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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
第2部:戦姫編
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第2話 姫騎士登場 side:姫騎士


 私……アルトリア・ルーナ・シャインは、寂れた村を歩く。

 民衆は誰も彼もが苦しんでいる。それは敵がやって来るためだ。人類の天敵たる”奇械”が私たちに牙を剥く。

 そう、ネジに鉄線、歯車――そして様々な拷問機械を組み合わせた魔がヒトを殺す。


「――敵か」


 ……【奇械】は鉄と魔石から出来ている。

 人の手では、殴っても自らの手が砕けるだけだろう。刀を持ったとしても、斬鉄などどれほどの達人ならできる? それは薄板などではなく、様々な鋼と鉄を組み合わされて作られているのだから。

 では、銃ならと言うと……それも不足だ。威力不足を補おうと大口径にしたら今度は支える人間が壊れる。地に据え付ければいいが、敵を相手にそんな悠長なことはしていられない。


「はああああ!」


 ゆえに、私は『魔導人形』を纏って突進する。それは身体のすべてを覆う銀色の装甲。位階『黄金』のそれを一言で言えばパワードスーツだが、”それ”が補うのは防御力や筋力だけではない。


「――斬!」


 踏み込み、切り裂いた。

 鉄すらバターのように切るそれは切れ味だけではない、数十年の研鑽の果てに至ることのできる武道の深奥。それを練習すらなくものにできる。

 それこそが魔導人形の神髄。纏う鎧が動きを修正してくれる。自らをマリオネットとして奇械を倒す力を得るのだ。

 そして、そこから先が魔導人形を駆る者、『マスター』としての本領発揮。


「敵、発見――排除開始」

「排除、排除」


 敵は残り二体。……ならば、さっさと始末してしまおう。今となっては整備もできない魔導人形を消耗させたくはない。

 左の肩部ブースターに点火、左方向に身体を飛ばす。

 奇械どもはその動きについてこられない。低級ならこんなものだ。

 無理やり低空で着地、脚力で跳ぶ。それは原始的な機構でついていける動きではない。この魔導人形はかろうじて動くだけのガラクタで、それ以外のブースターは既に壊れていたというのにその動きに陰りはない。


「これで終わりよ」


 二体をまとめて引き裂いて、纏った魔導人形は亜空間に格納する。

 簡単に見えたかもしれないが、こんなんでも普通の村には死神に等しい。確かに軍人なら魔導人形を使わずとも倒せるだろうが、ここの人は一般人。

 私がやらなければ早晩滅んでいたことは間違いがない。


「――姫様」


 従者のガニメデス・ガドが苦い顔をしている。何も言わないが、言いたいことは分かる。【奇械】は珍しいが、いないわけではない。……こんなことをしても意味がない。

 こんな辺境の村をいくら助けたとて、人類には益しない。毎日数ダースで起きているような悲劇をとどめても意味がない。私とて、この村に留まり守護をするわけではないのだから。


「こんなことをしている場合ではないと言いたいのでしょう?」


 浮かべるのは自嘲。確かにその言は正しかった。

 私はこの民主国で姫の冠をいただいている。ただし、実権は強くない。貴族も王も、今となっては全ては過去の遺物、象徴でしかない。

 現在、政治を行っているのは民なのだから。

 ――だが、貴族は今もなお権益を貪っている。そう、皆殺しにでもしなければ築き上げたものは奪えないという事実。権力を民の手に取り戻したとしても、魔導人形を独占しているのは未だ貴族だったのだ。

 魔導人形が彼らの支配下にある限り、彼らは単に支配者の義務を脱ぎ捨てただけだった。仕事をするたびに高額の報酬を巻き上げるから、権力に衰えはない。


「――ベスキオ侯爵が動いている。彼の暗殺部隊の一派を退けたところで、安心できるわけではないと言うのでしょう?」


 私はそれを指摘した。

 究極とすら言える魔導人形の位階『黄金』や『宝玉』、それが選ばれた血族にしか使えないという虚偽。貴族は、強力な魔導人形は血筋あるものしか使えないという嘘をついている。それ以下であれば量産型、固有能力すら持ち合わせないそれと比べて真正の魔導人形は貴重に過ぎる。

 ……それらは所有者と死に別れるまで、他者が契約することは能わない。ただそれだけなのに、貴族たちは王族専用だの、どこかの地を収める一族にしか反応しないだのほざいている。

