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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
王国介入編
223/361

第62話 強襲、権力の犬


 ただの空き家が極太のエネルギー波によって粉々になり、跡形もなくなった場所の穴から炎が吹き上がる。幾多の錬金材料のうち、爆発物に引火してしまった。


 ――そこから飛び出す影が二つ。


 ルナとアルトリアが敵を睥睨する。

 超スピードでかっ飛んできたそれは、もはやフォルムすら魔導人形とは似ても似つかない巨体だった。言ってしまえば、漆黒の円錐形。あの速さは納得できる形だが、もはや人型を完全に逸脱している。戦闘機と言うよりロケットだ、よく空中に静止できると感心してしまう。

 さらにもう一機、遅れてやってきた砲撃機。まだ火を噴いていないが、見るからに火力だけに全振りした機体だった。


「……なるほど、あの電話で居場所を特定、超高速運航で接近したか。私たちの居場所は教国内としか当たりは付けられなかったようだな」

「アレ、僕のでっち上げたオーバードヴァンガードブーストとは違うね。あれは切り離すエネルギーパックを後付けした、いわば使い捨てのシャトルでしかなかった。奴らは……己自身でエネルギーを生産している。魔石を燃料とくべる『機関』(エンジン)が搭載されている。僕には、そんな発想はなかったかな」


 機関は魔石からエネルギーを取り出す。そして、魔導人形は装着者の魔力、そして機関から生成したエネルギーを貯蔵したタンクを使って戦う。

 いわば限られた容量で戦っている通常版とは違い、あれは魔石がある限り無限にエネルギーが供給されるのだ。ガソリン駆動ではなく、炉心を持っている。例えるなら、原子力のように。


「汚染が見える。剥き出しの機関(エンジン)など、人の居る場所で使うものではないな。それに、使用者とて無事ではすまん。奴ら、正気とは思えんぞ。教国の”上”は民を殺す気か?」

「だが、装着者が寿命を気にして戦うほど短い訳でもない。個体差にもよるが、最低でも2度か3度は出撃できる。合理的な選択だ。……とはいえ、少し気に喰わない」


「潰すか」

「僕はあっちの砲撃型が気になるな。お姉ちゃんはあっちね」


「ああ、分かった。少し遊ぶか」

「では、実地検証としゃれこうか」


 ”それ”に、二人は笑みすら浮かべながらまっすぐ特攻した。それの持ち味は超加速、ただし初速はそれほどでもない。

 見定めるだけの時間はあった。静止状態ならば、大した機動はできないことは確かめるまでもない。なぜなら、アレも魔道人形の延長線上にある技術、異能のような摩訶不思議はない。


「トゥ。分かっているな?」

「向こうは我々を分断する気だな。だが、向こうの思惑に乗る気はない」


「私が行く。援護しろ」

「任務了解」


 一機がスピードを倍加した。既に武装が割れた砲撃型、そしてもう一体は高速軌道を得意とする機体。あのロケットじみた加速は、機関を持つゆえの通常能力にすぎない。真価は有り余るエネルギーを”何”に使用するかに現れる。

 稲妻のごとく疾走し、ルナを狙う。ルナたちの言葉を聞いていたわけではなく、動きから狙いを予想し敵の思惑を覆す。砲撃型を相手取りたいならば、高軌道型は苦手のはずと策を弄した。

 ……まあ、ルナは技術者的な興味でしかなかったから苦手云々は見当外れだが。しかし、敵の狙いに嵌らないというのは戦闘で前提だろう。


「いや、その程度の速さでは私の眼は抜けん。皇月流【柳】」


 だが、アルトリアは反応する。ルナをかばい、接触した一瞬に敵の装甲の角ばった部分に指をひっかけた。そのまま一緒に連れ去られる。敵が旋回しても引き離せない、指をうまい具合に引っ掛けている。


「馬鹿な――どんな眼をしているのだ!? それは本当に『鋼』の機体か」

「ガワは確かに『鋼』だが、私を誰だと思っている?」


「アルトリア・ルーナ・シャインは魔導人形を失い、死亡したはず。だが、『鋼』を使う人間など……鋼鉄の夜明け団の団員か? だが、あの狂人どもでは、この『ハルパー』に敵うはずが」

