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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
鋼の夜明け団編
207/361

第46話 デートの時間


 そして、教国の中でも第二の地獄、『地獄の門』に続く激戦地である『アダムス』へと足を運び――門前払いされてしまった。 

 そりゃそうだ、アポも何も取っていなかった。上に話を通すと言う話が臨時大佐から出ていたが、通るような気配が見えなかったのでルナたちは直接足を運んだのだから。が、しかし直接出向けば会ってくれると言う保証もないだろう。

 要するに顔も知らない『黄金』を纏う彼は、そういう儀礼的なところを重視する人柄だったということだろう。だから、会わなかった。


 ――暇になってしまった。


 ただ、第一の目的が果たせないからと言って他の仕事まで投げ出すわけにもいかない。第二や第三の優先順位ならば、いくらでも仕事があるのだから。

 アルトリアは義理を通すため傭兵ギルドで仕事をすることにした。ファーファも当然のごとく連れていかれた。

 イヴァンの方はバイクを流しに行った。病毒に侵され、しかして打ち勝つことで人外の力を手に入れたイヴァンは、今やアルトリアに逆らうこともいとわない狂犬となりどこかで敵を倒し続けている。


 そして、ルナはと言えば。


「ふふ。久しぶりに、三人だね?」


 それなりの大規模な街の一つに潜り込んでいた。そこらへん、不法入国の手管は完全に心得ている。

 いつものごとくのふりふりのスカートはきらびやかに過ぎて、街中で完全に浮いてしまっているが……まあ、そういうものとして見ればそこまで不自然でもない。中に入り込めば警備兵の姿も見えない。


「うむうむ。最近は余り構ってくれなくて寂しかったぞ?」


 ルナを抱きかかえてウリウリと頬を突くアルカナは、きらびやかなメイド服を着ていた。まあ、そういうお遊びだ。

 どこかのお貴族様が、お気に入りのメイドを連れて遊びに来たという設定。

 休みもなく働き続けてきたのだから、少しくらい休日を挟んで構ってやらなければ二人が拗ねてしまう。


「アリスは、寂しくなかった」


 つい、と顔を横にそむけているアリス。けれど、ルナのスカートの裾を掴んでいる。言葉とは裏腹に、寂しがっているのは明白だった。

 かわいらしく頬を膨らませて、不満を表明している。


「あはは。ごめんごめん。サンプルが多かったから……ね? でも、忘れてたわけじゃないんだよ」


 抱き上げられたまま、顔を上げてアルカナの頬にキスをする。


「……!」


 裾を掴むアリスの腕に力が籠る。スカートがずり脱げそうになっているが、むしろアルカナの腕の中からルナ本体が落ちそうだ。


「アリスも、ね」


 アルカナに抱えられたまま、アリスを抱き上げてこちらにもキスをする。


「ふふ。こういう時間も良いものだね。女の子だけの甘い空間、けれど1時間前は手術室の血臭に沈んでいたんだ。本当に酷い落差、笑ってしまうくらい」


 本当にくすくすと笑いだす。実は天下の往来でこんなことをしているのだが、特に咎められはしない。

 注目の的ではあるのだが……まあ、女同士で、それもアルカナでさえ子供の範疇で収まってしまいそうな外見だ。それを言ってしまえばルナとアリスは幼女なのだが……

 まあ、怪しい光景ではあるが、通報するほどではない。


「くふ。せめて今日くらいは妾と遊んでくりゃれ?」

「ルナ様、アリスはルナ様の意思を優先するけど」


 二人が口々に違うことを言うが、しかし要求しているのは同じことだろう。愛してほしい、構ってほしい、それだけだ。

 愛を実感できればそれでいい。それ以外に興味などない。


「――うん。まずは喫茶店にでも行こうか?」


 ルナはアルカナの腕から降りる。二人と手をつないで歩き出す。


「うん、結構繁盛しているものだね」

「人通りも多いな。まあ、普通の人間は街の外を歩けんからな。娯楽と言えばショッピングに食い物のことくらいか」


 密着しすぎて倒れそうだが、それで倒れるなら人外ではないだろう。無駄に人並み外れた筋力で、もたれかかるような半分押し倒そうとしているようなアルカナを支えて歩いている。

 アリスも似たような感じで半分おおいかぶさる形で歩いている。身長が同じくらいで大した負荷はないが、甘い体臭がただよってくる。


「まあ、そこら辺の努力と言うものはすごいよね。工場で培養された画一化された材料でよくやるものだ。天然物であれば、どこそこ産の何とかとか売りにできるわけだけど。工場産では職人の腕以外に違いはないから」

