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第31話 マフィア襲撃(後)


 そして、時は少し撒き戻る。女衆の部屋も、男たちの部屋と同時にノックされていた。


「――また会いましたね、お嬢さん」


 やはり勝手に扉を開けられた。白スーツ、メフィス・オーダーが現れた。こちらも、4人の『銅』を護衛に連れている。銃を構え、威圧している。


「あ、お姉ちゃんにポーカーでコテンパンにされた奴だ」


 ルナがけらけら笑うと、そいつは顔を真っ赤にして地団太を踏み始めた。マフィアがそうするのは一般人には恐ろしいかもしれないが、悲しいかな。唯一の望みだったファーファは、遊び疲れたのか夢の中だ。


「まったく。あなたのおかげで散々ですよ。血反吐を吐きながら上り詰めてきた地位がパアになるところでした」

「あれれ、女の子一人に得意のギャンブルでやられてまだ切られてないんだ? ビッグボスさんって優しいんだね」


「なんだと、このガキめ! まずは貴様から殺してやろうか!」

「あはは! 怖い怖い、何されちゃうのかな? 指でも切られちゃうかなあ」


「は! マフィアを舐め腐るガキにそんなことで済ますものかよ。ガキが好きな変態ってのはどこにでもいてるんだよ。しかも、そいつらは加虐趣味のド変態どもだ。そいつらに売り払われれば、この世の地獄って奴を少しは味わえるだろうよ。後悔して、殺してくださいとでも泣き喚くんだな! はっはっは――」

「黙れ」


「……ほへ?」


 そいつの頭が消えた。ふらりと倒れ込む。すぐに血が溢れ出して池になる。

 例え『銅』であろうと魔導人形には高度なセンサーがある。人が何かをしようと見逃すような間抜けでもない。

 ……なのに、こうして主はあっけなく死に様を晒していた。


「ルナは私の妹だ。手を出すと言うなら容赦せん」


 殺すなと言った口はどこへやら。感触が残っているのかふらふらと振っている手には、血のりの一滴も付いていない。

 だが、その態度が殺したのが彼女だと端的に示している。


「「……ッ!」」


 この理解不能な光景を前に、4人がアルトリアに銃を向ける。魔導人形を纏っているから人間などものの数ではない。そんな常識は、この異常な光景の前に吹き飛んでいた。

 何か動けばその瞬間にマシンガンで蜂の巣にしてやろうと、緊迫の糸を伸ばす。切れたら、その瞬間には死体が5人分出来上がっているだろう。

 もっとも、その5人の中で素直に死体になってくれそうなのはファーファだけだが。


「間抜け。他人様に銃を向けておいて、自分は撃たれないなどと思い上がるな」


 アルトリアに全ての神経を集中していた彼らは気付かない。ルナがスカートをまくり上げ、ふとももに下げたハンドガンを引き抜いた。

 ルナは寝る時でもズボンは履かない。それを来たのは前の世界で軍服を着た時だけだ。


「――」


 警告音、魔導人形が警戒を発したが兵達はそれどころではない。そもそも、あんな小さい弾では魔導人形の装甲を貫けないのは常識なのだから、


「その代償、己が身で支払え」


 ルナが構えた2丁のハンドガンから銃弾を撃ち放つ。


「……っが!」

「ぐあ――」

「なに……?」

「ぎあっ!」


 装甲に弾かれるはずの弾丸が、”中に潜った”。それは設計上のミス――というわけでは、実はない。

 『鋼』クラスの高級品は専用機として個人に合わせた調整を行うが、『銅』は一山いくらの兵隊だ。個人それぞれの体格に合わせての調整なんてコストのかかることはしない。

 ゆえに、それはコスパを考慮した切り捨てだ。例え偶然に隙間を抜けた弾丸が、中で乱反射して中にいる人間をぐちゃぐちゃにしようとも、それは仕方のないことだ。そこまで金をかけて開発するものじゃない。


