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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
人類反乱編
122/361

第98話 反発 side:山崎織臥


 伝説の冒険者、老いさらばえたとはいえまだ高名な【剛剣神武】との諍いを起こした。彼は剣を振るい、ルナの隣に居たルートが受け止めるという一幕があった。


「ま、いいさ」


 重くなった空気の中、ルナは我関せずと言葉を発する。武神の一撃をあわや受けようかといったことの直後なのに恐れてもいない。よほど図太いのか、それともものごとがわかっていないだけなのか。


「場も凍ったし、料理も冷めた。せっかくだから食べればいいのに、と思うけど――まあ、食料を無駄にするのは君たちの得意技だしね」


 神経を逆なでするようなことを言う。

 食べ物を無駄にしているのはどちらかと思うし、他の面々もそう思ったはずだ。あんな高級品、低級品に代えていたらどれだけの人を飢えから救えたか。

 彼女の言う通りに、凍った空気の中発言する蛮勇を持った人間はいないが。そして、重要なのは流通であることを分かるだけの教養を持つ者もまたいない。


「もう来る人もいないだろうし、来ても刻限は過ぎてるしねえ。時間を守る人間というのは、外ではとても貴重だと聞いていたから嬉しいよ」


 いや、夜明け団を挑発するような行為はできないだろう。かの【剛剣神武】でさえ遅れずに来ているのだ。食料を握っている彼らを無碍にするような行為をできはしない。……今は足りているとしても先に何があるかわからないのだから。


「ああ、ちなみにルートは今も療養中なんだけどね。本人が来たいっていうから許可した。これでも弱ってるからいい気になるのは勝手だと思うけど、さっきのアレを数十回程度でダウンするとは思わたら困るよ。実のところ、あの程度の威力でも4桁を超えたら倒されそうだから連れてきたくなかったんだけど」


 ふ、と小ばかにしたように笑う。


「ま、お前たちにそんなことができるとも思わないけど」


 ……意味が分からない。わざわざ弱まっていると騙り何の意味が? 剛剣神武を貶めるつもりだとしたら、案外こしゃくなところもあるが。意地が悪いのか、あの幼女。

 剛剣神武は名も知られていない王様よりも、辺境の子供さえも寝物語に聞くよほど現実的に恐れ敬われる人物だ。ドラゴンスレイヤーというのはそれだけの意味がある。冒険者たちは【夜明け団】なんてよくわからない組織よりも【剛剣神武】という冒険者をこそ信頼するから。


「うん、そういうのはどうでもいいよね。――それに相手が弱くなっているから戦うなんて、勇者にふさわしくない。己が誇りを貫くためならば、敵がどれだけ強大だろうと関係ない」


 ……? 冒険者に必要なのは、できることとできないことの見分けだ。彼女が言ったような蛮勇などは唾棄されるべき自殺志願だ、それも周囲を巻き込んだ最悪の。現に剛剣神武が倒したドラゴンとて弱っていたと聞く。恥ずべきことではない。


「異論があるならば聞こう。そして、それを通す力があるなら認めよう」


 そう、前置きして。


「我ら【翡翠の夜明け団】は『人類軍』の粛清を決定した」


 簡単に重大で不可能なはずのことを言い切ってしまった。


「なんだ、それは!?」


 近くにいた奴が大声を上げた。見たことはない――奴もAクラスか?


「何――とは、言葉の通りだよ。人類軍は皆殺しにする、と言い換えれば通じるかな?」


 全く気負うことなく、明日の天気は雨だよとでもいうような気楽な態度で宣言する。……現実をわかっていないガキのたわごと、などと言葉が浮かぶが夜明け団は本当にしてしまうのではないか。


「そんなことができるはずがない。何人いると思ってるんだ」

「処刑台に上げるのは48名、集団の数は90。そして、それに従う者も全てだ。誰一人として例外なく、己の欲のために人を殺した者の全てを断罪する」


「……させない」

「へえ?」


「させないと言ったぞ――夜明……


 それを言ったそいつがどさり、と倒れた。見れば胸は動いている、呼吸している。どうやら生きている。しかし顔が紫色になっている、酸欠か?