 それはバレていなかった。実際、契約しないで空きが残ることなど非常に稀だから嘘が通用していた。

 私は、それを壊したい。奇械との戦争を他国へ押し付け、ゆっくりと腐っていくこの国をどうにかしたい。でなければ、人が奇械に滅ぼされる日は近いのだから。


「ベディヴィアは戻ってきましたか?」


 彼が居る限り、ベスキオ侯爵は決して暗殺の手を緩めないでしょう。彼の一族が持つ『宝玉』位階の魔導人形、その操者を殺して彼に与えたのは私なのだから。

 ……そいつは下らない男だった。

 魔導人形の力に溺れ、磨くことをしない。鎧の隙間を狙って殺すなんて常道なのに、彼の選んだ男は反応もできなかった。治癒の加護があったとて、連続で5つも致命を打ち込めば殺せることも知らなかった間抜けだ。


「ここに。……姫様、お怪我は?」

「ありません。たかが3体を相手に手傷を負うようでは話になりませんから。あなたはどうです? 下級10体なら、『銅』でも余裕かと思いますが」


「それは姫様だけです」


 断言されてしまった。

 魔導人形のランクは6つ。真なる魔導人形は『白金』、『黄金』、『宝玉』。もっとも白金は人の世界に加護をもたらす神の力、人間が使えるのは黄金からだ。

 だが量産品の『鋼』、『鉄』、『銅』になってくると特殊能力は使えないし、そもそも鎧に隙間ができる。法則をゆがめる力すらないほどに、それは弱い。銅であれば、それこそ浮く砲台でしかない。


 とはいえ、最下級の『銅』でも、何度も叩けば下級兵の装甲を抜けるのだからやってやれないことはない。

 本来の用途は数による集団戦闘ということは知っている。そのことを言ってみる。


「確かに魔導人形は、使い手の技量が重要とされています。しかし、それは魔導人形にどこまで合わせられるかと言うものでしかありません。人間にできないことは、魔導人形を纏ってもできません」

「人間にできること、の定義が違いますね。魔導人形は人間ができることであれば……剣聖だろうと、神弓だろうと再現します。神業を練習すらなくモノにできるのがその力であるのだから」


「あなたの求めるレベルは高すぎます。兵は、言われたことをやる以上のことは求められません。そして、貴族とて魔導人形を使うので精いっぱいです。あなたのように、”扱う”などとてもではないが追い付かない……」

「皆、怠惰です。飛ぶ、斬る、撃つなど魔導人形を纏えば誰にでもできる。……重要なのはそこから先でしょう。これを”使う”のがそこまで大事ですか? 理など知らずとも、使えればいいでしょう」


「――それができるのは」


 アルトリアは歯噛みする。

 誰もが平和ボケしている。今も隣の国では奇械と最前線で戦っているというのに。この民主国では誰もが自分のことしか考えていない。

 迫り来る奇械の脅威が目の前にあるのに、気付いてもいないのだ。


「……まあ、それができるのは教国の人間くらいのものだろうな」


 聞きなれない声が耳を突き刺した。険のある声は殺意を隠しているのが明白だ。とはいえ、存在は認識していた。わざわざ声をかけてくるとは意外だが。


「誰だ、貴様らは!? 名を名乗れ!」

「ガニメデス、構えろ。今の俺たちに味方などいないのだから」


 ベディヴィアが構える。だからこそ、奪った『宝玉』は彼に与えた。

 構えを取るわけでもなく、ただ誰何を繰り返すのはガニメデス。逃亡者に過ぎない今でも貴族面をする彼には『宝玉』は豚に真珠でしかない。とはいえ、彼の家の持ち物を使うなとも言えないが。


「ベスキオ侯爵の手の者ですか? いえ、どこの者であろうとも今は関係ありませんね。……敵ならば、切り捨てるまでです」


 アルトリアもまた剣を構える。『黄金』位階は物理法則など超克する。剣には刃こぼれなど一つもない。壊れてしまったブースターも3日もかからず治るだろう。……その間休ませることができたなら。

 ああ、なんとばかばかしい。私に向ける戦力などあったなら、それこそ教国に送ればよいものを。誰も、奇械との戦争を真面目に考えていない。そう嘆息するほかない。


「ハッハァ。中々イカした嬢ちゃんだな! 聞いてた話からすると頭がお花畑かと思ったがな。みんなで仲良く人類の敵と戦いましょうだなんて、どんな阿呆面してんのかと思いきや!」


