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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
鋼の夜明け団編
203/361

第42話 査察官、撲殺


 その次の日、5日後に奴らが来た。派遣された査察官――どんな事情があるのかはわからない。だが、彼は死ぬために、そして足を引っ張るためにやって来る。

 アルトリアはリーダー、査察官を守らなければならない立場だ。それに失敗したら責められて当然である。どこから命令が出たかなど関係ない。もちろん、その命令が失敗して当然のものであったとしても、命令されたのはアルトリアだ。

 それが社会というものだろう。責任は上が取るなどともっともらしいことを言いながら、しかし責任を取らされるのは現場監督者だった。


「おや、お出迎えがこれだけとは」


 しかして、降りてきた男は偉そうに周囲を睥睨している。立場を笠に他人を威圧するのに慣れた態度だ。暴力的な雰囲気がある。権力を笠に着たアウトローと言った風体だ。

 自分が誰かの都合で殺されるとは夢にも思っていない顔だった。


「さてさて、なるほど。哀れだね、自分を勘違いした男か。特に価値もないくせに、家の力だけで生きてきた典型例だ」


 ルナがやれやれとため息を吐いた。

 そいつは何か凄い任務を与えられたと考えている。出世の足がかりに、などと思って――実際は死以外の結末など用意されていないのに。


「なんだと?」


 それだけ馬鹿にされたら気分も悪かろう。ルナに向かって睨みつける――と、同時に不審げな表情に変わる。

 一瞬の後、その顔は不満に変わる。そう、資料にも特急の危険人物であり扱いを注意するようにと書かれていた。さすがにルナは殴れない。

 感情に任せて逆らっていけない人間に逆らうのは、もはや獣か何かだろう。何かを仕組むまでもなく”事故死”する人間だ。それよりは、少しだけ賢い。


「貴様は弱い、と言ったのだよ。ルナは。さて、私の見たところ貴様は兵になるにも向いていない。今からでも文官に転職することをお勧めする」


 アルトリアが前に立つ。そして、挑発を吐いた。

 後で臨時大佐はとてつもない後悔をしたという。いくらドラッグを打って無理やり夜でも働き続けているような状況でも、この場に来るべきだったと。


「なるほど。散々にもてはやされた偽りの最強は言うことが違うな。王家の血を引く者にしか纏うことを許されない至高の『黄金』。ただその名誉を守るための八百長試合。あげくには勘違いして国の反逆者だ!」


 負けずと彼も挑発を返す。唇と唇が触れ合う距離にあって、感じるのはチンピラじみた緊張の糸だ。更にはアルトリアが最強だなどと言われているのを八百長などとほざく有様だ。


「なるほど。力の差も分からん坊やらしい。その様では『鋼』も宝の持ち腐れだな」

「そうかよ。……じゃあ、こいつを見てもそのふざけた言葉を続けられるのかを見てやるよ。地に平和を、『スティール・ソルダート』」


 とうとう魔導人形を纏った。これは洒落にならない。まあ、コイツは死んでもよいがそれなりに重要でないといけない生贄だ。命にしか価値がない人物などそんなものだ。

 騒ぎを聞きつけて周りの兵が駆けつけようとするのだが。


「下がれ」


 ルナの鶴の一声で押し黙った。

 彼女が居なければ殺人的なスケジュールとドラッグに殺されていたのは分かっている。強化兵が超絶ブラック労働をこなしているからこそ、自分たちは夜に眠れている。この砦において、実質的な支配者はルナであった。


「……へ。テメエら、正気かよ? なんでこんなガキに従っているんだか」


 ガシャリ、と足を踏み鳴らした。その場の兵は二人を遠巻きにしている。魔導人形を纏った兵はルナに従い、その背後に直立不動で佇んでいる。


「で、お姫様よ。そっちは魔導人形を纏わなくていいのかい? 大それた噂が本当か見てやるよ」

「不要だ」


 アルトリアは冷たく言い捨てた。


「何のつもりだよ、人間が魔導人形に勝てるわけがあるか」

「貴様程度であれば話は別だ。かかってこい、ひよっこ以下。私に指一本でも触れることができたら頭をなでてやろう」


「テメエ、どこまでもフザケやがってェ!」


 剣も銃も必要ない。殺さない程度に”はたけば”黙る。今まで会ってきた男も女も、一つぶん殴ってやればすぐに頭を垂れた。

 そんな風に生きてきた。人に言うことを聞かせる時は、家の権力か暴力をひけらかした。それだけしか持っていない薄っぺらな人間だった。

 

