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第91話 バカンス


色々と説明をしていきます。

ヘヴンズゲートの功罪、今の夜明け団の状況など。説明しなければおそらくルナはともかく王都が脚本の都合で動いていると取られかねないので。一応そこらへんも運営しているのは人間なのでどう考えて何をしているのかは考えて書いています。



 目の前には白い砂浜、美人、それと幼いメイドたち、そして蒼い海。

 どこからどう見てもバカンスだ。まあ、一つおかしいものがあったし、僕は断じてそんな趣味があると話した覚えはない。が、見ていれば瞭然であるということだろう。

 アリスとアルカナと三人、水着姿でビーチベッドで寝転がる。一人用のそれに子どもとはいえ三人が寝ると狭いし、アルカナは結構大きいのだが。


「あの~」


 ん? と目を向けると小さな女の子がメイド服を着てお盆を手にしている。はや三日が過ぎたが、しかし気兼ねなく、とは違うのだろうが話しかけてくれるのはこの子だけである。偉くなるとは、時として悲しいことだね。


「えっと、なにか……おめし――あれ、おめし……? えっと、食べますか?」


 まあ、僕らみたいな年齢詐欺はそうそういない。小さな子ならこんなものだろう。

 というか、これはよほどいい方だろう。実は【夜明け団】だと血筋のある家は中級に収まることが多い。この子はそこ出身で、ちゃんとした教育を受けている大陸でも数少ない人間である。

 そもそも年齢詐欺と一口に言っても団ですら魔人はお目にかかることはめったにない、というか下っ端で目にしたことがある奴がいたら相当運がいい方だ。目立つから誰でも知っているだけで、ヘヴンズゲート以前でも大した数はいなかった。


「うん、フルーツをもらえるかな」

「あ、はい! コック様に頼んできます」


 駆け出して行った。少しよろけて、あぶなっかしい。転びかけた。……下着は見えなかった。ああいうのも悪くないと思ってしまう僕はやっぱり病気なんだろう。人間自体に、そういう欲求を抱くことはないとはいえ。


「……ルナ様?」


 アリスのじとりとした目が僕をのぞく。ああいった子をつけられた原因は疑いようもなくこの子だろう。まあ、男を侍らせて喜ぶ趣味はないからいいのだし、この子のことを言われたら反論なんてできないのだけど。


「あはは。大丈夫だよ、僕の特別は皆だけだから」


 ぎゅ、と抱きしめる。終末少女の皆、口に出しはしないけど文脈上そういうことを言って、そしてそれを分からないほどアリスは幼くない。


「ふふ、わしも好きじゃよ。ルナちゃん」


 後ろから柔らかい感触が背中にあたって。そして抱きしめられる。


「もう、二人ともくっつきすぎだよ」


 くすくす笑う。まあ、こういうことだから女の子を世話役にされるのだろう。もはや僕は夜明け団でも一番重要な重鎮なのだから、ご機嫌取りにきれいどころがそろえられたというわけ。


「……で、いつものように仲がよろしいのはいいとして――何かやることがあるのではありませんか?」


 この子は少し機嫌が悪そうだ。せっかくのバカンスなのに、ねえ。


「カレン、やることと言えば休むことだ。本部は本部で組織の再編成を行っている。そして君は重症の身、動くたびに激痛が走るのに仕事も何もないことだ」


 彼女はどうやらブラック根性が骨身にまでしみ込んでしまっていたようだ。叩き込んだ僕が言うのもなんだけどね。

 まあ、『ヘヴンズゲート』ではオペレーターたちにそれを強要してしまったけれど、あれは必要があったからそうしただけで彼女たちも休ませている。普通に治療でしかなく、バカンスができるほどに回復してもいないが。


「……とてもではありませんが、落ち着きません。仕事をください。この際もう書類仕事でも何でもいいです。確か、言っていたでしょう? ゆくゆくはそういうこともしてもらわなきゃならない、と」

