第14話 緒戦 side:ルナ
ドM変態幼女のミラが強襲してきた。それはさておき。彼女と他の二人を加えて、一同は【奇械】に襲われている都市【クレティアン】へと急ぐ。
ルナは強力な感知能力を備え、しかも箱舟の演算能力が詳細なマッピングを可能とする。感覚的なそれとは違う。至れり尽くせりの”箱舟の機能”がルナを有能に見せかける。
紙と鉛筆で必死にかき出している横でPCを使うのはチートだろう。しかもスマホもあって、写真をワードデータに変換する機能まであるのだから。
「さてさて、お姉ちゃん。どうなってると思うかな!?」
「街のことか? 教国が突破されたのなら、民主国の兵に成す術はないだろう! 1日2日ならともかく、8日も経った今では生き残った者が抵抗を続けているのが精々だろうな!」
叫びながら会話する。今、アルトリアは野郎二名とともに荷台の上だ。これが街だったら、トンネルや街灯に叩き落されそうで危ないが、ここには対向車も道路すらもない。とりあえず荷台にしがみ続ける筋力さえあれば安心だ。
なお、ルナとアルトリアが戦ったのが街が襲われる1日後。そしてアルトリアが3日眠り続けて、一度別の街へ寄り、金に飽かせて2時間で救援物資とトラックを確保。そこからは無休で走らせている。
ちなみに物資のリストを作成したのはルナだ。
……これで、誰が優秀であったかと言えばアダマント姉妹ということになるだろう。誰だ? 彗征龍ストームドラゴンを倒したレン。そして、二人一組で焔征龍ボルケーノドラゴンを倒した姉妹がアダマントだ。
ルナの副官としてプロジェクト『ヘヴンズゲート』の実務を担い、その貢献からルナ手づからの再改造を施し、自身の装備すら貸し与えた。
その手腕を真似しただけだ。下っ端として働かなければ本当の力はつかないと言われるが、それは嘘っぱちだ。”上”にある方が力がつくのは当然だ。なぜなら、使えない部下を教え諭す”義理”は先輩にないが、部下には上司が理解できるまで説明する”義務”がある。
その点において、姉妹はちゃんとやった。借り物の記憶力だけが長所の物わかりの鈍い上司に、きっちりと1から10までを教えてみせた。
「では、こっちの物資が命綱かな? 基本的に民主国の都市に万が一落とされたときの備えなんてないんだろう?」
「そうだ! 非常食くらいはあるだろうが、他は全て駄目だろうな! せめてシェルターくらい作っておいてくれれば生存者が期待できるんだがな!?」
「そこ、シェルターないの!?」
「知らん! あることを願うのみだ!」
「了解! さあ、都市が見えて来たよ! アルカナ?」
「おう! すでに壁は崩されている。上に何か浮いておるな!」
「それは転移門だ! 奴が居る限り、無限に兵隊を召喚してくる! バリアを持ってる動けないベスキオ侯爵とでも思っておけばいい!」
「なるほどね! 敵の増援は断っておきたいところ!」
「ならば、私に任せろ! そいつの右、向かって10時に四足獣の奇械が見えるな? そいつは『スフィンクス』型――敵の司令官だ。奴を頼む!」
「了解だ。トラックはこのまま突進! 崩れた壁を乗り越えろ! コロナ、アルカナ。トラックをお願い。他は後詰だ、僕も行く!」
アルトリアが飛ぶ。すかさずルナもトラックの窓から飛んだ。
「――さあ、僕の力を見せてやろう。異能など使うまでもなく、貴様くらいは倒せるさ。お姉ちゃんに倒されたままでは、僕も観客から弱く見られてしまうものだろうさ!」
ルナは厨二的な言動を好む。これも、世界を演劇としか見ていない故の言動だ。居もしない観客について言及するが、見ているのは箱舟で待機している仲間だけだ。
「ここまで近づかなければ敵対と見れないか? 間抜け――AIを引っこ抜いて入れ直してから出直して来い」
トラックより、なおも速く地上を駆けるルナ。崩れた壁を駆け上り、奴を視界に収める。
スフィンクス、と言われるのも納得だ。機械の人面、しかしその首から下は獅子の身体が生えている。そして、背中には羽が。それは機械の羽、連なる8対16個の砲塔を見れば用途は明らかだ。
「さあ、スクラップ同然のデクめ。本当の鉄くずに変えてやろう。月読流……【龍爪】」
腕をクロスさせ片手に4本、両手で8本の刀を召喚する。……投げる。
〈――飛翔体、確認。迎撃を開始します〉
機械音で人面がしゃべる。女の顔と声だ。もっとも、機械のそれではマネキンの方がよほど人間には近いけれど。
