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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
廃都生存者編
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第22話 反撃


 3体の中ボス、『クリムゾンスパイダー』型を倒した。そう思ったら5体分のお代わりだ。4体目までの攻撃は処理したが、最後の1体はどうしようもなかった。

 ベディヴィアは撃墜され、成す術もなく地に堕ちる。


「――っまだだ! 俺はやれるぞ、『スカーレット・ブレイズ』。お前はこのまま終わっていいのか!? 俺はテロリスト扱いされた末に討ち死にだ。お前とてクルシュの一族に仕えた末に強奪され、挙句の果てに『クリムゾンスパイダー』なんぞに破壊される挙句だぞ! 仮にも『宝玉』の散り際ではないだろうが!」


 飛べない。機能がイカれてしまったらしい。わずかな浮力が働いていることは分かるが、墜落をどうにかできるほどではない。

 そして、この損傷……右腕は既に動かない。今もらった一撃のために腹の中身はぶちまけられ、腸が飛び出ている有様だ。墜落すれば、その衝撃で死に至る。


 そして、死なずとも止めを刺さずに置くほど奇械は甘くない。奴らは死体を粉みじんに砕くだろう。


「俺は! まだ戦える!」


 拳を握り締める。――叫び、何かが見えたような気がした。


「――オオオオオ!」


 轟音。墜落などでは産まれるはずもないクレーターが穴を開けた。そう、これこそが危機において覚醒した異能。

 死の直前に、『スカーレット・ブレイズ』が応えた。


 ……遠くでルナが呟く。


「誤作動? それとも、余計な機能が死んだことで見つけやすかったかな? まあ、そんなおためごかしに意味はない。異能が覚醒した。まさに英雄譚の一幕だ。その異能こそ――」


 くすくすと笑う。


(パワー)の強大化。要するにSTR(筋力)を上げているんだね。シンプルゆえに強い……と言えるかは本人次第だ。だが、その子には銃もましてや剣も相応しくないようだ」


 つい、と指をタクトのように振った。この都市のどこかで墓標のように突き立っていた一本の槍が浮き上がる。

 それは槍と言うよりも、盾だった。鎧を覆い隠すほどの巨大な槍。それで突進をするならば、後ろの本人など見えないほどに――それは大きい。


「その憎悪を引き継ぎ、勝利して見せるがいい。姫騎士の隣に立ちたいと願う少年よ」


 すさまじい勢いで飛翔した槍が地に突き立つ。……ベディヴィアの傍に。


「……これは!? そういうことか! 一応、感謝しておいてやろう!」


 引き抜き、構えた。


〈敵勢力、生存を確認。追撃シマス。『ニードルスコール』〉

〈〈『ニードルスコール』〉〉


 3体分の針の(むしろ)。避けられるだけの隙間はなく、そして飛ぶための機能は壊れている。ぼろぼろの装甲には、それの一本を防ぐだけの力もない。 

 が……絶望的などであるものか。


「だああああああああ!」


 巨大な槍を振り回す。目の前の建物を爆砕する。瓦礫が、礫がニードルを叩き落す。残るものは何もない。

 そして、それだけではない。


〈敵、消失。レーダーを光学から電波・熱に切替……〉

「遅い!」


 建物を爆砕した直後、さらにその前の建物の壁を殴り壊して飛び込んだ。そのまま天井を貫いて敵に一直線に上に跳ぶ。巨大な槍は敵を貫き――


「潰れろ!」


 そのまま横方向に回転、2体を叩き壊して破砕する。


〈〈目標、確認。『ニードルスコール』〉〉


 敵は冷静に彼に向かって隠し玉を切った。ベディヴィアは槍を盾にする。魔導人形の防御力は紙くず同然に堕していたが、槍には問題がない。

 棘の雨を問題なく防ぎ切った。だが、本命の一撃が来る。


〈〈『ライトニングシューター』〉〉


 敵はすでに解析は済ませていた。最も脆い部分ならばレールガンで貫けると解析した。照準する必要があるが、そこはニードルスコールを囮にして解決した。ゆえにこれは必殺必中の一撃だ。

 針の穴を通す精密射撃が過たず撃ち貫いた。……槍の後ろの虚空を。


「――は! やはり、頭の出来は人間様より劣るのだな!」


 下から手が伸びてきて、4体目を階下に引き連り来んだ。武器も何もなく、5本の指がそれを引き裂いた。片手でそれを成し遂げる膂力こそが、その異能ゆえに。


〈……〉


 残る5機目が下に向けてサブマシンガンを撃ち込む。が、それでは火力が足りない。4体目の残骸をボールのようにシュート。向かう破片を破壊しきれずに激突する。二つはぐちゃぐちゃになって機能を停止した。


