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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
王国介入編
222/361

第61話 追撃


 教国内の至る所に作られたセーフハウスの一つ、そこにルナたちの姿があった。”そこ”はいわゆる掘っ立て小屋に見える。はたから見れば、何の変哲もない放置され荒れ果てた空き家の一つに過ぎない。

 そこは街の中でもかなり端の方に位置するため、誰も近寄ることがない。地理的に気付かれ辛い死角の位置にあると言えた。上の小屋はあるものをそのまま使っているが、地下はルナの権力を使った豪勢で新品の秘密基地だ。


 その地下室、秘密の工房に三日間も潜んでいた。極秘で作ったそこは、錬金術を扱えるようにした真正の基地でもある。

 カモフラージュとしても最上だ。防音装備が音を外に逃がさず、そして彼女たちは避難後に一切そこから出ていない。誰かに不審に思われる要素の一切を排除していた。


「さて、穴倉に籠って早三日を数えた。どうだい、お姉ちゃん? 新しい体の具合は?」

「……悪くない。動けると言うのは良いものだ、本気で動けば壊れるものだとしてもな」


 ぐ、ぐと鋼の腕を握る。それは『鋼』の魔導人形の身体だった。アルトリアの回復を促進する処置を施した上で、それと繋いだ。

 本体をどこから持ってきたかと言うと、前に臨時大佐への暗殺者をモンスター・トループが撃破した。その撃破された『鋼』を修理して流用した。

 脳を格納したカプセルとつなげ、魔導人形を動かす技術はそのモンスター・トループで実証済だ。何も難しいことはなかった。もっとも、覚醒した『黄金』の無敵ともいえる力は完全に封印されているのだが。


「しかし、まあ――なんだ。ここに連れて来られた日は、見捨てられたかと思ったぞ。すぐにどこかに行ってしまうものだからな」

「あはは……それは謝ったじゃない。それに、アルカナに無理やり連れていかれたんだから僕は悪くないよ。夜まであと1時間はあると思ったんだけど。それに、アリスは残したでしょ?」


 夜、体を好きにしていいとのあの約束だ。アルカナとしてもアルトリアの体に別状がないのは分かっていたから約束を優先した。

 そこらへんはさすがにアルカナとて弁えているのだ。ルナの支障になるような真似はしない。その辺を見極めているのが、なおさら性質が悪いと言えるが。


「放置されたがな。ずっと隅でぬいぐるみを抱えていたぞ」

「ううん……アリスはあまり人に興味ないからね」


「あれほど肝の冷えた日もなかった。ファーファが危なっかしく粥を作ってくれたが、私には食べる口もなくて泣きそうになっていた。割れ目に突っ込まれそうになった」

「別に平気じゃない? その割れ目の奥は重力の渦になっているからね。ひしゃげて潰れるだけさ。ま、味わえはしないだろうけど」


「いくらルナでも魔導人形に口を付けられたりはしないか」

「さすがに無理だねえ、それは。そもそも機械で代用しているだけだ、生身の時の感覚で動くと身体を壊すよ。触覚がないから、特にお姉ちゃんほどの戦士だと致命的に感覚が狂う」


「……ファーファはずっと泣いていた」

「お詫びにプリンを作ってあげたら笑ってたじゃない。――何も問題はない。全ては僕らの描いた絵図の通りに進んでいる。この敗北も、時間を稼ぐためのもの。むしろ戦略的には目的を果たしたわけだから勝利とすら言える」


 雰囲気が変わる。軽口を言い合う冗談じみた雰囲気が、今やラスボスと黒幕を彷彿とさせる重苦しい重圧が見える。


「人類の勝利。奇械帝国の打倒と永久封印のため、13体の遊星主を制すには……まず人類が生き残る時間を稼がなければならない」


 アルトリアの顔は戦士の顔に変わった。顔など見えずとも、その雰囲気が歴然と語っている。

 あらゆる犠牲を払ってでも敵を倒す、だがその一方で絶対に守らなくてはいけないものを傷付けさせない……そんな覚悟だ。軍人ならば当然の覚悟である。

 それは身の安全と言う次元ではなく、世界の話だ。奇械の脅威に晒される世界、撃滅すべきは奴らを生み出す(コトワリ)だ。


「そう、奴らは既に兵站を整えていた。人類を滅ぼす準備はあとわずかで完成していた。だが、そこで僕らがぶん殴ったからには、準備はやり直しと言うわけだね」


 そして、悪鬼のごとき笑みを浮かべる彼女を見て、ルナは満足げに頷いている。それこそ、聖人に邪悪を囁く悪魔のように。

 ただ奇麗ごとだけで世界は救えない。覚悟と信念でもって全てを踏みにじり踏破しなければ、そこ(結末)にはとても到達などできないから。


「――今、私が戦えずとも関係ない。既に結果は示した。遊星主は打倒できる、あとは私以外の12人を集める。イヴァン、奴が地の底から蘇るときには相応しい力を身に着けているだろう。ガレス、『地獄の門』に置いてきたあいつは、もう一押しか。……残るは9人、遠いな」

「それでもやり遂げると誓ったのでしょう? まあ、僕らがこの身を犠牲にするのであれば6人分になれるけれど」


 そして、この二人はそのために全てを進めてきた。実際、多分に行き当たりばったりなところはあれど、目論見通りに進んでいる。


「させんよ。私は、必ず勝つ。――お前とともに」

「ならば、魅せて欲しい。あなたの勝つ姿を、アルトリア・ルーナ・シャイン。あなたならば、あらゆる道理すら踏みにじりどんな困難すらも踏破できると思ったから、僕はここに居る」


