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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
鋼の夜明け団編
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第47話 襲撃 side:臨時大佐


 ルナたちが休日を楽しんでいる最中、臨時大佐殿はやはり書類仕事に追われていた。

 もっとも、書類仕事とは言っても無駄に書類ばかりがたくさんあるような、ある意味テンプレ的な大企業と言うわけではない。そんな形式に則るためだけの無駄をしている時間はない。

 どちらかと言うと、人間関係の調整に近いものだ。一つの国として防衛戦をしている以上、個人が勝手なことばかりを言うわけにはいかない。

 戦線を統括する者に承認を貰う必要があるのだが、そのためには他の戦線の責任者に話を通しておく必要がある。複雑怪奇な人間関係を一本一本紐解いていく面倒な手順を踏む必要がある。


 本来の目的を果たす方法を考えるより先に、そういうことを考えなくてはいけないのは世の常だ。正しいことを言っただけでは通らない。大規模な組織の幹部になってくると調整能力こそが重要であるのは当たり前の事実だろう。

 こっちの誰かはあっちの誰かと折り合いが悪く、そちらの誰かはあちらの誰かに不満を持っている。そんなことばかりだ。


 まあ、とどのつまりはそう言った調整作業に無限に時間が消えていくのだ。それが悲しい中間管理職の宿命で、偉くなればなるほど絡みついてくる。それこそ、平民が上がれる程度の立場ならば。


「……ティトゥス・アインス様、ですね?」


 ティトゥスが彼の本名、まあほとんど呼ばれていなかったが。ある意味で波に爆弾を投げ込むような徒労を続けている彼に、意味深にアポなしの客が来た。

 それはゆらりと現れた幽鬼のごとき男。誰にも見とがめられることなく、この指令室にまで足を運んだ。中肉中背の普通の男に見える。イケメンではないが、見ていて不快でもない程度の顔だ。逆に言えば印象に残りづらいということである。


「ああ、急用が出来た。後は宜しく頼む」


 臨時大佐殿は電話を切る。その男に改めて向き直った。

 このように登場するならば、友好的な用件であるはずがない。だが、それで怯えた顔をするようなタマでは『地獄の門』の司令官は務まらない。


「命令はどこからだ? まだ私には利用価値があると思っていたのだがな。それに、私を始末すれば、あのお嬢様がへそを曲げるぞ」


 みっともなく取り乱すなどしない。この程度の面の厚さなくして成り上がることなどできなかった。

 上がってくのはコネがある奴ばかりで、彼にとってはやっと掴んだチャンスだ。諦めるつもりなど毛頭ない。暗殺? 覚悟の上だ。全て乗り越え、この世のすべてを掴むまで諦めなどしない。


「答えると思いますか?」


 帰ってくるのは普通の声色。だが、それが逆に恐ろしい。人を殺すことをなんとも考えていない顔だ。

 そして、この中肉中背も偽装の範疇だ。服に隠された下には、高密度に鍛え上げられた肉体が秘められている。


「――止まれ。動けば撃つ」


 後ろに控えていた護衛が銃を向ける。量産型とはいえ『鋼』だ、生身の人間が敵う代物ではない。

 だが、刺客は護衛が居ることなど最初から分かっているはずだ。なぜなら、この男も臨時大佐の上に居る誰かの命を受けてここに来たはずだから。彼が私兵だとしても、指示元は同じ組織……教国だ。


「ナルシャ・レーン様ですか。しかし、ひとこと言わせていただくなら判断が遅い。あなたは奇械との戦闘を繰り返し、生き残ってきた勇士なのでしょう。しかし、人による殺し合いを体験した猛者ではない。人と人の戦いに限るならば、あなたの勝ち目は声をかけるよりも前に”それ()”を撃ちまくることにしかなかった」


