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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
人類反乱編
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第97話 冒険者たちと宴 side:山崎織臥


 と、いうわけでしっかりと夕飯から朝飯までご馳走になった。なんだあれ、めっちゃうまかった。いやあ、翡翠の夜明け団が人類の敵なわけがわかったわ。あれ独り占めとかそりゃ、許せるわけなんてねえな。俺、王様かよとか思ったぜ。


「【風剣乱舞】様、会場の用意が整いましたのでご案内します」


 しかも、美女まで独り占めとなれば、そりゃな――恨まれるのも当然だな。ま、実際はあこぎな貿易業をやってるからだろうが。あいつら滅茶苦茶足元見るしな。


「あ、よろしくお願いしますリーリスさん」

「はい、ヘルメス卿はすでに到着なされているので失礼のないようにお願いします」


「……ああ、わかっているさ」


 そう口にするしかないが、正直言って面白くはない。そもそも招かれてやったのはこちらで、最高権力者だろうと一定の譲歩はするべきだろう常識的に。

 冒険者っつうのは基本的に頼るのは己の力のみ、独立独歩が王道だってのに。とは思っても顔には出さない。


「こちらへどうぞ」


 扉をくぐった。


 ――そこは別世界だった。テーブルの上に並べられた、シェフの技術の粋を集られたきらびやかな料理はまさに宝石と見間違うようで。

 こいつはだめだ。そりゃ見栄もあるだろう。けれど、これは……同じ人間の食べるものとはとても思えない。”これ”を毎日食べてるのか。人間の暮らしかよ、これが。


「君が【風剣乱舞】かな?」


 ……は? 子供、こどもだ。2桁に上がったばかりの子供に見える。それがテーブルの向こうの玉座に座っている。

 場違いだ、いやあのふりふりの――むしろ大人が年端も行かぬ少女に着せるのを好みそうな動きにくい服はお姫様みたいで似合ってはいる。だが、ここは冒険者を集めたところだろ? クレバーではあるが、その本質は荒くれ者だ。お姫様が見るにはふさわしくない。


「ヘルメス卿、【風剣乱舞】の山崎織臥をお連れしました。彼の者の言動は一見すると考えなしに見えますが、その実深い思慮を巡らせている男です。お役に立つかと」

「へえ、君が言うんならそうなんだろうね。まあ、見たところ本当に上級魔物を倒せる腕はあるようだ」


 なんか、すごい偉そうなんだが。そりゃあ上級魔物を倒せる腕はあるし、実績もあるよ。でもな、なんというか――背伸びしてるようにしか見えねえんだよな。適当に言ってるだけというか。


「……あんたがヘルメスとやらかい?」


 横のメイドにものすごい目で睨まれた。敬称を付けなかったのがそんなにいけなかったかね。結構いい女だと思ってたんだが――ちょっと頭おかしくないか。


「ヘルメスと呼ぶときは卿を付けてくれ。でなければルナでいい。僕の名前はルナ・アーカイブスだからね」


 おや、こいつは気楽なもんだね。泣き出されちゃ困るとか思ってたけど、話せる相手だ。やっぱり子供ではあるけれど。


「ヘルメス卿、それでは――」

「別に君も僕をルナと呼んでくれてもいいのに」


「そんな、畏れ多い……」


 彼女がひれ伏した。実際に権力を持っているようなのは確かなようだ、狂言でなければだが。とはいえ、服もとんでもなく上質なもの――しかし


「お爺様から説明でも任されてご機嫌になってるのかな? まあ和ますという意味ではいいだろうけど、冒険者は紳士な俺と違って乱暴者が多いから泣き出さないように気を付けなよ、嬢ちゃん」

「やれやれ、さすがにAクラス程度ではアーティファクトを見る目もないか。第1世代相当というだけでも、拾い物ではあるのかもしれないがね――」


「おい嬢ちゃん、あまり冒険者をなめたこと言っちゃいけないぜ。俺みたいに聞き流せない奴がいるからよ」

「そこは俺がとっちめてやるくらい言えないのかね? 周囲がどうのと言って責任を避けるなんて男らしくないと思うよ。まあいいや。とりあえず食べてなよ、まだまだあるから遠慮しなくていいよ」