機械の正確さで即座にロックオン。羽の砲塔――電磁砲を撃ち放つ。それはいとも容易く音の壁を突破し、実に音の6倍のスピードで刀を迎撃する。
ルナの仕掛けた小癪な時間差など機械の正確さの前には無意味。そして、こうなれば刀の鈍い動きなど気にかけるまでもない。狙いさえ正確ならば確実に撃ち抜ける。重量と速度の暴力だ。こういう単純なのが異能では最も厄介だ。嵌れば楽勝、だけど相性が良くなければ苦戦する。
「防げるかよ」
”実力が均衡しているのであれば”。ルナはこの程度の相手に異能など使わない。『鋼』の軍団、もしくは『宝玉』ですらも、このスフィンクスは相手にできるのであろうが……ルナの力は『黄金』相当だ。その程度に抑えてあるということなのだが、それより低くするつもりはない。
〈――〉
敵は飛翔する刀を撃ち抜き、破壊したさまを幻視する。
予知ともいえる正確な予想、しかしその予知は実現しなかった。レールガンは間違いなく龍爪に当たったのに、”それ”はまったく変わらず迫りくる。
〈再射撃を実行〉
だが、機械は動揺などしない。効果が出なかったのだから、もう一度同じことを繰り返す。指揮官機であろうが、魔導人形で例えるならば『鋼』と同等かそれ以下のクラスだ。
人間でも臨機応変な対応ができる奴は少ないのに、低級のAIごときにできはしない。
〈損傷、甚大――〉
だが、わずかに狙いを逸らすことには成功した。ゆえに生き残った。
羽は無惨に引き裂かれ、さらに胸のあたりまで深い爪痕を刻まれている。けれど、五体がバラバラにはならなかった。
〈敵手発見、最終攻撃を実行……!〉
生きているなら、敵を殺す。それが奇械だ。生きている限り、殺すのだ。残った機能を総動員し、最大攻撃を仕掛ける。それが最後の技となろうとも、蒼い息吹を吹きかけるのだ。
「……なるほど、冷気か。間違ってない」
ブレスに当たった部分が凍り付く。それは中々に厄介だ。周辺のビルごと凍り付かせながらブレスがルナに迫りくる。超高範囲攻撃は、かわして近づくなどできない。
そして、炎よりも凍らせる方が対処法は少ない。パイロキネシスなど熱を無効化する異能は数あるが、冷気となるとそうもいかない。
〈ロックオン……【グレイスクロスフリーザー】〉
ルナに冷気が集中する。ただ拡散する息吹でさえ-200°に冷凍する冷気がルナに届く。-200°に耐えられる生物など存在しない。全て凍り付き、死に絶える。
「だが通じんさ、この僕には。月読流蹄刻が崩し……【天堕刻印】」
ブレスに突っ込み、突き破って踵落としを叩き込んだ。ぐしゃりと歪んだ機体は立っていたビルをも砕きながら地面に埋まる。
「この程度の冷気では僕の薄皮一枚すらも凍らせられんよ」
街に放たれた無数の奇械。腹の下に機関銃を括りつけた幾多の機械蜘蛛がルナを狙い撃つが……一顧だにしない。
無数の銃弾が当たる中、ルナは平然と佇んでいる。
アルトリアは、天空に浮かぶ機械門を見る。転移は起動していないのか、それはドーナツ型をしている。起動すればその中心の空虚にフィールドが発生するのだろう。
そして、もう一つ。常時発動型の結界にしてフィールドが機械門を守っている。それは無敵の結界だ。
「――転移門か。その守りは絶対。守護結界『クラインフィールド』が、熱も衝撃も次元の彼方に飛ばしてしまうのだったな」
そう、それは力では破壊できない。絶対の護りに守られて、天空の門は人類に絶望を撒く。救いは守護結界を発動させる限り、向こうも軍勢を転移させられないこと。
人類がそれを倒すには、基本的には転移した軍勢を地上に降ろす隙を狙う。もしくは飽和爆撃を継続して熱量飽和を起こさせることだ。次元に限度はないが、穴を通れる物量は限られている。しかし、それは――街を壊滅させるに足る熱量を三日三晩注ぐ必要があった。
〈……〉
そいつに目はない。だが、アルトリアはそいつに見られた気がした。
「関係がないな。私はルナに勝った女だぞ。無敵の結界だろうが、動けない的ごときに負けはしない。そう、勝つのは私だ」
天空に昇り、そして堕ちる【天堕刻印】は使わない。あれで熱量飽和を起こさせることはできないだろう。2回、3回とやれば熱量を放棄するスピードを上回れるかもしれないが……そこは、”しない”。
剣を持つ。『黄金』の魔導人形だ、持っていないはずがない。
「そう。私は条理すらも超えたとルナは言った。ならば、空間の一つや二つ斬れずに円卓の王など名乗れようはずもないのだから!」
