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第110話 チーム戦 先鋒、次鋒


 ルナのことなど忘れ、日常に戻り始めていた民衆はその忌まわしい記憶をまたもや思い起こされることになる。


「やあ、おまえら。怠惰な豚どもと呼んであげようか?」


 空を覆いつくすスクリーン。誰も彼もが”おい、誰か止めろよ”と思っていた。


「あれから三日が経った。なのに、なんだねこの有様は。ミサイル兵器なんかなくとも、飛行鳥があれば戦力は送れるだろう。夜明け団から強奪した飛行船は使わないのか?」


 ルナはやれやれという態度を体いっぱい使って表していた。


「今日に至るまで、この『月天宮』には傷一つついていない。発砲の一つさえもない。……つまらない、待ってれば僕がやめると?」


 座った椅子のひじ掛けを人の神経を逆なでするようにコツ、コツと叩いている。表情は失望。


「だから、今日はこちらから招待することにしてみた」


 指をパチンと鳴らす。映像が下に行き、闘技場を映す。


「君たち愚民の希望――【剛剣神武】。かの異名は後世にふさわしき者が出るはずもない完全無欠。ゆえにヒトの名など要らぬ彼。……だが、彼一人では寂しかろう、【完全掌握】死霊霊廟(しりょうれいびょう)、【絶対正義】銀河皇帝(ぎんがこうてい)、【暴龍撃牙】神無月鏡志郎かんなづききょうしろう、【聖天布武】羽天恋設永(ぱてれんのぶなが)。……計5名を招待させてもらう」


 そして、5名が現れた。空間転移、しかし他人を無理やりにワープさせるのは不可能に近い難事だと魔術に明るい者なら知っているが。


「ほう。こんなところまで呼び出すか、しつけのなって――」


 アポなど取っていなかったのに【剛剣神武】は即座に状況を理解する。理解して苦言を呈するのだが、そのあとの言葉は途切れた。口は動いている。けれど、その言葉はどこにも届かない。


「空気を遮断した。もちろん、人が吸う分は残してある。断絶してあるから伝わらないだけさ。君は反論できないのをいいことにたくさんの議論をふっかけてくれたようだからね。もうしゃべり切っただろう? 後は刃を交えるだけだ」


 そして、他の人間たちを見る。


「とはいえ、君たちはメディアが勝手に意見を言ったことにされてるばかりでそんなに言ってもいないというのは知ってる。だからここで言いたいことがあれば言うと良い」


 まず始めにコンビが口をそろえて言う。


「「うるせえ、馬鹿野郎。死ね」」

「はは、なんともシンプルな言葉だ。で、君は」


 【暴龍撃牙】が人を食ったような表情で言う。どうせ無駄だろ――と、言いたげに。


「やめてもらえねえか?」

「もらえないね。最後」


 【聖天布武】は人のよさそうな顔に、悲痛な表情で言う。


「力持つものは自戒を忘れてはならない。守るべきものを見失ったとき、人はたやすく獣に落ちる」

「そう、力がないと人間でいられていいね。……羨ましくもない。そして、僕を例えて言うなら機関(エンジン)なのだよ、人間ですらない」


 一歩で100mほど離れて突き立つ塔の一つに乗る。

 ルナの左右には二本づつの塔、その上にマントを羽織った者が計4名。そして、さらに奥には『ブラック・コア』にされたスクルドが磔になっている。


「さあ、僕ら五人を倒せればブラック・コアは止まる――ここで特別ルールだ。団体戦と行こうじゃないか」


 冒険者たちは沈黙を守る。【剛剣神武】はなにか言っているが、誰にも伝わらない。もちろんルナの言葉は伝わっている。断絶した空気の向こう側へ一方的に声を届けている。


「1対1が5つ。三勝すれば君たちの勝ちだが、もし三連敗を喫することがあっても大将たる僕を倒せばどうにかできる可能性はあるとだけ言っておこう。辞退は認めない、死力を尽くして戦ってもらう」

「……質問、そちらがルールを守るという保証は?」


 【完全掌握】が口火を切った。


「僕はゲームをする気なんだよ。アーティファクトの守りがない【剛剣神武】をそのまま窒息させてもいいんだぜ? それをしないことを誠意と受け取ってほしいな」

「了解した。他に選択肢なんか用意してねえってことだな、要するに」


 彼は唇を尖らせるが、しかし仕方ないといったように両手を上げた。口喧嘩では降参、だがその目は実戦では負けねえとぎらぎらとした光を放っている。


「死ねば負けだが、僕たちの側に関しては一度ステージに上がったらそこから出ても負けと言うことにしよう。ルールの悪用は主催者側がしても面白くないから、特にひねりはしないし体が動けば自由に続けてもらって構わない。【剛剣神武】最後にに僕と戦ってもらうが、それ以外の順番は自由だ。良かったね、大将だ。で、何か質問は?」

