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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
人類反乱編
123/361

第99話 暗殺者ども side:ルナ


 ルナは手元の機械を操作している。


「ええ……と【離愁済々(りしゅうせいせい)】、それに【冠陀多院(かんだたいん)】にあと一人は……【羅気音審(らきおんしん)】か。君らの人命軽視は常から目にしているけどねえ。でも――まさか、殺してなんかないよねえ?」


 その異名は聞き覚えがある。Aクラスのはずだ――同業者の、有象無象ならともかく同格以上なら調べている。顔と名前が一致するほどでもないが。どいつだ、と首を回そうとして。

 瞬間、殺気がはじけた。


「先生、お下がりを!」


 テーブルが4つ、ぶちまけられた。一直線に弾丸のようなスピードで飛ぶ。……4!? 


「ああ――うん、じゃ任せてあげる」


 先の護衛、片腕を振って飛んだテーブルをまとめて叩き潰した。まだ手を付けられていない食事がぐちゃぐちゃに。――なんてもったいない真似しやがる。

 それにしても、あのガキ全く動じてねえな。恐怖とか全部どっかに置いてきたんじゃなかろうな。


「R、E、W やれ!」


 3人のうち、二人が左右からルートに迫り――残りの一人が腕を突き出した? やはり隠れている4人目がいるのか。


「……上か!」


 護衛が右へ飛びのくと同時、上から降ってきた不可視の力が磨き上げられた床を砕く。だが、そいつの飛びのいた先には敵がいる。そして同時にガキへの射線が空いた。


「……『カーテンスコール』能力、射出」


 リーダー格が何かをガキに向かって発射する。ルートはまたもや腕を振るい、一人を弾き飛ばす。さらに盾になるように走って。


「人間相手。ならばフェイクもはったりも使わせてもらうぞ!」


 その護衛が止まった。つまるところはガキへの攻撃のスルーだ。あの魔術に近いが別の技、風を収束して何十発も叩き込むそれ(異能)は無視。人間ならほぼ確実にひき肉になる攻撃がガキに当たる。

 ……その攻撃は、彼が守るまでもなく結界によって阻まれた。


「……準備していなかったから殺せると? 馬鹿め、アルカナ様にはそんな小細工は必要ない」


 大技のあとは当然隙ができる。ルートはそれを見逃さない、反撃のために攻撃をスルーしたのだ。

 そんな技は不完全など言う輩がいるかもしれないが、それは理想論。威力を特化させずとも足りるならそれが一番だが、足りなければそもそも通じすらしないことが多い。それですら結界は突破できなかったのだから。


「V様! お下がりを――」


 ルートの掌、そこから生えた角は何かに阻まれた。しかしルートはそのまま力を込めて突破しようとする。ガリガリとその何かを削っていく。

 ガリガリという音に異音が混じった。どうやらこいつらは風使いというのは共通している。かばったそいつの能力は風の装甲……だが、それを防ぎきれるものでもないらしい。角……いや、牙?


「――シィィィィィ!」


 そして、三人のうち最後の一人が刀を振りぬいた。当たった……かのように見えたが、ルートは胸をそらしてギリギリでかわした。


「っちィ――」


 そこにぶち込まれる風の玉。ルートは飛びのいてかわす。仕切り直しだ。


「ふむ。三対一だといい勝負になるね」


 結界に守られてるからか幼女はとても強気だ。まるで見世物を見物しているかのような態度。そしてその足元にはいつのまにかひきづられていた組合長の姿。メイドの姿は見えない。

 他の冒険者は思い思いに壁際に居る、巻き込まれるようなへまをする馬鹿はいない。


「……我々は4人いるが?」

「そのはったり、初手で破られたことは認識しているのだろう? それとも後ろの冒険者どもへ言っているのか。どちらにせよ、無様を晒すと先生に怒られるんでね――あまり気長に付き合えない」


 今までさんざん言っているが、先生とは何のことだ? まあ、あの幼女が甘えている女性だろうか。おそらく結界を張ったのも彼女だから、そういうこともあるのだろうと納得する。

 つまりはアルカナをルートの師匠だという勘違いだった。


「こちらも主任務は暗殺だ。長引かせるつもりはない――そして」

「仕込みはすでに終わっている、か?」


「わかっているか。ならば」


 言うが否や、ルートが血霞を上げて吹き飛んだ。4人目の攻撃か?


