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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
鋼の夜明け団編
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第45話 新たな街へ


 遊星主の撃退、その前代未聞の快挙は砦の兵たちに喜悦と興奮とをもたらした。が、やはり”上”にいる人間になると素直に喜んでいて良い訳がない。

 今回はルナも祝勝会は開かなかった。これは”兵”の勝利ではない。”英雄”が雁首を揃えて、敵の一人を殺すこともできなかったという敗北だ。


 そして、【キャメロット】と臨時大佐殿が秘密の会合を開く。


「――さて。集まってもらってすまない」


 その臨時大佐殿はやりにくそうにしている。そりゃそうだ、彼はこの砦で一番偉いものとして『鋼』の護衛を一人連れてはいる。だが、あくまでも建前の上だと彼本人も分かっている。彼は命までかけて守ってくれることはない。

 そして自身は『銅』だ、文武両道を地で行けるのは最初から恵まれた環境に居る貴族くらいで彼は違う。自らの暴力は弱すぎて頼れない。信用できない護衛ですら、この臨時大佐殿より強いという事実。

 そして、暴力を背景に話すのはマフィアだけではない。”ここ”も、そういう場所だった。


「いいや、気にしないでくれ。君が呼んでくれなければ、僕から呼んでいたから」


 ルナが支配者のごとく鷹揚に頷いた。こちらの護衛についている『鋼』は4機。『マルドゥーク戦役』と名づけられたあの防衛戦以降、キャメロットを除いて最も活躍した兵士であり――ルナに忠誠を誓っている狂信者だ。

(ちなみに、防衛戦の名前を付けるにも喧々囂々の議論があったらしい。派閥争い、ご苦労なことだ)


 理由は簡単。補充にと贈られた『鋼』を、ルナは忠誠心の高さだけで候補者を選んだから。そして、彼らは忠誠心の高さからどんな改造でも受け入れたから”強い”。ただ、それだけの話だった。 

 希望があるとすれば、護衛としての実力は奇械の撃墜スコアとは違うこと。この4機がどれだけの戦績を誇ろうと、それだけで強い理由にはならない。4対1になったとして、1が護衛対象を守り切る目はないわけではない。

 しかし、この臨時大佐殿にとってみれば、万が一が起きたときに自分の護衛が勝つ姿は思い浮かばなかった。それに、別に命をかけて挑んでくれるわけでもあるまいし。


「こちらでもデータは採取したが、君たちに遊星主について聞きたい」


 臨時大佐殿は震えそうになる声を抑え込み、せめて威厳を示そうと低い声で話す。立場は己の方が上であると信じている。

 組織として、一般的な感性の上では”上”だろう。まあ、ルナやアルトリアも異論を唱えることはしていない。……下の人間が誰に従うかはさておき。


「そうだねえ。まあ、君たちが取れた程度のデータを僕らが必要とすることはないだろうしね。ところで、解析データはコイツに入っている。後で分析班にでも回すといいさ」


 データディスクを投げた。ルナはいつも通りだ。そちらに遠慮する必要などないと言わんばかりの傲岸不遜である。


「感謝する。……砦の分析器よりも詳細なデータが取れているな」

「それこそ、ここまでの汚染は想定されていないさ。分析器の性能不足と言うよりも、現状の高濃度汚染を何とかする方法を考えるべきだと思うね」


「考えておこう。奴らの目的についてはどう考える?」

「あいつらの思想は大艦巨砲主義だね。まあ無理もないし、遊星主一強……一強? とにかく、遊星主の力は『奇械』の中でも抜きん出ている。雑魚が何万匹もいるより、強い奴一匹の方が脅威なんだよ。少なくても、奴らの中ではそうなっている。人間にも同じ法則を適用して警戒しているのさ」


「確かに、その傾向は昔から指摘されているな。奴らが参戦するのは量産型よりもオリジナルを狙ってのことだった。歴史を紐解けば、破壊された『黄金』も複数ある」

「ゆえに、今回奴らのテリトリーに侵入した『黄金』を破壊しようと追いかけてきた。あのエルドリッジクイーンは明らかに省エネ型だね。馬鹿げた力で地表ごと消し飛ばすより、小癪に体力を削り切った方が使うエネルギーは少なくて済む」