「いやいや、私は死んでいないぞ。そして我が『黄金』もな。これはただの借り物だ。借り物だが、貴様を相手するには十分だぞ」


「……ほざけ! たかが『鋼』で勝てるものか!」

「確かに困難だ。だが、やるぞ。私は」


 その超高速軌道は、ただの3秒で二人を人っ子一人居ない荒野の世界へ二人を連れてきた。適当に飛べば人の居ない場所に行くのは当然だ、人間の住む領域など世界のごくわずかにすぎないから。


「確かに反射神経、そして機体制御の腕は確かのようだ。だが! いくら【戦姫】と言えど、『鋼』の身では出来ぬこともある!」

「ここなら良いか。では、始めるとしよう」


 アルトリアは指を離す。実際のところ、高速軌道型は捕まえられたら終わりとは言わずとも不利な状況にあった。まあ、せっかくの速さも捕まっているなら宝の持ち腐れ。スピードタイプのデカブツへの対処法として、取り付きはあまりにもポピュラーではあるのだが。

 あっさりとその有利を放棄してしまった彼女に対して、この暗殺者は激怒した。


「ふざけるなよ……! 攻撃を放棄し、そして地の利すら放棄するか? 地の上であれば、まだ勝ち目もあっただろうに!」

「ふむ。いや、確かにな。引きはがそうと地面に叩きつけるのは悪手。それは私を地面に立たせることになる。お前は地面に寝ころんだ相手には攻撃できないようだが……な。お前の性能を見せてみろ」


 そう、高機動型の本領は空の上で、そして相手に捕まってもいないときに発揮される。先ほどまでならば、いとも容易く苦手な舞台(地上)に叩き落せた。

 最悪、『フェンリル』でも使われてしまえばなすすべもなく空で爆死していた。けれど、それが出来たアルトリアは「それではつまらん」と笑っている。


「ならば、悪夢を存分に味わうがいい!」

「ああ、味あわせてほしい。貴様の力……!」


 敵は装甲を展開、追加のブースターに火を灯した。そう、先までは本気ではなかった。なぜか攻撃してこない、そんな不気味さを前に様子見をしていた。

 だが、今は違う。

 ”舐められていた”、ただそれだけのことならば眼にモノを見せてやるまでと激昂している。


「この空戦型超高速追加装甲『ハルペー』を前に、貴様は我が影すら掴めんと知るがいい」

「さて、そこまでの速さか……む?」


 敵は螺旋を描くように疾駆する。今までも鋼ではありえないほどに早かった。だが、コイツは今も早くなっている。

 加速度――物理法則で言えば”だんだん速くなる”のは当然とはいえ、あの初速から実行している。……しかも、直線軌道ではない。


「このハルペーに乗れる人間は私一人! この速さ、誰にも届くものか!」

「――まさかな。首元のコレが邪魔などと、言える段階ではない」


 アルトリアが首を動かすが、ただそれだけの動きを相手の速さが上回る。

 首を上げる、大周りで回り込む。それを、”空を飛ぶ”方が速く動作を完了すると言う理不尽。とはいえ。


(こんなものが『鋼』か。視界が粗い、そもそも首を振るにも一苦労。なるほど、世の中の人間はこんな苦労をしているのか)


 表情などないが、苦虫を噛みつぶしたような心地だ。ルナのおかげで身体を得たとはいえ、今もアルトリアは前衛的金属オブジェの身。まともに戦える状態ではない。


「さあ、己の死すら気付かぬ速度で冥府へ送ってやる」

「気付かない、なんてないがな……」


 アルトリアが右上を向こうとした瞬間、左下から来た。振り向く暇すらなく足に当たる。衝撃が体を揺らし『鋼』の頑健な装甲にヒビが入る。


「硬い……貴様、ただの『鋼』ではないな!?」

「ルナが改造した。普通のそれと一緒にしてくれるなよ」


 ルナによる強化、それともう一つ理由がある。

 『鋼』のステータスでは振り向くことすらできないとはいえ、アルトリアはアルトリアだ。左下から来ることは分かっていたし、それに合わせて力を抜いた。覚悟の有無は大違いだ。