 興味を失ったように横の姉ちゃんに甘え始めた。……うわ、あの姉ちゃんすげえ。嬢ちゃんが顔をうずめて胸が強調されてるよ、あのでかさはすげえ。しかも、美人ちゃん。こりゃ、お世話係にしとくのはもったいねえな。


「オルガ様、あまりアルカナ様にそういう視線を向けないよう」


 前をふさがれた。見えない。


「ちょっと見ただけだろ? それに減るもんじゃねえしいいじゃねえか。それともお爺様のアレかい」

「ヘルメス卿に血縁などありません。そしてアルカナ様はヘルメス卿の巫女であらせられます。あなたごときが(よこしま)な目で見ていいような存在ではないのです」


「……あー。もしかして、あの嬢ちゃんのアレってか。なんかすごい趣味してんなあ」

「――?」


 首を傾げられた。アレは翡翠の夜明け団では普通ということらしい。もしかして、こいつもそうなのか。だとしたら、あの身持ちの硬さも納得か。男嫌いというわけでもなさそうだが。


「ああ、もういいよ。俺はご馳走を食わせてもら――つか、ホントに食っちゃっていいの? これ」


 いや、ホントに手を出していいのかわからん芸術品だけど。それでも、食べ物ではあるから食えるんだろう。うまいのか、アレ? 逆に奇麗すぎて食えなそうだ。


「はい、どうぞ。何度もお聞きになるのですね、山崎様は」


 彼女に首を傾げられた。



 そして、段々と人が集まり始める。いけすかないライバルも。


「……【風剣乱舞】よ、見たかあのガキ」

「見たともさ、【怒涛楼狼】。はったりって奴かね? あの放送によればロート・シュバインを潰したのはあのガキらしいがね」


「実力者には見えんな。守るべき子供だろう、あれは」

「その言葉については簡単にうなづけねえな。あれはあの年で権力者の類だ、俺たちが守る筋合いはねえんじゃないかな。本来冒険者が守るべきは民草と言う。それは貴族でもなければ王族でもない。違うにしても、あれはそういった”もの”だろう」


「冒険者の実態は所属する街を守っているのみに過ぎんがな。民草と言えば民草だが、俺たちは一部を選んでそれを守っている。それ以外など手が回るはずもない。貴様とて、食料を求めて我が『リースチャトット』の街を襲わないとも限らん」

「それを飲んだ上で来ているんだろうがよ。お前こそ水を求めて『清水』街を襲って来ないとは言えない。強力な冒険者がいなけりゃ、武力を背景にお話し合いって奴も進むってもんだしな。ここに居る誰もが、誰かを狙う理由を持っている。それが分からない阿呆はいないだろう。ここにいる奴らは全員、武装している」


 お話し合い――もっと小綺麗に言えば貿易か。力を持ってるかどうかで買い叩くか、買い叩かれるか決まる。そもそも売りたくないもんだっていくらでもあるが、Aクラス冒険者が”お願い”すれば売ってくれることだってあるだろうよ。

 実際、俺も奴も仲良く会話しているように見せているが剣を抜かれたら対処できるように立ち回っている。奴も本気でないからこちらも殺気を出すほどではないが、間合いは取り合っている。同じAクラスで実力も近く、油断しなければ千日手な上に横やりを警戒して手は出せないが。


「全員? 【翡翠の夜明け団】の人間は武装していないぞ。メイドどころか、あちらのガキどもも、その横の護衛もな――警戒する気があるのか怪しいものだ。まさか、このご時世に街をつないだ貿易をやっているのだ、平和ボケしているわけでもないだろうが」

「……それは疑問に思っていたが、貴族の傲慢とか言うやつじゃねえかな。襲われるとは夢にも思ってないだけだろ、きっと。横の男は中々の身のこなしだぞ、剣をどっかに置いてきたんじゃねえかな」