「やれやれだな、これではイヴァンと同レベルだ。そして」


 わずかに身をひねってかわす。そして捕まえようと力んだ瞬間に、その方向を逸らす。翻弄され、ぐるぐると回るだけだ。


「――チ」


 苛立ちとともにその生身の女を捕まえようとして。


「阿呆が」


 その力を利用して腕をへし折った。


「あ。ギャアアアア!」


 量産型に痛覚の遮断機能などない。腕を折られ、痛みにあえぎ、みじめたらしく転げまわる。どうやら、殴り返されたこともなかったらしい。


「イヴァンなら腕を折られた程度では止まらん。奴は折られた逆の手で殴り返す根性があるぞ。なんなら、そっちを見せ札に折られた腕で殴るのが奴だ。やはり、駄目だな。お前では」


 ふう、とため息を吐き――ある男に向き直る。


「あなたもそう思うだろう? ガレス」

「うむ。この有様では奇械の本拠地に連れていくなど無理な相談だな」


 そう、ガレス・レイス。ルナと同じく、突き抜けすぎて打てない釘。『黄金』の操者にして、この『地獄の門』を守り続けてきた立役者。


「だが、私は偵察任務を請け負っていてな。立ち合い人を仲間に頼むわけにもいかんし、困ったな」

「おお! 困ったときはなんでも私に言うといい!」


 演劇のような光景だ。台本はないにしても、ここに居るのは偶然ではない。……ルナが手下を使って呼び出した。全ては脚本通りだ。


「おや、これは助かるな。では、貴殿に付いてきてもらおうか」

「うむ! もちろんだ。どこへ向かう?」


「奇械の本拠地へ偵察に」

「いつから?」


「無論、今から」

「了解だ!」


 白々しい会話が終わると同時に、二人が飛び立つ。一路、悪夢の総本山へ。




 そして、やかましい足音を立てて臨時大佐殿がやってくる。


「き、き、き……ききき……きききききき」


 顔は真っ青で、声は震えている。これも変な鳴き声と言うわけではなく、貴様らと言いたかっただけだ。


「おやおや、臨時大佐殿。大慌てでどうしたね?」

「臨時大尉だ! 貴様ら、査察官を殴り倒すとはどういう了見だ!?」


 呼び名が間違っていないのにも気づかない臨時大佐だった。


「ふふん。生身の女一人にやられるような役立たずは、とてもじゃないが戦場に連れていけないよ。ベディヴィア君ですら連れて行っていないんだ。そこらへんは分かって欲しいね」

「だ、だが……ガレス・レイス特務大尉に何かがあれば我々は終わりだ! 砦の防衛戦力がどうとか以前に『黄金』を失った責任を問われ、銃殺刑だ!」


「それは君の話だろ?」

「は? ………………ああ。ッ! 貴様、他人事だと思っているのか!? 私が居なければ、今頃お前たちは奴らに拘束され幽閉されていたんだぞ!」


「昔の上官を奴らなどと呼ぶものではないよ。それに、先のは冗談さ。ガレスは帰ってくる。必要なものを身に付けて」

「必要なもの?」


「今のガレス君では、まだ不足だ。一度、遊星主を見て学んでもらわねば」

「学ぶ――何を?」


「遊星主という存在を。アイツが見たのはあくまで一端だ。あの時に戦っていたのはたかが『ディアボロ』型でしかないのだから」

「……」


 遠いところを見ているルナに何も言えなくなる。

 そう、どうせ現状を話したところでまともに取り合ってもらえないのだから。言うことを聞かせるには、まずルナと同じ視点に立つ必要がある。


「問題ないさ。君は強気で行けばいい、キャメロットは君を支援しよう。そうだな、教国政府とのパイプは君一人としよう」

「本気か?」


 そうならば心強い。キャメロットとの唯一のパイプであるのなら、教国もこの男を始末できなくなる。権力は保証されたようなものだ。

 むろん、これがキャメロットの総意であればの話になるが。アルトリアが反対すればこの話は立ち消えになるだろう。彼もその程度にはルナの性格が分かっていた。


「我が姉に誓おうじゃないか」


 ルナが自信満々に宣言する。キャメロットは実質的にアルトリアとルナの双翼だ、二人に承認されれば通る。


「感謝する」


 頭を下げた。覆水は盆に返らない。だが、やりようはいくらでもある。”実弾”は手に入った。

 なにより、この男はまだ満足していない。この『地獄の門』の一時の主から、”一時”を外す。そして、更なる権力を手に入れるのだ。

 野望がある限り、止まりはしない。あらゆる苦難を踏み越えて、最後には華々しく権力を手にするのだ。



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[一言] > 野望がある限り、止まりはしない。あらゆる苦難を踏み越えて、最後には華々しく権力を手にするのだ。 際限のない欲望は身を滅ぼす( ˘ω˘ )
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