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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
第1部:箱舟編
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第4話 武人と不思議少女


 まるで劇場のような大げさな身振りとともに、幼子が声を張り上げる。


「運命が賽を投げた。選択は為されなければならない。すでにここは不帰還点ポイントオブノーリタン。逃げようと運命は追いかけてくる。ならば、選択を。しかして選択には絶対の正解などありえない。なぜなら不正解とは力足りぬものの悲哀に過ぎぬから。運命から零れ落ちることを否としたいのならば――力でもって踏破する他に道はない」


 姿格好こそ、この上なく愛らしいものではあるけれど、終末少女の中でも超広範囲殲滅攻撃を得手とするモデル:星喰いの幼女だ。かわいい姿でありながら、物理的に大陸を沈められる中二病。


「なら、君には分かっていると言うのかな。我々がたどる運命が。そして打倒すべき敵の存在を感知したか? ねえ――プレイアデス」


 彼女の名はプレイアデス。小さな手には星をかたどった錫杖が握られている。とりあえず、付き合ってあげようと思う。きっと、こういう対応をしてあげたら喜ぶだろう。


「未来を見ることは誰にもできやしないのだ。しかし、風を感じることはできる。僕はただの風見鶏。いたずらに運命の先を予測する」


 目がキラキラしている。声が弾んで、身振り手振りが一層激しくなった。

 難しいことをつらつらと述べていく態度は年相応とはかけ離れていて、しかし一方で興奮する幼女みたいなギャップがとても愛らしい。


「では、聞かせてもらえるかな。君の”予知”を」

「――必要あるまい」


 そう言って出てきたのは大人の女性。といっても、見た目など終末少女には関係がなく、年齢……設定上で言う製造日程という意味ならルナを含めた全員が同年代だ。

 そもそも、見かけの上でJKかそれより上に見えると言うだけだ。それも日本基準では成年したかは微妙な外見である。まあ、確実にこっちに来る前の”僕”より年下だ。


「我々はただ、あなたの指示に従うのみ。手足に意思など不要。いくらでも使い捨ててくれればいい」


 クールに言い捨てた。何の感情もこもっていないが、それだけに真実を言い表している。例えゲームでやったようにゾンビ戦法を言い渡しても何も表情を動かさずに実行してくれるだろう。

 それが、蘇生できるからと何百回と特攻させる戦法とは呼べない愚策であっても。ゲームではそれで良かった、死んだ方が早くポイントを稼げる場合もある。


「コロナ、か」


 彼女はモデル:龍。確かキャラストーリーでプレイアデスと仲が良かった……はず、と思い出す。あまり他キャラの絡みを描かないゲームだったからキャラ同士の関係性はよくわからない。

 そもそもキャラシナリオの方向性は、彼女たちが主人公に一方的に好意を抱いて、イチャイチャするシーンを見せるというものだった。もちろん主人公はしゃべらない。

 ……コロナとプレイアデス、よく一緒にいるのかな。


「それも、全ては世界の破壊者たる『ワールドブレイカー』……そう、我々の主がお決めになること。激動する運命においては、思慮のない者は概念の悪魔に食い殺されるのみさ。お前の悪い癖だな、コロナ。殴ることだけが世界ではないのだよ」

「ふん。罠も企みも圧倒的な力の前には意味を失くす。前提からして我々はそういう存在だろう。ルナ様の前であろうが、その事実は変わらない」


「それはどうかな? 特にアリスなんかは我らが主の言われるがままに己を変えることだろう。強大なる捕食者(プレデター)にも、怯える被保護者(キティ)にも。彼女は何にでも擬態できるからな――まさに不思議の国の鏡アリス・イン・ワンダーランドよ」

「私とて、ただ言われるがままのみとはいかんさ。主の望みを察し、言われる前に実行することこそ従者の鑑だとも。だが、こと戦闘において私は拳を振るうのみだ。賢らに何かを考える必要などありえない。そもそも余計なことを考えても、それは無駄としか言えまい」