「はは! あはははは! どうだ!? 俺にだって出来るんだぞ、この野郎!」


 喝采を叫び――


「がふっ!?」


 血を吐いて沈んだ。そもそも飛び出た腸は何も応急処置をしていない。興奮が鈍ってきた瞬間に、目の前が真っ黒になる。




 そして、レッドワイバーンのイヴァン・サーシェス。彼もまた死の間際に居た。


「――勝つのは、俺だ」


 彼自身は本気で言っている。足が痛んで俊敏な動きはもうできない。そもそも速く動けたところで、100を超える機銃の掃射を生身でどうにかできるはずもない。

 頼みの綱があるとすればガニメデスだが、彼は銃が破裂した衝撃で気絶している。

 何も希望など見えないのに、その瞳に陰りはない。100を超える【スパイダー】型を前に勝利を口にする。


〈排除〉〈排除〉〈排除〉〈排除〉〈排除〉〈排――


 1秒後には血煙になっているはずのその光景。だが、奇跡とは信じれば起こることなれば。そう、絶対に――〈諦めなければ夢は叶う〉ものだから。


「おおおおおおお!」


 その瞬間、イヴァンは赤紫色の鎧を着ていた。……見間違えるはずもない、本物のオリジナルだった。

 誰も知らないことだった。彼をかばって死んだレッドワイバーンの名もなき少年の一人は貴族の血を引いていた。彼は親に反発し、密かにその活動に参加していたのだった。

 重要な秘密を誰にも話せず、しかし家宝たる血族の証を捨てることもできずに。人類の至宝たる『黄金』を持っているだけで活用しなかった一族だ。


 それは、ありふれた物語の一つだったのだろう。あの【奇械】達が全てを蹂躙するまでは。


 結局、それを纏って戦う覚悟もできずに仲間と逃げ惑い、そして最後にはリーダーをかばって死んだ。その時に託したものだ。

 ”オリジナルはその血を引く一族にしか使えない特別なもの”というのは真っ赤な嘘と、アルトリアは既に言った。だが、訓練どころか説明も受けていないイヴァンがそれを起動させたのは……


 ――確かに奇跡と言えるだろう。


「ああ、理解したぜ。一緒に戦おうぜ、〇〇。そうだろう!? 立ち上がれ、『デッドエンド・ダインスレイフ』」


 近くに居た一体を殴り壊す。


「……は! 漢なら、拳一つで戦いやがれ!」


 銃は効かず、足でも勝てず、そもそも撤退も許可されていない。ただの兵隊として使い捨てられる彼らは、ここで足止めのために無駄と分かりつつも逃げ惑いながら豆鉄砲を撃つしかないのだった。


「くはは。……ははははは!」


 嗤いながら壊していく。壊れたような狂笑は、その実鎮魂歌(レクイエム)だ。天へ届けと言わんばかりに高らかに。

 なんと脆いものかと殴って壊す作業を続けるのだった。


「ひゃははははは!」


 仇を取る。民間人を殺したのは殆どがスパイダー型だった。つまり、ここに居る奴らこそが仇。見分けなど突くはずもないが、仲間の一人一人を想いつつ殴って壊す。

 ああ、その鋼の身体はなんと脆く、その爪はひっかき傷すらも付かないほどに弱弱しい。『黄金』とは何とも素晴らしい。力を得た今は、馬鹿らしくなってくるほどだ。


「……やったぜ、みんな」


 血と肉の屍山血河の上を、歯車と鋼の残骸で埋めて男は膝をつく。とても疲れた気分だった。彼は見事に復讐を遂げたのだ。その彼に残るのは……


「眠いな。寝かせてくれよ、お前ら。……また、酒を飲もうぜ。んで、おやっさんに追いかけられるんだ。ほら、ガキが酒飲んでんじゃねえってさ。はは――」


 虚無。

 復讐と言う絆でも、繋がれたのあればまた新しく築き上げられたかもしれなかった。けれど、絆を繋ぐべき相手はもう――瓦礫に埋もれて見えなくなっている。

 レッドワイバーンは、この日二度目の滅びを迎えたのだった。


「二日酔いになったらさ、母ちゃんに怒られて。昼間は寝てんだ。そして、夜は一緒にバイクで走り出そうぜ。なあ、××。北のさ、山の峠は面白かったよな。お前がガードレール飛び越えちまって、下でツルに引っかかってるの見たときは笑いが止まんなかったぜ」


 ぽそりぽそりと、空虚な瞳で呟く。その目はどこも見ていなかった。


「楽しかった。……そう、楽しかったんだ。馬鹿なことだったろうよ。でもな。いつまでも、そんな馬鹿をやれればどんなにか楽しそうだって……思ったものだった」


 倒れ、意識を落とした。



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