 その男は手を上方へと向ける。魔導人形を纏おうとしている、そう判断したナルシャと呼ばれた護衛は引き金を振り絞った。


「――魂を捧げよ、『スティール・ソルダート』」


 教国で共通に使用されているキーワードを唱えた。

 駆ける。銃弾は現れた装甲に跳ね返された。動きながら装着することで、魔導人形を纏う一瞬の隙をカバーする。

 ……アルトリアも使った妙技だった。つまりは、相当の達人であることは間違いがない。


「チィィィィィ!」


 銃では装甲を貫けない。貫けるような大砲をロードするためには一瞬の時間が要る。が、そもそも『マグナムブラスター』は砦の内部で使える代物ですはなかった。

 よって、剣で応戦する以外に選択肢はない。ナルシャは銃を投げつけ、剣を手にする。


「なるほど、一瞬の判断力は素晴らしい。けれど、やはりそれ”だけ”では私を上回ることなど出来はしない」


 刺客は最初から刀で戦う気だった。ゆえに、一拍だけ出現が早い。無駄に刃を振り上げることもせずに、鎧の隙間を狙って下から首を刈る。


「――させるか!」


 が、間に合う。武器の高速召喚は生き残るためには必須の技だ。のだが――彼本人は剣を振り回して戦ったことなど殆どない。

 魔導人形のサポートにより10年修行した剣士のごとく振るうことはできる。……が、立ち回りは自分がやるしかないという欠点があった。


「柳生新陰流、【裏柳】」

「――プログラムスタート『ハイクイ』!」


 刺客が繰り出したのは柳のように”しなる”斬撃。そして、ナルシャが出したのはイソギンチャクのように敵を捉える斬撃技。

 彼自身が学んだ技でなくとも魔導人形の技は流々と放たれる。10を超える斬撃が宙に消えた。この一合はしのいだ。


「なるほど、流石に一流ですか。柳生新陰流、【裏四月尽】」


 敵の勢いが弱くなる。が、それはむしろより窮地に陥った。先の一合で力量を把握されてしまった。そして、技の終わりに大きな傷が一筋刻まれる。


「負けるものかよ、人殺しに。俺は人類を守る戦士だ! インストール『イーウィニャ』!」


 刺客の高速連続攻撃は、鎧の隙間を正確に狙って出血を強いる。

 が、ナルシャはそれがどうしたとばかりに絶死の一撃を見舞う。奇械の硬い装甲すらも切り裂く一撃は『鋼』をも切り裂くのだ。

 敵はかわす――が、一撃入れればそれで終わりだ。けれど、10を超える斬撃を繰り出してもなお、ただの一度も当たらない。


「しかし、私の方が強い。お別れです。柳生新陰流奥伝、【時雨】」


 強烈な一撃を繰り返したことによる疲労、そして出血により消費した体力。全てがナルシャに悪く働いた。

 ……否、全てを仕組んだのが奴だ。この死合運びを最初から想定して誘導していた。ぐらり、とナルシャの視界が傾いた瞬間に首元に絶死の一撃が迫る。


「……っぎ! 負けてなるものかァ!」


 かわす。無理やり力を込め、あらぬ方向に飛んだ。相手の切っ先がどこに向いているか分からない。運が悪ければ首がそのまま落ちる。

 が、彼は賭けに勝った。しかも、頭部と胸部の鎧の間に刀が挟まれたことで、期せずして敵の刀を折った。

 一点して逆転、と喜んだのもつかの間。刺客はすぐに新たな刀を召喚した。


「なるほど、私達が扱うものとは違う強さですね」

「うるせえよ、さっさとくたばりやがれ」


 ナルシャは悪態を吐く。あの刀は普通に折れた。朗報ではない、あの力が超能力とか最新の兵器ではなく、ただの修行によるものと分かってしまった。

 一つ一つの技で劣っているわけではない。……劣っているのは、”技の繋ぎ”だ。

 どうしようもなく、相手の経験が上だと言うこと。これは戦争ではなく、一室の中での殺し合いだった。駆け引きでは、必ず向こうが上を行く。

 それが、実力差と言うものだった。だが、無様に首を差し出すことはしない。


「その強さを乗り越え、私はその先に行く」

「知ったことかよ」


「……一つ、聞かせて貰えませんか?」

「何だよ?」


「なぜ、その男を助けるために躍起になるのです? あなたはただの一兵卒。彼との繋がりがあるわけではない。そもそも上層部との繋がりも何一つない。幸運にも、いいえ、その実力によって23回の交戦を乗り越え、その戦績をもって『鋼』を与えられた」

「よく調べてやがんな。あと、幸運つって断言しちまってもいいぜ? 死んでいった仲間より俺が優れてるなんざ思ってねえ。ま、俺のファンが居たとは初耳だがな」


「ここで逃げればいい。彼はあなたの定義する仲間とは違うはずだ。ここで起きたことは後ほど”なかった”ことになる。あなたの失点はどこにも記録されない。ただ、無関係な命が一つ消えるだけです。……それとも、彼に何か期待するものでもありますか?」


 臨時大佐殿を見る。一縷の望みにかけて電話を掛け続けているが、何も成果がない。通話が終了した時点で、この刺客が一帯に妨害をかけた。

 あと数分は何をしても誰も気づかれない、砦の中の密室だ。


「期待? お笑い草だな。そいつが何かを変えてくれるなんて思ってねえよ。アルトリア・ルーナ・シャイン? ルナ・アーカイブス? 奴らは想像もつかないような力の持ち主だが、こんな世界でまともな救いなんて期待する方が馬鹿ってもんだ」