 そいつは盗賊の頭目みたいな髭面だった。

 渋みのある声が周りを威圧するかのように吠える。纏う魔導人形は『銅』、最下級だ。特殊能力すらなく、鎧に隙間まである。

 一山いくらの量産型でしかないそれを纏っている。戦力差ならば、絶望するしかないほどのものであるはずだが。


「――貴様、『銅』などを着て何を吠えるか! 貴様などに何かを言われる筋合いはない! そして、姫様が相手する必要もありはしない! 来い、我が魔導人形『エメラルド・ガーディアン』」


 ガニメデスがここでようやく魔導人形を纏った。

 つくづく思うが、隙だらけだ。何を思ったのやら。……いや、何も考えていないに決まっている。総じて、実力が低すぎる。私はそう吐き捨てる。


「この民主国にこの人ありと謳われた姫騎士! 最強格の一人、誰もが憧れる最強にもっとも近いと言われたその人が……今や落ち武者もかくやと言った有様だ!」


 髭面がわめく。ありきたりな暴言だが、確かに、と頷く。

 姫としてあったときの腰まであった長髪も、今は手入れできないから短くしてしまった。漆黒よりも暗き至宝の輝きなどと言われていたが、髪などを守っている場合ではない。間違えられることこそないと思うが、誰もに見違えてしまったと言われてしまうだろう。

 だが、姿こそ変われど昔も今も、何も変わっていないと自覚している。ただ、できることを全力でやってきただけ。


「けれど――私は間違っているとは思えない。あなたにも、今の民主国に守護者などいないことが分かっているはず。解き放て『ミストルテイン・ペインブレイド』……!」


 装甲が異空間から現出する瞬間に、そいつの攻撃が来る。

 基本的に装甲中は動いてはいけないと教えられている。変に動くと身体のどこかが捩じ切られてしまうから。

 けれど私は動く。装甲中の動きを把握するのは当然だろう、と師に言ったら笑われたけど。まったく、誰も彼もがなんと弱いことか。かの師とて、倒すのに異能は必要ない。そして、このベスキオ侯爵配下の兵とて――弱く、脆い。


「この動き、正規兵ではありませんね」


 睨みつける。残念ながら、民主国の正規兵は基本的なことしかできない。こんな……装甲中の動きを突くなど夢のまた夢である。

 少し、相手の動きを観察する。レベルが違う、自分には遠く及ばないにしても……王都を守る騎士よりも格上ではあると判断した。


「――貴様! 動けない隙を狙うなど、操者の風上にも置けん!」


 だが、ガニメデスが特攻してしまう。

 顔は見えないが、ニヤリとわらったような雰囲気。『宝玉』と『銅』は覆せないほどの性能差がある。そもそもが『銅』では破壊できるほどの出力など出せないのだ。

 ……だが、交差法なら話は別。カウンターで敵の出力も載せて脆い首を刈るならば相討ちになら持っていける。


「は。そうくるよなあ! 間抜けェ!」


 今のミストルテインでは助けられない。戦場を支配する『黄金』でも、特殊能力を発動できない現状では装甲が終わった直後の硬直はキャンセルできない。


「――させん!」


 しかし、ベディヴィアが動く。

 きっと、ガニメデスは何も分からなかった。彼は何も分からないまま、蹴り飛ばされて転がっている。

 そして、肝心な敵はというと首を切られていた。ベディヴィアはガニメデスに蹴りを入れるのと同時に剣閃を放って敵手を討った。……これこそが量産型とオリジナルの差だ。しょせん、『鋼』以下など量産の歩兵に過ぎない。


「……なるほどな。速い、そして機体に振り回されるそこの愚者とは訳が違うというわけか」


 だが、その敵は起き上がる。首から噴出し鎧を濡らす血の勢いが落ちていく。骨まで見える傷だろうが、魔導人形は操者の命を守る。殺すには頸動脈を斬るのでは不十分だったということ。

 そして、痛みも感じていないかの様な流ちょうな言葉。否、麻薬で痛みを無効化する素早い動きは見覚えがある。


「そちらこそ、その動きは教国のものですか?」

「まあな、この国じゃあ兵士は稼げない。向こうは地獄だが……死ななければ稼げるんだよな。お姫様は、あんたの場合は馴染んじまうかもな。殺しても死ななそうだ」


「だから、誰かから奪うのですか?」

「おいおいおい! 冗談はよしてくれ。俺が夜盗にでも見えるかい? 金が要るなら砦のある街に行くに決まってるだろうが。逆さに振っても何も出やしねえよ。とはいえ――善玉なんてものじゃあねえがな」


