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最終話 本戦5 


◆最終戦 ルナVS『煌刀』式子規九竺、第一星将(ファースト・オーダー) 『鉄血卿』アハト


「よく来たね。世界の終わりが、かのご老人との面白みのない立ち合いでは味気がないというものだ。終焉を迎えるからには、ふさわしく派手に行こうか」


 玉座に座るルナ。周りには三つの武器が突き立てられている。そして。


「おい、ルナ。その結晶体は何だ?」


 血のような鮮血色、炎のような鮮やかな緋色、ぐちゃぐちゃに引き延ばされた虹色、星のような黄金色――4つの結晶が玉座の上、ステージを睥睨するように置かれていた。


「”これ”がある限り、僕に攻撃は届かない。けれど」


 突き立てられた武器、その一つ蛇骨刀を引き抜き振るう。


「っちィ――」


 その先端は音速など容易に突破する。けれど、音速の領域に踏み込める身ならずとも英雄だ。回避することくらいはできる。


「僕が攻撃する分には別だとも。民衆は勝手なことを言って英雄を求めるけど――君たちが”そう”ならなければいけない理由はない。諦めて楽になってはどうかな?」


 揶揄するようにルナはその言葉を口に乗せる。蛇骨刀を振るい、玉座の上から攻撃する。


「……飛び道具が一、【断空拳】」


 しかしアハトは避けながら攻撃を敢行するまでの余裕がある。返答? そんなものはするまでもない。敵を打ち砕く――あるのはその単一機能のみ、それ以外は拾われる前の鉄の箱に置いてきた。


「無駄だ。この『四天結晶』がある限り――君たちは僕に一撃を届けることも、そして逃げることもできないのさ」


 ルナの前に貼られたバリアがその攻撃を弾く。

 さらに九竺には何らかのエネルギーフィールドが自らの後方に張られたのを感じる。――閉じ込められたということだ。

 もっともアハトには考える機能もなく、九竺もまたここで逃げることを選択するような性格はしていない。左右が開いているなんてトンチは求めていない。


「……」


 アハトは拳圧を弾かれたのを知ったことかと言わんばかりに接近し、その恐ろしい威力でもって結界を殴りつけ――


「君って奴は、恐ろしいほどわかりやすいよね」


 いつの間にかルナは蛇骨刀を弓へと持ち替えている。至近距離……しかも高速で一直線に飛ぶ弓矢はよけれない。


「……」


 横腹を三割ほど抉られたアハトは後退する。もしくは、威力で下がらせられたか。


「さあ、一方的な殲滅を始めようか。踊れ――終末への舞踏(ロンド)を!」


 蛇骨刀が閃き、視界がふさがった瞬間に弓矢の一撃が放たれ――体勢を崩せば刀による広範囲の遠距離斬撃が飛んでくる。


 ……これはもう絶望的と言っていい。

 当たればアーティファクトを着ていようとも問答無用で破壊される――というか、着ていなかったら余波で死んでいる。

 そして、攻撃しようとも結界は文字通りにびくともしない。結界は普通、力で押せば歪んだりもするがそれすらもない。

 これでもまだ攻撃の機会をうかがっているアハトは元から精神異常者である。九竺はもう少し賢く様子をうかがっている。


「ははは――手も足も出ないとはこのことだ! 花火だ、面白いね!」


 基本的にルナの攻撃は音速を超えているものだから、非常にやかましい。衝撃波がそこかしこで生まれて潰し合って、さらなる騒音を巻き起こす。もちろんそれは物理的に建造物すら容易に破壊する音だ。


「……ッ!」


 ルナが上を見上げる。星色の結晶が壊れた。それは彼らの攻撃が結界を貫いたと言うことでもなければ、もちろんルナの自爆でもない。


「――おや、早かったね」


 それだけ言うと、ルナは気にせずさらなる破壊をまき散らす。とはいえ、こんなにあからさまなら九竺とて気付く。


「……は、やっぱりそういうギミックかよ!」


 九竺だってルナのことは知っている。何も言われずとも、あれはプレイアデスが敗れたことを示すものだと言うことくらいは察せる。つまりはあの4人を倒せと言うことだろう。ルナは戦っている四人の戦いを蛇足になんかさせないから。

