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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
犠牲砦【ゴルゴダ】編
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第54話 ゴルゴダでの決戦


 屋上から飛び降りたアルトリアが天空へと飛び立った。それにわずかばかり遅れて砦のセンサーから警報が鳴る。あまりにも大軍勢が攻めよせてきているため、本来なら感知範囲外のそれを拾って来た。

 1か月音沙汰がなかったゆえに、襲撃の規模も桁違いであった。


 総司令官である王様からのお言葉が、コントロールルームの通信を介して鼓膜を揺らす。そう、指揮官はあくまで王様だ。戦闘中にアルトリアが指揮を執ることなどできないから、事前にそう取り決めてある。

 この日が来ることは分かっていた。だから、どう動くかも予習済みだ。


〈――総員、傾注。待ち望んだ日が来た。審判の日だ。奴らはこの『ゴルゴダ』へとやってきた。殺すために、殺されるために。……勇敢なる戦士たちよ。必ずや敵を打倒し、故郷を取り戻すのだ〉


 一瞬で兵士たちが沸き立った。そう、この日を待ち望んできた。戦いを恐れる者が居たとしても、この空気でそれを言える勇気はないだろう。ゆえに、皆が地獄に向かって一直線だ。

 命を惜しむことは許されない。誰もが覚悟は固めていた。

 すでに発進準備が完了している部隊が動き出す。持ち番で待機していた者たちだ。彼らが先に出撃し、他の者も続々と戦の準備を始めている。


 ――コントロールより女の良く通る声が発される。


〈『ルカ大隊』、『マタイ大隊』の出撃準備完了。発進してください〉


 この女性の声は、アルトリアとしてもこの1ヵ月で見知っている。コントロールルームで誰が何を担当しているのかも、もちろん知っている。

 指示を伝える伝令役はレートという栗毛色の髪をした女性だ。そして、砦に備え付けられたセンサーを分析するのはハリヴァという目元を髪で隠した男性。アルトリアはおもむろに通信を開く。


〈レート。気を付けろよ、こいつらは先遣隊じゃない。本命を探せ、出来るな? ハリヴァ〉

〈了解しました、【戦姫】様。振動、電磁波、音波――その他センサーを精査します〉


 返ってきた程よい緊張感のある声にアルトリアは満足気に頷いた。

 一瞬で地上1000mの上空に到達した彼女は、豆粒ほどにしか見えない地上を観察する。


「特に別動隊は見えん。……だが、あの本隊も1ヵ月準備したにしては数が少ないな。本命はどこだ? あの時と同じように地下から来るか? ならば、わずかに潜るくらいでは無駄と教えてやろう」


 ”敵戦力は少なすぎる”。これはアルトリアが化け物じみているからではなく、純然たる戦略的視点だ。

 ……土煙を上げ大挙して襲い掛かってくる彼らは、なるほど絶望的な光景だろう。常の襲撃の数十倍に当たる戦力――だが、この程度では【キャメロット】など関係なくこの場の戦力で防衛可能だった。多くの犠牲を出し、次の防衛が不可能となろうとも一度の勝利を掴むことができるくらいには少ないのだ。

 肩すかし、と言うよりも敵の狙いが分からない空恐ろしさを感じる。ならば、一手進める以外に方法はない。敵の出方を待って手遅れになるなど、それはアルトリアの趣味じゃない。


「ならば、一つ試してやろう。喰らうがいい、【ブラックホール・クラスター】!」


 挙げた左手の上に黒い球体を生み出した。闇よりもなお暗いそれは内部で分裂し、無数の泡が現れては消え……ぼこぼこと湧きたつ”それ”を遥か雲の上から『奇械』の軍団へと叩き込んだ。

