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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
王国介入編
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第60話 逃避行


 そして、ルナたちは追跡を振り切るために王国まで行ってしまった。

 もはや隠す気もないのか、余計な魔導人形は纏っていない。人間では不可能なはずの空を飛ぶという行為を易々と実行している。しかも、アルカナとアリスがくっついたままだ。


 一方でオーバード・ブーストを付けてファーファとアルトリアを抱えながらぶっ飛んできた彼は、途中で『アダムス』へと帰った。もちろん、ルナの指示だ。モンスタートループを動かすのはリスクが大きい。『黄金』の領域にはまるで届いていないけれど、上級奇械と戦うには彼らの力が必要だ。

 余裕顔をして砦が落とされたら馬鹿なんてものではなく戦犯だ。あの臨時大佐殿が修復できたのは全体の5%か10%ほど。1ヵ月でこれなのだから完成までどれだけかかるのか。

 その状態でアダムスまで陥落すれば、遊星主など動けずとも首都まで一直線に進軍できる。今の地獄の門に大した防衛力はない。それこそ鋼鉄の夜明け団が主戦力だ。


 では、臨時大佐殿が無能だったのかと言えばそういうことでもない。やはりバックも何もない若造には荷が勝ち過ぎたという話だ。成り上がった男の宿命と言うものに潰されなかっただけでも、褒めてやらねばならないだろう。

 彼はあくまでクーデターで『地獄の門』を乗っ取っただけだった。身内に敵が多く、しかし味方は殆どいない状況なのだから修復が進んだだけでも十分有能だろう。

 真の無能は敵が居なくても重要なものをぶっ壊すものだから。




 今は『アダムス』の最終決戦が終わり、そしてルナを罠に嵌めた教国の策謀も幕が下り――これらが一段落した状況にある。

 そこで、王国でキャメロットが合流する状況ができた。敵の攻撃を受けて現代風の金属オブジェと化したアルトリアへ、ルナがけらけらと笑いながら言う。


「やあ、お姉ちゃん。イメチェンした? つるつるのお肌になったね」

「ははは。ひんやりして撫で心地が良いだろう?」


 アルトリアも飄々と返している。もはや人間であったころの面影など何一つとしてないのに、金属を震わせて発する高周波のような声で答える様には悲壮感の一つも見えない。


「……むぅぅぅぅぅ」


 ただ、アルトリアを胸に抱えるファーファだけが酷くむくれている。それに、先ほど合流して後ろの方で沈痛な顔をしているベディヴィアも、ルナの方を睨み付ける。


「はは、悪いな。ルナの奴も悪気があったわけじゃないから、許してやってくれ。私のこの状態は、医師から見て特に問題はないと言うことだろう?」

「医師じゃなくて錬金術師かな。さなぎの状態を大過ないと言うのであれば問題などないさ。時間さえあれば、お姉ちゃんは自分で身体を再構築できるよ。検診も僕の方でできるしね。……ただ、この瞬間だけはあの無敵の戦闘力は失われたものと思っていい」


「またもや逃亡者か。まったく、これで二度目だぞ。自らの無力を涙を流しながら悔やむ日々からは、そろそろ卒業したいものだ」

「今度は勝利への明確な指針が立っている。あれだけの戦いを演じたのさ、奇械どもにも余裕はない。僕らにも猶予はまだあるよ。この稼いだ時間を使って最終決戦の準備をしよう」


「――ああ。だが、まずは休まねばな。それに、ベディヴィアも疲れただろう」

「は。いえ、私はルナの奴にこき使われてただけでアルトリア様ほどの修羅場は経験していませんが」


「そこは素直に頷いてくれ。でなければ、ファーファを休ませてやれん」

「ああ、そう言うことでしたか。……しかし、この状況ではホテルに泊まることもできませんね」

「それ以前に治療に錬金術の設備が必要だからね。王国まで逃げたのはいいけれど、教国に戻らなくてはね。このままでも回復するけども、わずかにでも回復を早められるなら意味はある」


「教国から逃げたと思ったら、また教国に入っていくのか……」

「そう気恥ずかしげな顔をするものじゃないよ、ベディヴィア君。君はこれから王国でホテル探しに行くんだから」


「何だと?」

「僕の仲間が口を割ることはないけど、陽動はあるに越したことはない。君にはホテル探しでもしてアリバイを作ってもらうよ。まさか王国までガチの暗殺部隊を送れやしないだろうからね」

「数日中には、な。治療に何日かかる?」


「おおよそ三日もあれば外に運び出せるようになる。ついでに、ちょっとした手足もつけておこう」

「分かった。それでいい――が、ガニメデスはどうした?」


「『アダムス』のお姫様と一緒だよ、問題はないさ。彼は僕側の存在じゃないからね、どんなに頭がお花畑でも彼を人質にはしないよ。ま、向こうは向こうで逃避行さ。イヴァン君は……おや、地面に潜ってるね。モグラみたいに」

「奴は生きているのか?」


「遊星主に相手されなかったからね、あいつは。力の多寡でしか相手を判断できないのが奇械の間抜けなところだ。お姉ちゃんだって、子供の時代はあった。今更止めを差しに行っても見つけられんさ」

「一帯ごと焼き払うなら、初めからそうしているということか。どうやらあいつはあいつで考えがあるらしいな」


「雑草みたいだね。地下で回復を待って、回復したらどこかで暴れる気だよ」

「あいつはそれでいい。では、姫様。お大事に」


「ああ、お前も。またすぐに会おう」


 ベディヴィアが飛んで行った。アダムスで稼いだ金は使いきれないほどある。ルナはもはや研究者だから除くとして、人類の生存に貢献した兵士の中でも1,2――まではいかずとも確実に10本の指に入る。

 それで高級ホテルの貸し切りくらいできる報酬を貰わなくては嘘だろう。そういうことで、高級リゾートをいくつか貸切った。情報が出ても絞り切れないように。そして、簡単には手出しできないように。


「さ、ファーファ。僕たちも行こうか」

「でも、お空には警戒網がしかれてるんだよ? 入ったら気付かれるよ」


「ファーファ、僕を誰だと思っているのかな。すでにウイルスは仕掛けてある。こういう事態を想定しておくのは当然のことじゃないか」

「ねえ、ルナちゃん。そんなんだからいつも信用してもらえないんだよ?」


「ははは。むしろ相手を信用する理由がないね」

「……ねえ、お姉ちゃん。ファーファだけは、ずっとお姉ちゃんの味方だよ」


 ファーファが小さな体でそれを抱きしめる。

 捻じれて歪んだ金属のようなオブジェが身を震わせて金属質な声を出し、割れ目から除く虚無の中に浮かんだ眼球がぎょろりと動く。中々にホラーとしか呼べないアルトリアの姿だが、それでもファーファは構わなかった。温かい手で握ってくれたその人には変わらないから。


「ああ、ありがたい」


 アルトリアの金属球じみた姿は表情さえ浮かばないはずなのに、どこか嬉しそうに見えた。


 その横で、アルカナが逃がさないとでも言うようにルナの腕を掴んでいる。



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