 そして虹色、緋色が割れた。残りは一つ、まずはすべてが割られるまで耐え抜かねば。


「おい――てめえ、バテテねえよな!?」

「……」


 アハトは無言だが、九竺はまだ騒げるほどに元気だ。そして。


「――おや?」


 最後の鮮血色が割れた。見えない結界が、音を立てて崩れ落ちる。


「英雄の力は伊達ではないか。では――僕自らが相手をすることにしよう」


 ルナが立ち上がる。三つの武器を放り捨てる。


「覚えているだろう? 災厄を退ける武器――『F(ファルス)M(マイソロジー) ロンギヌスランス・テスタメント』。そして、この体では最期の戦いを飾るには貧相だろう? 遠慮なんていらないようにしてやろう」


 神々しい槍を左手に持ち――そして、ステージを下るルナの体がめきめきと音を立てて大きくなっていく。大人形態……ぶるんと大きな胸を揺らして、世界を睥睨する目が英雄たちを射止める。


「さあ、豪勢に行こうじゃないか。九竺は色々とでかい方が好きだろう?」


 ぶん、と槍を振り回すと、”月天宮が斬れる”。火砲術式でもビクともしなかったものが、バターのような鮮やかな切り口を見せている。


「回数制限があるって話は俺の勘違いかな?」

「こちらの姿なら制限なぞないさ。こっちが本当の姿、魔力が足らないんでああいう姿だったけどね」


 という嘘。復活はできるとはいえ、わざわざ死ぬことはない。敵役として作った分身体を操っているだけだから、背格好は好きにできる。


「そうかい。実際、俺は誰かの話を聞くとか苦手でよ――拳で語り合おうぜえ!」

「はは――そういうのは当ててから言うんだね!」


 そして、制限なしに槍を使うのだから本当の姿と言うのに疑いはない。

 破壊の”量”は減った。けれど、質は段違いだ。その”槍”は間違いなくそれだけの力を有している。この世界ではあらゆる全てを捧げたところで作り得ない神器である。


「月読流……【風花】」

「俺流踏み込み術、【爆轟閃歩】ォ」


 災厄すら切り捨てる斬撃を恐れもせず下に潜り込み、アッパーで顎をかちあげた。


「っか! ぐ――」


 そして、そこにアハトの全力の追撃が見舞われる。ルナの大人になった肢体が銃弾のように飛んでいく。


「はは、やるものだ――が、効かんよ。月読流……【投網】」


 だが、威力は飛んで殺している。数割の威力ごときではルナはこゆるぎもしない。網上の斬撃が飛んでくる――


「はは……これはやべえな」


 九竺は限界まで後退して網の隙間を潜り抜ける。離れれば離れるほど斬撃の密度は薄くなる、当然のことだ。


「――っな!? アハト……」


 けれど、アハトはそんなことをしない。強引に潜り抜けて足と腕を落として、ステージの中心まで歩いてきたルナに接近する。


「……おお!」


 雄たけび一つ。無事な方の拳を打ち込もうとして――


「ためらいもなしか――よくやる!」


 その片足を、地面にへばりつくような回し蹴りで刈った。だが、アハトは姿勢が崩れても強引に身体をひねって追撃する。


「破!」

「っづ! ぐ――」


 空中で振り回した拳が、ルナの顔に当たる。確かに捉えた、が。


「だが、威力が乗ってないな! 回転の勢いを乗せようと、空中では踏ん張りも聞くまい!?」


 槍の石突で叩き潰した。アハトの胴体が四散する。


「こんなもので終わりじゃねえよなァ! 俺流【全力ぶん殴り】」

「――僕も全力を出せるくらいに相手してもらわなきゃね。月読流……【柳】」


 風を受け流す柳のように攻撃を流す型。ルナは威力をそらして地面にぶつけた後で、槍を刺すつもりだ。


「らァ!」

「っが!」