 鉄が軋む無数の悲鳴とともに、地面すら割れて崩れて――


「地下に敵影はなし。なぜだ?」


 万に昇る敵を圧殺しても、まだ10万の軍勢は変わらず砦に向かっていく。その圧倒的な光景の中……アルトリアは地下に『キャリアー』型が居ないのを確認していた。


「……ッ!? 上か! まさか、『地獄の門』での戦いから学習されたか。侮っていたのはこちらと言うことか」


 バ、と上を向く。ミサイルのごとく大気圏外から突入してくる奇械どもを遅れて感知。それは、先の戦いで『キャメロット』がやったのと同じ方法だった。

 大気圏外からミサイルに乗って突っ込む。上に居る奴はボス=遊星主が相手する。……どこまでも真似された。


「愚かだな。貴様たちは待っていたのではなく、手をこまねいていたのと知るがいい」

「やってくれたな。――【冥界煙鏡テスカトリポカ】ァァ!」


 瞬間、上から遅いかかってくるキセルを咥えたサイボーグ。どう見てもエルドリッジクイーンと同じタイプだ。

 知性があり、しかも武術らしきものまで使う。油断すればそのまま首を刈られてしまうだろう。


「ここで死ね。【重力遣い】よ!」

「いいや、死ぬのは貴様だよ煙吐き――」


 交差する。


「シィィィ!」

「皇月流【瞬き】」


 キセルと拳が衝突する。その衝撃が空を駆け巡る……が。


「周りに何もなけりゃ、こっちの被害もねえな?」

「邪魔立てはない。こちらも安心して貴様を相手できるぞ」


 互いに挑発を吐く。そして、獰猛な笑みを交わす。二人、同時に口にした。


「「そう上手く、物事が運ぶかな?」」


 上空でアルトリアと冥界煙鏡の戦いが始まる。既に戦力は地上に落とした。スフィンクス型は更に下方に100体を配置、そして4体の『ゲート』型が無限に戦力を吐き出してくる。

 戦略では相手が勝った。先の戦いを全て真似した上で、追加の一手を打たれてしまった。だが――



 ここに来た遊星主は1体で。しかし、ここにいる『黄金』は2つある。もう一つの極大戦力、彼は何をしているかと言うと。


「ギャハハハハハ! くだばれ! 死ね! みじめったらしく砕けて消えろォ! 奇械に未来などあるものかよ!」


 イヴァン・サーシェスは大物狙いだ。彼は主にスフィンクス型を狙って狩りまくる。まさに鬼神というべき活躍をしている。

 宙に浮かぶ敵をちぎっては投げ、そしてスフィンクス型を素手でバラバラに引きちぎる。反撃など関係ない、全ては彼の機体から立ち上る黒い煙に喰われて消える。

 ただ轢かれただけでも致命傷だ、黒い煙に触れた場所から腐食が始まり、全身が腐って死に絶える。無慈悲なまでの殺戮だ。病魔に冒され復活した彼は、以前の彼とは見間違えた。もはや彼は奇械にとっての死神とさえ呼べる存在になっている。

 ……これこそが本来の力を発揮する『黄金』である。敵を鏖殺する人類の希望だ。


 ただ、戦術的にはまず『ゲート』型を破壊しなくてはならなかった。指揮官たるスフィクス型ですら、代えの利く補充品に過ぎない。そちらを潰しても始まらない。

 ――むしろ、己を犠牲に主戦場から引き離されている現状だった。せっかくの『黄金』だと言うのに、その動きは向こうの掌の上だ。犠牲を強いつつも、戦局を変える鍵にはなりえなかった。



 そして、お姫様のシャルロットの元に砦の持つ最大戦力、『宝玉』である槍を持つ5人が集まった。6本の槍、これこそが『アダムス』の切り札だ。


「あの馬鹿が! 兄さま!」

「ああ、シャルロット。行くぞ、お前たち!」


 だからこそ、『ゲート』型を貫くための槍が必要だった。

 ただの『鋼』の部隊では無数のサテライト型のレーザーに焼き消されるのみ。この戦局を変えることはできない。ただ、あのイヴァンなんぞに全てを預けるなど正気ではないだろう。

 ならば――


「ヴィート!」

「ああ。お前の力を見せつけてやろう『ロンギヌス・ファウスト』」


 6本の槍が勢ぞろいで敵戦術の急所を狙う。彼らはここの秘密兵器、砦の最高戦力でもってゲート型を撃滅する以外に生き残る方法はない。

 そう、彼らは奇械を倒すために生きてきた。この自体を想定した訓練の一つもしていないならば、愚者と嗤われよう。イヴァンに託すなどという恥知らずを受け入れるはずもなく。

