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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
人類反乱編
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第105話 民衆 side:ルナ


 もはや手のつけようもなく、ただ死にゆくのを待つだけのスクルドを放置し、ルナは一つの街に来ていた。お前らは信用ならない、と差し伸べた手をはねのけた……それゆえに夜明け団には無視された街だった。


「……皆さん、今こそ私は告発しましょう。かの、【翡翠の夜明け団】と名乗る無法者たちの所業を!」


 拡声された声が聞こえてくる。ある程度の街になれば魔石を燃料とした魔導機械が多く使用されている。これもその一つ、指の先の爪の欠片くらいの魔石で10日は使用できるマイク。


「彼らは支援と称して我々の財産を奪い去っている。今や多くの富を奪い去られ、もはや用済みと交易の飛行船も、トレーラーすら来ることはない! 近くの街々と交渉することを強いられ、しかし足りずに――私たちのこどもたちもが飢えているのです!」


 もちろん、演説する彼女には栄養失調の毛は見えないどころか肉付きがいいまである。くびれはきゅっとして、豊満な胸がそこだけ崩したスーツからわずかに覗いている。


(いや、飛行船が来ないって。そりゃ、お前たちが拿捕するから近寄らせられないんだろ。あと、輸送費もなしに売れるか馬鹿が)


「皆さん、今こそ立ち上がる時なのです! 長年、私たちは魔物に虐げられてきた。次は彼らテロリストが我々を狙っている。やられるままにしておいていいと思うのですか!?」


 演説には熱がこもっている。

 ルナとしては、飢えている子供がいるのに自分はそんなにエネルギーがあるんだね。などと思っていたが、周りの人間は目を輝かせて聞き始める始末。


(ええ――悪いの、なんて言ったら普通に肥えてるそこのおばさんじゃないか。自分のボロとアレのきちっとしたスーツを比べて、奪ってやろうとか考えないのかね)


 確かに周囲を見渡せば、痩せている人間が多い。路地裏をちらと見ればやせこけた子供がゴミ箱をあさっている。……この有様では残飯もなかろうに。


「食べ物が足りない! それは、誰のせいでしょうか!? 私たちはほんの数ヵ月前までは食料に困ることはなかったというのに!」


 ただし、ルナは知っている。単にそれは集まっている住民が貯めてきた身銭を切って食いつないできたにすぎない。予兆はもっと前……ルナがこの世界に来たあの日から魔物の活性化は続いている。


「――全ては奴ら、翡翠の夜明け団の策略なのです! いいですか、今こそ立ち上がるべきときです。我々は、奴らに思い知らせてやる必要がある。……飢えて死ねと言う奴らに、今こそ鉄槌を下すときが来たのです」


 おお、と盛り上がりかけて。ルナの振り下ろした足の衝撃が時を凍らせた。


「随分と立派な言い分だ。……名を名乗れよ、発言には責任を持つのが大人というモノだろう?」

「う……な、なんですか。あなたは――ここはこどもの遊び場ではありません。遊ぶなら、大人に迷惑をかけないところで」


「ところで、君は密輸入をしている人間だろう? 武器を売って、子供が食べる物を買うお金すらむしり取っている。飢えさせているのは誰だ、死の商人め」

「馬鹿なことを。誰か、この子をつまみ出して!」


 などと言うが、観客は戸惑うばかり。とんでもなく高級な服を着ているルナに指一本触れられない。こういう場ではハッタリが幅を利かす。高価な服を汚してしまうかもしれないと言うのは、十分なハッタリになった。


「それで、名は名乗れないか」

「ふぅー。私の名前は菊代 一花(きくよ いちはな)です。これでいい?」


「君の名前は銘夜 彼岸(めいや ひがん)だ。偽名を名乗るなんてどうかしているね。責任を取る気がないのだな。自分はちょっとしゃべっていただけ。彼らが勝手にやったことだから、自分に罪はないと――」

「お嬢さん、あなたは賢いのね。でも、私の名前は一花です。そこのあなた、どうか彼女をお連れしてくれるかしら? 彼女はどうやら私の言葉は合わなかったようだから」


 指し示された一応身ぎれいにはしている男が、俺? と自分を指さして「あの、嬢ちゃんこっち行こうか」などと言って手を差し伸べる。ルナは完全に無視する。


「よく考えてみるといい。誰の言葉が正しいのか。ただ言われたことを信じるだけでは、ただの獲物にしかなれない。……守るためには狩るしかないのだよ。それがこのルナ・アーカイブスの言葉。偽名を名乗る女の言葉と重みを比べてみるがいい」


 ざあわざわと目くばせしあって――結局、何もしない。


「ふふ。言葉遊びが上手なのね、お嬢さん。でも、駄目よ。そんな危険人物の名前を名乗っちゃあ。ここなら冗談で済むけど、済まさない人もいるから。守ってくれる人がいないところだって、あるのよ」

「僕を守る人などいない」


 言い切った。


「お嬢さん、親は誰かな? ちょっとこっちに来てもらおうか」


 と、銃を持った男が声をかけた。痩せた顔にゴツい銃。どうやら質のいい銃を買う金はあるらしい。これは最新式の数を重ねれば中級魔物すら倒せる高級品。このご時世、警備員でも銃を持ち歩く。どうやら街を守る正規の警備員で、周囲の人間とも顔見知りらしい。