 それが真芯を捉えられて殴り飛ばされた。如何に風にしなって力を受け流す柳であろうと、地面に立つ軸に受ければ力を受け流せない。

 ルナも終末少女。100%の力を利用しきることはできても、武の奥義は更にその先にある。


「はは――やるね!」

「でなきゃ、俺は皆のリーダーなんかやってねえよ。あいつらがすごいのはお前も知ってるだろ? 俺がすごくなきゃ、カッコつかねえんだよ」


「……ギ――ガアアアア!」


 アハトの咆哮。口を開くことすら珍しい彼が叫びを口に乗せるのは並大抵のことではない。

 頭とステラサインが無事とはいえ、全身を作り直す荒業だ。回復などと言う流ちょうなものではない、強引に再生したそばからつなぎ合わせて無理にでも動く。

 それは神経を引き抜いてより合わせて固着させるような暴挙だった。肉体で感じられる痛みとは比較にすらならない、神経そのものを弄る――むしろどんな強靭な精神を持ったものですら壊す処刑方法だった。


「来い、終末を華やかに彩るがいい英雄たち」


 ルナが槍を回す。

 斬撃から繰り出される剣圧にワールドブレイカーは宿っていないが、それでも人類の到達しうる技術において防ぐ術はない。

 そして、その穂先は”終焉”の力が宿った再生を許さない窮極たる神威だ。しかし神威は彼女自身にすらダメージを与えるが、苦痛など欠片も見えない。彼女のアーティファクトが全ての攻撃から彼女を守る。


「ああ――行くぜ俺流【一撃決殺】」

「グガ……ガアア。GURUUAAAAA!」


 二人が征く。

 効いていない? だからどうした。相手の攻撃は必殺? 知ったことか。勝ち目なんかない? 外野の意見なんか聞いてねえ。俺は勝つって信じてるんだよ。九竺もアハトも諦めるなんて要領の良いことができればこんな生き方はしていない。


「演劇もそろそろ幕にしよう。月読流千刀鳳閃花が裏、狂月流……【剪刀砲戦火】」


 極限域の力が天に浮かぶ月天宮すらもバラバラにしていく。この力の奔流に生き残れるものなどいやしない。人類にその可能性は”ない”。だからこそ――彼らは英雄だ。人間ではない。


「GAAAAA!」


 アハトの拳がルナを捉え。


「ぜあっ!」


 九竺がルナの体を吹っ飛ばした。


「――あ」


 ルナの体が瓦礫に埋もれて落ちていく。そして、全ての力を使い果たしたアハトと九竺もまた落ちていく。


「……ふ。うふふ。アレを潜り抜けるなんて――1mmの隙間すら残さず滅殺したと思ったんだけどね」


 ルナは瓦礫の中から腕を突き出し、体を引き抜く。その手には槍は握られていない。どこかへ飛んで行ってしまっていた。


「だが、結局のところ生き残ったのは僕だったようだ。……来い」


 埋もれた中から刀が飛んでくる。最初に使って、地面に差しておいたのが瓦礫と一緒に落ちていた。


「君たちはよくやったよ。だが、人類の未来は君たちと共にここで閉ざされる」


 結果がこうなってしまったからには、もうルナに結末を変える気はない。そういうことを捻じ曲げるような器用さは持っていない。世界が終わる。終焉の力で破壊される。


「――なあ、ルナ。お前さ」


 九竺は瓦礫の上で息も絶え絶えに寝転がる。


「お前、体の使い方が子供の時のままだったぜ」


 ルナは少し手を止める。……まったくもって意識などしていなかった。ルナは万能だ。しかし全能ではない。万能も扱う者によっては全知たりえない。


「……」


 だから、それに対して言うべきこともなかった。失敗だ、先の狂月流も手元がくるって本来の威力を発揮できていなかった。超精密攻撃だからこそ、外した威力が相殺して隙間ができた……それでも予知能力者でさえ生きていられるような生ぬるい絶殺ではなかったのだが。

