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第111話 チーム戦 中堅、副将、大将


 人類側は掟破りの2対1を挑んできた――だがルナには勝たせたあげる気もなく、ただ敗北し命を奪われた。

 それは決して終末少女の本気ではなく、むしろ【災厄】をデチューンした性能で戦っていたのだが。しかし、人類は未だ天敵と戦えるステージに上がってはいなかったということだ。

 そして、それは残る人類側も同じ。ただのドラゴンを相手に四苦八苦するようではルナの試練を越えられない。ルナはつまらなさそうに次の戦いを宣言する。


「さて、次だ。コロナ、モデル:ドラゴン。龍と言っても今日は火は吹かないらしい。体術だけで戦うそうだから、遠距離を狙ってみればどうかな? 三連勝すれば、まだ可能性はあるから頑張って」


 マントを脱ぎ、闘技場に降りた彼女の身長はアルカナよりも少し上だ。大人になり切れていないアンバランスな魅力がある。その勝気な瞳が戦おうぜと言っている。

 そして、羽天恋が神妙に頷きステージに向かって歩き出した。だが、両者の間に第三者が入り込む。


「――おい、少し話そうぜ」


 ちら、とルナを見ると彼女はうなづく。コロナはただ攻撃的な笑みを張り付けて、ただ立っている。作戦会議ならどうぞご自由に、ということだ。


「はい、わかりました。少しお待ちを――音を遮る程度は私でもどうにかなります」

「お、あいつの使った声を消すのと同じ奴か。これであいつらを出し抜ける芽も出てきた。話したことがある程度だからな、あんたとは。付け焼刃で出し抜けるような甘い奴でもないはずだ」


「合図を出すのはやめておきましょう。それぞれが自己判断で動いた方がやりやすい。あなたの言う通り即席のチームワークほどボロの出やすいものはない」

「とはいえ――なあ、俺らの目的はあの『ブラック・コア』だ。ルナとかいうお嬢さんじゃあない。三連勝を狙うのは厳しいところがあるんじゃないかって思うんだよ」


「では、私が注意を引きつけましょうか? それに、私はあの二人同様に無様に負けるつもりなどありませんよ。敵は強い、それを知っていればやりようはあるものです」

「そいつは無理な話だな。そんなありきたりじゃアルカナとプレイアデスって奴が止める。あいつらは前の二試合で無傷だ。闘技場外でのバトルに関してあいつは止めていない。こっちにしてもルール違反ではあるまいが、他の奴が参戦してくるだろう」


「……確かに、そうですね。そう言われてしまうと三連勝する方が簡単に思えてきましたよ。1対1です。盤外戦術では5対2になる」

「だからこそ、奴らの度肝を抜く必要がある。……乗るか」


「ええ、乗りましょう」


 よし、とうなづき作戦を説明して選手交代。声をかけた方、神無月がステージに上がる。羽天恋は元の位置に戻り、静かに佇む。


「お嬢さん、俺が相手だ。名乗るぜ、【暴龍撃牙】神無月鏡志郎」

「ルナ様の忠実なる手足、コロナ。押して参る」


 その瞬間、クロスカウンターがさく裂した。二人、何のためらいもなく肉弾戦を実行した。しかし、コロナの方が一歩劣る。

 カウンターを受けたのはコロナだった。


「ふは」

「ハッハー!」


 足を止め、そのまま殴り合いに移行する。そして【暴龍撃牙】はその全てに対してカウンターを当てている。当て続けている。その名に反してクレバーで抜け目がない。

 けれどステータスが違う。攻撃力と体力、見切ってもわずかにダメージがある。これは神無月の方を贔屓目に見ても互角だった。それも、コロナは遊んでいるのに。


「――は! やるな、人間。ルナ様でもここまで”目”は良くないぞ!」

「お前こそ、何発当てりゃ沈むんだよ。威力倍加して返し続けてんのによ」


 もちろんコロナもアーティファクトを着ている。馬鹿げた防御力の種はそういうこと。生半可、どころかドラゴンの全力とてこの守りは崩せない。


「だが、慣れてきたぞ」


 コロナの拳が止まる。そして、そこから加速したそれは威力を犠牲にしたカウンター無効の一撃だった。威力の数段落ちたそれだが、彼を確実にとらえた一撃だった。


「っづ! きちんと防いだっつーのに痛ってーな」


 コロナの一撃一撃は彼を潰れたトマトにするのに十分な剛力である。だが、先の一撃はスピードが落ち、さらに魔力集中で対抗して威力を軽減したことで折れるくらいで済んだ。そして、その負傷もポーションで即座に癒す。


