分かるように話せ。私に学はない」


「『シザース』とは、精神感応の応用です。旧カンタベリーの『宝玉』6本のロンギヌス、その中の一つに人の影に潜り精神に感応するものがあります。『宝玉』どころか『鋼』も貴重品ですから、一人で使うより二人で使う方が強いという当たり前の発想ですね」

「待て待て、精神感応だと? 火器管制を別の人間がやるという実験は聞いたことがある。だが、そんなことをしなくても魔道人形の機能を使った方が効率が良いと立ち消えになったはずだ」


「試してダメなら改善する、というのがあちら側の人間の発想です。要は脳を一つ分しか使えないから弱い。ならば二人分、三人分の(リソース)を合わせるのです。そのために余計な自我を抹消する必要があった」

「理解しきれん。まるで訳が分らんが……貴様らの胡散臭い笑顔はそういうことか? 貴様らは、全員が同じ人間だと言うのか? 同じ人間だから、同じ表情なのか」


「そういうことです。『シザース』を作るのが『オーガスト』の孤児院が果たす役割。脳に改造を受け、適性のある人間がシザースとなります」

「選別されたというわけか。私は不合格だったのだな。喜ばしいことだ」


「ええ、不適格でした」

「……でした? それは」


 少し言い方が引っかかる。検査して駄目だったなら”でした”はおかしい。それでは、まるで実験でもしたようで。”すでに終わっている”言い方だ。


「はい、そうですとも。あなたも改造済です。そして『シザース』は寿命が短い。無理やり脳領域を拡張したせいなのでしょうかね。シザースであれば、30に。そしてシザースでなければ18になることはできないでしょう」

「私は17だ。あと一年で私も死ぬと?」


「個人差がありますので一概には言えませんがね。これは慈悲と言うものですよ。選別の年、14を迎えるまでは孤児院で何不自由なく暮らす。そして、寿命が来る前に戦場で死ぬ。最初から死ぬことが決まっているならば、これ以上なく有意義な命の使い方でしょう?」

「貴様!」


 ラスティーツアが激昂して彼の胸倉をつかみ上げる。だが、彼は不敵な笑みを浮かべたままだ。

 そう、『シザース』は己の肉体に頓着しない。666という数字は固定ではないが、大体そのあたりになるように調整してある。その666人のすべてがシザースだ。彼らは脳であり手足、シザースを皆殺しにしない限り彼ら、彼女らの意思は止まらない。


「まあ、16あたりにしてはどうかと言う意見もあるでしょうが個人差が厄介なのですよ。脳改造は少しづつ進められ、結果は蓋を開けるまで分からないのですが……それでも16前に死んでしまう子供も居るのです。不審死があると、結果として子供たちの幸福度が低くなるという結果が出たため”こう”なっています」

「いけ飄々と……! だが、貴様も私と同じく被害者でしかないというわけだ。いや、違うか? その『シザース』とやらは誰だ? 脳を乗っ取ったのが、その錬金術師と言うのならば私は教国に反旗を翻さざるを得ない。勝ち目など関係がない、私の誇りのために」


「いいえ、彼の知識は役立っていますが彼は我々の中心人物ではない。彼は我々の中に溶けたスープの一滴でしかない。我々は群であり、個――自我は大海に消え、我々の意思に由来するのは言うなれば統合意識。それこそが『シザース』なのですよ」

「なにやらよくわからんが、つまりは私の復讐相手はさっさとこの世を去ったわけだ。いや、死んでいるのか?」


「生きていれば126歳ですね」

「なるほどな。まったく、肩透かしな話だ」


「まあ、これからの任務には関係のない話ですが」

「…………おい」


 ユスティーツアが天を仰いでため息を吐く。どっと疲れた心地だった。


「いえ、説明しないわけにも行かないでしょう? まあ、次の任務には残りの二作品も関わる『アームズフォート』が参加しますが、裏はともかくアレも走る要塞とだけ覚えておけばよいですし」

「現代の錬金術師に最新兵器がやられたという話を聞いたが、貴様らはまだ奥の手を隠し持っていたのか。あきれた話だ」


「しかし、もう後がありません。ゆえに今回の作戦には『黄金』が参加します。教国を裏から守護してきた二機の片割れが」

「二機だと? ならば、もう一機は」


「いえいえ、出し惜しみはしませんとも。もう一機は別の場所で戦っています。君はアームズフォートとともに『アダムス』を攻め落とし【戦姫】を始末してくれればいい。ちょうど、あの錬金術師は本拠地を空にしている」

「なるほど、本題はそちらか。悪趣味な真実を聞く意味などなかったわけだ」


「ははは。それは申し訳ありません。今回は『666人委員会』も総力を上げます。教国が『鋼鉄の夜明け団』に飲み込まれるや否やの瀬戸際、最終決戦となります。この期に及んではあなたの力も頼る必要がある」

「なるほどな。では、私の機体にも更に『フェンリル』が積まれるわけだ」


「有力な将は夜明け団に取り込まれました。残っている者も誰が信頼できるか分からない状況です。戦力として動員出来るのは子飼いの兵のみ。こうなってはあなたが便りです。頼みましたよ」

「……は、絶望的な状況だ。そのアームズフォートとやらは知らんが、これは負け戦じゃないのか? ――だが、私にはお似合いかもな。なぜ私だけが生き残るのか、ずっと疑問に思っていた。今度の戦いで、それが分かるのかもしれないな」


 こうして、教国は『アダムス』ひいては『鋼鉄の夜明け団』団長ルナ・アーカイブスに対して決戦を挑む。総力をもって、かの錬金術師を打倒せんと戦の狼煙を上げた。


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