「そこは職人そのものの違いもあるのではないか? ほら、妾ならルナちゃんの作ってくれたものであれば泥団子でも喜んで食べるぞ」


「そこはもう少し頑張ってくれた方が張り合いが出るんだけどね。黒焦げにしても、皆気にしなそうだし。洒落にならないから、逆に失敗できないんだよね」

「ああ、隠そうとしておったな。ルナちゃんは」


 ニタニタと嫌らしい笑みを浮かべる。ルナは、ぷす、と唇を尖らせた。キスできそうな距離で甘い会話をする。


「結局見つかってしまったけどね。消滅させる前に確保されてしまっては諸共に消し飛ばすこともできなかったよ」

「くふふ。ルナちゃんの手が入ったものであれば、何であろうとご馳走じゃて」


「大切な人には見栄を張りたいものでしょう?」

「大切な者であれば、一挙手一投足さえも見守りたいものであろ? それに、完璧などどこにも存在しない。この身が神の一柱であるからこそ、知っておる」


「神様として、黒焦げクッキーの歴史は闇に葬りたかったな」

「くふふ。そうは行かんなあ。そのメモリーは大切にしまっておるでな」


「……むぅぅ」

「くふ、可愛いな」


 ルナはまた抱きしめられて頭を撫でられてしまう。むくれているが、顔は笑っている。どこか映画のワンシーンのような甘い一時。

 幼女と少女のそれは大分犯罪的であったが。


「アリスはルナ様の嫌がることなんてしないけど」


 と、言うアリスも黒焦げクッキーは食べていたが。この子はこの子で犬のように顔をぐりぐりと押し付けている。


「ルナ様のお茶会、アリスは好きだよ。たっぷりクリームを乗せたスコーンも、ネコさんの形のクッキーも、かわいいマカロンも。ルナ様と一緒に皆であつまって食べると、楽しいね」

「ふふ、ありがと。アリスはいつでも僕の味方だね」


 アルカナをぐい、と押し戻してアリスに頬づりする。たっぷり頬の感触を楽しんだ後、至近距離で顔を見合わせて笑い合う。


「妾も混ぜて欲しいのじゃ」


 二人をまとめて抱き上げた。くすくす、きゃらきゃらと笑い合った。


「――あれ? もうこんな時間かな」


 何もしていないのに時刻は昼前だ。まあ、この三人は仕事がなければいつでもこんなものだ。悠久の時間を生きる終末少女に、飽きるなどということはない。

 

「ふむ。”かふぇ”にでも寄って食事を取るとしようか」

「アリスは、マカロンを食べたいかな」


「アリスよ、それは食事ではないぞ?」

「……? お茶会で食べる、よ」


「こういうときは、パスタとかを食べるのが人間らしい暮らしと言うものだぞ」

「パスタは細くてつるつるしてるから、いらない……」


「やれやれ……」

「人間は、ねつりょーせっしゅごときに、めんどーなことをする」


 呆れたようなアルカナと、しったかぶったようなことを言うアリス。


「あは。ま、いいじゃない。僕もプリンを食べようかな」


 くすくすと、抑えきれないと言った感じでルナが笑う。


「ルナちゃんが良ければそれで良いがな」

「アルカナは何を食べるの?」


「……クッキーにでもしようかの」

「そこはパスタじゃないんだ」


「時折、出撃前に必ずパスタだのカレーだのドリンクだの喰わされた時があったじゃろう? どうにも工場製というのが好きになれんでな」

「あれは周回のためだから仕方ないね。ただ……まあ、人間の作ったものも、箱舟の工場で生産されたものも同じとしか感じられないのも、仕方ないのかな」


「ルナ様、いこ?」


 ぬいぐるみが飾られているショップを指さす。そこでも2,3時間は粘っていちゃいちゃしていた。


 そして、そこからも離れて、夕方に差し掛かかり散歩している最中――


「動くな!」


 『銅』を纏う男が一人、そしてそいつを囲むように銃を持ったみすぼらしい格好の男たちが現れた。

 ものものしく武装した男たちが人並みの途切れた薄暗がりから威圧する。素人らしさが逆に間違って引き金を引きそうで恐ろしい。


「――へえ」


 ルナはちら、と周囲を見る。助けに入る様子はない。丁度居合わせた人達も、身をちぢ込めせてそそくさと立ち去ろうとしている。

 まるで関わり合いになるのを避け、野次馬に徹すれば危険がないような態度だった。だが、実際にそれは正しいのだろう。相手は人間だ、野次馬でも無意味に殺せば敵に回る。結局のところ、無差別に人を殴りまくるような奴はすぐに死ぬ。重要なのは、暴力を背景に脅しを聞かせることだ。――”暴力を振るう”ことではない。


