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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
鋼の夜明け団編
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第48話 モンスター・トループ


 上層部の命を受け、臨時大佐の命を狙いに現れた刺客。その刺客は強かった。確かにアルトリアを始めとした人外どもには比べられないとしても、人間の到達することができる最高峰に位置するのは間違いないだろう。

 ――こと、剣技を使って人を殺すことに限れば。


「キヒ。ヒャハハハハ!」


 だが、それ以上の化け物が場を蹂躙した。

 臨時大佐の護衛であるナルシャ・レーンが絶体絶命に陥った直後に乱入してきた3体目、違法改造した『鋼』が縦横無尽に暴れ回る。機体が人型……それがどうした? 飛ぶわ、膝を前に90度曲げてジャンプするわ――どうしようもなく人間ではない。刺客が学んできた人間を相手にする術理が通用しない。


 定時連絡が途切れたらルナの手の者が助けに来る。ゆえに5分、ナルシャは全力を振り絞って攻撃することで逆にその5分をしのぎ切ったためにこの乱入者の登場が実現した。

 ……防御に回れば、その力量差では30秒も持たなかったことだろう。なにより、奇械を相手に腕を磨いたナルシャが得意とするのは攻撃だったという話で。見事にやり遂げられてしまった。


「おのれ、面妖な!」

「ヒィ――――ハァ――――」


 召喚したマシンガンで周囲を荒らし回る。かと思えば、即座に特攻して加速度を乗せた剣で斬りかかってくる。乱暴ながら、魔導人形にしてもあり得ない精密さが同居している。穿つ銃弾は重要なものだけを避けているのだから。

 刺客はその変幻自在の戦法に翻弄される。宙を飛ぶ大剣が突き刺さり、魔導人形に無惨な傷跡が刻まれる。


「が――対応できないほどでは……なに!?」


 剣筋が曲がる。技ではない、それならばこの刺客は全て読めるはずだった。やはり人間の骨格では成し得ない動き、関節の可動域を超えた奇襲。

 避けられたはずの攻撃が、虚を突かれて当たってしまう。そこは武を極めた者の陥穽だ。人間相手を極めると、今度は化け物に相性が悪くなる。


「これが上層部お抱えの暗部の力かァ!? 大したことねえなァァ!」

「化け物め、調子に乗るなァ!」


 【ブラッド】は凄まじいパワーを備え、かつ人間の可動域を超えた縦横無尽の斬撃を放つことができる。これぞ改造人間と言った、ステータスによる暴力である。

 ゆえに、褒めるべきはこの刺客の方だろう。銃で剣に勝つのは当たり前だが、ナイフ一本でマシンガンを相手に創意工夫で立ち向かうならば褒めなくてはならないから。


「死にかけの身体を捨て、あのお方に与えていただいたこの力! 鋼鉄の恩恵こそ、”絶対なるもの”なのだ! さあ、鋼の腕に抱かれて死ぬがいい!」

「……確かに強い。そして、操者らしく武の心得もある。強大なステータスに、従来の魔導人形による身体操作が加われば、これほど恐ろしいものだとは。が、人間を舐めるなよ」


 魔導人形に傷が刻まれていく一方で、刺客本人には傷一つない。 

 これこそが純粋な”人の力”というものだろう。ルナやアルトリアならば、瞬間再生で己を十全に保つが、それは人の力ではないのだ。

 特に『鋼』には人を癒す力などないのだから。


 ゆえに、傷つかないこと。これがただの人間には特に重要だ。血が流れれば体力を消耗する。そして、それだけではない。筋肉の一本でもちぎれれば感覚が変わる。痛みがあれば無意識にかばい、動きが崩れる。このレベルであれば致命傷でなくとも致命的だ。