「いや、今じゃないよ。それ」


 と、しか言えない。どれだけ骨身に染みついているのだ。あそこにいるアハトを見習ってほしい。休めとの言葉通りに命令を下してから、ずっとビーチベッドに寝転がり微動だにしていない。……あれもダメだな。


「そうですよ、先生の言う通りです。せっかく用意してくれたんだから、楽しまないと」


 ルート。手にはステーキの乗った皿を抱えている。この子は存分に楽しんでいるようだ。


「あの……るな様。スイカの……えっと、色々盛り合わせです」


 小ぶりなスイカの上には色とりどりのフルーツが並んでいる。うん、とてもおいしそうだ。こんな待遇とは、僕も偉くなったものだと実感する。食べ物で一番感じるとは僕も即物的なものだと苦笑するしかないが。


「うん、ありがとう」


 受け取って、とりあえずミカンぽいものを食べてみる。程よい酸味でおいしい。アリスと、持ってきてくれたこの子にも食べさせてあげる。他の侍従は畏れ多いみたいな顔をして少し離れた場所にいる。気軽に話しかけてくれればいいのにね。


「だからと言って、手持ち無沙汰なのはしょうがないでしょう。この有様では戦闘訓練もできません。まったく、私に弱点があったとは。しかもそれが休むというのは皮肉にもなりません」


 カレンも僕の持ってるスイカから一つつまむ。おいしいですね、これ。と顔をほころばせる。ふふ、かわいいところもあるものだ。


「む~。むーむーむー」


 不満を口に出している子が一人。豊かなおっぱいをぐいぐい押し付けて存在を主張してくる。


「はいはい、アルカナも。ね」


 とりあえずおいしそうなものを掴んで差し出すと、指ごとしゃぶられてしまう。……うん、慣れた。今はもうこれくらいじゃ赤面しない。


「ま、遊ぶのは各々体調的にほどほどにしときなね? 数少ない生き残り、遊んでいて死にましたじゃ格好がつかないでしょ」


 僕がこの格好では、それこそ格好はつかないけれど。


「私はそれほど馬鹿じゃありませんよ」

「僕も、このくらいなら大丈夫と教えてもらったからやってるだけですよ。自重はします」


「ふふ、よろしい。まあ、暇なら講義をしてあげよう。けれど……うん、けれどあれだね。僕らが集まるとこういう話にしかならないね。若い者同士ならもっと花のある会話をするものじゃないかな。好きな人とかいないの? 君たち」


「改造により遺伝子情報の歪んだ私たちには生殖など不可能で、恋愛など意味がないでしょう。実を言うと、あなたのそれだけは全く持って理解不能です。そもそも同性ではないですか、非生産的でしょう」

「異性に興味がない、というわけではありませんが。……いまは仕事が楽しくて、という状態ですかね。厳しい上司に認めてもらえるくらいに力をつけたら考えようかな、なんて」


「面白くない話だ。”愛”ってのは偉大だよ。意外とどんなに劣勢でも跳ね返せたりするものなのさ」


 冗談めかして言うと。


「それは本当ですか」


 カレンにずいと近づいてこられた。って、近い近い。


「そのために恋しようとしても無駄だよ。愛ってのは、そういうものじゃない。さて、益体もない話は置いておいて、講義をしようか。この大陸の勢力についての話だ」


 突っ込まれても困るので話を変える。というか、恋なんざしたことがないからわからない。それとも、アリスやアルカナに抱くこの感情は愛なのかね?


「さて、基本的にこの大陸で存在する勢力は二つだ。ルート」

「あえて二つというなら僕ら【翡翠の夜明け団】と【王都】ですね。いえ……それとも両方まとめて一つで、人類軍が二つ目ですか?」


「いや、最初ので合っている。王都とは密な関係を持っているけれど、我々とは一つの組織ではありえない。目標が全然別のところを向いている以上、裏で協力しても表で手をつなぐことはあり得ない」

「人類軍が勢力に入らないというのは、確固とした勢力圏を持っていないからですか? ここにバカンス施設があるわけですが、その他にも我々には本拠地があり生産地点がある。一方、人類軍にはそんなものはない」