「それは思考停止だな。動き出す運命(ディザスター)の前に、ただ拳をふるおうともそれは風車の前のドン・キホーテ。愚かなる蛮勇に他ならない。我らが主が滅びを告げる鐘の音を打ち鳴らす絶対なる“裁定者(エクスキューター)“であろうとも、お前は違うよ。コロナ」


 険悪な雰囲気だ。どうもこの二人は仲が良いが――喧嘩をするほど仲がいい、ということわざが似合うように思える。

 手の一つくらい出しそうだ。


「……いいかげんにして」


 そして、一番殺気立った者――アリスが口を挟む。


「ふたりとも、ルナ様をむしして、いいたいほうだい。あなたたちに用があったの、わからないの? ねえ、そんなこともわからない? なら、つぶれる? さっしがわるい、そんなのルナ様にひつようない」


 怒ると怖いな、アリス。


「別に気にしなくていいよ。火急ならそう言うしね。それに、仲良くじゃれあってるのを見るのは悪い気分じゃない」


 とりあえず、険悪な雰囲気を何とかしたい。いくらかわいい子たちでも、険悪にいがみあっているのは胃によくない。


「ルナ様。あまいこというと、こいつら、つけあがる」

「支配したいわけでもないからね。かまわないさ」


 だから殺気を鎮めてください。お願いします、アリス様。


「このふねはルナ様のものだよ。……わたしたちも」

「そう? そうだね、そうかもしれない。まあ、それは置いておこう。それで、コロナ――少し組手の相手を頼めるかな」


 そう言うとコロナはポカンとした表情を浮かべる。この子は僕よりも大きくて、言ってしまえばお姉さんみたいに見えるけど、こういう表情はなんというか――年相応でかわいらしい。


「……組手?」

「殴り合い、かな。スキルとかなしでね。……僕にスキルなんてないけど。ああ、もちろん『召喚』もだ。ちょっと体の動かし方を忘れてしまってね。思い切り動きたいんだよ」


「ふむ。わかりまし――」


 コロナが頷きかけて、途中で止められた。


「まって」

「ああ、それは少し待ってもらおうか。コロナ、天上に立つこのお方に拳をふるうと、そう聞こえたが――」


「それが主の望みならば。どうせ、我々は死になどしない。そう――図書館に安置されている書を破壊されぬ限り。影を打ち払ったところで、それが何だという。それがたとえ、主人のものだろうがな」


 コロナはルナに刃を、拳を向けることにためらいはない。それがルナの言うことならば。しかし、アリスとプレイアデスにとっては別らしい。


「それですら大罪だ。ルナ様の本体を壊す? そのようなこと――考えた時点で大逆に他ならん。せめて友たる僕の手で冥府へと旅立つがいい」


 かつん、と錫杖を打ち鳴らした。圧倒的な魔力が胎動を始める。


「わからず屋だな、お前は。だが、やるというなら受け――」


 対して、コロナは全身に魔力をみなぎらせて。


「黙れ」


 思わず声を出した。我慢できなかった。ああ、我慢できるはずなどない。じゃれあいならかわいいものだけど――本気の潰しあいなど見てられない。


「プレイアデス、アリス。――下がれ」


 二人がショックを受けた顔をする。ああ、わかっているさ。こんなものは僕のかんしゃくだ。

 ガキが思い通りにならなくてわめいているようなもの。でも、我慢できなかった。――ごめんね。あとで謝るから。


「なにか文句があるなら僕に言え。言ったのは僕で、コロナは従っただけだよ。アリス、それを使うなら僕を狙え。僕は一度くらい殴られた方がいいだろうさ」


 あらゆる状態異常を付加する一撃、“やまたのかみつき”だったか。八又に分かれた首に雑多な肉食動物の首がついている人形。

 ゲーム内では優秀とは言えなかったけど、拷問という意味では優秀なのだろう。

 凍り付いて固まってしまったアリスに罪悪感を覚えるけど――今はとてもごめんなさいと口に出せるような気分じゃない。


「やらないのか? まあ、いいさ。コロナ、闘技場を使う。二人はそこで反省していて。終わって、頭が冷えたら会いに行くから」


 荒々しく足を踏み鳴らして去った。



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