「気概はいいけど、力が足りなければ負け犬の遠吠えだよ」


 ルナはさらりと言う。だが、今……何をした? 見えなかった。ガスか何かかと思うが、しかし室内には多数の冒険者がいたから無理だろう。横に居る怒涛楼狼を見ても首を振るばかり。


「実のところ、君たちとて人類軍というものの形を分かっていないのは同じ。名簿という形で参加者が存在するわけでもないからね。今回粛清するのは街を滅ぼしたことのある、もしくは施設の意図的破壊工作を主導するという条件を満たす場合だ。色々定義はあるのだろうがね、しかし裁きは僕らが定義したとおりに実行される」


 時間が止まる。言っていることがトンデモすぎて誰もが言葉を奪われた。”それ”を本気で言っているのだとしたら、なんという自惚れか。


「――それは”バンディット”討伐ということかな、お嬢ちゃん」


 静まり返ったんで言ってみる。

 俺はあのAクラスとは違う、一瞬で意識を奪えるなど思わないでもらおうか。そして言うだけの事情もある。多かれ少なかれ、街が街である以上は後ろ暗いことがあり、そして裁きとやらが夜明け団の都合で決まるとしたらそれほど恐ろしいこともないからだ。


「ん、君は……ああ【風剣乱舞】か。僕たちの定めた粛清対象を、君たちの言葉で言うならそうなるかもしれないね。その言葉は聞いたことがないけど……」

「人を襲う”ならず者”はそう呼ばれている。君たちの目的は悪い奴らを懲らしめる、とでも言うことかな」


「いや、僕は君たちより高等な教育を受けてるし外見通りの年齢じゃないから――子供に通じそうな言葉だと逆によくわからなくなるのだけど。でも、そうとってもらって構わないと思うよ。実際のところ、困ってるんだよ。交易破壊に国中のプラント稼働率低下、救える命が零れ落ちていく。まったく、僕らは君らと違って数字で調査してるから、どれだけの人命が無駄に奪われているかよくわかるんだよ」

「――」


 個人単位みたいな自分の目で見れる単位じゃなくて、国家という単位を相手にしているんだ。学のない馬鹿を相手にするのは本当に疲れるよねえ、とルナは小さな肩をすくめる。

 今、ナチュラルにすごい馬鹿にされた気がした。つか、数字なんか重要じゃねえだろ。学校のお勉強か何かか?

 

「そんなことを俺たちに言ってどうするつもりだ? こんなところに俺たちを集めてまで――ただそんなことを聞かせるために集めたわけでもないだろう」

「……? 目的はこれだよ。宣言だ――人類の敵は叩く。ドラゴンに殲滅したように」


「ドラゴンは情報戦略だろうに。今は冬眠中ってだけだろ、別に前から四六時中精を出して人を襲っていたわけじゃない。で、宣言してどうなると」

 

 信じる馬鹿などいるわけねえよ。


「んー。ああ、やっと言ってることが分かった。君がやってないとしたら喜ばしいことではあるけど、本気で言ってるのなら想像力の不足だね」


 ホント、自然に人を貶めるなこのガキ。俺でなければ手を出してるぞ。もちろん、拳という意味で。


「だから、なんだっつうんだよ。さっさと言いやがれこのガキ」


 ガキは手を挙げて横の男を抑える。まさか、こいつなら一瞬で俺を倒せるとでも? 先の一幕のあれはあくまで防御の手品、戦いになりゃ関係ねえ。


「警告だよ。ここに居るのは上級魔物の討伐実績を持つ冒険者のみ。けれど、他の街を滅ぼすことに手を貸した者がいる。把握してるけど、言わないよ。僕が言っているのは、もうしなければ見逃してあげるということだから」

「……偉そうにしてるが、その根拠でもあんのかよ」


「ドラゴンスレイヤー程度で尊敬されて、僕らが侮られるというのは納得いかないんだけど――ま、力の多寡なんて外見じゃわからないものなんだね。けれど、その力を私利私欲のために使われてちゃ困るんだよ、育て上げた甲斐がない」

「――待て。待て待て待て……何を言っている?」


 育て上げた? 冒険者たるもの、魔物に対抗する力を自分でつかみ取った自負がある。それを汚すような真似は許さない。


「ああ、ここで種明かししとかないとまずいかな。宣言しても実効力がないと意味がないからね。実際のところ、どうなんだろうと思ってたんだけどやらないわけにはいかないかな。――入ってきて」

「は。ヘルメス卿、通称は音改 戒(ねあらた かい)、本名はレスティリティ・ラピド参上(つかまつ)りました」


 裏から入ってきた人間を見て驚いた。誰も彼もが口をあんぐりと開けて――見たことがあるか? あるに決まっている。Aクラスなら誰でも会うのだ。いや、昇格試験を何十年も前に受けた人間なら会ってないかもしれないが、それでも知ってはいるだろう。なぜならその人こそが。