 ゆえに全てを回避する。それが最大のステータスを発揮するために”人間に可能な”唯一の方法である。この刺客はその不条理を実現する。――そして、究極の技を放つのだ。


「柳生新陰流秘奥、【柊】」


 それは運命のように定められた一閃。

 しかし、その実は飽き果てるほどの経験、そして究極域にまで高められた武が高密度に融合した修練と執念の生み出す一撃だ。

 どのような抵抗も無意味と化す必殺は、ただひたすらな研鑽の先にある武の極み……必殺技であった。


「――がっ」


 【ブラッド】は喉元を貫かれ、動きが止まる。

 そう、化け物じみたこのモンスター・トループにさえ通用する必殺の一撃だ。これこそ武が、化け物を上回った証左とも言えよう。


「……ふ」


 そして、貫いた刀を横に一閃する。どう考えても必殺、即死の一撃だ。これで死なない人間が居るはずがない。


「勝った、と思ったか?」


 が、ニヤニヤ笑いの声が響く。その声は歪んで聞きづらくなっている。

 だが、最初から思いつくべきだった。彼はサブカルには明るくないとはいえ、それを聞いたことがないはずなどない。

 ……その声は、よくできた電子音とそっくりだった。


「ギャハハハハ! 馬鹿め! その程度で、あのお方の薫陶を受けたモンスター・トループを倒せるなどと思うなよ!」


 凄まじいパワーで殴りつけられ、刺客は壁に叩きつけられた。……受け身を取ったが、全身がしびれている。それでも魔導人形のパワーアシストを頼りに立ち上がる。


「見るがいい」


 がばり、と胸部装甲を開けた。メンテのためにそこが開くのは当然だが、わざわざ戦闘中にそこを開けるのは阿呆だろう。

 人間の身体であるそこを狙えば、ハンドガンでも操者を殺せるから。


「……え?」


 だが、チャンスであるはずなのに敵はぽかんと口を開けた。そこには信じがたい光景が広がっていた。幾人も人を殺してきたはずの彼でさえ、悍ましいと吐き気を憶えるほどに。


「これこそ、あのお方のもたらした神の力に他ならない」


 自信に満ち溢れたその声は、狂信だった。修練を積むことによって丹念に力を積み上げてきた彼にとって、それは唾棄すべきものだ。

 メスを入れる、薬物強化(ドーピング)。そんなものに頼る者を、彼は惰弱と見下して来た。ただ修練によって己の肉体を鍛え上げてきたのだ。


「なんだ、その身体……?」


 そこに、人間の中身など何一つなかった。無数の魔導紋章が明滅するチューブが幾本も蠢いて人型を形作っている。

 まるで無数のヘビが人を模しているような。無数に詰まった触手が鎧を動かしているような。それは、もはや邪神の遣いか何かにしか見えなかった。


「テメエラはいいよなあ、腕も、足も、中身(臓腑)だってきちんとあってさあ!」

「が……は!」


 呆けた刺客の腹を蹴った。あまりのスピードに反応できない。そいつは臓器がひしゃげ、真っ黒な血を吐いた。


「人間の世界を守る最後の砦『地獄の門』。そこに配属された日にゃあ、人生の終わりさ。1ヵ月を超えて戦い続けられる人間なんて稀。そして、運悪く生き残っちまったら、もうどうしようもねえさ」

「――」


 刺客はがりがりと地面をひっかく。まだ戦える、と震える膝を叱咤するが立ち上がれない。倒れ伏したまま、ただその悍ましい敵を睨みつける。


「人間ってのは不便なものさ。四肢の二本や三本もなくしちまったら働けねえ、稼げねえ厄介者のできあがりさあ。お宅も、上の連中に使われてるだけだろうがな。俺らと同じ、使い道が無くなったらゴミ箱行きの使い捨てさ」


