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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
犠牲砦【ゴルゴダ】編
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第56話 ゴルゴダでの決戦(3)


 そして、ゲート型が破壊されディアボロ型の策も切られる前。上空では人知を超えた異次元の戦闘が続いていた。


「――は。これでこちらの有利だな」

「抜かせや、まだゲート型が残っとる。じり貧なのはそっちやで」


 冥界煙鏡とアルトリアは100を超える攻撃を交わし、腕や足を何度となく吹き飛ばされながらも飄々としている。

 超速再生だ、敵はもちろん人間ではないがアルトリアも人の枠組みから外れている。ただの武器では殺すことなどできないのだ。


「いいや、私は仲間を信じている。貴様を倒すため、必ず持ちこたえてくれるとな。まあ、私がもたもたしていれば最後のゲート型も破壊してしまうやもな!」

「は! 奇械に信じる心なんてないで。戦力は俺らが凌駕しとる。ゲート型も、2機まで破壊される可能性は試算されとった。が、アンタを止めとる限り3機目はない。そして、アンタはここで終わりや!」


 そう、合計3機が投入されたゲート型。ただの1機さえ残っていれば無尽蔵に戦力は湧き続ける。それが【奇械】と戦う際においてもっとも恐い。尽きない敵程やっかいなものはないだろう。

 まあ、ただ居るだけで周囲を生存不可能な空間に変える化け物も手の付けようがないが。さすがの遊星主も2体目までは動けない。これが、確実に人類を撃滅できるだけの戦力だ。


「面白い冗談だな、奇械は冗談も学習しているのか?」

「はん、馬鹿げたこと言うなや。俺らがアップデートすんのは、人間の殺し方だけや」


 言葉での牽制、様子見は終わりだ。ここから先は腕や足を振るだけではない。次からは殺意を込めた一撃を交わす。


「だが、これでは演武だな。意味がない」


 アルトリアが真正面から踏み込み、相手が牽制のために放った手刀がいなし――しかし、逆手の抜き手が敵の心臓を貫いた。

 心臓を貫かれた彼はニタリと笑う。そう、心臓など油圧制御のデバイスでしかない。流れる血そのものさえポンプに変えられる奇械の身体に急所などない。


「そうでもないで?」


 チ、と煙が動く。広範囲に蠢く煙は冥界煙鏡の支配領域、踏み込めば蒸気病に侵されるが――今更アルトリアがどうにかされはしない。

 問題ない、と見逃した先で蠢く。彼の本気が来る。


「……なに?」

 

 射出、煙が集まり槍と化した。360度、しかも前兆がなく、しかも音すら発しない殺戮領域。そこから逃れる術など、アルトリアですら持っていない。

 それこそルナですら”まとめて破壊する”以外に対抗手段のない最高効率の殺し技だ。


「……だが、それでは駄目だな」


 無数の穴が空いたアルトリア、だが表情は何も変わらない。身体を貫く槍を引きちぎり、ただの腕力でもって冥界煙鏡の首をもぎ取る。一瞬の早業だった。


「あん?」

「こんな小手先では百日手だ、本気で来いよ。こんなのは試すまでもないだろう、お互いに」


 首から下を蹴り落した。爆散した血と肉は眼下に消えていく。


 冥界煙鏡は本気を出していない。ゆえに打倒は不可能だ、穿つべきコアがそこに現れていないのだから。

 逆にアルトリア、こちらも穴だらけにした程度では殺せない。コアを隠して出力を制限していては、やはり彼女の命には届かない。

 どちらも相手を殺せない、だからこそ”怪我をしないように”行う演武でしかないと言ったのだ。


「そして、シャルロットが3機目のゲート型を破壊したぞ。虎の子のディアボロ型もファーファが倒した。それとも、不利と知って逃げるか?」

「――は。ならば良いだろう。我が全力をもって打ち砕いてくれる……なァ、【重力遣い】はんよ」


 今ここに、遊星主が本領を開陳する。例えばエルドリッジクイーンであれば、地下深くに隠したコアを表出させる。そして、この冥界煙鏡であれば――広範囲に散らしたコアを凝集させる。

 彼のサイボーグの身体が輪郭をはっきりさせていく。煙が更に濃くなり、そこは生命を否定する領域に変わる。『白金』の恩恵さえも否定される。オリジナルを纏っただけでは足を踏み入れた瞬間にくびり殺される魔の領域が具現した。

 だが、アルトリアは我が物顔で煙の領域を闊歩する。


「それで良い。小競り合いを続けても意味がない」


 アルトリアは獰猛な笑みを浮かべる。やはり、彼女の気質は戦士だ。

 誰かを率いるよりも、殺し殺される方がずっと性に合っている。ここまでは向こうも自分も、殺す手段など持たなかった。

 強力な力を持っているだけに、道端の石ころに躓くようなつまらない事故はありえない。当たったところで石ころの方が砕けて壊れるのみだから。――そう、これからが真の殺し合いだ。