「まあ、狂犬ではないようだ。確かに犬程度の知能はあると認めてやろう」


 ルナの言に、マフィアたちは一様にハテナマークを浮かべていた。あまりにも直接的、かつ容赦のない言葉に脳が理解するのを拒否した。


「――テメエ!」


 そして、遅れて理解するとともに銃を鳴らす。この銃が見えないのか、マヌケと。だが、これ見よがしに銃を掲げても、ルナは鼻で笑うのみだ。


「で、どういうつもりかの? 理由いかんによっては対応を変える必要がある……か……の。ああ、面倒だ。せっかくのデートに、虫がついてきた。……殺すか」


 アルカナの瞳に危険な光が灯る。何をしたところであとでもみ消せばいいだけだ。そのために必要な金を調達する手段はいくらでもある。


「――あ。ルナ様、こわいよ」


 突然、アリスが震え出してルナに抱き着く。男たちが現れたタイミングでもないから、今思い付いたのがバレバレだが、ルナはでれでれしている。


「ち、そういう手があったか。今からでも遅くはないか? じゃが、キャラ的に――」


 銃声が響く。コントをしているルナたちに耐えきれなくなって上空に発砲した。


「なんなんだ、テメエラ! こっちは銃を持ってんだぞ! 大人しく従いやがれ!」


 ずんずんと無遠慮に近づく男は、スキンヘッドの上にこれ見よがしに腕に刺青を入れている。それは狼の紋章、どうもコイツがリーダーらしい。


「ふむ……で、改めて。何のようじゃな?」


 アルカナがルナとアリスをひとまとめに抱きしめる。顔は笑っている。面白い冗談でも聞いたような顔だ。


「はん。テメエらブルジョアはいつも俺たち庶民を犠牲にしやがる。毎日毎日朝から晩まで工場に閉じ込めやがって。それで得られる賃金は雀の涙だ。ブルジョアは呑んだことがねえだろうがな、安物のくそマズイ酒で目が見えなくなった仲間もいる」


 下からねめあげるように睥睨する。がちゃがちゃと銃を鳴らして威嚇することも忘れない。


「ちょっとくらい、返してもらったっていいだろう? こんなところに護衛もつれずに来るなんて不用心だぜ、嬢ちゃん達。よく見れば、あんたはいい身体してるしな。上流階級ってのはこんなイイ女を抱けるのかよ。ま、ガキにゃ関係ねえか」


