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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
廃都生存者編
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第17話 レジスタンス


 そして、4人で火を囲む。副官に値する者も同席しているが、口は開かない。4陣営のリーダーが未来を決める会談だ。

 重責を一手に担うことこそが、リーダーの役割と言うものだろう。


「さて、まずは自己紹介と行こうか」


 なんで子供が、という目線にめげずにルナが堂々と言い放った。


「僕はルナ・アーカイブス。陣営の名称なんて特にないけれど、そうだね。あそこをもじればいいかな? 便宜上は【翡翠】としておいてくれ」


 ルナはアルトリアに目を向ける。


「私はアルトリア・ルーナ・シャイン。この民主国に【奇械】が攻めてくると予言して放逐された女だよ。そして、上空のゲートを斬ったのも私だ」

「……ヒュウ。そいつはすげえや。兵隊さんたちもアレはどうしようもなかったのによ。俺はイヴァン・サーシェス。愚連隊【レッドワイバーン】の総長だぜ。ま、あいつらは違うがな」


 手を叩く男はまさに不良と言った風情だ。黒のズボンはいいとして、上半身裸……肩には特攻服をはためかせている。なんというか、漢の中の漢と言える風貌。

 サングラスの下の眼は凶悪に細まっていた。本来であれば、人好きのする好漢なのだろうが。纏う雰囲気が暗い。それは、守るべき者がいる男の顔ではない。全て失い、復讐に全てを賭ける昏い眼光だ。仲間に見える者達も、何か繋がりがあったわけではないだろう。奇械が攻めてきたあの日、全てを失った者達がリーダーと担ぎあげたに違いない。


「下らん。そんなものはあの日に全て砕かれた。生き残ってるのも貴様だけだろうに」


 だが、シェルターのリーダーはまとめて下らないと言い捨てた。奇械は人の身で相手をできるようなものではない。自然現象と同じだ。

 嵐に向かって銃弾を撃ちかける男は狂気だろう。


「あ? てめえ、なんつった」


 メンチを切る。見るからにチンピラだった。すぐにでも手が出そうだ。……否。


「レッドワイバーン? あんなガキどものお遊びなど、失笑物だと言ったんだよ」

「……へえ。よし、んじゃ拳で決着つけようじゃねえか。くだるかくだらねえか、てめえの目で確かめてみろやぁ!」


 イヴァンが殴りかかる。が、ルナが鞘で拳を止めた。


「そっちのおじさんも名前を言ってよ。会議が進まないじゃないか」

「会議を邪魔しているのはそっちの馬鹿だろうが」


「その馬鹿にもできることが、おじさんはできてないって言っているのだけど?」

「ふん。全員知っているだろうが……言う必要もあるまい」


「いや、顔は見たことあると思うが名前は忘れたぜ? 名前はなんつっったか。……ええと、ハゲチャビン・デブッテルだっけか」

「――っ貴様ァ!」


 今度はこっちから殴りかかった。仲の悪いことこの上ない……というよりも悪いのは機嫌なのだろう。街が滅び、大切な人が死んでしまい、そう言うのも間違っているかもしれないが。