「やべえよなあ。お前ら、やべえよ。なんでそんなに強いんだ?」

「さて。私からすれば貴様らが弱すぎるのだがな」


「はは。勘弁してくれよ」


 やれやれと首を振る。降参したい、と態度で示しているが目は諦めていない。賭けているのが名誉であればよかった。だが、ここで降れば人類が絶滅する以上その選択はない。


(ポーションの使用は明らかな隙、見逃したということは――やはり力を見せつけて殺すのが目的だからか。侮っている、いくら強力でもそれならやりようはあるぞ)


「終わりか?」

「では、もう一手。付き合ってもらおうか……GURUAAAAA!」


 強化、強化強化強化強化――凶化。身体が変形する。殺戮に適した形へと……これこそが【暴龍撃牙】。その本領である。


「獣と化しても弱くなるだけだぞ」


 コロナはつまらなそうに見やる。まさか、切り札がこれとは拍子抜けだ、と。


「GIRUUUAAAA!」


 先の倍する速度で迫り、鋭利な爪を光らせ。


「カウンターとやらは、こう――か!?」


 クロスカウンターを、今度はコロナが当てた。終末少女としてタイミングを見計らうのは得意だ。人間相手の駆け引きは苦手だとしても。


「いや、当たっていない!?」


 拳の威力が逃がされた。

 カウンターは絶妙なタイミングが必要だ。けれど、ただのタイミングであれば終末少女たるコロナが見逃すはずはない。これぞ武の極み。かわすだけでなく、当てられても奥が深い。


「理性がぶっ飛んだかと思ったかな? お嬢さん」


 だから、これは彼がタイミングを”外した”。武の極みという、ただただ理論値を再現するだけの終末少女ではできないこと。


「フリ、か――面白い!」


 コロナは拳を握り、敵を地に沈めようとして振り下ろした。その力をそのまま爪の一撃に乗せられて返される。彼のカウンターを破れていない。


「っくは!」


 結果、地に沈んだのはコロナだ。


「は。はは――まさか、ルナ様以外に地の味を味合わされようとは!」


 そのまま組み付かれたコロナは手を出し、足を出すが全てが無効化される。柔術……放たれる力をすべてそらして起き上がることを許さない。


「降参してくれるとありがたいんだけどねえ」

「まさか。こうしてそらすことに精いっぱいで、いずれは体力が尽きる相手にどう不利を思えと?」


(ばれてやがる)


 彼は心の中で舌を出して、しかし表情には寸とも出さない。


「なら、もう少し付き合ってもらおうかね」


 いけしゃあしゃあと何時間でも付き合ってやるよとの発言をして。


「まさか、いつまで付き合いはしない」


 コロナは強がりに付き合わない。ばさりと背中に羽が生え、瞬く間に広がる。”浮いた”。


「どうしてやろうか。もう少し遊びたかったが、ルナ様は貴様らの無様な死がお望みだ。このまま飛んで墜落死でもしてみるか?」

「GIGIGIGIGI――」


 顔にまで変異を及ぼし、多少の言語機能の喪失の代わりに牙を得る。肉体の全てを強化する【暴龍撃牙】は全てのポテンシャルを上げる技、隙がない代わりに圧倒的格上に対する優位がない――


(――なんて、思ったかよ!?)


「秘技……【劫火灰燼】。GOAAAA!」


 牙が並んだ口がガバリと開き、噛みつくようにコロナを飲み込もうとして。……”通り過ぎた”。抱き締めるような、髪に顔を埋めるような体勢になって。しかし、別に恋人っぽい姿勢が目的ではない。その姿勢のまま炎を吐いた。

 その炎は、コロナをスルーして――


「コロナ、つぶして!」


 アリスの声が響く。……狙いはルナだ。0距離で当てても倒せるかは怪しい――が、彼女たちの大事な大将はこちらを侮っている。舐め腐っている。その隙に最大の攻撃をぶち当てれば。


「……僕狙い。まあ、アリかな? ”読まれてなければ”の話だけれど――さ!」


 ルナはすでに刀を手にしている。相手がルールに従うばかりの愚者ではないと信じていたから。そう来なくては、と笑みを浮かべてすら。


「【終焉(おわ)天球(そら)】、ルナ様への攻撃は許さない」

「【くじら】、まもって」


 核の数兆倍に値する熱量の炎星が【劫火灰燼】の吐いた弱々しい炎を焼き尽くした。そして、ルナの前にはクジラのような、シャチのような、わにのような変なぬいぐるみが彼女を守っている。