「――ッ!」


 息を飲む声がした。虚空から聞こえたその声に、ルナもアルトリアも疑問は抱かない。なぜなら、そんなもの見れば分かる。

 音も隠せない程度のステルスなど、通用しないのだ。


「……この!」


 覚悟を決めた。アルトリアを切り殺そうと迫る。魔導人形を相手に、人間では歯が立たない。それが量産型の中でも最高峰の『鋼』ならば猶更に。

 けれど今度ばかりは遮二無二の突進だ。剣を使うまでもなく、ただ触れるだけで五体を引き裂けるはずだ。相手が化け物でなければ。


「向かって来なければ良いものを」


 アルトリアは突進に合わせて交差法を繰り出す。相手の勢いを利用して首をへし折った。


「ひゃは! 雑魚を倒していい気になるなよ」

「大幹部の癖に馬鹿みたいに死んだメフィスを違う。本当の力って奴を見せてやるよ!」


 そして、更に現れる『鋼』を纏う男達。その余裕の声から察するに、明らかに幹部クラスの人間だ。ただし、メフィスとは違う。

 暴力で成り上がってきた大幹部だ。


「――俺は【血霞】」

「そしてこちらは【剣嵐】だ。ビッグボス傘下の中でも最強の武闘派、正面からぶつかりあって俺たちに勝てる人間はいない」


「そしてもちろん、魔導人形を纏う余裕なんて与えない」

「雑魚どもにゃ生身でも平気だったろうが、そんな大道芸は本物にゃ通じねえ」


「一秒で死ねや」

「最強の武辺者さんよォ!」


 二人の大幹部は両者ともに剛を極めた裏の実力者だ。表の世界にこそ出てこなかったが、かつてアルトリアが参加していた大会に出てもトップ8には昇れる。

 そして、彼らの最も得意とするものは競技場でのヨーイドン。限定空間内であれば、かれらの剣劇に対抗できる者は誰もいない。


「ふむ。来るがいい」


 だが、アルトリアは手を横に向ける。ルナが投げた剣を掴み、正眼に構える。実のところ、纏う隙を許されないなんて常識の範囲の話で、アルトリアの装着を阻むことなど誰にも出来はしないのだが。


「見せてやる。この【血霞】の異名の元となった8連撃……【重爆続断】を!」

「そして【剣嵐】の呼ぶ剣劇の嵐、【乱れ桜】! 破片すら残さず死ねぃ!」


 『鋼』で、それも使い手としては上級だ。こいつらを相手にできる者は民主国の軍では数人も居ないだろう。まあ、軍のやり方なんて”数で押しつぶす”以外にないのから1対1を競ったところで無駄だが。


「これは、いい運動になるな」


 そして、アルトリアはその剣劇を受け止めていた。人間が魔導人形と斬り結ぶ信じがたい光景がそこにある。

 まるで戯画だ。一人の女の子が掌でダンプを受け止めているような、嵐すらも切り伏せるような異常事態だ。そして、その理由はただ一つ。 

 ……この女がアルトリア・ルーナ・シャインであるからだ。ただそれだけの理由で現実を蹂躙する。


「な……なぜだ!? 人間のはずなのに、魔導人形に対抗できるはずが……!」

「馬鹿な! 馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な……ッ! 人間の身で、それだけの力が発揮できるはずがあるかァ!」


 一秒間に合わせて10を超える斬撃が、今や1分も続いている。全力疾走、魔導人形を纏っている方が体力に限界を感じ始めた。


「では、幕としよう」


 一閃。剣諸共に腕を斬り落とした。現在の治療技術では、くっつけたとてもはや以前と同じ動きをするのは難しいだろう。


「そして、お前達は連携に慣れていないな?」


 狙撃、剣を盾に防いだ。否、逸らした。

 あれだけの衝撃が伝われば人の腕など砕けていた。その損傷を全て剣に肩代わりさせる。結果として剣が原型もなく崩れた。


「あと二人か? 遠慮なく来い」


 アルトリアは腕を横に向けると、新しい剣が飛んできた。もちろん、ルナだ。


「化け物め! しかし、魔導人形を着ているのだと思えばいいだけのこと。私は惑わされん! 受けて見ろ。【仇桜】の一撃を!」


 このステルス化して剣を振るう男の他にもう一人。遠距離から狙撃を行う新しい『鋼』の操者が居る。そう、これは1対2ではなく1対3だった。


「二段、いや先の狙撃も合わせて三段攻撃と言うわけか。だが、頭数が減った今は脅威ではないな。いや……その構えは」

「そう、あのような殺し屋と一緒に考えないでもらおうか! このような場所に流れ着いてとしても、磨いた腕は落としていない。私は刹那示現流の免許皆伝、ただの一撃で貴様を倒す!」