 ため息を吐く。


「――ただな。俺は、俺の任務を裏切れねえ。皆、自分の任務を果たして死んでった。だから、俺だけ逃げたら地獄でアイツラに会わせることがねえんだよ! 行くぜ、『ジョン・ダリ』!」


 高速の斬撃、二の太刀を想定しない一撃必殺。

 を――敵はこともなげにかわして見せた。どれだけやぶれかぶれになったとて、積み重ねた敵の強さを上回れない。


「……ギ、連続インストール『クラトーン』!」


 だが、挫けずに滝のように力強い一撃を放つ。が、無理に放ったせいで筋繊維が断裂した。しかし――無理をしなければ勝てないと決断したがゆえに無理を通す。

 リミッターを解除した魔導人形は、たとえ操者の筋肉を断裂させようと骨を折ろうと強制的に一流の技をその身体に実行させる。


「『トラジー』! 『ウーティップ』! 『ダナス』!」


 腕よ砕けよとばかりに技を放ち――


「しかし、やぶれかぶれでは意味がない」


 技の合間に挟み込んだ敵手の刃が、スパリと腕を斬り落とした。腕が落ちる。二度とくっついたりはしない。彼の纏うそれはオリジナルではないのだから。


「――っが。ぐぅ……! まだ、まだだ! 『クローサ』」


 片腕で技を放つも、後ろに飛びのくだけで易々と回避されてしまった。ここまで技で上回られて、しかも腕は一本しかない。

 もはや絶望的だろう。勝ち目など、わずかすらも残っていない。1万回やったところで、1万の骸を晒すだけなのは明らかだ。だいたい、”滅茶苦茶に技を出しまくればまぐれ当たりがある”などという姑息なやり方は効果を奏しはしなかったのだから。


「ふむ。まだ諦めていないとは脱帽ですね。しかし、もう終わりです。あなたを殺し、その男を殺すとしましょう」


 見れば、臨時大佐殿も魔導人形を纏っている。

 だがそれは最下級の『銅』で、しかも見るからに扱いに慣れていない。首を刈るのに何一つ苦労はない。


「おやおや。しかし、あなたごときの力量ではどちらであろうと同じこと。苦痛もなく、一息にあの世へ送ってあげましょう」


 刺客が一歩を踏み出す。ナルシャは膝をついてしまう。もはや戦えない。


「だろうね。テメエは強いさ、間違いなくな。が――勝ったのは俺だ」

「何ですって?」


「電話一本で『鋼』を纏った連中がなだれ込んで来る手はずになってる。そっちはご存知の通りで対処済みだろうが、こっちは知らなかったようだな」

「何を……知らないと?」


 敵手の背筋に冷たい汗が流れる。ただのでまかせではない。刃を合わせたのだ、嘘を言っているかどうかくらいは分かる。


「ルナ・アーカイブスがな、勝手に5分ごとの定時連絡を俺に義務付けたんだ。で、もう5分経った。俺はただ――5分をお前から奪えばよかったんだ。それだけだ。大変だな、暗殺者ってのは。騒ぎを起こしたら、それだけでゲームオーバー。しかも、別口で用意した罠に引っかかってもダメとはさ。……本当に、ご苦労なことだよ」

「――ならば、その男だけでも……!」


 刺客が刃を投げようとした瞬間、天井が崩落する。


「ヒャハハハハハ! 鋼の夜明け団(フルメタル・ドゥーン)が【モンスター・トループ】、【ブラッド】のカデント・レツァ様の登場だぜぇ!」


 天井を蹴り壊し、落ちてきた男は宣言する。ルナに忠誠を誓い、重度の改造手術を受けた”元”人間。人を捨てたモンスター・トループの一員である。

 妙に高い、キンキンとした男の声が邪悪さをもって空気を震わした。


「あのお方に捧げる人柱の一本になるがいい!」


 宙に浮かぶ巨大な剣を振るう、速すぎる。しかもまごうことなき室内で、文字通りに本人すら”飛ぶ”のだからやってられない。 

 魔導人形にもともと飛行機能が付いていても、障害物に当たれば失速する。機体の制御を失えば事故を起こすだけなのに。

 ――この男は曲芸飛行をいとも容易く成功させる。まるで、正確な機械制御のように。


「なるほど、これが奴のもたらした人外の力ですか。しかし、ここは人の領域ということを忘れないでもらいましょうか。人を捨てた化け物に、好きにさせはしない……!」


 刺客も諦めていない。殺意とともに刃を向けた。



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