銃弾のようなスピードでポーターに挑みかかる。しかし、それは実に鈍い――天に一瞬で昇るスピードをまったく発揮していない。重力操作を使えないのではない、使わない。
「倣い、研究して自らの技へと昇華する。武とはそれの繰り返し。見よ、我が技。皇月流疾風が崩し……【風迅閃】」
フィールドごと敵を一刀両断にする。転移門は上下がずれて一瞬後には爆砕した。この世界の理の下、剣一本で空間を両断できる道理はない。異能にて重力子を集めれば可能だが、今アルトリアは使っていなかった。
現実を嘲笑うがごとき”奇跡”を、当然のごとくものにした。これこそが、ルナに勝利した存在。魔王すら掌中にした英雄だ。
そして、ルナがアルトリアの。アルトリアがルナの技を使っていたが、そこは何も不思議はない。先の言のように、技術とは倣って自らのものとすること。見よう見まねは最も原始的な教導行為だ。
そして、剣の真理に難しいことなどあるはずがない。2寸か3寸刃を刻めば殺せるものに、大層な術理などは存在しない。そして、月読流も皇月流も魔導人形を前提とした術技なのは違いがない。派生でもなんでもないが、根源は同じだ。ならば、少し技をアレンジすれば他流派を真似することなど容易い。
「――お姉ちゃん」
「ルナ? どこに居るんだ? この声は……」
「魔導人形の通信くらいやったことがあるでしょう」
「うむ。まあな――」
とはいえ、こうも当たり前に魔導人形を纏わずに魔導人形の異能を持ち出されると困惑する。基本、それは全身甲冑状態でないとできないことだ。
「分かったかな? 生存者たちの場所が」
「いや……空から眺めたが、何も分からん」
至る所で戦闘の跡があるあたり、レジスタンスがいるはずだが拠点が分からない。それに、一般人もシェルターに逃げ込めたなら生き残っているはずだが……
「眺めていては見えないよ、感じ取らなきゃね。――お姉ちゃんはもうできるよ。訳の分からず魔導人形に使われてた以前とは違う。今や、魔導人形を使う『重力遣い』になったのだから」
「……重力遣い? 私はまだ異能を使っていないぞ。何か変化が起きていても、使用していないのだから関係がないはず」
「使用の有無こそ関係ないさ。今は本質が見えているはず、人間だった頃の感覚に囚われてはいけないよ。お姉ちゃんが見るのは光でもなければ、音でもない。もちろん電磁波であるはずもない。【奇械】に見えてるそれらじゃない」
「私にそんなものが見えるはずが……いや、何かが動いている? 奇械ではないのか――これはヒトか。3時方向……あれは、公民館か。なあ、ルナ。もしかしてあそこに人が集まっているのか」
「そうそう、よくできたね。そこに人が集まっているのさ。……よし。では、指揮官機を壊されて奴らが混乱している間に突破しよう。プレイアデス」
ルナがパチリと手を鳴らす。
「承知。星よ、我が君に従いて地に堕ちよ。天にて輝くことよりも、我らが主のために役立つことこそ誉れと知るがいい。死こそを、尊べ。【星骸降隕】」
天から降り注ぐ星の欠片が、ルナとアルトリアを撃ちまくっていた機械蜘蛛を貫き壊す。敵の一派を一瞬にしてまとめて潰した。
幸運にもシェルターはあった。生存者もいる。最初に分からなかったのは、それは”ちゃんとした”シェルターであったためだ。
【奇械】は光学センサにだけ頼ることはしない。音、紫外線に赤外線、電磁波まで見ているから、そこを遮断できなければシェルターにはならない。まあ、要するにこの街ではシェルターを作る際に中抜きをしなかったということだった。
奇械に支配されていた街を、一行は強引にトラックで進んでいく。
――余談――
実は第二部を作るにあたり、キャラの作り方を変えました。主要キャラは肩書を作った後、その背景をタロットによって決めています。その人の人生を占う手段を、架空の人物の経歴を作る手段にするのは面白いかな、と。
お姫様は過去:『皇帝』の正位置、現在:『塔』の正位置、未来:『死神』の逆位置でした。踏み込んだ設定もありますが、公開はしません。なお、妹スキーの性癖はキャラ付けです。
ちなみにベディヴィア、過去『節制』の逆位置、現在『正義』の逆位置、未来:『法王』の正位置。ガニメデス、過去『月』の逆位置、現在『法王』の逆位置、未来『魔術師』の正位置でした。
色々想像してもらえると楽しいと思います。