「そこまで厳密な定義ではないけどね。けれど、あれは勢力というより烏合の衆だ。勢力圏というなら、どこよりもでかいかもしれないが。しかし組織的な管理というものがされていない。滅ぼし方の有無といえばわかる? 僕らで言えばO5(オーファイブ)とこの僕、王都で言えば有力貴族と王族を潰せば組織は実体として消滅する。けれど、人類軍は潰しても潰しても、まったく別のところから発生してくる。頭が居ないんだよ」

「だから、あれは組織ではないと。そう言われたら確かにそうですね。そもそも、街自体が一つの勢力といえるのにそれをカウントしなかった時点でそういうことですか。ただでかくて同じ旗を持っているだけで、むしろ生存競争においては同じ人類軍でも敵でしかない」


「まあね、規模が違うよ。人類軍も全部合わせればとんでもない数になるのだろうけど、組織として運営できない以上は並べるべきではない。あいつら、本拠の街ごとで物資を奪い合っているしね。技術力の観点からみてもそれは言える。新しいものを作るのは常にうちと王都だ」

「けれど問題となっているのは人類軍ですよね。王都に対する対処というのはそんなに聞いたことがありませんから、とりあえず仲はよろしかったのでは。対応として苦慮してるのは人類軍でしょう」


「それが大多数の認識ではあるけど、組織を運用する側としては王都は重視しないわけにはいかない。君たちに近いもので言えば進化薬は王都でも作れる……というか、技術は互いに融通しあってるわけだからね。彼らなりに発展応用した進化薬を作ってるんだ。技術交流があるんだよ」

「そうなのですか。では、私も貴族連中と付き合う義務が発生するのですか。端的に言って、とても面倒です。そういうのは別の方がやってくれるものでは?」


「偉いと、そうは言ってられなくなる。ま、こちらは秘密組織だ――そうそう奴らの見栄と都合に合わせてやる必要はない。けれど、これまで王都とは深い関係をつないでいた。それは覚えておかなければならない」

「先生、”いた”とはどういうことです? そういう言い方をするということは、また面倒なことになっているんでしょうね」


「そういうことさ。佳境にミサイルを叩き込まれたのは覚えているだろう。あいつらなんだよ、やったのは。だからこそ、王都に対しては細心の注意を払って今後の扱いを決定しなければならない。というか、向こうだって反撃されたのは分かっている。人間、因果など気にしないからね。あっちにしてみれば、横合いからいきなり蹴りつけられたようなものだろうさ。今後の関係性はとてつもなく微妙なことになる」

「……逆に言うと、人類軍とはそういうことは必要ないと言うのですか? 実のところ私はそんな面倒なものにかかわりたくないのですが。私にできるのは人類の敵を抹殺することだけです。そんな、繊細な関係性の構築などとてもとても。人類軍の殲滅任務だけで勘弁していただきたいものです」


「さてさて、それはどうかな。実のところ、偉い人自体が減ったんだ。ペンタゴンからトライアングルへ、ルナ・チルドレンは残り3人。だけどアハトにそんなことを期待しても無駄。そういう意味では一番偉くて使いやすいのは君だよ。僕はほら、偉すぎるから。実行部隊で一番偉い人という条件なら、君に真っ先でお声がかかるね。王都関連の任務だと偉い人も必要だから」

「……つくづく、面倒ですわね。偉いなら、ほら影武者とかつきませんか? あなたはアダマント姉妹に秘書をやらせてましたよね? そういう任務は、その人にお任せすれば楽です」


「できればいいね。そんな人材は僕が欲しいけど。で、人類軍の対応は簡単だ。あぶり出して殲滅、それ以外に団がとる態度はない。君からすればこっちが気楽なのかもね――」


ルナのくどい説明を三行で

 この大陸の組織は夜明け団と王都の二つ

 人類軍は組織としての実体がなく、潰しても生えてくる

 王都に反撃したため、今後の関係は微妙になる

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