漫画作成記念「終末少女の百合な日常 ルナ&アリス」
漫画本編
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SS
「んー。今日はここまで、かな」
手にしたメスを置く。鋼鉄の夜明け団の統率者にして支配者、ルナ・アーカイブスの仕事は多い。政治的な多くをシャルロットに押し付けたとはいえ、団員の鋼鉄の身体をメンテナンスしなくてはならない。
それは決戦仕様、もとから多くが帰ってくることなど期待していなかったために初めから”そういう”仕様になっている。よって、戦後処理が終わっても人体改造の権威であるルナの仕事は山積みであった。
「お疲れさまでした、ルナ様」
かかる声は部下からのものだ。しかししょせんは最前線の医療兵、ルナが手ずから行う高度な改造手術などその何割も理解できていない。
ただ、それでも。
「あとは君達でもできるだろう? 僕はさっさと帰ってしまったあの子のところに行かないとね」
そんな彼らでも、ちょっとした整備や後片付けくらいならできる。ルナは自分でやらなくてもいいことは放置してさっさと帰る。
パン、とスカートを翻せば付着した血のりは全て落ちる。何気なく着るそれもアーティファクトの一つ、血も汚れも簡単に払い落せる代物だ。
そして拠点に並ぶドアの中でも最奥に位置する一つを開ける。ルナの私室と定めた場所だが、場所には意味がない。
ドアを閉めた瞬間に空間移動して箱舟の中にある自室へ飛んだ。大きなベッドが一つ、そして他には大きなぬいぐるみが並んでいる。そこには先客が一人。
「……ルナ様。ルナ様は人間のことばっかり」
ぷくっとかわいらしい頬を膨らませて、愛らしい灰色の瞳にいっぱいの涙を貯めた彼女がいる。
仕事中はずっと隣に居たのだが、これをやるためにタイミングを見かからってひとりで先に帰っていた。
「アリスのことはどうでもいいの?」
まあ、この子にしてみれば戦争が終わってやっとかまってくれるようになったと思ったら、生き残った改造人間たちの世話で忙しくしているのだから期待外れもいいところなのだろう。
僕は少しだけ苦笑して。
「あは。怒らないでよ、ほら」
ひょい、と服をつまんで”変える”。所持する服は全てアーティファクトなのだから、早着替えも簡単だ。それは編んだ術式、袖を通す必要すらない。
「この格好の僕もかわいいでしょ。ね、機嫌を直して」
手を伸ばす。スネたアリスもかわいいけれど、やはり笑っていた方がかわいい。
「あうう……むう」
そっぽを向いてしまった。
「おや?」
機嫌を直してくれない。これでアルカナならちょっとえっちな服を着てあげれば直してくれるのに。……なら、仕方ない。
「あらら。じゃ、こういうのはどうかな? ほら、メイドさんだよ。アリスのために何でもしてあげる」
また服を変える。ふわ、と夢の様に広げて見せる。黒いスカートと淡い紫の髪がよく映える。……うん、自分ながら、とてもかわいい。
「むむ……ルナ……さま」
アリスがじっと僕を見つめる。
「ちがうんだよ、分かってる?」
あれ? 何か、雰囲気が違う。本当に怒ってるような、そうでないような? ずっとご機嫌斜めかな。
「でもね、ルナ様はそのままでいいんだよ」
くすりと笑って手を伸ばす。手を取られた、ゆっくりと五指を絡めとられて、アリスの小さな両手の指が僕の手を上を這いまわる。
「ルナ様、こっちに来て座って」
手を引っ張られて、ベッドに座らされてしまった。アリスの座っていた場所、体温を感じてドキリとしてしまう。
「あ、うん。えっと、メイド服はもういいのかな?」
つ、と触れられて服を変更されてしまった。まあ、別にさっきの早着替えと原理は同じ。同じ終末少女、干渉できないようにするロックはかけてない。
す、と顎に指を当てられる。アリスは膝立ちになって、僕の頤を上げて上から目を合わせる。
「何でもしてあげるなんて言っちゃ、ダメなんだよ?」
目の前の彼女の唇があまりにも妖艶だったから、目を逸らしてしまう。
「……アリスだからだよ? アリスだけ。ねーー」
言い訳ともつかぬ言葉が口から漏れる。
「ふふ、ルナ様はかわいいね」
