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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
犠牲砦【ゴルゴダ】編
214/361

第53話 1か月後の決戦前夜

挿絵(By みてみん)


 そして、1ヵ月が経った。


 まずは『アダムス』を見よう。ルナが居るその砦は、もはや一分の隙もなく鋼鉄の夜明け団に染め上げられていた。

 【奇械】の脅威に晒され続け、しかし犠牲を払いつつ本国を守ってきた誇り高き誘蛾灯。本命たる『地獄の門』を守るための2つの囮。そのアダムスでは、力こそ至高という考えはすでに根づいていた。

 権力は、己を戦場に送り込んだ敵だ。地獄で信じられるものなど力以外にない。


 誇りだの何だのより、己と戦友を生き延びさせてくれる存在こそ信じるに足るものだろう。そして、モンスター・トループ率いる改造人間の軍隊は見事にその役目を果たした。

 本格的な襲撃は来ずとも、死亡者が0だった。それはルナの治療技術もあってこそだが、快挙であることは間違いがない。信じるのどうのと言う以前の事実だ。もはや、そこはルナを救世主と崇める教団と化した。

 馴染めぬ者は、それこそ『地獄の門』にでも転属願を出す以外になかった。もっと安全な場所があるだろうと? 上層部の人間はともかく、下っ端は他に選択肢があったらここに来ていない。身寄りがない、コネがない、移民の出、とにかく”死んでもいい”人間でなければこんな地獄に送られるものか。

 それこそがルナを信奉する夜明け団と相性の良さの根拠だった。だって、他に頼れるものは隣にいる戦友以外に何もないから。その彼と一緒に忠誠を捧げればいい。頼る者のないその人を、ルナは救ってくれた。実際に、死亡者なしと言うご利益があるため、頭を垂れることに疑問はない。


 こうして、ルナを主とする組織が出来上がった。……本国の狙い通りに。そう、ルナを送ったのはもともと本国だ。それは、いつものルナの自分勝手ではない。

 鋼鉄の夜明け団ごと『アダムス』に閉じ込めれば、最重要の『地獄の門』から影響力を切り離すことができると考え、実行した。そして狙い通りの効果が得られたというわけだ。

 そもそも『アダムス』は捨て駒だ。その背景からして、まとめて切り離すために作られた場所でしかない。本国はこの間に『地獄の門』を整理すればいい。ぽっと出の小娘(ルナ)など、利用した上で切り捨てるのがあるべき姿と言う奴だ。なぜなら、彼女は教国に根差す血統のどれとも関係がないだから。

 顔も見せない”上”とやらがほくそ笑む。


 けれど、思い通りになったからと言って物事が都合よく進むのか。『地獄の門』への影響は切り離した。……本当に?

 さらに言えばルナを曇らせば勝ちなど誰が決めたのか。確かに彼女は人類を救うにふさわしい徳ある人物などではない。けれど、彼女の目的を邪魔して得があるのはいったい誰なのか。

 それでも、権力を持ったことがある人間は決して所属以外に頭を下げない。そして、それは下っ端とて同じことだ。その派閥こそが国を統治するに足ると信じなければ、どうしてその集団の中で生き残れるものか。

 誰もが己の所属するその派閥を信じている。ゆえに戦うのだ、それが本当の敵でなくとも。倒したとしても益がなくとも。




 そして、『ゴルゴダ』。アルトリアが赴いた場所は、今や戦争前の高揚感に酔い痴れていた。

 両者ともに嵐の前の静けさを感じている。アルトリアが何かしたというよりも、彼女の到着を知った【奇械】が対抗するために大軍団を組織するための準備だった。

 この場所は奴らの指揮官である冥界煙鏡に故郷を滅ぼされ、復讐鬼となった王族の末裔が支配する場所だ。ゆえに両者ともに決戦から逃げる選択肢などありえない。ゴルゴダと冥界煙鏡の最終決戦に向け、準備は着々と進んでいく。


 もちろん、ゴルゴダ側は偵察も出している。戦力の増強スピードに限りがあるゴルゴダは速攻を仕掛けたい。冥界煙鏡が潜伏している地を見つければ、即座に最終決戦が幕を開ける。