 四方八方が敵の中、ゲート型を落とすのだ。そも、ゲート型を相手にするとはそういうことだから。シミュレーションだってやってきた。実際にやって見せねば人類側に勝機はない。


「全てを重力の底にひきづり落とせ! 【ダークホール】」


 ゆえに、無数のサテライト型が放つ絶死の光への対抗策も準備してある。

 光すら逃れられぬ重力の底に叩き落せばレーザーなど怖くないのだ。それはアルトリアの劣化技と言えるが、この状況では十二分に働いた。


「トライト!」

「は! 我が力、どうぞお役に――『ロンギヌス・アーキタイプ』。投げろ!」


 アーキタイプの能力は、影を実体として操る力。仲間を影の手に乗せ、放り投げた。その身体を弾丸と化し、敵軍団の中央へと特攻する。

 だが、その程度で突破できるわけがない。相手も奇械だ、人間では不可能な精密さと感情のない詰将棋で蹂躙するのがその本領である。


「――」


 無数のうち、いくらかの眼が向いた。全機同時射撃などするはずがない、予備を残してあった。確実に相手を潰すための一手である。

 ゆえに、絶死の光がもう一度放たれた。


「落ちるなよ!」


 リーダーが叫ぶのは、ここに来ての根性論。

 だが、この6名は並大抵の練度ではない『宝玉』の操者だ。無茶を通せないはずがない、被弾を数発くらいに抑えて肌が焼ける程度で済ます。

 予備であるからには、攻撃の数が少ないのも当然だった。


「ゲート型は無敵のシールドを持っている、しかしルナ・アーカイブスが攻略法を見出した! 『ロンギヌス・デストルドー』が周波数を合わせ!」

「『ロンギヌス・リビドー』がバリアを破壊する! その鉄壁、もはや過去のものと知るがいい!」


 共振破壊と振動破壊の合わせ技。ルナが『アロー・オブ・アポロン』でやったのと同じことだ。無敵の結界にも、固有振動数というものがある。合わせてやればあっけなく崩壊する。

 同じ教国なのだから、情報共有をされるのはむしろ当然のことだ。ルナもさすがに尋問を喰らうのが分かっているため、先にレポートにして提出した。それだけでなく、呼び出されて直接指導までさせられたのだ。……本番で出来ませんでしたは通用しない。


「行くぞ、妹よ!」

「はい、兄さん」


「『ロンギヌス・コンプレクス』――『ツインブラスターカノン』接続、収束開始!」


 元は『鋼』用の強化武装。だが、それは『鋼』の出力をもってしても起動することが精いっぱいのじゃじゃ馬をさらに威力を強化した。まともに運用するためには、護衛を付けて固定砲台にするしかない。

 それを異形の才で分回したのはユスティーツアただ一人だった。『宝玉』の力をもってしても出来ることではない。……一人なら。


「『ロンギヌス・シャッテン』。コンプレクスに潜航、『ツインブラスターカノン』の出力調整を代行……!」


 二人でならそれが出来る。そして、無防備となった『ゲート』型にその強力な一撃を打叩き込む。


「【ツインスパイラルブラスター】発射!」


 銃口の先から光があふれる。螺旋を描いたエネルギーがゲート型を突き刺し、爆破炎上させた。その強力な防壁の前に自爆特攻しか有効な攻撃手段がなかったのが、ここに犠牲を出さずに人の力で打倒できることを証明して見せた。