「はい、やめる。本当に会議が進まない」


 もう一つの鞘でエクパーダの足を払う。立とうとしたところに、いきなりそれで強かに腰を打ち付けてしまう。


「……ぐおおお」


 呻いた。受け身もできなかったのだ、あれは痛い。


「私が言うか。彼はケント・エクパーダだ。このシェルターのリーダーを勤めている者となるな。……で、ルナ?」


 とうとうアルトリアが引き受けてしまった。そして、ルナにバトンを渡す。最初に口火を切ったのがルナだ。


「うん。【翡翠】は【戦姫】を後見するよ、だからこの場では会議進行役と思ってほしいな」

「――へえ、いいぜ」


 イヴァンは認めた。子供とは言え、自分の拳を受け止められる力がある。強い奴には敬意を払うのがチンピラだ。


「……っ! ぐぐぐ。ガキはそろそろ寝る時間だろうに」


 だが、シェルターのボスにとっては山猿の価値観だ。ガキは帰って寝てろ、と自らの価値観を振りかざす。


「いや、別にそんな人間みたいなことはないんだけど……」


 そして、ルナと言えば言葉をそのまま受け取ってしまう。寝ろと言われても、終末少女にそんな機能はない。アルトリアと一緒に寝たことはあるが、あれは眠ったふりだった。


「そうだな。では、手短に済ませよう」


 アルトリアがルナの発言を遮った。


「ええ……なんか、お姉ちゃんってそういうところあるよね」

「ルナ、地図はあるか?」


 全ての発言を無視して強引に進めた。こうしなければ話が進まない。


「はいはい。ちゃんと前の街で買ってあるよ」


 ば、と目の前に広げる。街とその周りしか書いていないが、今はそれで十分だ。


「僕らの位置はここ」


 街の中心部から西方面に行ったところだ。


「そして、奇械どもの集合地点はここだ」


 西側の出口を指さす。ほぼ崩壊しているとはいえ、それでも街を守るはずだった壁が今度は檻として作用している。

 そこはルナたちの侵入地点でもあり、門の瓦礫は突破してきたからそこから逃走は可能。ゆえに、奇械はそこを塞いできた。


「門は東にもある。イヴァン、何か知っているか?」


 現在の状況を知っているとしたら、レジスタンスのリーダーである彼しかない。脱出を考えたこともあるかもしれない。


「……知ってるぜ。あそこは駄目だ。爆破されて瓦礫で埋まってる。あそこから逃げるのは無理だ」

「ふむん。まあ、退路を確保することは重要だけど、初めから逃げることばかり考えてるの? ねえ、イヴァン君」


「あ? ガキが、俺を舐めんじゃねえぞ。俺は【レッドワイバーン】のイヴァン様だぜ。怖気づくかよ。俺の拳を止めた嬢ちゃんが相手なら、俺は本気で喧嘩できるぜ」

「はいはい。逃走経路は他にないの? おじさん」


 一方で、ルナはシェルター側のリーダーは憶える気すらなかった。


「誰がおじさんだ。……地下道がある、それに〈壁〉にも出入口が作られていたはずだ。作業用の小さなものだが、トラックなら通れる程度のがいくらかあったはずだ」

「はん。奇械の奴らがそんなアホウなら良かったんだけどな。全部潰されてるぜ? 門は破壊されてるし、地下道だって上から崩落させられた。あいつら、いたぶってやがるのさ。逃げられないようにして、じっくりと俺たちを追い込んでな」


