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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
犠牲砦【ゴルゴダ】編
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第58話 決戦の裏、臨時大佐の夢の終わり


 『ゴルゴダ』での最終決戦時も、ルナは遊んでいたわけではなかった。

 敵の同時襲撃こそあったが、『アダムス』の砦と4名のモンスター・トループならば凌げるレベルだったので本人が戦ったわけでもないのだが。

 参戦することもなかったルナだが、彼女は彼女でやることがあったから行けなかったのだ。決してサボっていたわけではない。


 ――ルナは、ある街に呼び出されていた。そこは教国が統治する地、息がかかったというのは少々不適切かもしれない。そもそもが始まりからして教国所縁の地だ。そこは名前を覚える必要もない、教国が作った、教国のために存在する街だ。ただその役割(ロール)が与えられた街は活気に乏しく、しかし最低限清潔ではある。

 普通にヘリで来て、発着場に降りて、案内されるままに歩いた。

 一番豪華なホテルに入った。わざわざ会議室を使うと聞いている。ルナとしてはこういった無駄な豪華さというのはあまり好みではない。

 ツボだの絵画だの、あれはただの宝石と同じ換金物だろう。値段が上下するから株的な意味合いもあるが……意味があるものでもない。そんなものに時間を費やす趣味などない。


「ふん。お呼出しとはね。お偉いさんはこちらの都合を考えないから困る。……連絡で済ませばよいものを、わざわざ顔を見せろとはね」


 ルナがアリスとアルカナを連れ、豪華な廊下を興味なさげに歩く。実は二人を連れ歩く行為にも厳重な抗議が届いているのだが、ルナはさらりと無視している。何度もペナルティを喰らっているし、今回のこれにしたって勝手に武装戦力を連れ込んでいると言うわけで更にペナルティが積み重なるのだが……

 まあ、そこをルナが気にするわけがない。その程度では処分できないほどに実績を積み上げたと自負している。


「お待ちしていました、ルナ・アーカイブス様」


 支配人が慇懃に頭を下げた。見た目は有能そうとの一言に尽きる。パッとしたスーツにはしわの一つも見当たらず、顔には精力がみなぎっている。

 一方で人を小ばかにするような生意気さも見て取れる。見た目幼女なルナに頭を下げるのが面白くないと思っている様子だ。それに、実はルナは方々でかなり嫌われている。派閥を無視して金と実績に飽かせて自分勝手にやっているのだから、好かれるはずもないのも当然だが。


「うん、案内は不要だ」


 ルナは地図を見もせずに進んでいる。案内を頼むより、レーダーで内部構造を探ってしまったほうがずっと早い。


「そういうわけにはいきません。アルカナ・アーカイブス様、並びにアリス・アーカイブス様には入室の許可がありません」


 支配人は後ろについてくる。カツカツと靴音を立てて歩きながら、くい、と眼鏡を上げて堂々と言い放った。


「この二人は一身同体だよ。引き離せない。……君たちはいつもいつも理解できないからって苛ついて、無礼とか言って殴りに来る。言うだけなら罪ではないと、そう思っているのかな?」


 ルナが刀を手に取る。いい加減にその議論には飽きた。文句があるなら、問答無用でどうにかして見せろと皮肉気に嗤う。


「ホテル内での武装は禁止されています。いくらルナ・アーカイブスと言えどもみ消せる事態ではありませんよ」


 この期に及び、はっきりと人を馬鹿にした笑いを浮かべた。ただの脅しと思っている。どうにかできるからではなく、法を盾にルナはその切っ先を自分に当てることはできないのだと信じ切っていた。


「……」


 ルナは何も答えない。


「警備兵、彼女から装備を取り上げなさい」


 警備兵が近づく。恐る恐る、といった風情。彼らは夜明け団とは何も関係がないが、恐ろしい噂だけは聞いていた。……曰く、人を辞め、引換に力を与える悪魔と。

 ルナは舌打ちしクリスタルを投げつけ、更に2つほど瓶を投げた。慌てて受け取る警備兵たち。瓶が床に落ちなかったことに安堵してため息を吐いた。何かは知らないが、落ちたら割れてしまいそうな精巧なガラス細工だ。


「気をつけろよ、僕は魔導人形に窃盗対策を施している。何かしようとした時点で全ての魔力を爆弾に変えて炸裂するぞ。そして、その瓶はかの遊星主のコアの3分の1が入っている――ヒビでも入ったならば、この町の住民全てが蒸気病にかかると思っておけ」