 プレイアデスの精密な制御はルナのもとへ一片の熱量も通しはしないが、そのものがぶつけられても壊れることのないぬいぐるみまで後ろに控えた二重の守護だ。鉄壁の布陣――それはどうしようもないほどに強力だ。


「注意がそれたな」


 だが、それこそがこの【暴龍撃牙】の狙いだった。どうやらルナという幼女が全ての中心。ならば、狙えば注意はそらせる。そして彼女自身も狙われたその瞬間には、自分以外の標的など忘れる。


「今こそ好機! 滅べ、世界を破滅させる『ブラック・コア』よ――天界の扉へと誘われよ【ヘヴンズゲート】」


 あくまで狙いはブラック・コア。この一瞬だけは注意がそれた。その隙に全力の攻撃を叩き込んで爆弾を完成前に潰す!

 ――それこそが、賭けの中身。我が身を犠牲にしようと、世界を滅亡させる爆弾だけは破壊する策。


「……と。やはりフォローは妾の役目じゃな?」


 全てを破壊するはずの光の門は”それ”に一片たりとも届かなかった。薄く展開された血の壁がそれを覆って攻撃から守っていた。


「アルカナ、と言いましたか」

 

 ぎり、と歯ぎしりをして端正な顔が歪む。成功を確信した一瞬のうちに全てをひっくり返された。……こいつさえ居なければ!


「そう、じゃが妾はお前のお相手ではないがの。ほれ」


 アルカナが指差した先では、コロナが相手の頭を握りつぶしていた。作戦が成功しなかった時点で万策は尽きていた。都合の良い二段、三段構えの作戦などない。あれが成功しなかった以上、彼に後はない。造作もなく倒されても責められるいわれはない。


「ぐ。ぐぐぐぐ――」


 もしかしたら、ここで作戦を練り続けていたら生き残れるのではないか……そんな益体のないことを考え始めた瞬間に闘技場の上に立っていた。


「くひ」


 ニタリとしたアルカナの笑み。彼の立つ地面を移動させた。彼にとってはまったく意味が分からない青天の霹靂。否。


(風が吹いた――のではない、か。私を乗っけた? ”上に乗っけて運ぶ”か。彼女の能力は色も質感も自在にあらゆるものを作り出す――まさか。”まさか”……ッ!)


「副将、アリス。モデル:キメラ――ぬいぐるみを使った多彩な技が特徴だ。実際問題、この子には死角も慈悲もないからどうしようもないね」


 ルナの投げやりな解説が聞こえてくる。すでに3敗、人類側の敗北は決まった。見せ場はもう上げたからそのまま死んでいいよ、とでも言いたげな――


(この”城”……天空に浮かぶ要塞は、偉そうにしているあのガキではなく――奴の! この状況ですべてを俯瞰していた”奴”の……ッ! ならば、私たちは狙う人間を間違えたと言うのか……ッ!)


「だが、この私とて【聖天布武】と呼ばれる身。何も成せぬままただ砕け散るつもりなどない。私の命と引き換えに一画は貰っていくぞ。聖なる光の前に浄化されよ、【セブンズヘヴンズ】!」