「ふん。愚連隊などやってる頭の悪い奴にはそう見えたのかもな。だが、きちんと探せば脱出路の一つや二つくらいは……」

「ま、脱出は確実なものではないかな。で、どうする? 君たちは何をするつもりだったのかな?」


 また喧嘩になりかけたところをルナが止める。


「俺ら【レッドワイバーン】は最後まで戦う。奇械を一匹でも多く倒してやる。俺は死んでいった仲間にそう誓った」


「何を馬鹿なことを言っている。シェルターに籠るべきだ。あそこなら安全だ、奴らはそこを見つけることなどできないのだから」


 そして、やはり意見は真っ二つに別れた。


「……はん! 臆病な奴らだな。仇を取ってやろうとは思わないのかよ?」

「野蛮で愚かな愚連隊らしいな。殺し殺されて……そんなことに何の意味があると言うんだ」


 やはり、愚連隊とシェルターの意見は噛み合わない。殴り合いを始めそうな雰囲気だ。まあ、それを何度も止めているのだが。


「ルナ。これをどう見る?」

「さて。僕はね? 皆、好きなことをすればいいと思ってるよ。籠りたければそうすればいい。死にたければ死ねばいい。お姉ちゃんも、好きなようにすればいいさ」


「簡単に言ってくれる」


 アルトリアは苦笑した。そして、激論を繰り広げる男二人を見る。今にも殴り掛かりそうな二人が口角泡を飛ばしているのを見て……ルナは呆れた目をしている。


「引きこもろうが、立ち向かおうがどうせ死ぬだけなのにねえ。よくあれだけ本気になれるものだ」


 けらけらと笑うルナは、二人を馬鹿にしきっていた。

 ……シェルターに立てこもろうが、彼らを助けに来る者などどこにもいない。 

 一方で、立ち向かっても死ぬだけだ。見る限り一機の魔導人形すら持っていない。火器はかき集めたようだが、それだけで勝てるほど奇械との戦争は甘くない。

 そう、ここで激論を繰り広げるのもどうせ現実逃避のようなものなのだ。希望などどこにもなく、ただ過去にしがみついているだけ。


「――やめろ、二人とも」


 ゆえに、アルトリアは一刀に切り伏せる。


「言いたいことはそれだけか?」


 ルナはともかく、ここで『黄金』の魔導人形を操れる資格を持つのは彼女のみ。王威が全てを黙らせる。


「ならば、私が倒す。集まっているのなら好都合――全て切り伏せればいいだけの話だ」


 ゆえに、ただの一人の力で全てを快刀乱麻に解決する。


「そんなことが――」


 唖然とするシェルターのリーダー。


「できるのか?」


 信じられないと言う顔をするレジスタンスのリーダー。


「にゃはは。ま、それが一番手っ取り早いよねえ。……うん、後のために手っ取り早く片づけておくのは間違いない」


 訳知り顔で頷くルナ。まったく説得力が増していないが、しかしアルトリアの威圧の前では顔を振ることさえできやしない。

 冗談としか思えないルナの言葉をそのまま聞くしかない。


「でも――重要なのはその後なんだなあ」


 ばっさりと言い放ったルナに、全員の視線が向く。あまりの衝撃に金縛りも解けている。


「ここは橋頭堡。民主国へ王手をかけるための橋だ。それを一部隊潰されたくらいで諦めるものかよ。僕なら戦力を集中させるぜ? なにせ、そのためのゲートすら破壊されてしまったものね。不明戦力は速攻で叩くに限る」

「ならば、ゲートを破壊しなかった方が良いと言うことではないか!」


 シェルターリーダーが叫んだ。


「バッカだねえ。ゲートがあるなら、そっちで大部隊を送り込んでいたさ。君たちを殺さなかったのは、あいつらは隠れるハエを一々潰すほど几帳面ではなかっただけさ」

「貴様……!」


 わなわなと震える。が、アルトリアが手で止める。


「ルナ。それは――」

「ただの予想さ。それとも、ちょっとした手慰みの戦力分析かな? しかし、損失を埋め合わせるために大部隊を派遣するのは、シミュレーションゲームのCPUだと、わりとやりがちだったりするんだぜ」


「確かに覚えがあるな。それを奇械に当てはめるのも危険な気がするが、しかし物事は悪い方に考えるくらいが丁度いい。第二の襲撃はあると見よう。……ルナ?」

「――」


 つい、と目を逸らした。


「お願いだ」

 

 お願いされてしまったらしょうがない。ルナはかわいくため息をついて。


「手品のタネを前もってバラすようで気が引けるのだけどしょうがないネ。奴らは地を掘り進んでここを攻める気だ。まあ、他にも牽制の一つや二つもあると思うけど」


「……ガキの言うことを信用するのか?」

「俺も言いたかねえが……適当なこと言ってんじゃねえの?」


 男二人は懐疑的。だが、アルトリアの後ろに控えるベディヴィアはそうであったらどれほど良かったかと言いたげな顔をしている。


「地下からの侵攻は事実らしい。だが、牽制とは?」


 ここでアルトリアは疑わない。妹のことを信用しない姉などいるものか。


「そっちは予想。でも、サブプランの一つは用意しておくさ。そいつらの頭には脳の代わりになるICが入っているんだから能無しじゃないんだぜ?」

「まあ、私も前言をひっくり返す気はない。悪い方で考えるのなら、地下に続く第二第三の矢の対処も考えなくてはな」


「つか、僕は最初からその話になると思ってたんだぜ? まさか立てこもりか特攻隊で喧々轟々するとは思わなかったよ」

「――は! なら、丁度いいぜえ!」


 イヴァンがガンと足を振り上げて叫ぶ。


「うあっちィ!」


 そこは火が焚いてあった。


「いや、ま。さ――ともかく、そっちは俺らが相手する。それに、今いる奴らも俺たちが相手してやるさ」


 ちょっと恰好付かなかった。


「無理だね」


 ルナが切り伏せた。戦力分析など必要もないほどに明快な戦力差だ。あの蜘蛛型を倒すのに、何人が犠牲になるか。そして、そいつらは10匹や20匹程度ではない。雑魚なのだ、増援がなくとも100匹は超えている。


「なあ、嬢ちゃん。こいつはな……無理とかじゃあねえんだ。俺が、俺たちがやらないといけないことなんだよ。【レッドワイバーン】で生き残ったのは俺一人だ。俺だけが生き残った」

「……」


 ルナは一応聞く姿勢になった。


「死んでいった奴らは仇討ちなんて望んでねえとか。生きていてほしいから俺をかばって死んでいったとか……そう言う奴らもいるだろう。けれどさあ、それは違うんだよ。俺は皆を殺した奴らを許せない。死んでも殺すって誓ったんだ。つまり、こいつは俺の我儘だ」