「一撃必殺……なるほど知っているぞ。一撃で相手を倒すことに全てを賭けた二の太刀要らず。だが、控えが居るようだが?」

「知らんな、私はただ一刀で貴様を倒すのみ。その後など私の管轄外だ!」


「なるほど、”らしい”な」


 二人、太刀の範囲に足を踏み入れる。人間の女の子と魔導人形が交錯する。


「刹那示現流……【(にのまえ)】」

「皇月流【瞬き】」


 その男が剣を振り下ろす前に決着は着いた。胴体がずれる。……一刀両断されたのは【仇桜】の方であった。


「くだらん馬鹿だが、隙を作る役には立った。我が【黒影】の一撃にて死ぬがいい、【戦姫】よ」


 掟破りの4人目の声。この化け物を相手に油断などしない。2人のコンビネーション攻撃に加え、その隙を狙撃が狙い、そして最後の隠し玉が空間制圧で敵手を絶殺する。

 四方八方からクナイが飛んだ。【血霞】と同系統の糸を使った攻撃手段、ステルスを応用して区内を仕込んだ糸を伸ばした。この機体は応用力にかける代わりに殺傷力が高い。この攻撃であれば例え『鋼』の装甲であろうと穴だらけに変わる。


「言っただろう? もうバレてるぞ」


 全て叩き落した。その代償に剣はヒビだらけになっているが……


「なに――ッ!?」


 これは最後の攻撃、破られればなすすべもなく。


「遅いな」


 折れた剣を鎧の隙間に差し込み、押し広げて突き殺した。刺さったままの剣を死体ごと捨てる。


「はい」

「うむ」


 と、同時に投げられた剣を掴む。剣は量産品だ、いくらでもある。もう新品に変えたのだから、隙はない。


「……だが」


 狙撃を逸らす。剣を交換した。


「」


 狙撃を逸らす。剣を交換した。


「さすがに私もあそこに攻撃はできんぞ」


 アルトリアが嘆息した。人間アピールとしては不出来なジョークかもしれないが、実際にそうなのだから仕方ない。

 まあ、魔導人形を纏えば問題ないのだが。


「ふむ。では、(わらわ)が始末しておこう。正直に言うと、一度お披露目してみたかったのだ」


 アルカナが手を上げる。妙な色気が肌を泡立てるような怖気を催す。


「神々の黄昏に涙せよ『ネフライト・ジョンドゥ』」


 纏うは紅と黒の魔導人形。顔ははっきりと晒し出され、拘束具のような装甲が胸を締め付ける。人には過ぎた色気が発散していて、近づくだけでも正気を失いかねない。


「では、去ね」


 最後の大幹部【滅我】が落ちた。スナイパーライフルの名手、そしてその出力も改造した『鋼』に見合ったものだった。

 本来なら剣を100本並べたところで全て貫通する威力だった。が……まあ、実際アルトリアにかかれば魔導人形を使うまでもない。無駄に纏って、そして弾丸を跳ね返して終わりだった。