「貴様、そんな危険物を持ち歩いているのか!? というか、そんなもの投げるな。たわけが!」


 さすがに支配人も顔を蒼くした。何かの間違いがあれば確実に街が滅ぶ。自分も死ぬだろう。それだけの魔力が詰まったものだ、そのガラス瓶は。

 それも、そんなものをボールみたいに投げたのだ、ルナは。


「フフン。僕しか管理できないから、僕が持つしかないのさ。それと、そこまで僕は君たちを信用しているわけではない。至宝をテロリストに奪われる万が一、それがないとは思っていないよ」

「ふざけたことを。そちらの二人も魔導人形をよこしてもらおう」


 同じように投げた。


「では、行かせてもらう」

「おい待て……! 私は魔導人形を預かると言っただけで、その二人に行っていいとは……ぐべっ」


 手を伸ばそうとしたところに思い切りすっころんだ。落ちた眼鏡が割れる。


「はっは。悪いの」


 くすくすと嘲笑うアルカナ。ただ支配人が勝手にスっ転んだかのように見えた先の絵図。しかし、誰がやったかなど一目瞭然だった。


「まったく、このやり取りも何度目かい? 無駄な手間を何度かけさせるつもりだか。あまりにもうるさいから魔導人形までやってしまったよ」

「ほほ。ルナちゃんや、それなら国ごと滅ぼしてしまえばよいのではないか? 国と言う殻がなくなれば『黄金』も、『白金』とて掌中に収められるじゃろ」


「それでは意味がないよ。僕が力で国を制圧して、それで勝ったところで何になる? 口を開けてれば恵んでもらえる、そう思う人間は居てもいいよ。でもね、僕はそのお世話係になりたいとは思えない」

「くはは。難儀なものよなあ。いっそのことすべて滅ぼして、どう這い上がるかを見物すればよかろうに。蟻の巣穴を踏み潰すのもまた一興じゃて」


「せんよ。僕は自分の感情で誰かを殺せるほど傲慢じゃない」

「ならば、せせこましく働くしかないと。まったく、裏方で舞台を調整するのも楽じゃないのう。なあ、ルナちゃんや」


「誰も彼もが忙しいのさ。ただただ待ち惚けするだけの人間に価値はない。人の意思がその程度であるのなら、僕は全てを破壊して根切りするまでさ。なぜなら、それが僕の本来の役割だ。腐った世界を破壊するのが役目ならば、腐りかけもまた焼却処分にするのが妥当だろうさ」

「くく、サボる気などなかろうが、しかし彼らはどう動くか。うるさいから一度くれてやった魔石、しかし扱いきれぬと返ってきた、それが今またもや向こうへ渡った。そして、難癖付けられて妾たちを引き離そうとするのはいつものこととは言え、魔導人形まで奪われた。我らは今や丸裸だ、彼らがそうした。さて、会議はどのようになることかの」


「さてね。僕には内容を聞かされていないが、それが有意義なものになればいいのだけどね。やはり、前の世界……翡翠の夜明け団の様にはいかない」

「国家組織と秘密組織の違いかの? 裏の者は殴ってやれば分かるが、あいつらは殴ってやってもピーチクパーチクと煩わしいことこの上ない。貴族は体面ばかりを気にするから中身がないのだ」


「その通りだからこそ、あの臨時大佐君には期待していたのだけどね。……文句を言う筋合いでもないかもしれないけど、しかし本人の耳に入っていないから言ってしまうと期待外れだ」

「ふむ……では、答え合わせとしよう。あやつの扱いも、それで決めれば良かろうさ」


 アルカナが扉を開く。部屋の中に居る者達はすでに席についていた。

 彼女たちに用意された席はある。下座、まるで被告人の様な場所に鉄パイプのそれがあった。みすぼらしく、そして何の変哲もない椅子。……ルナには高すぎる。


 それが自然のことであるかのようにアルカナが座って、膝の上にルナを乗せる。そうするしかないのだが、老人たちが「大切な会議で何をやっているのだコイツラは」という顔をした。