 その言葉に熱はない。冷めた静謐が、むしろ紅蓮のように沸き立つ憎しみを現わしていた。

 これは……そう例えば。この世界の法則では不可能なことであろうとも。死んでいった仲間を呼び出して説得を試みたとて首を縦には振るまい。


「魔導人形なしでそれは死にに行くようなものだよ。マグレで蜘蛛の二匹や三匹倒したことはあるかもしれないけど、あそこには群れが居るんだぜ? そして、追いかけまわして甚振るような真似はもうしない。ただ殺されるだけなんだよ」


 アルトリアは苦笑する。ルナは面白がっている。だが、これは良い傾向だ。ルナは刀を向けられれば刃で答える。だが、面白いと思った人間には何かしらを与える。……それが、ルナだ。

 

「死は怖くなんかねえよ。あそこに居るのが200匹ってんなら、200匹殺し切ってから死んでやるさ。いや、増援が来るんだっけか? じゃあ、死ぬのはそいつらもぶっ壊した後だ」


 本気で言っている。現実を理解できるほど頭が良くないのは事実だろう。けれど、その言葉はそれだけではなかった。

 ルナもアルトリアも知る由はないが、きっと……良い仲間たちだったのだろう。


「……へえ。そのポン刀、ずいぶんとくたびれている。1匹は斬ったか? 若造」


 ほら、ルナも笑っている。面白い玩具を見つけたような顔だ。


「2匹斬った」


 それは事実なのだろう。刀がボロボロになっているのを見るに、斬ると言うより叩いて壊したような有様だが……


「貸してやる。人間には過ぎた代物だが、我が身を犠牲にすることも出来ずに脅威と戦うことはできないからねえ」


 どこからともなく取り出した刀を地面に突き立てる。


 ……これはイヴァンを評価したわけじゃない。ルナは前の世界でも刀を貸したことはあった。【翡翠の夜明け団】の副官、自ら改造を施した彼女へと。

 けれど、価値と言うのはコストと流通から決まるものだ。例えばダイヤモンドが高価なのは市場に出す量を絞っているからだ。稀少と言うのはそれだけで価値がある。更に言えば最新技術は高いが、特に目新しくもない技術など安いものだ。

 この世界では、この程度の武器はいくらでもある。『黄金』位階であるならば、使い捨てにできる程度の代物()だった。


 けれど、ルナが力を貸したことは事実。それが、焼け石に水程度の力だったとしても。あの彼女たちを導いたこととは意味が違っても。

 それは確かに敵を倒せる力だった。


「狂ってる! 狂っているぞ、貴様ら!」


 ケント。シェルターの主が叫んだ。奇械の恐怖におびえ、引きこもることを選んだ彼にとっては戦う道を選んだ彼らは理解不能の別の生物に見えていることだろう。

 立ち上がり、怯えたように後じさる。こんな奴らと一秒でも一緒に居たくないと、全身で主張していた。


「ケント殿。あなたは戦いを望まぬ者を引き受けてくれればいい。――後は、私たちが全てを倒す」


 アルトリアも立ち上がる。しかし、こちらは一歩を進む。拳を前に突き出した。炎の上で、円陣だ。


「いいね。こういうの、好きだぜ」

「僕もね」


 イヴァン、ルナが拳を合せる。ルナに至っては普通に浮いていたが、誰も気に留めない。


「作戦とも言えないが……私が地下から侵攻する部隊を叩く」


「そして、俺が残党どもをぶっ倒す」


「最後に、僕は来るであろう奇械の援軍への対処だ」


 本当に、こんなものは作戦とは呼べない。ただの方策だ。けれど、これ以上決めることはない。後は、己々作戦を立て決行すればいい。

 ……ただ。


「ベディヴィア、ガニメデス。【レッドワイバーン】の者達への援護を頼む」


 それは、アルトリアから二人への戦力外通知。彼らではついてこれないから一人でやるとの宣告だった。


「……姫様!」


 ガニメデスが抗議する。それはあまりにも酷だった。アルトリア一人だけレベルが違う。更に言えば、指揮官機はもう壊した。

 残党など、ガニメデス一人で事が足りる。……足手纏いや的さえ居なければ、全滅さえ可能だろう。扱えていないとはいえ『宝玉』だ、それだけの力はある。


「承知しました、姫様」


 ベディヴィアの方は呆気なく頷いた。いや、口の端から血が垂れている。唇の端を噛み千切るほどに悔しいが、しかしそれが現実だと受け入れた。今のベディヴィアは口しかない。