「奴らは波状攻撃を仕掛けるのみで、『奇械』共に高級な戦術思想などないと言う一派もいるが……」

「それは間違っているね。際限なく湧く低級奇械どもはともかく、奴らの帝国には戦略がある。能無しと侮れば、滅ぼされるのは人類の方となるだろうさ」


「誰も、それを是と捉えてはいない。上層部の一部は現場のことを知らないし、派閥の都合に振り回されることもあるだろうが……人類の勝利のために行動しているのは事実だ。それを分かってほしい」

「さてね。そこは僕の領分じゃないさ。ああ、名前ができたのならそう呼ぼうか。あの『マルドゥーク戦役』でも、奴らはディアボロ型を5体も投入した上、遊星主自身がフィールドを封鎖した。この砦の戦力に対する完全な抹殺を企んでいたことは明白だね。目的が『黄金』の破壊と――大昔から分かっていたことが証明されたところで、僕のお役目はここまでさ」


 ルナはためを作って、流し目を寄こす。


「さて、どうするかな? 我らが『キャメロット』の王様はどうするのかな。そして、この『地獄の門』の支配者様よ、君達が思い描く方針も聞かせてほしいね」


 けたけたと笑って見せた。


「我々のやることは変わらない。むしろ、奴らが攻める場所に『黄金』があるのだと分かったならば、探す手間が省けると言うものだ」

「ふふ。お姉ちゃんならそう言うと思っていた。あなたは好きに動いてくれていいんだよ。僕が築いておいた地位も、使えるものなら何だって使ってくれて構わない」


 ふわりと微笑み合う。ルナとアルトリアはどこまでも仲が良い。……それこそ、共謀して世の中を良きものに変えようとするラスボスと黒幕のように。

 そう、その姿は主人公のものではないだろう。変革は主人公の属性に合わない、その属性は現状維持だ。アルトリアは敵を倒した先の未来を見据えている。それしか見ない、と言ってもよいがそれは”主人公”の属性ではない。


「――ルナ・アーカイブス。君には分からないかもしれないが、教国は教国として動いている。私利私欲のためではなく、国のために。……君は君の有能性を示して見せたかもしれないが、自分の都合で世界が動いているとまで思い上がらないことだ」

「知っているさ。だから人と人の争いがある。我が身可愛さに人類を裏切る? ありえないね。奇械はただ殺すだけ。奴らと友達になろうとする人間が居るわけがない。でもね、それでも――人が、魔に利することはあるんだよ。悪意も、敵意もなく……ただ善意によって、ね」


 そして、ルナと臨時大佐。こちらはやはり相性が悪い。そもそも、力こそ全てと考える人外と、権力機構の内部で上の地位を目指す人間では価値観の合わせようがない。

 ゆえに、臨時大佐は矛先を変える。


「アルトリア・ルーナ・シャイン、君は以前に故郷を追放されている。それは、人と関わることに失敗してしまったからと考えたことはないかね? 根回しする、偉い人間を取り込む――確かに一見無為と言われる行為かもしれないが、人の世では必要不可欠なものだ。それをしていれば成功したかもしれない、とそう思ったことは?」

「考えたとも。もっと上手く話せていれば。いや、父、母……兄弟もかな。そう、何か通じ合うものがあれば結果は変わったかもしれない。立場もあるが、私人としての立場を軽視していたからな。私は彼らの好物ですら知らないのだから、協力できなかったのも当然だろう」


「そうだな。他人の趣味嗜好などどうでも良いと考える者も居るだろう。仕事として付き合うならば、そんなものに費やすのは時間の無駄だとな。特に、個人的な趣味の範疇に至ってはそうだろうな」

「……」


 じろりと見られたルナは何を当たり前のことを、と首を傾げた。ルナは、そういうことの大切さを理解しない。


「だがな、やはりそういうのは重要なんだよ。自らの仕事を果たせばそれでいい……などと、あまりにも寂しいとは思わないか?」

「――」


 アルトリアは目を伏せて黙考する。手ごたえを感じて、説得を続ける。


「最短だけを見据えて、それでうまく行くことなどないのだ。君たちの動きには誰もついて行けない。そう、意味さえ分からずとも、こんなことをしている暇はないと思えても、じっと耐え忍んで実直に働いていれば、誰かが必ず見てくれているものなのだから」


 だから、ガレスを奇械の本拠地にまで連れていくような勝手なことをしないで欲しい。指示があれば意を汲み、決して誰も期待していない方法で成功だけすればそれで良いとするような考えは止めてほしい。そう言いかけようとする。