「冒険者組合、組合長! なぜ、あなたがここに!?」


 冒険者と一緒に招かれた? それならおかしなことはないが、明らかに夜明け団側と思える場所からの登場だ。裏口というか、料理の搬入口というか。


「なぜ? まあ、それは本人の口から聞いた方がいいだろう。説明してやれ」


 ガキは偉そうで、そして組合長は当然のものとして命令を聞く。


「了解いたしました、ヘルメス卿。ただの中間管理職だと思っていましたが、まさかあなたにご命令を頂く日が来るとは思っていませんでした。冒険者組合長という仕事に初めて誇りを得た心地です」

「いやいや、力のない民草を守る仕事だろう? もっと誇りたまえ」


「ありがたきお言葉。……さて、諸君――おそらく私の顔は知っていると思う」


 そりゃ当然、俺も面接は受けたから知っている。

 冒険者の昇格試験、彼のいる場所まで行って面接を受けてくるというものだが、本番は街から街へ移動すること。魔物がはこびる街外を散歩気分で駆け抜ける必要がある――試験の日程上。

 金も渡されるが、それは仕度ではなく装備を整えることに使われるのが通例だ。かなりの額を貰えるからキャラバンか何かに運んでもらうこともできるが、それを選ぶ奴はいない。


「冒険者組合というものは、『翡翠の夜明け団』が発足し運営する機関なのだ。私自身も夜明け団に所属しており、組合長をやっているのは団活動の一環である。独立独歩などと言っても、単に王都から資金提供は受けさせてもらえなかったというだけの話なのだよ。もちろん、夜明け団の下部組織ということを王都も知っているからこそ自由にする許可を与えたわけだが」


「――しかし、皆の支援などというもので組合が成り立つわけがないだろう? 組織なのだ、困った人々の依頼を受けて解決する……にしても、その困った人々は常に貧乏だぞ。だから困窮しているのだ」


 誰もが何も言えない。信じていたものが崩壊して、何を口に出せばいいのかわからない。組合というものを信頼していた。

 なのに、それが単なる夜明け団の下部組織だって? 人体実験を繰り返すイカレタ奴らの。


「そもそも疑問に思わなかったか? 他の街々が完成どころか開発の足掛かりすらできていない全国規模の情報ネットワークなど、夜明け団しか所持していないぞ。団の金で、技術で、組合は動いているのだ。事務には何も知らずに働いている者も多いが、基本的には上級役員は夜明け団の人間が担当している」


「つまりは、こういうことだ。貴様らに必要なものは我々が提供していたのだ。そもそも魔石を売って適切なレートで金に換えることが貴様らにできたか? 魔物の情報を調べ、適切な野営地を選択することができたか? 一から住民と信頼関係を築くことができたか? 今やAクラス、世話にはならないなどと思っても……新人の頃からそれができたと思うのは愚かでしかないぞ」


 まるで通夜のような雰囲気が漂った。無理だ、そんな規模で世界を操っていたとしたら敵う道理はどこにもない。世界征服をするつもりか、なんて質問して嗤われた。けど当たり前。もうそれは”完了”しているのだから。

 自分たちは対抗勢力かと思ったら、ただの操り人形で。王都はどうやら共犯者らしい。貴族どもは自分のことしか考えていないから期待しても無駄だが。


「あんた……それを本気で言っているのか……?」


 信じたくはない。が――信仰を(嬢ちゃん)へと捧げる彼の目は求道者のそれだ。彼がそれを信じているということだけは間違いなく。


「当然。まあ、呆けるのも理解できる。だからわざわざ言ってはいなかったのだ」


 じゃあなぜ言ったか――あのお姫様のご命令か。だとすると、なんつーことだ。翡翠の夜明け団はあんな子供が実権を握ってて……そして世界を支配している? どんなブラックジョークだ笑えない。


「まあ、そういうわけだ。君たちのデータも夜明け団は保管している。別に悪いものでもないだろう? 働けば働きに応じて何でも手に入るんだよ。ねえ、【風剣乱舞】。君は10人も女を身請けしたらしいけど、それだって働きに対する正当な報酬というものだろう。備考に書いてあったよ、組合が身分を保証したらしいね。彼女たちにもっと良い暮らしをさせることも、もっと女を買うことも可能。しかしそれは、夜明け団の後援があるからだ。安心しなよ、結果を出している以上は、その分だけ好き勝手させてあげるから」


 お子様は自信満々に言い放つ。組合長はその子供の前にひざまずき、感動したように何度もうなづいている。


「……馬鹿な」


 理解したくない。……ああ、目の前の”これ”は悪魔だ。そして、翡翠の夜明け団は悪魔の奴隷。人の心を失った――人類の支配者。対抗できるものなど……


「ま、少々心得の違う者もいるみたいだけど」


 不機嫌そうな顔になって、手にした機械を操作する。なんだ? 何が起こった。あの悪魔の顔を歪めさせることなど……人間に可能なのか。


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