「ガアアアア!」


 煙が噴出する。深海の圧力すら遥かに凌駕する力が四方八方から迫りくる。逃げ場はない、そんな生易しい密度ではない。


「そう、それだ。わめくだけでは雄鶏と何も変わらない。向かって来い、私は貴様の全てを破壊する! 【ブラックホール・クラスター】」


 ゆえに、重力の渦で引き裂いた。人知を超える戦いが幕を開けた。


「させるものか! 我ら奇械は、生命の全てを否定する!」

「望みは破滅か? ルナに聞いた通りだな、貴様らにはそれしかない。だが、滅びが創造に負けることなどあるものかよ!」


 正面衝突、大地すら揺るがす衝撃波が四方を削る。もはや味方の被害に構っていられるレベルは過ぎ去った。【奇械】の戦略は人類が圧倒したのだから。

 ならば、後はアルトリアを殺して失ったものと帳尻を合わせるしかない。まだ負けて逃げる段階ではない。


「世界の行きつく先は滅びやな。それが万象摂理と知れ……【デス・アルテマ】」


 煙なれど、世界法則を超えるだけの重量を詰めた玉である。物体は一点を超えて圧縮しすぎると重力法界を起こしてブラックホールになる。けれど、それは不条理にも物体として原型を残しながらアルトリアへと向かう。


「ならば、その万象摂理を解き明かし未来を作るまで。ルナがな。【ワームブレード】……切り裂けェ!」


 ワームホール。それは重力の井戸の入口、3次元であるこの世界では本質的に理解されない4次元の方向へとねじ切る”次元の穴”を剣状にしたもの。アルトリアが作った10m超のブレードはまさにそれだ。

 不条理と不条理が激突する。煙玉が真っ二つに割かれてただの煙に戻る。それは、斬られると同時に物理法則に囚われ、その圧倒的な物量を取り戻す。


 ――瞬間、上空を質量のある煙が押し潰した。


「死ね」


 そして、後ろから手刀を入れる。必殺の一撃を隠れ蓑にした暗殺技だ。奇械の冷徹さは必殺技でとどめを刺すことにこだわらない。必殺をただの見せ技にしようと、殺せればそれでいい。


「――だが、人の悪意を舐めるな。その程度のこと、人間同士の争いであれば当たり前に行われてきたんだよ」


 そう、その手刀はアルトリアの背中を貫いている。ならば筋肉を締め、固定する。必殺と煙幕を兼ねた一撃? 虚実の織り交ぜは武の基礎だ。

 そして、受けることで相手の動きを崩すのもまた武。これで相手は逃げられない。……まあ、心臓を貫かれてやるのはやりすぎだが。


「……っな!? 馬鹿な」

「さあ、終わるがいい。皇月流天啓が崩し……【天堕刻印】」

 

 冥界煙鏡を己ごと天空へと撃ち出し、そこから地上へ向けてダイブ。そいつを捕まえたまま踵落としの要領で全ての重力加速度を押し付けつつ地盤さえ砕いて地下に叩き込んだ。


「ふ、これで二体目だ。まあ最終決戦の際には復活しているだろうが、遊星主の魔石を二つ確保した。……これならば、更なる『黄金』の作成も夢ではないな」


 ふ、と笑い――顔色を変えた。


「嵌められたか! 謀ったな、奇械!」


 上を向く。重力のシールドを張るが――弱い。大地の壁など、遊星主にとっては薄紙にすぎない。

 如何にアルトリアと言えど時間軸は無視できない。一瞬の溜め時間さえも許されなければ、脆い。このタイミングでは防御も回避もできはしない。


〈シヌガイイ、ツヨキモノ〉


 彼女たちが戦っていた場所よりもさらに上の成層圏。その龍こそが【炎源竜プロミネンス・ドラゴン】……アルトリアも会ったことのある敵が潜伏していた。奇械帝国に足を踏み入れたその時こそ眠っていたが――


〈ホロベ、【黒炎弾】〉


 その龍が口から火を吐いた。それはあの時のような数百度程度のぬるい寝言ではない。いや、温度としては2000℃に過ぎないものでしかなかった。

 しかし、それこそ全てを破壊する魔の炎。温度など関係なく、全てを破壊し尽くす魔炎。あらゆるものを破壊しつくす災害がアルトリア一人に向けて放たれた。


「っがあああああ!」


 着弾。アルトリアを中心として黒い炎が暴れまわる。一瞬の隙を突かれたアルトリアは燃やされ、その身を塵と化す。


 その攻撃の痕はまさに惨事。着弾点から離れ、そして襲撃のダメージも受けていなかった砦が完全に崩壊している。

 それだけではない、勝利したはずの人間側の戦力があちこちで屍を晒している。そして、奇械もまたあちらこちらで焦げ跡になっている。

 ……大惨事だった。諸共全てを終わらせる一撃だった。


 それでも、どちらも止まらない。アルトリアを狙った一撃は、戦場の中心から外れていた。ゆえに、ボロボロになろうとも最後の一機までも戦いを止めないのだ。

 本当に、最後の一人になるまで戦いは終わらない。


〈――誰か。誰か応えて! お爺様! 誰か!〉


 シャルロットの悲鳴のような声。砦の中心人物たちの半分は家族同然に育った者たちだ。それが、今や誰もいない。

 ……兄と、兄弟同然に育った槍を与えられし者も失った。


〈……〉


 通信機は沈黙を返すのみ。


「ああ……」


 涙を流す。もはや何も残っていない、あのまま死ねたならどんなに良かっただろう、としばし呆然と上を見上げた。


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