「それにしても、武器は持つべきだろう」

「そうかね? ここに来るなら武器を持ってないっていう建前は重要だろう。だからお前さんだって隠してるわけだしな。もっとも、そんな謙遜は関係ないお方がいるがな」


 ”彼”を見る。年を召したお方。だが、寄る年波などは関係ない。年を重ねた分だけ貫禄が付き、立ち居振る舞いからは絶対的な力を感じさせる。あれこそ、冒険者の頂点に立つ武の結晶。


「ああ、あの(おきな)――ドラゴンスレイヤーの称号を持つ【剛剣神武】か。だが、彼こそ例外だろう。おそらくは王都にいると言われる王の前でさえ、かの鉄塊のごとき剣を手放すことはないのだろうからな」

「……いや、待て。あのガキ、【剛剣神武】に話しかけてる。しかも、向こうはやる気だぜ。おいおい、あのガキまずいんじゃねえか」


「としても、止める義理はない。横に立っている男、そいつが護衛だろう。武器を持っていないのは気になるが、お手並み拝見と行こうか」

「いや、ドンパチかますとは決まったわけじゃねえっつの――」


 だが、彼は剣呑な雰囲気だ。それはそうだ……誰からも尊敬されるべきお方を、あのガキは凡百のそれと変わらず扱っている。誰をも上に置くべきでない方を、上から見ているのだ。



「あなたが――ねえ」


 ルナは武の神とでも言うべき老人を一瞥する。特に尊敬も何もない、つまらない男を見るような目で。


「なんだ、ガキか」


 そして、その目で見られた老人もまた――ガキはガキで何かが分かるはずもないと興味の失せた目で見る。”これ”に権力を与えるようであれば、翡翠の夜明け団のイカレ具合もとうとう麻薬中毒者の域にまで達したか、と。


「ううん、こうして見るとSクラスもあれだね? 色々と差があるんだねぇ」

「……何が言いたい?」


「こうして見るとSクラスを認可制にしたのは間違いだったかなって。いや、僕が作ったわけじゃないけど。それにしても”かつて”強かった、と”今”強いは別ものだろうに」

「なるほど、手品が成功して調子に乗っているらしいな。ドラゴンを殺すということの意味を理解していない。あれは実際に目にしたものでないとわからんのだよ、あの絶望。龍が”天敵”と呼ばれる意味を」


「――さて、数匹まとめて首を刈った僕には、そこはちょっとわからないかな。もっとも、今の君ではドラゴンの一匹ですら倒せないということは分かるよ。その足ではね。重心移動が歪だぜ、しかも義手だって若いころと変わらずではないんだろ?」

「ドラゴンを倒すための犠牲、その選択に後悔などあるものか。だが、自らの非力は感じておるよ。ドラゴンを絶滅したなどとうそぶく輩が出てしまうとは恥じ入るばかりだ。下手な妄想も、そこまでくれば害悪に他ならん。アレには勝てない。アレは倒せない。アレは不滅だ。なぜなら、ドラゴンこそが人類の天敵なのだから」


「天敵だからこそ殺す。僕らは諦めなかったよ、君と違って。どこまでの犠牲を払おうとも敵は殲滅する。そのためなら打倒を、踏破を、人間を踏みにじるものを踏みにじるためのあらゆるすべてを肯定する」

「すべて……か。ああ、理解した。貴様らは全てを賭ければ、かの龍の地にすら届きうると考えているのだな。ああ、その”全て”は無駄だ。しょせんは狂言、ドラゴンをせん滅したなどと大嘘。その虚言で何を考えた? 世界征服でもするつもりか――浅はかだな、逆効果に終わったぞ」


「逆効果? ああ、確かに1週間ほど戦況が悪かった時期があったかな。別に世界を支配するつもりがあるなら、今も昔も難しい話ではないんだけどね。確かに人類軍に追い込まれたように見えなくもなかった――おじいさんには最新の情報は辛いものがあるだろうしね」