 探す場所も絞られてきた。今や奴らが攻め寄せるか、冥界煙鏡の本拠地を見つけて強襲するかが先の戦いだ。


 ともかく、最終決戦はそう先のことではなかった。


「――嵐が近いな」


 アルトリアが砦の上に立っている。物見櫓などと言うものはない。そもそも目視などしなくてもレーダーの方が遠くまで見えるし正確だ。

 ゆえに、そこはただの屋根である。砦であるため、装甲で作られた無骨そのもの。そこに生身の美少女が立っていれば、凄まじく違和感のある光景が出来上がる。


「奴の隠れる場所ももうありません。『ゲート』型による輸送も、アルトリア様のお力を考えればサブプランに取らざるを得ないでしょう。冥界煙鏡としては、どうしても近くに前線基地を作らざるを得ないはずです」


 魔導人形が降り立つ。本来、その屋根は飛行能力がなければ立てない場所だ。来たのはアルトリアに熱を上げるようになったお姫様。

 最初のお花畑の顔はただの仮面だった。戦略にも明るい、オリジナルを扱うに相応しい強者である。


「ああ、奴の力を感じる。脈動している。……観念したか、それとも準備が終わったか」

「準備が終わったと言うなら、厳しいですね。ですが、例え相討ちでも奴だけは必ず滅して見せましょう。我らが祖先に誓って」


 風の強い屋根の上で語り合う二人の少女。言葉は物騒だが、とても絵になる光景だった。……出し抜けにチンピラの声がかかる。雰囲気ぶち壊しだった。


「は! 下らねえぜ。テメエラが何をどうしようと関係ねえ。俺はただ奇械どもをぶっつぶせりゃ、他はどうでもいいんだよ」


 奇械が来ないために四六時中寝続けていたイヴァンが姿を現わした。口調はどこぞのチンピラそのものだ。

 まるで新キャラに突っかかって行って一蹴される雑魚さながらだが、これでも『黄金』持ちにして、ルナですら認めざるを得ない力の持ち主だった。残念なことに。


「……イヴァン、お前も来たか」

「へ。祭りが始まるのに寝てられるかよ」


「イヴァン・サーシェス……! あなたが今更……!」


 シャルロットが睨みつける。寝てばかりのこの男を良く思うはずがない。しかも、それをアルトリアが許していると言うことが何とも憎い。

 もしかしたら好みの男なのではないか、と邪推さえする。最初のころは同じ部屋で寝泊まりしていたのだ。さすがにその次の日には彼女がファーファとともに別の部屋に移ったが。……とにもかくにも、心を許しているのは間違いない。少なくとも、己より。と、嫉妬を燃やす。


「は! お姫さんは引っ込んどけよ。その程度の力で何ができるよ」

「貴様! 素人の癖に……! 『黄金』所持者だからといって私たちを舐めるなよ。6本の槍の力を合わせれば貴様など」


「あん? そんな雑魚魔力じゃ死んじまうからやめといた方がいいって思っただけなんだがな」

「貴様ァ! もういい。私だけの力でも……!」


 彼女は魔導人形を纏う。そのまま殴りそうだが、イヴァンは鼻を鳴らしてその様を見ている。アルトリアが魔導人形なしでも倒せるのなら自分も、という己惚れだ。


「やめろ、シャルロット」


 アルトリアが止めた。


「そんな、アルトリア様! あなたも私を足手纏いだと言うのですか?」

「そんなことは思っていないさ。まあ、イヴァンの奴は社会不適合者だ。失礼なことを言ったが許してくれ。あいつに奇械を壊す以外のことなど期待していない」


 す、と手を差し伸べるとシャルロットは魔導人形を解除して抱き着いた。


「アルトリア様!」

「やれやれ、お前はしょうがない奴だな」


 子供にするように頭を撫でてやる。


「もう、私はファーファちゃんではありませんよ。もっと、大人なことをしましょう?」

「それは御免だ。それと……来たぞ」


 アルトリアはシャルロットを押しのけ、虚空へ向かって足を踏み出した。落ちる、その一瞬前に魔導人形を展開。空へと”堕ちる”、物理法則ではありえない直角の軌道だ。


「さあ――決戦の始まりだ!」


 宣言した。



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