「……やった!」

「兄さん、危ない!」


 次の瞬間、地上から無数のレールガンが閃いた。当たる軌道は10か、それ以下。同士討ちをしない分、狙いが甘くなった。


「させるか。【シャドウゲート】」


 影を操る者がその身を犠牲に兄妹を守った。その身に穿たれた2つの大穴と引換に。それは致命傷だ。

 大量の血が溢れ出て、魔導人形の外にまであふれて胸を鮮血色に染め上げる。


「まだだ。『ロンギヌス・アーキタイプ』よ、俺たちはまだやれる!」


 もはや助かる道はない。ルナに頼って人の姿を失う気もない。

 ならば、残り少ない命を燃やして最大の一撃を喰らわせてやるのみと息巻いた。最期の一撃に全てを込める。


「未来への道を斬り開く! 【シャドウソーン】!」


 後先考えない無数の槍影の攻撃は、もう一体のゲート型の護衛を全て切り裂いた。

 機械は最後の一瞬までも人を殺すことを諦めない。最後の攻撃を放つも、彼は傷つきながら雄たけびを上げ最後の力を振り絞る。


「貴様だけは、連れていく!」


 反撃を全てその身に受け止め、ゲート型のシールドに爪を立てる。……が、切り裂けず爆破炎上して。


「お前の意思は!」

「俺たちが継ぐ!」


 できた隙に、先の二体が攻撃をねじ込んだ。これでバリアが解除された、もはや的だ。だが、逃がせば『アダムス』が落とされることは間違いない。


「兄さま、アイツの犠牲を無駄にしないで! 砲塔の暴走は私が抑えます!」

「分かっているさ! 【ツインスパイラルブラスター】二撃目ェ!」


 砲身が赤熱化する。そもそも連続攻撃できるように作られていなかった。だが、無理を通して放った二条の螺旋は二体目を貫いた。


「……っが!」


 衝撃、熱を感じた瞬間にはツインブラスターカノンが吹き飛んでいた。サテライト型のレーザーが当たったのだ。

 暴走しかけていたところに駄目押しは流石に耐えきれなかった。


「兄さま!」

「分かっている!」


 多勢に無勢の中、ゲート型だけは始末しなくてはならないと飛び込んだ。仲間が編隊を組んで削っているが、最奥のここには届いていない。

 そも、囮として地上から進出してきた部隊の掃討も終わっていない。……助けは期待できない。


「ここは俺たちだけで全てのゲート型を潰す。でなければ、我々の敗北が確定する……!」


 そう、これは窮地だ。あと二体のゲート型など、どのようにしたら突破できるのか。気力だけではどうにもならない絶望的な現実と言う奴だった。


「殿下。私は、貴方たちの部下であれて良かった。この『ロンギヌス・ファウスト』を扱うには至らぬ身なれど、共に戦おうと言って頂いたことは我が人生の最大の喜びでした」

「なに? フォウ、どうするつもりだ。まさか……!」


 彼の伸ばした手は空を切った。


「姫様、殿下のことを頼みます。レゾナ、レゾス。後は頼んだ、あと一機……必ず倒せよ」


 『ロンギヌス・ファウスト』に極大の力が集中する。高め、高めて――自らの操ることのできる範囲を超えてまで。自爆と引き換えの一撃を放つのだ。


「重力の井戸の底、先ほど見た別次元の扉は誰一人の生存も許さない。究極にまで達した後は滅ぶしかないのだ。万象摂理を見るがいい、【ブラックホール・クラスター】!」


 もはやファウストは爆弾と化した。あまりの力に周辺の空間は引きちぎられる。レーザーはそこから逃れられず、近づくだけで一部をむしり取られる空間異常だ。

 もはや生存の目などどこにもないことなど知っている。そのままゲート型に突貫した。


「フォ――――――ウ!!」


 3体目のゲート型、沈黙。けれど、引き換えに二人の仲間が死んだ。親友だった。身分の違いはあれど、共に未来を誓った兄弟とも言える存在だった。

 彼らにはもう会えないと思うと胸が痛くなるが、しかし宿願を果たすためには感傷にひたる暇などない。それで足を止めることは、何より死んでいったアイツ等が望まない。


「「「 」」」

 

 けれど、無数のサテライト型はまだ生きているのだった。無数の光条が空を焼く、地上からは無数のレールガンが閃光を飛ばす。

 地獄と呼べるこの状況、だが課された使命を果たすまでは泣き言など飲み込んで前を向くのだ。

 並の技量では一瞬で蒸発する炎獄の中。


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