「R!」


 弾かれたように右の男が動く。刀――あれもおそらく何らかの能力で切れ味を上げている。

 普通の刀はあんな斬り方では空中の机を斬れない。というか、あの男たちは武としては付け焼刃でしかないのは見て取れる。何かのトリックを使って戦っている。


「ジャアアアア!」


 彼の視界から刀の男が消えた。

 完全な”静”から、怒涛の”動”へ。基礎ステータスが違う。文字通りに能力が違う。人間ではありえない別の能力を持っている。


「……はは」


 けれど、それはルートも同じ。宝石にすら見える牙を生やす異能を持っているのだ。全身から牙を出して球体へ。

 その絶対防御の前に、刃が立ちもしない。


「……ッ!」


 球体が飛ぶ。不可視の一撃……誰がやっているのか。見えない巨人に殴られたかのような。あの幼女は三人と断言したがやはり四人目がいるのではないかと思う。


「貴様さえ殺せば夜明け団は崩壊する。ゆえにここで死ねィ!」


 風の装甲を持った男。……同じ顔、体格をしているからわかりづらい。両手をルナを守る結界へと付けて、ガリガリという音がまた響く。


「おやおや、削り取る気かな。なんとも気が長いことで」


 幼女はやれやれと首を振る。完全に馬鹿にしている。


「割れはしないとわかっていても、不快ではありますね。そして、不甲斐ない」


 護衛の飛ばされた先でみしみしと音がする。筋肉が脈動する音。……身体の中身を戦闘……否、これから行う技に特化させるように変化させる。異形化、人間ではないのだ、脚の中身を組み替えることもできる。


「医者には止められてますが、本気でやります。覚悟しろ、王都の操り人形ども。曳き潰してバラバラにしてやる【金剛穿破】……!」


 牙を生やした腕と両足で地を掴む。……右腕、牙が生えていない。その意味を考える前にぎゅるぎゅると回転して、跳ねる。


「……ッ!」


 不可視の力がありえない下から噴き出して、その前に球体はさらに跳ねる。方向転換。かわして天井に刺さる。


「はは、馬鹿め。何回も見せれば貴様がやっていることくらいわかるぞ、V。要するに風弾を束ねただけだろう。先生なら一度目で気付くぞ」

「ちなみに束ねてるのは衝撃だ。風の弾なら下から来ない」


 と、幼女の解説が飛んできた。


「だが、三対一という現状が覆ったわけではない!」

「本気を出すと言ったはずだぞ、人形」


 天井から跳ねる。削るも刺すも自由自在――そして触れたら一撃でお陀仏。恐ろしいことこの上ない。

 けれど、冒険者たちは信じている。あれの勝敗はどうあれ【剛剣神武】なら、どちらが勝っても一刀両断だと。防がれた先の一幕など関係ない。彼こそが冒険者のあこがれなのだから。


「W、死ね!」


 R、風弾使いの男の指示。なんとも酷いことだ、しかし。


「了解」


 なんの疑念も持たずに従う。


「雑魚が! だから勝てんのだよ貴様らは!」


 風の装甲、一瞬持ったかと思った瞬間はじけ飛んだ。ミキサーだ、牙の回転に巻き込まれてミンチになった肉片が飛ぶ。だが、命と引き換えに一瞬止めた。


「王都の決定こそが人類の(ことわり)。無道に言われる筋合いはない」

「人類に牙をむいたことを後悔するがいい」


 動きが止まった。ならば、回転を見極めることもできる。ルートは一転窮地へと転落する。

 牙の盾の隙間にねじ込み、殺す。純然たる暗殺の業……例え鬼でもその命を刈る魔道。残った二人も必死、命を引き替えにしてでも倒そうと。


「……で?」


 ルートの血がしぶいた。刃の貫通した腕から血が噴き出ていた。が、その表情は嘲りを浮かべている。貴様ら大したことが無いのだなと。

 彼は人間ではない。体そのものを変革する魔人であるのだ。牙の隙間を突いた? だからどうした――受け止める胴体にはわずかな突起がついている。これも牙だ、【剛剣神武】の一撃を防いだ手品。未だオシャカになっている右腕を除いてどこでも出せる。


