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ex13話 意地


 【災厄】は侵入者達をほぼ全滅させた。だが、彼らの中でも犠牲が出て、そしてウツロはその魔石を使用して究極の魔人へと変じた。

 その根源星将は残り6体のうち半分までも一瞬で倒してしまった。


「……ニンゲン、ガァ!」


 残るは【堕天せしモノ】アスタロト、【地獄の現出シャ】アドラメネク、そして――【王たりえるモノ】バエル。

 バエルが踏み込む。強力な身体能力を持つ個体、災厄の連携は基本的に前衛と後衛という稚拙なものだ。伏兵と言う概念すらも理解しているが、兵数が割れている現状では意味がない。ゆえ、遠距離系のアスタロトとアドラメネクが魔術を放ち、その隙にバエルが殴りこむ。


「付け焼刃で!」


 単純、であるからこそ強いとまでは言えないが――しかし変なミスはしない。普通に強い、それで十二分。苦々しい思いだが、まだやり方はある。


「サンヲ、アイテニ。ヒトリ、デ!」


 ウツロはひらりと回避して、後衛に攻撃を叩き込む。前衛の方が硬い、そして牽制しなければ避けられない攻撃を出す隙を与えてしまうために選択肢がない。

 まずは後衛を潰す、戦の常道だ。


「勝つ! 私は。……私が!」

「ニンゲンガ、セカイヲ、ミタス――ナド、ミトメラルカ!」


 バエルが腕を振りかぶって、殴りつける。ただひたすらに強大な身体能力、技すらも必要がないその威容。ウツロはかろうじて避けた。しかし、まだ追撃がある。


「チョコザイ、ナ!」


 アスタロトの魔術、病をもたらす霧が満ちる。


「ぐ――でも……!」


 腕が腐る。瘴気を炎でかき消して、侵された皮膚を焼く。純粋能力ではないために回復はできるが、それでも体力は削られる。“それ”は今は亡きベルフェゴールの十八番だった。


「コウ……カ! 【ボルテクス・ライトニング】」


 そしてアドラメネク。かつては技など必要なかった。己が能力を振るえばそれでよかった。

 けれど、今はそれでは駄目だ。そこから一歩踏み出さねば。連携のために狙い澄ました一撃を。仲間を巻き込まないように威力を削っていた先までとは違う。


「あ――うあ!」


 ウツロの腕が雷撃に飲み込まれて消滅する。その鋭く研ぎ澄まされた一撃は威力と言う点においては意味がなかった。

 けれどHP制ではないのだ、どんなに強い威力を叩き込んだとしても腕が蒸発したならそれは同じダメージだ。上限ダメージがさらに上限突破することに意味はない。


「まだ――まだだよ、私はこんなものじゃ倒れないから」


 腕が再生する。【災厄】の魔石から生まれた魔人――それは正真正銘の人類最強である。もっとも、それは“こう”まで成り果てた彼女が人類と言えればの話ではあるが。


「月読流が崩し、虚月流……【炎弧】(えんこ)


 刀を握る。アスタロトを倒したルナの刀だ。地に埋められていたものを呼び出し握る。炎を顕現させ、魔力による身体強化で強引に月読流の動きを再現して斬撃を飛ばす。


「ヌ――オオ!」


 バエルが渾身の力を込めて炎弧を殴り、破壊する。だがその腕に亀裂が走る。まともに喰らえば災厄すらも葬る一撃だ。


「連結、合成。虚月流……【焔胡(えんこ)蓮華】(れんげ)


 しかし、それはもとより見せ技だった。対応させ、その隙を突く二段攻撃――もっとも、一撃目も対応を誤れば真っ二つだが。


「……ム!」


 3mほどの半球――炎の円弧が折り重なった極小絶死空間。一つ殺すのにその地を覆いつくすフィールド展開など必要ない。一匹分を殺し尽くす“それ”がアスタロトに迫る。


「ホロビヌ! ヒカヌゾ、ニンゲン。キサマラ、スベテ、コロシツクスマデ――【ブラックホール】」


 無限引力が焔胡・蓮華を飲み込む。

 アスタロトの魔術は純粋魔法……己が魔力によって世界に降す命令。式を整え魔力構成を錬成することで世界を歪める魔術とは違う、次元が違うために可能だった魔法の業。だが、人間と同じ魔術を使えばその分、威力は強化される。その分、迅くなる。


 ――人間と同じという屈辱を受け入れて。


「まだ。まだ――虚月流……【狂い咲き桜花】」


 敵も必死だが、ウツロだって溢れて己が身を焼きそうになる力を懸命に制御している。いくつも剣閃を重ね、降りしきる桜のように無数の斬撃を繰り出す。ウツロの真の属性は炎、炎が溢れて我が身を焼く。