嬉しくなって、アリスの顔を見上げるとしっかりと目が合ってしまった。びくり、と固まった隙にカーディガンを肩から落とされてしまう。
「えと、ありがと? カーディガンも、脱がされちゃったけど」
「何でもしてくれるって、言ったでしょ?」
そのままお腹に腕を回され、ベッドの上に倒されてしまう。抵抗できない。……アリスを相手にそんなことできないけど。
「え? あ……うん、そうだね?」
僕はどうされちゃうのだろう? どきどきと、期待と恥ずかしい気持ちがあふれて訳が分からなくなってくる。
アリスはニヤリと笑っている。その微笑から目が離せない。
「何でもなんて言うから、こんな目に会っちゃうんだよ」
「ま。待って……」
頬に軽いキス。顔が真っ赤になって、煙が出そう。
「思い知った? ルナ様。アリスはとってもルナ様のこと、だいすきなんだから」
「ひゃ……あう……」
頬が熱い。
「ーー」
アリスはそのまま心地良さそうに僕の頬に口づけをする。何度しても慣れないけれど、とても嬉しい。
「ふふ……分からされちゃった」
アリスの頭に手をやって引き寄せる。
「僕のアリスのこと、大好きだよ」
アリスを抱きしめる。暖かい。
「えへ。うれしいな。でも……」
くすりと笑って、優しくベッドに押し付けられた。
「ルナ様はまだ……わかってくれないみたい。だからアリスがわからせてあげるよ」
灰色の瞳が嗜虐に歪んだ。
「ふえ?」
混乱する。アリスは幼くて、清純でーー求められればともかく、自分からすることはないと思ってたのに。
子供らしい体温の高い手が胸のあたりをまさぐった。
「……にゃ?」
「お仕置きだよ。ていこうしちゃ、だめだよ」
けらけらと笑うアリス。
「ア……アリス? ……っむ!?」
唇に、暖かくて柔らかな感触が。目の前には、視界一杯に移る灰色の瞳。
「うふふ。ていこうしてる? でも、それなら……腕に力を入れないと……ね」
肩に手をやって、でも押しのけられない。ううん、そんなのは、力を入れていないから当たり前。ただの”ふり”。
「えへ。とってもおいしいよ? ルナ様の……くちびる」
嫣然と笑うアリスから目が離せない。
「ふわ。あ…ひゃ……んん……あ……んくっ」
小鳥のように何度も何度も唇を落とす。浮かされたような瞳、世界が桃色に染まったかのような一瞬。
「あう……頭が爆発しちゃう。……や!」
瞳を、閉じる。とん、とアリスの胸を突き飛ばしてしまう。
「あ……!」
それは子供の力で、彼女を傷つけるものではないけれど。アリスの瞳が恐怖に染まる。
「ごめんね。ルナ様を傷つけるつもりはなかったの」
唇を離して僕のことを抱きしめる。……その身体は少し震えていた。嫌われるのだけはとても怖い。同じ終末少女、嫌いになることなんてありえないけど……それでも、”僕も”怖い。だから、同じようにアリスも怖がっているのだろう。
「あ、ごめんね。嫌じゃないよ、アリス」
頭を撫でてやると、ふわりと笑顔が咲いた。その笑顔を見ると僕も嬉しくなる。けれど、
「でもね、アリス。これで終わりなんじゃないよね」
くすりと笑う。こちらのターン。今度は僕は嫣然と笑みを浮かべる。
「火を付けたのはアリスだから、責任を取ってね?」
腰のあたりに手を当てて逃げられないようにする。
「うん。いいよ、ルナ様。アリスはルナ様のものだから!」
笑う。
「もう一度、しよ?」
アリスの体を抱き寄せて、もう一度キスを。
「アリスは、ルナ様のもの。ルナ様とずっと一緒」
「ずっと一緒だよ、アリス」
深く、深く。キスをした。終末少女は永遠の存在。この姿のまま変わることなくーー飽きることなく使命を果たし続ける。幾つもの世界を内包する世界樹、その腐った枝葉を焼却するだけ。
それでも、共にあれるのであれば……それは幸せなことだと思うから。
中々思うような画像が出ずに四苦八苦しましたが、糖分の足しになったでしょうか? 元々の「コンセプトは砂糖にカフェオレをぶちまけた」なのに、甘々成分が足りなかったと思うのです。
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