 自分に酔ったかのように演説している。力に溺れた者の典型的な症状だった。


「……が、あのお方はそんな俺にこの力を与えてくれた。役に立たねえ身体を捨てて、新しく生まれ変わったのさ。あんたも、人類有数の力の持ち主なのだろうが――」


 剣を振り上げる。


「この力の前には、ゴミクズ同然だ」


 虫けらのように立ち上がろうとあがく刺客に向かい、床ごと砕けろと言わんばかりに剣を振り下ろした。


「……間抜けな……化け物が!」


 剣が振り下ろされる直前に、腕の力で自らの身体を横に飛ばした。そして即座に立ち上がる。

 そう、立ち上がることはできた。立ち上がれないように見せていたのは油断させるための演技だったのだ。


「喉を貫いて死なぬのなら、頭を落とすまで。柳生新陰流、【時雨】」


 半ばまで切り裂かれた【ブラッド】の喉元は、次なる一撃により完全に分断された。そして、刺客は油断しない。

 完全に殺し尽くすまで殺さなければ、化け物は生き返ると知っているのだ。


「とどめだ、生き返られても面倒……!」


 落ちた首に刃を突き刺した。が――


「ヒャハ! ヒィハハハハハ! ゲハハハハハ!」


 刃を突き立てられた頭から電子音の喚き声が途切れない、不意にノイズを紛らせながらもずっと笑い転げている。


「化け物め、最期を前に気が狂ったか?」

「もう一度言ってやるよ。この程度か? 人間」


 頭のなくなった身体が動いて刺客を蹴る。当たれば確実に死に至る一撃。


「……チ。どこまでも悍ましい。あのルナという少女が生み出した怪物がこれか。だが、四肢を斬り落とせばもはや動けまい……!」


 かわした。読めてさえいれば難しいことではない。切り返して腕を斬り落とそうとする。当たるはずだった、その力はもう見たから。

 ここからの切り返しはない、そのはずだったのだ。


「おいおい、化け物と呼ぶのなら油断するなよ。俺は化け物様だぜえ」


 腕が動かない。何かに掴まれている。奴の二本の腕じゃない”何か”――肩から生えた触手に。


「……この!」


 刀を持ち変え、突きに変えようとした瞬間、さらなる触手が生えて刀を持つ手を叩き壊した。それだけではない。

 ――この異形はそれに収まらない。


「さあ、終幕だ」


 5本目、6本目の触手が現れる。鎧の隙間から現れるそれは、腕や足どころか胸部からも生えてくる。まさに化け物だ。

 四肢を完全に捕えられ、宙に吊るされればもはや対抗手段はない。敵に動かせるのは口だけとなった。それで切り抜けられる状況ではなかった。


「その様です。私が負けた、あなたの名をもう一度お聞かせ願いたい」

「【ブラッド】、カデント・レツァ」


「私の名前はシス・ヤギュウ。言い訳はしない、私の力があなたの化け物さ加減に及ばなかったと言うこと」

「へ、ありがとよ。で、だ――相談だが、少し聞かせて欲しいことがあるんだけどよ」


「――」

「お?」


 ガリリ、と何かを噛み砕いた音がした。


「チ、死んでやがる」


 投げ捨てた。


「……んで、臨時大佐殿よ。どうするね?」


 カデントはその場に座り込む。落ちた頭を断面にくっつけると、即座に繋がった。声に混ざるノイズも収まっていく。


「殺したのか?」

「いんや、自殺した」


 彼は考え込む。ここからがこの臨時大佐殿の戦いだ。殺したのと、自殺では意味合いがかなり異なる。

 それこそ死因さえ偽装すればどんなことでも言い放題だが、それを言えば彼を派遣した派閥なら”すべてをなかったこと”にできるのだ。ゆえに、彼の派閥の敵を利用して有利に立ち回れる可能性を探っていく必要がある。


 ただぼんやりと上の指示を待っていれば、指示元の誰かに好きねつ造され、それこそ挨拶に来た彼を騙し討ちにしたことにされるだけなのだ。座して未来はない。

 真面目に仕事をしていたところを謎の敵が襲撃、護衛が耐えきった間に他の者が気付いて助けてくれた。そんな悲劇の男の立場を”獲得”してなくては、臨時大佐殿は謀殺されるのみであるのだから。


「了解した。君は休め、ナルシャも次の者と交代すると良い。まったく、仕事が山積みだな」


 きり、とした声で宣言した。




 【ブラッド】の元ネタは1章で登場済みのレン=ジェリーフィッシュです。1章83話にて、攻撃が通用しない液体の身体でエレメントロードドラゴンを打倒しました。彼女もルナが改造した改造人間であり、彼女の不死性を劣化複製したのが【ブラッド】になります。

 ルナが特別に改造を施した彼女は培養液から出れば1時間で死ぬ定めでしたが、【ブラッド】はメンテさえすれば何年でも持ちます。

 ただし性能は劣っており、切っても突いても死なないが、ビーム攻撃は喰らってしまう。その上、急所である脳殻を破壊されれば死にます。生身の内、脳だけは残してあるために限界がある廉価版と言ったコンセプトで作成されました。

 ……ちなみに脳殻は股間部分に収納されているので、股間を刺せば死にました。



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[気になる点] つまり股間への攻撃はまさに急所攻撃……(゜ω゜) [一言] 遺体が残ってたらルナさんが何かするだろ( ˘ω˘ )
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