「アキラメロ、ニンゲン。サイショカラ、キボウナドナイ」


 バエルはその一つ一つを破壊して、ウツロの前に立つ。凄まじい力で、どちらともにボロボロになっている。一歩間違えば共倒れだ。


「無駄よ、私の中には皆の姿が残ってる。もう戦えなくても、それでも……いっしょに戦っているの。だから、諦めることなんてできない」


 ウツロは砕けかけた腕で一つ剣閃を放つ。バエルはそれをかわして拳を叩き込み、相手を地に沈めた。そう、それは文字通りにあまりに強すぎる威力であったために地がえぐれ、粉塵がウツロを土に埋めた。


「タオレロォ! 【ボルテクス・エクスプロード】」


 さらに追撃が来る。雷と炎の二重奏が渦を作り、地を引き裂いた。


「ユダン、シナイ。【レイン・オブ・ダークネス】」


 そして全てを溶かし地を削る魔術まで放たれる。出し惜しみはしない。すべての力を使っても敵を倒す。彼らの根城であるこの暗黒島ではある程度の無茶は可能だ。


「……ヤッタカ」


 バエルが腕を組み、呟いて――


「やっぱり、あなたたちは分かってないわ。人間、ってね――追い詰められると何でもするの。明日のことなんて考えられない。今、“できた”ならそれでいい」


 地上が溶け落ちた。すさまじい炎熱が、大地を溶岩に変える。先までの力をも上回る、馬鹿げた熱量が地上を蹂躙する。


「私は魔人。【ゼロ・オーダー】。そう、これがあなたたちの故郷なのね」


 ウツロは立っている。魔力渦巻くその根源、暗黒島たる【クラッキング・タートル】のその上に。長い歴史、降り積もった大地を剥いだその先にはその魔物が居る。年月は“それ”の上に島となるほどの土や植物を覆わせた。


「魔人、それは魔物と人の中間。魔の領域に足を踏み入れた人間。なら、魔物の故郷に足を踏み入れれば強くなる――道理でしょう?」


 目は赤く、まるで人間のカタチを保っていられないとでも言わんばかりに肌がざわめく。ウツロは敵の己が身を地中に埋められたとき、さらに深く潜ったのだ。暗黒島の“本体”に達するまで深く、深く――。

 瘴気に汚染された土と言えど、今のウツロならば溶かすのはたやすいことだった。そして、それに触れた。【クラッキング・タートル】、この世界の魔力の源泉へと、直接、手を。


「今、あなたたちのところまで行ってあげる」


 地の底から瞳、紅くきらめいて。


「燃え落ちなさい、世界――虚月流……【閃刀砲戦禍】(せんとうほうせんか)


 ウツロが絶対の一撃を放つ。無数の炎を纏う斬撃が空を焼く。それは『ヘヴンズゲート』の衛星軌道掃射砲などよりも強力な殺戮の技。上空、朱に染まり果て――


「――っが!」

「チョウシニノルナヨ、ニンゲン」


 しかし、炎熱の網を抜けたバエルの抜き手がウツロの心臓を刺し貫いていた。


「ショセン、ニンゲン、ガ――ワレラト、オナジ。ナド、アリエヌ」


 瘴気に満ちる魔力を吸収したとしても、ウツロは災厄ではない。その魔石を使って魔人となったとしても――“そう”なってわけではない。

 ……無理があったということだ。純粋魔力を取り込んだとて、有効に活用できるわけがない。上空全てを焼き尽くすような攻撃――それでも“殺し切る”一撃ではない。暴走じみた一撃では“災厄”を倒せない。

 彼らとて必死である。で、あるならば――生き残るために手段を模索する。ぼろぼろになろうとも勝つ手段を探し出す。逃れようのない災禍のような一撃、生きあがいて。どうにか……まだ生きている。


「が――はっ!」


 ウツロが黒い血を吐く。再生能力が働かない。バエルの一撃……否、先ほどの魔力吸収のせいだ。根源の瘴気を取り込んだことで身体機能が壊滅している。


「げほ! ごほっ!」


 喉が熱い。肺が焼ける。典型的な蒸気病の症状だった。


「じゃあ、お前だけは――ッ!」


 敵の前でどう治すかなど考えない。敵を倒して、後はそれから。ウツロに何らかの計画などない。あるのは目の前の敵を倒すという執念のみ。バエルの頭を掴む。けれど、もう炎すら出ない。

 ぎりぎりと、頭を掴む手に力を込める。もはや、それしかできることはない。


「ムダダ、ニンゲンヨ」

「ルナちゃんに言ったの。私の仲間は、諦めなくてすごいって。私とは違って――だから、今は。今だけは――」


「ムイミニ、シネ」

「九竺……! 九竺、私は――」


「……ガ。ギィィィィィィィィ! ナニ――ガ。ドコカラ、ソンナ、チカラ――ッ!」

「私は、後ろじゃなくて、横に立ちたかった……ッ!」


 ぎりぎりと込める力が際限なく上がっていく。すべてが尽き果て、蒸気病に侵された体でなお――


「コンナ……バカナ、コトガァ!」


 ベキリ、と壊れる音が響いて――



 根源星将(ゼロ・オーダー) 【夜明(よあけ)卿】ウツロ・L・カラサラ、戦闘不能

 【王たりえるモノ】バエル、消滅


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