「だが、何度も持つかな!?」

「さて、5回か6回くらいは……」


 それも、わずかにダメージを軽減したに過ぎない。何もかも劣るノーマルの『鋼』で奴を倒す手段を見つけない限り、空で八つ裂きにされるのみ。

 戦力は圧倒的に相手が優勢。なれど思考は冷静、チャンスを見つけるまでの猶予を算出する余裕はある。


「強がりを!」

「はは。ならば、強がりではないところを見せてやろう」


 右上から来た強い衝撃が『鋼』を揺らし、墜落する。次の瞬間、下から打ち上げられて宙を舞った。

 直後、左から来た頭への直撃コース。……アルトリアの頭がもぎ取られてどこかへ飛んでいった。

 アルトリアの反撃。機体にかすった拳により化け物じみた巨大装甲に亀裂が走ったが、墜落は望めない。


「……ッ! カウンター、だと? 機体にヒビが……だが、奴は倒した。これが【戦姫】、なるほど噂になるだけのことはある」


 安堵する彼に向けて、話しかける声がある。ぞっとする心地を味わいながら、なぜか空中に静止する首なし死体を注視した。


「噂、ね。どんなものか、聞くのが空恐ろしいよ。だが、貴様の速さは見切った」


 首なし死体が構えを取る。そもそもアルトリアは人間の形をしていないのだが、知る由もない暗殺者にとっては、地獄の鬼にしか見えていない。

 首をもぎ取られてもなお動く人間を前に、何を言えばいいと言うのか。


「化け物が! ならば、この『ハルペー』の最大攻撃でもって滅ぼしてくれる。……【サイス・オブ・ペルセウス】!」


 それは全てをかけた必滅の一撃。虚飾を捨てて言うならば、いわゆる捨て身タックルだった。空へ上がり、高空から落下しつつ全力で加速して己の身を叩きつける。

 機関に引火すれば、それはフェンリルより強力な爆弾となるだろう。


「半端な眼も耳も要らん。やはり頼れるのは自前の感覚だな。貴様の重力は見えているぞ。……皇月流【天啓】」


 だが、高空からの一撃はアルトリアの奥義でもある。ただの力任せを見切れずして、何が英雄か。すれ違いざまの踵落としが敵を遥か下の地表に叩きつけた。


「ふむ。慣らし運転としては中々。いや、重傷の身では無理せずファーファにでも任せるべきだったか。……これは、怒られてしまうかな?」


 飛んで行った首を探しながら独り言ちた。




 そして、ルナ。


「ふむふむ、その瘴気の発生具合から見て……特にフィルターを挟んでいないね? まあ、工場に義務付けられたそれを、戦闘兵器で守る奴はただの阿呆と呼ばざるを得ないけど。しかし――それが答えかな? 汚染を撒き散らす兵器を、対人間用に運用する。どこまで行っても、人間の敵は人間と言うわけか」


 けらけらと嗤う。ルナは誰も彼もを馬鹿にする。”賢者”などどこにもいない。だから、世界はこうまでどん詰まりになるのだと。

 ……前の世界ではO5という賢者が居た。だが、あれは脳のみで生きながらえる化け物だ。そうまでしなければ我欲を捨てられないのなら、なるほど人に賢者であることを求めるのはルナらしい無理難題と言えるだろう。

 民草を虐殺しながら使うこの兵器、それを向けるのは【奇械】ではない。それが、この世界の選択。教国を統治する只人の選択だった。


「誰かが、”やってもいない”非を認めて頭を下げれば平和になるのに――謙虚な気持ちの一つもないとは呆れ果てる。どいつもこいつも、自分が正しいなんて思ってやがる。……君も、そう感じたことはないかな?」


 絶対者のごとく、問いかけた。

 しかし、暗殺者は黙殺する。まるで、問いに答えると言う機能まではく奪された機械のように。


「鋼鉄の夜明け団、団長――ルナ・アーカイブス。その特殊能力は『念力』、物理現象どころか電磁波や光線、果ては魔導回路にまで干渉可能がゆえの”錬金術師”。データでは、距離を離せばその力は著しく減退するとある。ならば」


 データを見返す。その程度の情報は収拾されている。そもそも『宝玉』や『黄金』の特殊能力を解析して新たな力を生み出すことは広く行われている。例えばツインブラスターカノンは、元をたどればサティスファクションタウンの光学操作能力から派生したものだ。

 大義名分がある以上、ルナの能力が調べられていることは当然だった。しかし……


「残念だが、それは一面の理解だね。現象の理解としては間違っていないが、僕の能力は『破壊』と教えたはず。こうして”距離”から壊してしまえば距離制限など無効化できてしまうのさ。月読流……【鎌鼬】(カマイタチ)