「さて、向こうも終わったようだな。……正面から出て行こう」


 エレベーターはもはや使えない。というか、このホテル自体が一度壊して作り直さなければ耐久度的に危なくなっている。

 すでに避難が済んでいるそこは、もはや廃墟に見えた。たった1時間前の豪奢な雰囲気が地の底だ。


 崩れかけた階段を歩いていく。


 眠るファーファはアルトリアの腕の中に。そして、アルトリアを中心に右にベディヴィアが、左にはルナと後ろにアリス、アルカナが付き従っている。

 更に後ろにはガニメデスとイヴァンが肩を貸し合ってえっちらおっちらと降りている。


 おまけを除けば威厳に満ち溢れた光景だった。


「おやおや、お帰りさ?」


 外にはザックスが待っていた。戦意はない、その『鋼』を纏っていないのだから。


「何の用だ?」

「アンタのせいで首になっちまったさ。雇ってくれると嬉しいんだがね」


「魔導人形は?」

「残念ながら取り上げられちまったさ。安月給で買った『銅』があるから足手纏いにはならんと思うさ」


「いいや。『銅』では……ましてや『鋼』であろうと足手纏いだ」


 にべもなく切り捨てた。


「……は? おいおい待てよ、アンタ何言ってるさ?」

「そうだな。貴様程度では力不足だ」


 火のないタバコを咥えた男が立っていた。見るからに冴えない男と言った風情だ。突然現れたように見えたが、気配を消していただけだ。

 誰も見覚えなどない、いや。


「ん? あんた、見たことあるさ。いっつも小額しか賭けない貧乏人さ? 悪いこと言わねえから、おうちに帰った方がいいさ」

「邪魔だ、下がっていろザックス」


 名前を呼ばれたザックスは驚く。これでも元幹部だ、一般客などに名前が知れているはずがない。


「……誰にも顔を知られていないビッグボス。その暗殺の手腕は大貴族でも殺しうると聞く」


 アルトリアがルナにファーファを託し、前に出た。一見、隙だらけの浮浪者だがその裏にはしっかりと技術が根づいている。

 そう、武人として見るならばアルトリアと同じく一流すら超える存在。暗殺の方面に行っているため余人では表層すら伺い知れない。


「ずっと狙っていたのだが、隙が無かった」

「ああ、あなただったか。……出てきたと言うことは、真正面からでも戦えるということか?」


「当然だ」

「ならば」


「「戦おう」」


 両者、同時に構えを取る。


「惑わせ『クリスタル・ナイトライド』」

「我に勝利を『ミストルテイン・エクスカリバー』」


 両者、魔導人形を纏い。


「――」


 姿が消える。音も、光も――あらゆる感覚で彼を捉えることはできない。


「……」


 アルトリアがニヤリと笑う。実のところ、そんな能力に意味はない。重力子を感知すれば、センサーが無効化されようが意味はない。

 だが、それは風情に欠けると言うものだろう。自らの感覚をオフにする。そこは感覚だ、瞼を閉じるように自然にできる。


 誰にも聞こえない声が響く。


「我が暗殺術の極み――【無音・刹那】」


 手にするはナイフ。不意を突き、急所を刺す。必ず殺すための技術の粋を集めた彼の信頼に足る唯一のもの。

 単純こそ最も強い。ただ足音を消し、気配を消し、そっと急所にナイフを差し入れる。人を殺すのに、全てを破壊する力も重力子を操る力も不要。ただ心臓を抉ればそれで殺せるのだから。


「皇月流木陰が崩し……【木乃葉墜とし】」


 触れた、その瞬間に動き出す。かかと落とし、だがそのスピードが桁違いだ。後の先どころか、攻撃はすでに触れているのだ。

 そこからの巻き返し。余りのスピードに地面が陥没する。ホテルまで衝撃が伝わり、呆気なく倒壊していく。


 彼は血の染みと成り果てた。


「……ルナ、一つ頼みがある」

「うん?」


 ルナは可愛らしく小首を傾げる。ファーファを抱えたままだ。彼女はよく眠っていた。


「お前の力を見せてくれ。『黄金』と『騎士』を11機揃えればいいとのお前の言葉が本当ならば、な」

「なるほど」


 無残に破壊された魔導人形、しかしその核は破壊されていない。アルトリアがうまく避けていた。

 ルナは血の海に無造作に手を突き入れた。


「まあ、『銅』はコストパフォーマンスという点では最高峰。後から手を入れるところなんてないのだけど、そこはそれ。単体強化の代わりに立派なオプションパーツを作ってあげるよ」


 核を取り出し、血をぬぐって懐に入れる。


「これで、ここでやることは終わった。次は教国に向かう」

「……へえ。その心は?」


「最前線の状況次第では、騎士を集める前に人類領域が滅びかねん。要するに、最終決戦の時に揃っていればいいのだ。まずは状況を確かめつつ、『黄金』の操者にコンタクトを取る。教国ならば、と期待してもいいだろう?」


 ザックスは腰が抜けて立てない。彼を放置して去って行く。ベディヴィアが相変わらず魔導人形を纏っていては、チンピラも声をかけられない。

 ゆえに、ないも同然の見張りを無視し、乗ってきたトラックに乗って一路教国へ向かう。



 アルトリアの目的? 目論見? の解説します。まず、『黄金』があると言う噂を聞きつけてカジノに来た、と。日本人的な感じで言うなら競馬の景品として天叢雲剣が出品されているくらいあり得ないことなので、期待はしていませんでした。

 よって、真の狙いはこの世界で最大規模のカジノに『宝玉』遣いが居ると言う裏の情報を知っていたから強奪に来ました。そのために散々挑発して後に引けない状況に持っていきました。

 実は当たって砕けろ的な感じで特に道筋を考えてはいませんでした。


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[一言] > ルナは私の妹だ。手を出すと言うなら容赦せん いやいや、少なくとも妹ではない(゜ω゜)
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