 下卑た笑いを浮かべ、アルカナの腕を取ろうとして。


「――やめときな」


 凛とした声が響く。女――それも、若い。外見年齢で言えばアルカナと同クラスだろう。見れば、まあ胸は残念なことになっているが。

 ルナ(子供)とどっこいどっこいと言うことは、将来に期待などない。


「ああ? なんだ、神殿の嬢ちゃんかよ。アンタの出る幕じゃねえんだよ。それとも、あんたを人質にすれば、連中は金をくれるのかね」


 彼本人は乗り気だが……


「お、おいボス。止めといたほうがいいんじゃねえか? 神殿を敵に回したらこの街じゃ生きていけねえよ」

「うるせえってんだよ。どうせ金がなきゃ生きていけねえんだ! この街で生きていけねえなら、他の街でも何でも行くしかねえだろうが!」


「ボス……でも」

「だから……ッ!」


 仲間同士でいがみ合う彼ら。


「アタシの話を聞かねえ奴らだな。見なかったことにしてやるから、消えろって言ってるんだよ」


 ガンを付けに来たリーダーの腕を取り、合気で沈めた。


「で、そこのアンタ。使えもしないガラクタを着たって身体を壊すだけだ。さっさと脱いどけ。歩くだけで精一杯で、見てられねえんだよ」


 恐れをなしたのか、彼らは気絶したリーダーを背負いつつ、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


「で、だ。何の用だ、ババアども。この街にゃお前たちみたいなやつが求めるようなものは何もない。ただ、残骸があるだけだ」

「……くす。”神殿”ね」


 ババアと呼ばれたルナは面白いものを聞いたかのように破顔した。銃を向けられたときの見下した笑顔とは別だ。

 出来の良いブラックジョークを聞いた時のように朗らかに笑っている。


「どこからか取り出した銃をしまいやがれ。この街は平和な街だ。アンタらを助けたわけじゃない。いけ好かない奴らだが、黙って殺されるのを見てんのは趣味じゃねえんでな」

「あは。心優しいお嬢さんだ。それに、ババアて。……っぷ。くふふ、そんなこと言われたのは初めてだ。否定はしないよ。……くくく」


 壺に入ってしまったのか、笑い続けるルナ。その姿を見て、彼女は眉をひそめる。そして、直情的な性格は先ほど見た通り。

 襟を掴み上げてやろうかと一歩を進み。


「ふざけてんのなら――げほっ。がは! っぐ――」


 血を吐いた。ルナは何もしていない。ならば……


「アレミラ!」


 また別の男の声。彼女のことを心配しているのか、酷く焦っている。まあ、無理もない。なぜなら。


「蒸気病か。まさか、この時代に民間人のサンプルが居るなんて思わなかったよ」


 蒸気病。それは、ルナが前に居た世界では誰もがかかりうる病気だった。特に、工場の心臓である機関(エンジン)を生産する王都では、貴族以外は皆それで命を落としていた。

 それは工場から出る排煙を吸うことにより発生する病。人類文明の礎となった、魔石を燃料とした産業技術。けれど、魔石を燃やせば有毒の蒸気が発生する。あそこでは、毒を受け入れ、短い寿命を受け入れて生きていた。……この世界も同じこと。

 ただ、明らかにこちらの文明の方が発達している。即ち、瘴気の無毒化技術だ。もっとも無毒化とは濃淡をつけること、毒を街の外に捨てること。対策もなく外に出れば、一息で致死に至る。


「――ッ!」

「現代の工場には排煙を無害化する装置が義務付けられている。浄化槽を通し、幾枚ものフィルター、更には浄化水まで通してね。が、1%に満たないほどの取り残しにも過敏に反応してしまう例があるようだ」


 ルナは咳き込む彼女の脈を取る。


「分かるのか?」

「これくらいはどこの医者にも分かると思うけどね。大体、昔の話とはいえ検体データくらいは残っているだろうに」


「……それが、妹はどこの病院でも治すことはできない、と」

「それは当然だね。基本的に手遅れなまでに進んだ中毒は症状を緩和するか、ダメになった臓器を取り替えるしかない。残念ながら、人工臓器を作る技術はどこも持っていない。その医者がヤブだったわけではないさ」


「あなたにも、その術はないのですか?」


 期待した顔が一気に落胆した顔になった。


「しかし、まあ――これはどういうことだろうね」

 

 が、見る限り彼女には何か例外がある。前の世界で蒸気病の患者はいくらでも見てきた。だが、それとは少し様子が違う。

 ルナが腕から腹にかけて触診しようとして。


「やめろ、触るな」


 手を払いのけられた。


「アレミラ、この方は蒸気病に詳しい方らしい。何か、治す方法を知っているかも……」

 

 男はおろおろしている。だが、それは妹を心配してのことだろう。良い兄なのは確かで、そして人柄も良さそうだ。

 惜しむらくは、生まれながら顔が凶相に近いものであることだろう。これで笑えば、歯を剥き出しにするライオンのごとくだ。気の弱い者が見れば失禁する。


「そいつは信用できない奴だ。帰るぞ、アキタカ。こいつの手を借りる必要はない」


 無理やり起き上がる。立つだけで足の骨が折れかねないのによくやる、とルナは感心した。


「ま、無理強いするつもりはないさ。君には少し興味がある。神殿とやらの正体も含めてね。軍に連絡すれば僕につながるようにしておこう」

「え。いや――ちょっと待ってくれ、アレミラ」


 彼はルナに向かって頭を下げつつ、彼女を追った。


「では、ね。面白いものを見れた。さ、アルカナ。むくれないで。今日はどこかに宿を取ってお泊りして帰ろう? 砦の方は問題ないさ。……この僕自ら力を与えた【化け物部隊】(モンスター・トループ)が居るのだから」


 残してきた彼らを想い、くすりと笑った。度重なる改造により人の形さえも捨て去った改造人間。その力は、並みの『宝玉』すらも凌駕する。

 一晩程度、ベッドでお楽しみをしても問題はない。



 久々の糖分投下です。連載の初めは半々くらいでコーヒー風味の砂糖と焦げコーヒーを往復しようと思っていましたが、甘々エピソードは中々筆が進まない……


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[一言] 夕飯までに帰るとは何だったのか( ˘ω˘ )
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