 後ろからぞろぞろと仲間が出てくる。総勢16名、『銅』に一段上の『鉄』……だが量産型の中でも指揮官機である『鋼』はない。私の『黄金』ならば問題ない相手ではありますが――


「あなたは下がっていなさい、ガニメデス」


「姫様、戦うのでしたら私が」

「いいえ、ベディヴィア。あなたも下がってガニメデスと荷物を守りなさい。今となっては貴重な財産です。破壊されるわけにはいかない」


 一歩、前に出る。


「アレらは私が倒します」


 宣言した。殺す気はない、気絶させて放り出すだけだ。私ならそれができる。


「なるほど、やはり戦士の顔つきだな。お姫様にしておくのは惜しい。……が、やはり民主国の人間だな。人間と言うものがどれだけちっぽけか知らない」

「……あなたも、民主国の人間でしょう?」


「捨てたよ、国なんか。……そして、人の心も」

「何を――ッ!」

 

 敵の一人が前に出る。その手には、小さな人影。ぐったりとした姿。おそらく子供。そして。


「近くで見つけてな? こんな服を着てるってことはお知り合いかな?」


 夢のようにきらめいた髪が流れる。豪奢なフリルが揺れる。私などよりよほどお姫様らしい格好で、汚れなど僅かも見えない。とても美しい少女。あと8年、いや5年もすれば社交界の人気者にもなれるだろう。


「――貴様、人質か? それほどの腕を持ちながら……!」


 歯噛みする。人質を見捨てるのは正しいことではない。それはできない。……特殊能力さえ使えれば何も問題などないのだが、今は使用不能なのがつくづく悔やまれる。


「……さてさて、どうするのかな? お姫様?」


 その声にははっきりとした嘲笑が込められていた。


「……」


 ぎり、と歯噛みする。ガニメデスは論外、そしてベディヴィアはまだまだ弱い。……一気に彼らを叩くなど不可能だ。

 ゆえに。


「申し訳ありません、あなたたちを――殺します」


 本気を出す。


「は――おもしろ……」


 一歩で音速を突破する。だが、この機体は速度特化。加速するための能力は使えないが、それでも一々音速を突破する度に衝撃波を出していては面倒だ。ゆえにそれを打ち消す術式が込められている。

 常時発動のそれはまだ壊れていない。人質の少女を傷つけることはない。


「さようなら」


 拳で頭を砕き、その一瞬の後に腕ごと人質の彼女をもぎ取る。眠ったままの少女は寝息を立てていた。

 このまま預ける選択肢はない。諸共に攻撃されれば彼女も死ぬ。ゆえに、反撃すら許さず全てを殺す。全員、打ち砕いて死体へと変える。


「このようなこと、いつまで続けるのでしょうね。私たちは」


 血に染まった平野に一人立つ。足元には16人分の細切れ死体。そして、腕の中には先の少女。

 本来の性能とは程遠くとも『黄金』位階とはそういうものだ。だから、ベスキオ侯爵も人の命を(まき)と積み上げて私たちの消耗を狙っている。

 波状攻撃だ。戦力の逐次投入をして、消耗を待っている。1000人、2000人死のうが殺せればいいとの判断だ。もちろん、今襲ってきた敵は上澄みに入り、魔導人形すら持っていない襲撃者も居た。


「無事で何よりだ。後で君のことを聞かせてほしい」


 彼女に話しかけた。なにも苦労したことのなさそうな細い腕が袖から覗いている。水仕事など一度もしたことのなさそうな真っ白で傷一つない指は怪しい美しさを持っている。

 色素の薄い紫色の長い髪はこの世のものと思えないほどなめらかで、自分などが触ったら汚れてしまうのではないかと不安に思う。

 ああ、そうだと思い出す。姫をやっていたときは、私も周囲の人間もそうだった。私のはただ魔導人形に付属する回復能力だったが、彼女たちは本当に傷一つなかった。箱入りで育てられていたのだ。




主人公の姿が見えないなー(棒読み)


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[一言] さてはこの人質ルナかルナの周辺人物だな! 現状のこの世界の脳内イメージ デデンデンデデン タ○ミネーターVSアイア○マン
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