「言っても意味ねえよ」


 【絶対正義】がせせら笑う。


「それもまた真理だねえ。言葉に意味はない、と。では、先鋒はアルカナ。モデル:吸血鬼――弱点を突く気があるのなら太陽でもぶつけてみるといい」


 マントの中でも大きいのが二名、小さいのが二名……とはいえ、それはルナに比べてだ。

 濡れた黒色の髪をなびかせて、ぞろりと舐め上げるような妖艶さを持った美少女が羽を生やした腰を突き出し、指をぺろりと舐め上げる。

 誘っている。


「……俺が行くぜ」

「そちらの先鋒は【絶対正義】銀河皇帝か。……ん、どういうつもりかな【完全掌握】死霊霊廟」


 銀河がステージ上に足を踏み入れた。だが、その後に死霊までもが続く。


「俺らはコンビでな、一心同体ってことで二人でやらせてもらうぜ」


 ええー、とルナが戸惑う間に状況は始まっていた。


「開始の合図は聞いてねえ。おっぱじめさせてもらうぜえ!」


 銀河はガントレットをガチリと鳴らしたかと思うと、アルカナの背後に出た。これでも人類の希望、魔人さえ上回る身体能力を持っているくらいは当然だ。


「……む」

「正義は倒れねえ。傾かねえ! それこそが”絶対”の法則なんだよ」


 うなりを上げて剛腕がアルカナの体を貫いた。超高速、超威力の体術――これこそがかつての第二星将(セカンド・オーダー)、その時の異名を『爆炎の錬金術師』としていた者に敗れた後、彼が生み出したもの。


「……ぐ。が――」


 ステージと平行に飛んで。


「そして、生者は死者の前に謙虚であらねばならない」


 死霊が追撃する。馬に乗った骸骨の騎士がそれ以上の速度で迫り、剣を振り下ろした。


「死者が生者を恨むなどあるものか。彼らは子孫がよりよく生きることを望んでいる。つまり、貴様の敵だ。『終末の四騎士』よ、愚か者に処断を」


 そして、明らかに質の違う4体の騎士が現出と同時に斬撃を繰り出す。究極と呼ぶにふさわしい、生きていないからこそ第3世代に迫るシロモノ……人間が操るには強力に過ぎて、実際彼自身も完全に制御出来てはいない。


「……っ上だ!」


 外から【聖天布武】の声が届く。

 それに従い、彼らは上を向く。そこにはニヤニヤとアルカナが笑っていた。後ろに回り込まれたとき、彼女は偽物になり替わっていた。つまりは分身の術――傀儡をいくら殴ろうと意味はない。