「下らん皮肉をさえずる暇があるのなら、針仕事の一つでも覚えることだな。貰い手がいなくなるぞ。そして、心に刻むがいい。貴様がいかなる悪逆を企もうと――そのような無道は儂が許さぬ」


「……できないと思うよ、あなたではね」


 わずかに話をする声すらやんだ。【剛剣神武】の殺気がここにいる誰の動きをも許さない。蛇に睨まれた蛙。であるのに。


「んぅ――」


 あの幼女は何も理解できていない。殺気など感じ取れというのは難しいだろうが、まさかこの状況でリラックスできるとは。

 あの姉ちゃんも少しくらいは謝るとか何かあるだろ――頭なでるんじゃなくて。見ている人間の心臓の方が痛い。誰が耐えきれなくなったか。


「……あ」


 絞り出すような細い声が漏れた。それが合図になって。


「秘儀……【龍殺之太刀】」


 ”それ”はむしろゆっくりとした動きだった。目に見えない速度なわけでも、山をも潰す腕力でもない。しかし、それでも”それ”は龍を殺すに足る一閃となる。

 それはこの場の冒険者のあこがれに足る一撃だった。自分も極めればこれほどの力を得られると、そう思って、それを示してくれた敬うに足る老人に首を垂れる。けれど。


「……貴様」

「これが、武人が至る最高峰……この程度か。才能で至れる場所など、なんと狭い――やはり私は正しかった。人間では届かぬ場所に私は居る」


 幼女の護衛と思われる少年が手のひらで一撃を受け止めていた。しかも、彼を侮るようなことまで。……やせ我慢か? あの武神の一撃を受けたのだ、無事で済むわけがないのだ。


「【金剛卿】のルート・L・レイティアと申します。お見知りおきください、古い時代の遺物よ」


 そして慇懃にお辞儀して見せた。それは、返礼に一閃を与えられようが避けれるないしは防げる自信があってのもの。


「ルート、あまりからかうな。第5世代の力を見せびらかすのは場所を選べ」

「了解しました、先生。しかし、この程度の奴らを相手にあなたの力を使う必要もありません。ゆえ、私が対処させていただきました。あなたであれば、そもそも動く必要すらないとは理解しておりますがね」


「そうだね。強すぎる力を見せたところで理解できなければ結局のところで意味は――」


 【剛剣神武】のクツクツと笑う声に彼女が首をかしげる。


「なるほどな。大した手品だ。人体改造だったか? 貴様らが好んで使う手段と聞いている。鋼か何かを移植したな? だが、しょせんは手品―そんなものはどうということもない」


 踵を返す。


「一度しか通じぬ手品、ここですかさず使うとは貴様も年の割には場の流れというものを把握しているらしい。いや、裏にいる人間の指示か。下級魔物を相手にするには大変に有効な力だと認めよう。だがな、しょせん手品は手品。中級にも通じるかもな、だが上級には通じぬと覚えておけ」


 こくこくと、一人で納得して、勝手に一人で話して、壁に背を預ける。


「なんにしても、話くらいは聞いてやろう。手品と言えど、それほどのレベルに達しているならば魔法と変わらん。世迷言をほざこうと、この状況であれば狂人とて使わねばならん。”バンディット”と同じ行為に手を染めれば倒すだけよ、今は見逃してやろう」


 とだけ言って、あとは静観する――




 言わずとも、この爺さんがただの自惚れ屋な勘違い爺さんだということは分かると思います。しかも若いころはブイブイ言わしてた系。しかし、民衆は爺さんこそ信じるという罠。まあ創作には有能な幼女とか溢れてるけど、普通に目の前に出てこられても信じるわけないよね。みたいな話でした。


 魔法が存在する世界でも年功序列はしっかり根付いているよ、ということ。情報があふれてきて、”年を召しただけで何の経験もない老人って無能なんじゃね?” ということに若者が気づき始めたのは現代の情報社会の闇だったりするんじゃ、と思った今日この頃。


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