「王都など、人類の一部でしかない。王も貴族も死んだとて世界は回る。ヘルメス卿さえこの世にあられるならば、人類にもたらされる光が陰ることはない」


 暗殺の業は一撃必殺。強力な一撃の代わりに撃った後には隙ができる。それにかけるのだから当然である。それが通じなかったのなれば、当然――後は屍を晒すのみ。

 Eは心臓を貫かれてこと切れる。


「――ッ!」


 先とは変わったガムシャラの不可視の一撃が放たれた。形勢不利を悟ったとたん、リーダー格の男は逃げだした。

 これは彼がリーダーだからではなく、作戦続行が不可能になったから機械的に戦力の温存を選択しただけだ。自身が犠牲になったほうが残存戦力が大きくなるのならそうしていた。ルートの言う通りに彼らは人形でしかないのだ。


「……っち。待て!」


 ルートは一瞬、遅れた。その遅れは致命的、今更追っても間に合わない。Rの前には壁があるが装甲壁ではない以上足止めなど期待できない。

 冒険者たちもそろってぽかんと見逃しかけて。幼女の姿がぶれたと思ったら、彼は刀で標本になっていた。


「及第点かな。しかし、人類ね……あいつら王都だけで人類とか思ってたのか。傲慢というかなんというか。ま、貴族なんてもんは自分たちだけの社交界に閉じこもってるものと相場は決まってるしね。現実を知らなくても、まあ不思議はないのかな」


 幼女はそう、首をかしげている。死体を恐れず無造作に近づいて、刀を抜いて消した。……手品? 魔力適性の最上級であればアーティファクトを身体の中に収納可能だと聞くが、ま、それはありえんだろ。


「あー。帰っていいか?」


 そう聞く。とても、話を聞く雰囲気ではない。


「んん? まあ、話は終わったし帰っていいよ」


 簡単に言われた。まあ、床がえぐれたり料理はぶちまけられてたり。この惨状では帰らせるのも仕方ないが。


「ああ、いや。ちょっと待って。これを言うのを忘れてた。心を入れ替える気があるのなら、あれ、この表現はおかしいか。まあいいや。もうこう言ってしまおう。魔物殲滅にのみ、その力を振るうと誓うのであれば――冒険者諸君。新たなる力を与えよう」


「もちろん、魔人にすると言っているのではない。希望者がいれば暖かく迎え入れるがね。装備の話だ、今や我々はアーティファクトを安定的に供給できるところまで至っている」


「そう、錬金術師との契約ができるのであれば譲ろう。無論、無料(タダ)で。君らはすでに上級魔物を屠っているのだ。なに、心配することはない。僕らは魔物の死体を築き上げるというリターンは十分に期待しているよ。タダより高いものはないと言うが、どうせ君たち人間相手はもう殺せないんだ、魔物を相手にするしかないから変わらんだろ?」


 言うだけ言って、帰っていく。そして、ルナの帰っていった扉から別の侍女が出てくる。「装備支給大相談会」などというプラカードを持って。

 まあ、もちろん――ついていく奴はいない。そんな愚か者こそいないのだ。なぜなら、依然として夜明け団は人類の敵……そういう〈常識〉がある。彼らの装備を受け取るということは人類の敵になるということで、それこそ他の冒険者の手により所属の街ごと血に沈む。


 とはいえ、今日は多くの常識が崩壊した日だ。そう、アーティファクトも、ここで受け取るのではなく後日連絡を取って、ならば――有力な選択肢と言える。どうせ、組合長の組織だ。もっと信用できない”もの”はいくらでもあるのだから妥協できる。

 誰も彼もが、自分……そして守るべき者たちのために己のやるべきことを考える。一つのミスが自分の街を魔物の餌場においやってしまう。ここに集まった者は行動できる人間だから、”みんなのため”に動くのだ。その”みんな”が指すものは一人一人が違っても。



 色々小細工してたのはリーダーのRです。一発限りの固定砲台を作る能力で、テーブルを飛ばす、全方向からルートに衝撃波の銃弾を浴びせる、4人目と見せかけて不可視の攻撃をするなど。


 王都の人造人間は暗殺用ですが、スナイパー能力で銃殺するだけでなく、直接のりこんでぶっ殺すこともします。

 そもそも暗殺とは計画的に要人を狙って殺すことらしいです。能力的な相性を考えてコンビネーションを使って殺す彼らにふさわしいですね、『暗殺用合成人間』とは。

 実はドラゴンは暗殺できません、鱗が硬くて彼らでは貫通できません。


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