「悪いな」


 アルトリアが謝罪を口にするが、まったくもって心は籠っていなかった。


「ベディヴィア! お前はこんな扱いを受けていいのか? 俺たちは奴隷じゃない! 姫様にくっついているだけの金魚のフンじゃないんだよ! ちゃんと意思を持ってる一人の人間だ!」

「ガニメデス、やめろ。不服を言うなら、異能の一つでも憶えてから言うがいい……!」


 それは、呪詛のような響きだった。その気楽さが妬ましい、呪い殺してやるぞとまで視線が言っている。

 それこそ、この3人は歪なまでにアンバランスだ。ベディヴィアはこれでも民主国の中ではそれなりに”使える”が、ガニメデスはまだ力に使われているレベルだ。確かに魔導人形は着るだけで剣術をプロレベルにできる、がそれでもまず反復練習で慣れなければならないのが初心者だ。


「……獲物は譲らねえぜ?」


 とはいえ、レッドワイバーンの者達は彼らに頼る気はない。自らの手で奇械を破壊することに全てをかける自殺志願者だ。

 事実、彼についてきた者達も6割ほどは離れてシェルターの中に残ることを選んだ。特攻するのは、自らその道を選んだ者たちだ。覚悟が違う。


 出し抜けに、パン、とルナが手を叩いた。


「今すぐに作戦を決行するわけじゃない。残党どもが体勢を立て直すにはまだ時間がかかる。頭を整理できるだけの時間はあると言うことだ。まあ、作戦を変えるような予知など何もないけどね」


 全ての反論を封じる一言だった。

 そもそも戦力を分散するにしても、味方勢力が3で敵の想定勢力も3だ。まあ、4か5になるかもしれないが、そこはルナが引き受けた。

 ただしアルトリアがやったような戦力派遣は普通はしない。いくらリーダーに言われたからと言って、簡単に人は他人の命令を聞きはしない。人間関係である以上、軋轢は生じる。


「ああ。それに、もう夜だしな。闇討ちは趣味じゃねえ。……昼だ。今日は喰らって、酒飲んで。そして、明日は派手にやる」


 イヴァンはぐっと一息でシチューを飲み干し、豪快に笑う。まあ、闇討ちをしたところで闇夜で目が見えないのは一方的に人間の方なのだけど。

 そういうことではない。ただ、彼の美学だった。


「……私は、できれば皆に生きていてほしいと願っている」


 アルトリアは目を伏せる。シチューを大切に啜る。可愛い妹の作ってくれたものだ、極上でないはずがない。……けれど、気分は重かった。

 奇麗ごとだと分かっている。そも、今も教国では人が奇械に殺されている。目の前に居るから特別とは、傲慢だろう。それでも、願わずには。そして託さずにはいられなかった。ベディヴィアが、全てを救ってくれるような奇跡はないものかと。


「ふふ。皆、やりたいことが決まっているようで何より。それに、せっかく作った料理だ。楽しんで食べてくれるに越したことはない」


 ルナは笑っている。死を覚悟して戦場に臨む者たちを、まるで拍手でもしそうな様子で眺めている。

 その力さえあれば助けられるのに。6人もの数が居れば何でもできるだろう。

 けれど、彼女は笑って送り出すのみだった。


「……ねえ、お姉ちゃん。お姉ちゃん用に美味しいところを取っておいたんだよ? 食べる?」


 ルナはアルトリアの顔を覗き込み、こくりと首を傾げた。それはすごい可愛らしくて……あざといことこの上なかった。


「――」


 それに、アルトリアは頷く以外のことができるはずがなかった。


 解散する。宴会の様子を見れば既に酒が回っていた。そんなものを出した覚えはなかったが。トラックの救援物資の中にアルコールはあって、そして扉は開け放たれていた。

 それを管理しているルナは、ほしいものがあればご自由にどうぞというスタンスだ。見れば、シチュー以外にもいくつか料理が出回っていた。勝手に作ったものだろう。

 アルトリアとしては、ルナの作ったシチューがあれば他に何も要らないが。


 決戦前夜。死を覚悟したレジスタンスたちは大いに宴会を楽しんでいた。イヴァンもまた、そこに突っ込んで騒ぎ始める。


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― 新着の感想 ―
[一言] こういう時シェルターとかが真っ先に狙われたりするよね
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