 その七つの光は闇に属するものを消し去る聖なる光。さすがにS級……下位星将なら一撃で消し飛ばせる威力を持っている。

 だが、それは上級星将にすら届かないということでもある。


「【やみ】、たべちゃって」


 どろどろしたスライム――人を模したぬいぐるみの一部を適当に生やしたそれが光ごと対戦者を飲み込んだ。属性など、圧倒的な力の前では何の意味もないという証明。


「さあ、最後は君だ……【剛剣神武】。大将はこの僕、ルナだ。ルナ、モデル:終焉。とはいえ、人間相手に世界を終わらせる力を使う気もない。刀一本で勝負してやろう」


 ルナが尊大にステージの中央まで歩いてくる。まだルナを倒せば4敗でも希望はある――が、さすがにルナでもこの状況での勝利の芽は残していない。


「……役立たずどもが。結局はこの儂自ら全てを終わらせなければならないらしい」


 言われた彼もまた、はげかけた頭に青筋を浮かべて歩いてくる。空気の壁は消された。両者、刀を手に闘技場の中心で向き合う。


「色々好きなことを言ってくれたようだね。世の中を知らぬ盲人だの、増長した小娘に過ぎないだのと――それが(まこと)であると、この場で証明してもらおうか」

「それが子供の態度以外の何だと言う。敬意を忘れ、道理を忘れ――その有様は醜いとしか言いようがないな。証明? まさか、貴様は自分が偉いなどと思っておるのか」


 すでに鞘など捨て去っている。納めるべきものなどない。この段に至れば、もはや殺すのみ。鞘から刃を抜いた以上は会話のステージなど過ぎ去っている。


「では」

「死合、開始」


 【剛剣神武】が刀を両手で握り、上段から振り下ろす。まるでお手本のような型は、剣に生きる者の崇拝を集めるに足る代物だ。生涯を剣にささげればここまで至れるのかと嘆息し、己の有様にため息を隠せないはずだ。


「つまらんな、ガキの手習いだよご老人。その年になるまでお稽古か?」


 けれど、ルナはそれを刀ごと切り捨てた。嫌味なまでに”完全”に――彼の剣筋をそのままなぞって。盗作や盗用と詰られるだろう、特にルナのそれは真似しただけの粗悪品……ただ珠玉の輝きを形だけ真似したところで三流のビー玉にしかならない。


「ああ、まったく安物を使っている。だから容易く折れるんだ。あの豪勢な邸宅にかける金の十分の1でもかけていれば違った結果もあったろうに」


 けれど、役者が違う。もっと言えばステータスが違う。バトルがシンプルなだけに絶望的な差がよくわかる。何のことはない――殴れば勝ちと言う戦いだった。どれだけ芸術的な美術品も災害の前には等しく塵だ。


「さて、民衆ども。君たちが希望とする冒険者たちは敗れて死した。生き残りたくば、今度は自らの手で生を掴み取って見るがいい」


 ルナはそれだけ言って――全世界に流れる映像は切れた。



 この後、さすがに民は重い腰を上げる。夜明け団から奪った飛行船で乗り込もうとして火砲術式で撃墜され、育てたのも奪ったのも強化鳥は意図的に引き起こされた乱気流により墜落した。

 別にルナ側は本気で落とそうとしたわけではないが、この程度は乗り越えてもらわないと思ってしたことが誰にも乗り越えられなかった。

 ――そもそも空の乗り物自体、団の外側では扱いが全く得手ではなかったことが原因だ。才能以前に練習しておけばどうにかなった程度のことだったのに。けれど、まともに舵の動かし方すら知らなければ、そうなる。


 そして、”それ”ですら暴走気味な犯罪者に近い集団がしたことで。

 

 民衆はルナなんて直接的に犯罪者だの、世界を支配して自分たちを苦しめてるだの、身の程に合わない贅沢をする気の喰わないガキだの好き勝手言ったりしている。

 それはつまり、ルナはむしろ期待通りの振る舞いをしてやったと言えるだろう。殴って見ろよと言われて、顔面を蹴りぬいてしまっただけだ。


 王都はやっぱり自分の見栄のために直さなくていいものから必死に直して時間が過ぎているし、夜明け団の方はルナの指示待ち。

 まあ、団の人間だけは裏切られたと言う資格があるだろう。けれど夜明け団の人間はこの期に及んでルナのことを信じている。……人類の未来のためにはこれ以外に方法はないのだと。

 今更裏切られたと認めるにはルナの存在は大きくなりすぎた。O5(オーファイブ)がそうと認めれば、団の結束は完全に破綻し民衆への復讐に走る殺人鬼集団へとなり下がる。

 ゆえに、彼女を【ヘルメス・デュオ・メギストス】、三重に偉大なりし三位一体と崇め民衆の誹謗中傷に耐えて人類の未来を創る作戦を決行中と発表している。


 人類は絶望に染まった。もはや希望はなく……抵抗する気力さえも消え失せた。



 実はあのご老人は全盛期でアーティファクト持たせてあげたらルナといい勝負できていたと言う裏設定。漫画じゃあるまいし、年を取ったら弱くなります。トンデモ物理系魔法とか習得できなかったのが彼です。


 若いころは努力の人で女っ気とか微塵もなくて、修行以外はモンスターを殺すことしかしてなかったお人。今? 彼のことを目もくらむような豪邸で、このご時世に食べ残すほどのごちそうを用意した若い女の人がいっぱい待っています。30で死んでたらガチで英雄だった人。




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