「……ルナ・アーカイブス。ここに呼び出された要件は分かっておるかね?」


 最上段、しわが深く刻まれた老人の厳かな声が響いた。このような場であれば緊張しない方がおかしいし、彼の声色も責めているのかと勘違いするほどに重々しい。

 常人であれば、顔を真っ青にして右往左往してしまうことだろう。……人への言い聞かせ方と言うものをよく心得た老獪な老人だ。


「知らんね。要件があるなら、事前に書面にして連絡を寄こしてくれ」


 だが、ルナが言い返す。厳めしい面をした老人達が左右に並び、最上段の老人はわざわざベニヤ板のステージを作ってまで位置を上げている。

 さらには光の当たり具合により、彼らの顔が良く見えない。

 相手を萎縮させるためだけにあるかのような配置である。のに、ルナは普段と何も変わらず挑発じみたセリフを吐く。


「……仕方のない奴だな」


 身振りで示すと、若者がわざわざ箱に入れて書類を持ってくる。


「まったく、機密文書みたいな扱いだね。仰々しい行為で悦に浸るのは勝手にしてくれていいけれど、こちらに無駄な手間を強いるのはやめてほしいところだよ」


 更には嫌味まで忘れない。

 アリスが書類を取り上げる。それは10ページほどの文書だ。彼女はそのままぱらぱらとめくった。


「で、書いてあるのは”勝手なことばかりするな”とだけかい? しかるべき手順を踏んで、方々に根回しする――それにどれだけ時間をかけろと言うのかな? そもそも、これにしたって言いたいことの割には言い回しが複雑過ぎる」


 アリスがちらっと見ただけなのに、まるでルナ自身が書類を読み込んだかのような態度だった。喧嘩を売っているのかと思う態度だ。基本、ルナは自分に向けられたのと同じようにふるまう。

 だから、偉い相手に向かって自分も偉そうな態度を取るのだ。ルナは相手が自分より偉いなどと思っていない。それが、”偉い人”にとっては馬鹿にされたと思うのだ。


「どれだけ言えば分かるのだ。我々は何度も貴様に教えてやってきた。だが、それは全て無駄だったのだな。……お前は。否、お前たちは何も分かっていない」


 そして、この老人は怒るでもなくため息を吐いた。


「そうだね。言わせてもらえば、意外だよ。なぜこんなにも学習能力がないのか。魔導人形は確かに素晴らしいが、君たちはそれにあぐらをかきすぎてないかな? 技術の進歩が何年前で止まっているんだ、と苦言を呈さざるを得ないよ」

「……技術、テクノロジーか。誰もがそれよりも前に学ぶべきことを、貴様は誰にも教えてもらえなかったのだな。そして、もはや教わる気もないと見える」


「老人の回顧趣味なら他でやってくれ。僕は忙しい」

「この場のことを言っていなかったな。最終試験だよ、君を見定めるための」


「僕を? それならレポートの一覧でも見てくれ。大体、2,3話すだけで何が分かる? 僕は老人のご機嫌取りに来たわけじゃない。実績なら、資料をサーバにアップロード済みだよ」

「お前は――駄目だ。人を救うには、あまりにも品性に欠ける。ルナ・アーカイブスに救世主たる資格はない。それが我らの下した結論だ」


「くはは。で、何ができる? いいぜ、君たちがそう言うなら魔石はくれてやる。どこかの洞穴で一生引きこもってあげたっていい。君たちが奇械帝国の総攻撃に生き残れるものなら高みの見物をさせてもらいたいが、お姉ちゃんすら欠いた人類に碌な抵抗などできやしまいがね……」

「妄想だな。古来、人間は奇械の攻撃を跳ね返してきた。その領土を削り取られようと、必ず取り戻してきたのだ。今までも、そしてこれからも――人類は、【奇械】に勝利する」


「根拠のない妄言だ。奇械帝国は時間をかければかけるほどに強大化しているのはデータが示している。そのたびに人類は『黄金』を生み出し対抗した。均衡が崩れるのはもはや今年の話だぜ、次の襲撃には耐えられない」

「データデータと若者はこれだから。我々には伝統がある。受け継いできた歴史がある。貴様には分かるまいがね」


「ああ、理解できんね」


 それが交わされた最後の言葉だった。


「人類は生き残る。貴様のような驕り高ぶる怪物ではなく、誇り高き『白金』と『黄金』によって」

「ならば、地獄で見届けるがいい――『黄金』を、そして『白金』すら踏み台にして奇械帝国を滅ぼすアルトリア・ルーナ・シャインの英雄譚を」


 ルナはアルカナの膝から降りる。そして、床を踏み抜き飛び散った欠片の一つを掴み、投げた。


「――」


 護衛が反応する間すらなく頭蓋を穿たれて絶命する。その一瞬、世界が白く塗りつぶされた。




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[一言] 全身武器だからね、しょうがないね( ˘ω˘ )
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