「その見解の妥当性は認めよう。……だが止まらん」


 毅然と宣告した。アルトリアは止まらない。それが人間社会においては正統なのだと認めたうえで喝破する。


「私は失敗した、見誤っていた。ただ、この世界は論理が支配していると。お笑い草だな、私は生きてきたのは人の世だったと言うのに。頭でっかちの秀才の勘違いだな」


 うむうむと頷いて言葉を続けようとする臨時大佐を遮って話を進める。慈悲にすがるような真似などしない。情に頼るなどできない。

 そういうのは、できる人間がやっていればいい。一度失敗した自分が、次はできるなどと考えていないから。


「だが、同じ間違いを二度も踏まん。失敗から学び、そして――必ずや人類を救うのだ。名もなき”誰か”に頼ることは間違っていた。ならば次は、信頼できる仲間を集めるまでだ」


 静かに言い切った。それは凪のように静かで、しかし薄皮をめくれば煮えたぎるマグマのような熱量が秘められている。

 それは、人間にとっては恐れるものだろう。度を過ぎた覚悟、意思。熱量は凡庸な魂など焼き尽くしてしまう。そう、アルトリアに付いて行ける者は自らすら焼き尽くしてなお進む愚か者か、真なる人外だけだろう。


「【戦姫】……!  なるほど、民衆が君を恐れた理由がよくわかる。その強さに倣える者はそういない」

「与えるべき者に『黄金』を。後生大事にしまっておく切り札に意味はない。会わせてもらう、教国にはあと一人居る。……最前線にて戦う者が。ガレスと同じように人類の生存のために力を尽くす者が」


「最前線に居ないからと言って、私利私欲を満たしているわけでは……」

「だろうな。が、私はその一人しか知らん以上はまずそいつに会う他ない。お前が教えてくれるのならありがたいがな……」


「悪いが、いますぐは私の権限では無理だ。以前会わせると言う話はしたはずだが、それには準備が必要だから待ってほしい」

「根回しとやらの話か? ならば、私は突き進むのみだ。お前が無理ならば、私が動く」


「そんな勝手など通るものか! 向こうに喧嘩を売るようなものだぞ」

「ならば勝つだけだな。お前たちの言っていることはこうだ。配下となるならば、希望を聞いてやらなくもない……と。ふざけるな、私たちにそんな暇はない」


「互いに譲れるところは譲ることがな……」

「一歩譲ればどこまでも踏み込まれるだけだな。私の希望など構うまいよ。ニンジンをぶら下げておけばそれでいいなら、わざわざ喰わせてやる必要もないだろうさ」


「……私の心労も考えてくれ。そんなこと、上にどう報告していいか」

「別にお前の方から言う必要もないし、お前相手に譲歩したところで人類を救えるわけでもないしな。……ルナ?」


「ううん。でも、まあ、前にルートを君一人に絞るって言っちゃったしねえ。けど、君が嫌だと言うなら、僕らは全然かまわないけど?」


 へらりと簡単そうに言うルナ。だが、それは彼の命綱をあっけなく絶ってしまうということを言っていた。


「――やめてくれ。そうなれば、私はいよいよ不要になってしまう」


 頭を抱えた拍子にぶちりと髪の毛が抜けてしまった。極度のストレスのせいだろう。権力を手に入れた、はずなのに何もかもが好きにできない。皆が勝手なことを言うのに、自分の言葉は聞いてもらえない。


「にゃはは。大変だねえ。僕はそういうのはやらないけれど、君なら特別に髪の毛の移植手術だって受けてやらんこともないぜ」


 彼は頭に手をやり、左を見て。たっぷり時間がかけて右を見て。苦悶のうなり声を上げながら返答する。


「………………やめておこう」


 悩みながらも、賢明な選択を選んだ。


「さて、お姉ちゃん。これからどうする?」

「決まっている。我々のやるべきことは『黄金』の探索だ。ガレスには見せるべきものは見せた、あとは任せて問題ない」


「そう、では荷物をまとめるとしようか」

「ああ」


 淡々と会話が進む。臨時大佐殿にとっては死刑と同じような決定が。


「ま、待て。待ってくれ。行ってしまうのか? お前たちも、それでいいのか?」


「「「……」」」


 水を向けられた護衛たちは何も言わない。彼らはルナの信奉者の中でも最上位、ルナの言に異を挟むことなどありえない。

 ただ黙して従っている。


「安心すると良い、臨時大佐殿。僕らにとっては人類領域など箱庭のようなものだよ。夕飯までには帰るさ」

「……ッ!」


 こうして、臨時大佐殿の胃と毛根は破壊されていくのであった。



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