 高速の一閃、ルナが好んで使う牽制用の技が――空間を飛び越えて真上から襲い掛かる。


「ッチ!」

 

 隙を突かれてはかわしきれない。そもそも砲戦型が1対1で戦うのが間違っている。何か事情がなければ、最初の一撃を撃った時点で逃げるのが正しい戦術だ。

 残って戦った結果がこれだ。すぐさま合計3発しかないメインブースターの1発に亀裂を入れられた。これでは、もはや逃げることさえ不可能だ。完全に壊していないのが嫌らしい。これでは、火を入れた瞬間に無事な2発を巻き込んで逝く可能性が高い。


「投降するならば、安全は保障しよう。なんなら王国へ亡命のワタリをつけてやってもいいぜ。……君たちが僕に『アダムス』を任せたことは失策だったよ。この僕が、得た魔石を全て献上していたなどと本当にそう思ってたのかい?」

「……」


 暗殺者は何も言わない。……というか、そんなことを言われても分からない。彼は鉄砲玉もしくは実験体だ。それを理解できる教養がない。


「更に言えば、君たちが奇械討伐に兵を派遣して大失敗したのも知っている。僕が魔石の供給を絞らせたことで飢餓が現実的に見えたからな。……でもさ、本当に僕の部隊を閉じこもらせているだけかと思った? モンスター・トループが部屋の一室で大人しくしていると? 討伐に参加しない言い訳を素直に信じちゃったかな?」

「……くっ!」


 せめて、とサブアームをルナに向ける。最大威力の一発はチャージが必要なゆえに不意打ちでは使えない。とはいえ、エネルギーを潤沢に使った抜き打ちの一撃は『鋼』くらいなら貫ける代物だ。

 機関(エンジン)の恩恵は速度と攻撃力、それのみに限定すれば『宝玉』すら凌駕しかねない。


「だが、オリジナルを相手にしては無為」


 ルナは防ぎもせずに受けて無傷だ。所詮はサブアーム、そしてルナの魔導人形は『黄金』相当だ。


「おのれェ!」


 牽制を囮に、最大の一撃を叩き込もうとエネルギーの充填を始めようが。


「さすがにそれを喰らうと痛いから、機能は停止させておこう」


 投げた刀に貫かれて沈黙する。

 炉心ならば燃料がある限りエネルギーを取り出せる。だが、その生成スピードには限りがあった。その弱点を突かれた形だ。


「そんなわけで、君が選べるのは死か投降だ。そして、世界のエネルギー事情から言えば、僕は世界一の億万長者だぜ。現在の価格ベースで言えば全然だが、僕がその気になれば魔石を死蔵して値段を釣り上げられるからな。僕の一声で実体としても1位にできるのは間違いがない。そんな僕の言葉は信用に足りると思うぜ?」

「――ふざけるな、悪魔め!」


 ロケットに火をくべる。体当たり、自爆して道連れにする気だ。それなら亀裂の入ったロケットが誘爆しようが関係ない。その前に花火を上げてやると意気を叫んだ。


「国への忠義かな? 理解できないが、見事。ゆえに奥義にて送ってやろう。月読流……【風迅閃】(ふうじんせん)


 一陣の風が正確にその首を刈った。全ての機能が停止する。爆発すれば汚染の規模が上回るとはいえ、『フェンリル』ではないから壊して暴走などしない。


「さて、思ったとおりに武器の規格は同一。オリジナルならば機関などなくとも消費を賄うことも可能と来れば……少し弄って誰かにやるかな? さて、ここまで来れば団を大きくして国盗りも見えてきた。古今東西、エネルギー資源を掌握する奴が一番強い。教国の奴らはどう出るかな?」


 くす、と笑い――遥か彼方を見やる。


「しかし、お姉ちゃんの弱体化は予想以上だね。いや、それとも人間を舐めすぎていたかな? なら、相手を上方修正するだけのこと。流れはこちらが握っている。さあ、どう出るかな」



 今回出て来た改造『鋼』は原発搭載型のようなものです。基本の型はバッテリーで戦ってますが、3周りくらいでかくすることで小型の原発を積みました。ただし、汚染は垂れ流し状態です。


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