「いやだ、と言ったら?」

「ええ? ううん、それは困ったかなあ」


 銃は上に上げっぱなし。まったく警戒心はない。わがままなお嬢さんをどうやって言うことを聞かせようかと頭を悩ませている。


「ああ、まったく救えない。お前らみたいなのを助けて、いったい何の足しになると言うのだろうね――」


 きびすを返し、去っていく。

 少し経つと後ろからは熱狂の声が聞こえてくる。ルナの言ったことはもう忘れ去られたらしい。



 そして、他の街々にも行った。夜明け団を拒む街々――どこへ行こうが民衆は愚かなものとしか思えなかった。

 適当にそれっぽいことを大声で演説するだけでころりと騙されてしまう馬鹿ども。目先のことしか見えずに、贅沢している人間が……それも直接の上とは無関係な誰かがいるから自分は飢えていると思う始末。

 世界のどこかで誰かが贅沢しているから、自分は困っていると? そんな面倒なことを誰がするものか。豊かなのは、それだけ生産しているからに過ぎない。上が無能だから資源の活用ができずに飢えるのだ。奪って贅沢してる悪者が居る訳じゃない。


 そして、上は下など見ない。民衆が信じている”上”など、結局は彼らのことなんて――


「権力闘争の捨て駒でしかないのになぜ気づかない……!」


 見て回って分かったのは――いや、最初からそれは知っていた。ただ、確認したくなったのだ。だって、世の中を決めるのは親から権力のバトンを渡されただけの考えの足りない馬鹿ではないはずだろうと思っていた。


「違った、か。これだから、原始人どもは思考が単純で嫌なんだ。情報に碌に触れてないから、騙されるかもなんて思ってすらいない」


 世の中を回していたのはそういう”もの”だった。面子や権益……そんな物がすべてで、別に言葉巧みでもないのに偉そうにしている人間の言うことを素直に聞いて殺し合う民衆ども。

 真実などどうでもよく、ただ気楽に攻撃できる誰かがいればそれでいいのだ。


「夜明け団が世界の敵……? 馬鹿が、非常食を配り続ける人類の敵がどこにいる。真の人類の敵たる魔物と戦っているのは誰だと思っている……ッ!」


 その答えは知っている。確かめた。……あいつら、考えていないだけなのだ。

 非常食は空から降ってくるものだと思っているし、魔物と戦っているのは知らない人で、なんかそういう役目を持っている人なのだ。


「権力者たちは単に略奪して私腹を肥やしたいだけ。商人どもは勝手に皮算用した莫大な利益をかすめ取られたと逆恨み。逆恨みにどれだけの金を費やした? 団は適正な値段を付けて、それを元に状況を考慮して値を付けている。……3年前の値段が通じるなど、思う方が馬鹿げているというのに。大体、ネガティブキャンペーンにあれだけの金を費やしているのにまだ尽きないんだ。どれだけ肥え太っているんだ、あいつらは。僕らの方は赤字しか出てないんだよ、流通部門では」


 誰もが勝手なことを言っている。自分は尊重されて当然だと思っている。起こった問題は解決するべき誰かがいて、それは自分の仕事ではないのだ。口々に自分の都合をわめいた結果、世界は混とんとしている。


「……このままでは、世界大戦が起こる。いいや、すでに起こっている。民衆は夜明け団の庇護下にある者、既得権益のしもべどもで真っ二つに分かれて殺し合っている。王都は敵側を支援し、僕らは孤立無援で耐え忍んでいる」


 大戦と呼べる規模にないのは、本拠地を王都すら知らないからだ。総力戦など、夜明け団にとっては損しかない。だが、奴らは仕掛けてくる……魔物の襲来をどう防ぐかも、誰かが守ってくれるとしか考えずに。


「ああ、くだらない。目に入れたくもない」


 ぶつぶつ呟きながら荒野を歩くルナ。そ、と包み込む手があった。


「ならば、どうするのじゃ? 妾はルナちゃんの味方じゃよ。ルナちゃんだけの、味方――」


 その手を取る。暖かい……


「ふふ。そうだよ、初めからあいつらなんて眼中になかった。そして、舞台は整った。いつ激発するかわからないこの状況……いい具合に座は温まった。ならば、最終回を始めよう」


 そう、僕は英雄が好きだ。だから介入してストーリーを作ってきた。敵が都合よくがんばれば倒せるレベル――そんなのはファンタジーだろう。

 だからこそ、そのファンタジーを僕が作ってやろうと。


「ああ、ルナちゃんがそうしたいのならそうしよう。この世の全てなど、妾にとってはルナちゃんの遊び道具でしかないのだから」

「そうだね。でも、どうせ壊すなら派手に壊してしまおう。今時世界征服をするラスボスなんて流行らない。そんなものに価値はない。あんな奴らを支配することに価値を見出すのは難しい。だから、壊す方で行くよ」


「……くふ」

「どうしたの? アルカナ」


「いや、少しうれしいのじゃよ。だって、あいつらがいなくなればルナちゃんはもっと妾にかまってくれるじゃろ?」

「うん、ずっとわがままに付き合ってくれてありがと。これからはたくさん遊んであげる」


「そのことが一番うれしいの」

「ふふ。でも、その前にアルカナにはたくさんお願いしたいことがあるからね」


「ルナちゃんのためならどんなことでも」


 そして、ルナは世界に宣戦を布告する。



 作者としては民衆の書き方としてはそんなに珍しくないと思っています。彼らはどこの作品でも勝手なことばかり言ってます。

 それでも俺は人類を救うんだ”の時みたいに、悪役を倒したらその瞬間だけ手の平を返すのが民衆なんじゃないかな、と思います。違うのは主人公の方です。ルナは勝手になんとかすれば? という態度なので、当然手のひら返しは起きません。


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