 どちらともなく笑い合う。先までの重苦しい雰囲気が霧散していた。


「とはいえ、異能は使えなくなってるはずだよ、お姉ちゃん。無理をすれば行けなくもないが、おすすめしないね。魔力を身体の再生に費やしているんだ、力があっても使えない遊星主の悩みを今度はお姉ちゃんが味わうわけだ」

「なるほど、力はあっても燃料がないか。私が潰した一体も、足かせになっていると良いが。あの龍の吐いた火もずいぶんと無理していたように見える。あの時、二発目を撃っていれば私は死んでいた」


「当然さ、お姉ちゃんがいなければ奴らは今日にでも教国に攻めよせてきたさ。全種とはいかずとも、6体居れば国を滅ぼすのに十分だからね。……それだけのストックがあった」

「だが、その分の魔力は星源竜、そして冥界煙鏡の二体の復活に使用した。ストックは枯渇させたと見るべきか。特に星源竜に至ってはコアをこちらが持っている。復活を見送り、強襲する選択肢もあるはずだが……ルナ?」


「復活させないなんて、戦略がどうの以前にあいつらの機能にないさ。ただ、やはり本拠地での戦いならば話は別だよ。あの地でだけ、奴らは全力を出せる。こちらから強襲は愚かさ」

「無限復活に、いくらでも能力を使ってくるか。私に吐かれた火も、おそらく連発できるのだろうな。……我らの地でなら相手のしようもあるが、それでは本当の意味では倒せん」


「当然だね。諦める?」

「からかうのはよせ。こんな無骨なデカブツをからかっても面白くないだろう」


 身動きして、ガシャリと音を鳴らす。今のアルトリアはどこからどう見ても、軍の指揮官だ。『鋼』は元からそういうものだから。

 表情もない金属。そして無機質な金属音では装着者が女性と気付く者も居ないだろう。


「とりあえず、処置は完了だ。魔導人形との接続も上手くいっている。……あとは、ここに運んであった材料を使っての再生促進しかやることがないね」

「我々は一歩も外に出ていないからな。防音もしていたのだったな? 誰にも見つかるはずはないが」


「はは。ここを用意したのは僕だけど、世の中に完璧なんてのはありえない。とりあえず見つかる前に最低限の処置は終えたが、いつ見つかるか分かったものじゃない」

「まったく、嫌なところばかりが有能だな。上の人間と言うのはいつも、下を踏みつけることばかりが得意で、下からの反撃を潰すためならばあらゆる想定を惜しまない。遊星主に対する備えはともかく、反乱分子に対する手筈は的確にして迅速だ。……来たな」


 プルルルル、と電話が鳴った。もちろん、そんな逆探知しやすいものを隠れ家に入れておくわけがない。それは見覚えのない不審な携帯電話。もはやホラーと同義だろう。


「はい。こちらアガスティア診療所、本日の業務は終了しました。受付は明日の10時から開始しております」


 開口一番、ルナはふざけたことを言う。あまりの態度に面食らった雰囲気が向こうから伝わってくる。

 けらけら嗤うルナは分かっている。限定的な空間転移だ。爆弾を入れていないのは分かっているが、それも条件なのかは分からない。

 だが『宝玉』が動いているのは間違いがない。異能は『宝玉』しか扱えない。ならば、人が相手だ。それだけ分かればこの二人には十分だった。


「――ルナ・アーカイブスだな?」

「いえ、僕はルア・アーカです。名前が似ているから間違えちゃったのかな?」


「……」

「あれ? 黙っちゃった。根性ないねえ、君たち。そんなんじゃ、捕虜の口も割れないぜ」


「何を馬鹿なことを。……己の立場が分かっていないのか? 貴様はやはり救世主には相応しくない……!」

「あは。勝手なことを。救世主なら救世主らしく、無欲で、清貧で、そして自分一人が苦しむマゾであれってか? 僕は都合の良いサンドバックになる趣味はないんだ、悪いね」


「何を言っている? サンドバッグも何も……分別の付いていないことを言い出す輩が居れば指摘してやるのが情けだろう。貴様が忠告を聞き入れる器を持っていないだけだ。指摘されないのは、正しいからではないのだぞ」

「それを自分に当てはめないのが君らの悪い癖だぜ。そして、逆探知しているね? どうやら、この探知能力はそれほど使い勝手が良くないようだ」


 宙を見る。ここは地下、天井の上には土が乗っているがそんなことは関係がない。レーダーにはもう映っている。

 ルナにとっては目など、何十もある感覚器の一つでしかない。


「……」

「今飛んでる”それ”、見たこともないね。機体に増設槽を使わないといけないほどのエネルギー消費だ。聞いたことがあるね。それが『オーバード』シリーズの1、おそらくは『ツインブラスターカノン』の系譜か」


 それは『ゴルゴダ』でもロンギヌスを使う兄妹が使っていた武装。『鋼』以上の魔導人形にしか装備できない超攻撃力を秘めたエネルギー砲だ。

 それを、エネルギー消費を倍増させることで威力を高めたとしたら。


「……ッ!」


 息を呑む音が向こうから聞こえた。それと同時に極大のエネルギーの奔流がその隠れ家に突き刺さった。


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