 ルナは少しため息をついて。


「それでも、ロンギヌスで狂月流を放たせたのは君たちの”勇気”だ。僕の失態とは思わないよ、誇れ」


 完全無欠ではなくとも世界の理すら斬殺する一撃だったと、”解析”する。自負とかではなく、データを見返して判断した。彼らを称える言葉とともに、ただ刀を振り下ろして――


「――な!?」


 ルナの体から槍が飛び出ていた。


「……お。お前は――」


 ぎこちなく後ろを振り向く。


「ルナ、私たち白露の願いを利用した者――」


「そうか、テルの娘……(はく)か。お前のことなんて、忘れてたよ」


 ルナ自身が夜明け団に引き入れた人間。白露街の支配者の娘……異能を扱いきれなかったために牢獄につながれていた彼女だった。

 能力の使い方だけ教えて放置していた――団の重要な作戦に姿を見せなかったのは志願しなかったからという、ただそれだけの理由。……そして、ルナは見ていなかったから彼女のことなんて忘れていた。万能は忘れないけど、思い返さなかった。


「違うわ。私は14代目白露照。私たちは私たちを利用したものを許さない。あのベルゼブブはすべてを奪って、けれど1代目となった人を見逃した。――それほどの屈辱はない。屈辱には報復を。それが白露に流れる血」


 強力すぎる力の代償として左腕が蒸発した。

 それでもロンギヌスを使った結果としては驚くほど軽い代償だった。……アハトですら振る前に消滅するような代物なのだ。

 【災厄】を倒した彼女の血を引く彼女だからこそできた奇跡と呼ぶには醜悪に過ぎる執念だった。


「……そうか、あは。僕の作った英雄譚の幕を引くのが復讐者だったとはね。いや、ギャングかね? ま、それもそれで面白い」


 ぴしぴしとルナの体がひび割れていく。崩れて行って、煙と消える。

 ルナのアーティファクトは最初にルナが扱った三種の神器でも貫けた。けれど、それは倒せることと同義ではない。神槍ロンギヌス――それでなければ一撃のもとに倒すことは不可能だった。もっとも、ルナは今でも14代目を認めていない。ただの運び屋くらいにしか思っていないのだ。

 だって、そうだろう? チャンスを作ったのは――僕を倒すための状況を作り上げたのは九竺とアハトだ。こいつはただ特別な血を引いていて、最後にスイッチを押しただけの舞台装置。


「九竺、アハト――人類の未来を願うなら精々気張ることだ。できたのなら、誉め言葉の一つや二つをあげる。そのくらいが”相応しい”報酬というものだろう……?」


 ルナがひび割れた顔で二人を愛おし気に見やる。すべてが崩れて消え去り、残されたのはかつて月天宮であったもの――その残骸。



 14代目白露照がどうやってステージに上ったか。A.夜明け団の幹部の人に頼んで鳥で運んでもらいました。最初に10人が月天宮に来たのと同じ手段です。

 彼女はルナ・チルドレンに数えられてはいませんし、人殺しとヘヴンズゲート参加は拒否したので閉職をやってました。が、上司にお願いして、その上司も色々深読みした結果、この作戦に後乗りできました。

 ちなみに13代目の能力は『加速』、14代目の能力は『強化』です。素でエレメントロードドラゴンを殴り飛ばせるくらいの力はあります。ただし殴った後の手がどうなるかは保証しない。

 

 これで最終話です。始めは70話くらいで終わろうと思ってたけど、長くなりました。これでもアルカナが好きな男ができたふりをして嫉妬を誘ったり、人間が戦争で辺境に追いやった亜人種の話だったりを本筋に関係ないから削っています。

 このお話は皆が好き勝手やって、誰も彼もが自分のことしか考えてないのになぜかストーリーは進んでいく、という感じで作りました。世界を救うとか本気で言ってはいても他の人から「いや、お前は自分勝手やってるだけだろ」と突っ込まれる人間が”スタンダード”。


 ルナ・アーカイブスは死んで、次からは残された者が生きあがくexストーリーが始まります。(アーカイブスはルナが適当に考えた偽名です)


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