「おや、バレたか。うむう、外野のアドバイスは反則ではないかの?」

「ルールには加えていないからね。……僕はやらないよ?」


 ルナはくすくすと笑う。悪知恵は大歓迎、勝ってしまうならそれならそれで面白い。


「必要もなかろうしの。もう少し面白くしてみようか」


 アルカナは上空に浮かんでいる。赤い水玉に乗って――全ては血を操る能力の応用だ。浮かし、形を操り、色を操る……汎用性に優れすぎた能力である。


「さあ、踊れ」


 指を鳴らす。彼らがアルカナだと思っていた”それ(残骸)”が弾け、赤い絵の具になって鎖へと再構成する。


「う……おお――」


 囚われ、身動きもできない。2対1だが、有利とすら思えない状況だ。


「雑魚も要らぬな」


 召喚した骸骨たちも一瞬にして鎖にとらわれ原型がなくなるまで潰されて破壊される。


「さて、貴様たちはゆっくり――」

「侮るなよ、ガキ」


 【絶対正義】がその腕力で拘束を破壊する。フカシ……油断する一瞬を待っていた。


「……ぬ? ああ、もういい。死ね。貴様らを呼んだのは希望を与えるためではない」


 赤い渦が出現する。ブラック・フラグメントすら超える力の奔流だ。アルカナは死闘を演出しようなどという気はない。


「力を使わせ、倍する力をもって正面から叩き潰す。希望を与え、それを摘み取る。その時こそ絶望が深まるのじゃ」


 絶体絶命と呼ぶにふさわしいその状況。それを。


「待っていた! 貴様が全力で攻撃に転じるこの時を」


 渦に飛び込み――


「俺の異能は『リフレクター』。力の方向を制御する能力――己の技を自分で喰らって吹き飛ぶがいい!」


 全てを一点に収縮させて反射した。


「……は」


 アルカナが嗤う。自らの一撃を収斂、反射した”それ”を空中で停止させる。


「確かに全力の攻撃であれば、放った後に制御などできんなあ。しかし全力でなかったならば、ほれ――二倍の威力で返せばいいだけじゃがな」


 反射したものをそのまま反射する。種や仕掛けなんて上等なものはない、ただ同じ技で反射された攻撃ごと叩き返しただけ。


「……っぐ。ぬうう――だが、『リフレクター』がある限り貴様の攻撃は俺には届かん!」

「それはどうかの」


 また反射させるのだが、アルカナが空を握りつぶすと攻撃も潰れた。


「何を――」

「これでダメならこれじゃな」


 アルカナが渦を生み出して銀河にぶつける。今度はそれが反射されることもなく……


「っが! ああ、ああああ――ッ!」


 渦に飲み込まれ、細胞一片すら残さず消し飛んだ。


「1000万の同時攻撃、人が対処できる数には限りがある。極小の一点の攻撃も、積み重なれば弾き切れまい? まあ、弾いたのがぶつかるから相殺しておおよそ半分で500万。ま、267万1842回目の攻撃にはその『リフレクター』とやらを当てられんかったようじゃがな」


 ”スペックが違う”、ただそれだけの理由で勝敗は初めから決まっていた。銀河では、アルカナの力に対抗することなどできない。


「貴様……アルカナァ! 殺してやる。絶対に殺してやるぞ! 時の果てより出でし、骸の王よ。今、穢れた世界に降臨し裁きを下せ『骸神装甲機兵』」


 死霊の呼んだ”それ”は闘技場を踏み壊して現れた。見上げても全容がわからないほど巨大な――骸骨を寄せ集めて作られた寄せ木細工の鎧。


「ふふん、わしを殺りたければ次の相手を倒すことじゃ。しかし、あいつはわしほど優しくはないぞ」


 アルカナはその憎悪をそよ風のように受け流して一歩で塔の上に戻る。そんなことは関係ないと、骸の鎧、無数の瞳が見上げる。

 彼女を殺そうと、手を伸ばすのだ。




「次鋒、プレイアデス。モデル:星喰い、彼女に攻撃規模で上回ろうと思うのはやめておいた方がいい。それは無駄だ」


 マントを脱ぎ捨てた彼女は幼女だった。ルナより幼く、さらにアリスよりも幼い――触れれば折れてしまうように見える小さな体。


「黙れ! 我が全ての力を注ぎこんだこの巨体の前にどんな力も通用しない!」


 巨体が身体を揺らす。すくいあげる殴るような一撃……攻撃の軌道にはそのままアルカナがいる。同時に倒そうと欲張った。けらけらと笑うアルカナは動こうともしない。


「世は、残酷なもの。求め、手に入れ――しかし、それが黄金だと誰が保証する? ああ、それは鍍金(めっき)ですらない真鍮なのだ」


 幼く、たどたどしい声。けれど、それは声色に似つかわしくないセリフをしゃべっている。


「潰れろ、全てェ――ッ!」

「……」


 プレイアデスが手をかざす。ただそれだけで、十数mもある骨の塊がアルカナの目の前で静止した。


「世界の外側を知らなければ、それが真鍮だと気づきはしない――」


 天が夜に変わった。否、太陽は変わらず天空にある。ただ、それが空を覆いつくしただけだ。この幼女は星を操る。


「無知に、潰れよ【カケラ堕とし】」


 無数の星が巨体を貫いた。粉々にして、砂にして――全てが消える。……またたく夜を残して。


「そんな……馬鹿な」


 ここに来て始めて死霊は自分が何を相手にしているのか気付いたのだ。

 そう、彼女たちを人間などと評するのは間違いだ。痴呆的に積みあがった馬鹿げた力の頂――それを大きすぎて認識することもできなかっただけだ。


「さらばだ、何も知らぬ人よ」


 大きな流れ星がステージごと彼を押しつぶした。



【完全掌握】と【絶対正義】のS級コンビ、完全正義がすでに登場していたことを何人覚えてくれているのでしょうか。

まあレーベに描写外でボコボコにされて終わりだったんですけど。


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