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第77話 反省会


「やれやれ。みんな手酷くやられたものだねえ」


 と、けらけら笑うルナにルナ・チルドレンと呼ばれる5人は殺気を向ける。

 仕事を終えた者たちが宴会をする、うるさい声がここにまで響いている。祝勝会――そこかしこで酒を飲み交わして。

 まあ、ルナと一緒に酒を飲みたいという人間は少ない。それは恐れ多いからだ。……ルナは幼女の姿をしていても【災厄】に伍する人類最大級の戦力であり、【翡翠の夜明け団】の大幹部である。


「腕一本なんてどうしたことないわ。ちゃんと勝ったもの。文句は言わせないわ」


 もっとも、この五人もまた戦略級の超兵器……人造人間だ。

 その最高峰レベルの人外であるのだから、”ここ”は魔境とも言っていい。まあ、実情は飲み会だし、ルナの前にはケーキが積まれていたりするのだが。


「カレンは――ああ、刀使いと戦ったのか。……怖くなかったかい?」


 PDAを開き、接続して情報を見る。

 第三世代であろうとも直接脳に情報をインストールなどできないのだが、この場の面々にはルナのこうした異常な能力など慣れっこなのだろう。スルーする。

 まあ、普通に飛ばし飛ばしで見ていったら十分くらいかかるのだが。


「……特に。ええ、そんなことなかったわ」


 一瞬ためらったくせに強く断言した。そして、ルナの前のケーキを一つ、手づかみでひょいと食べてしまう。


「ふふ」


 わかっているよ、という風に笑うルナにカレンからの怒ったような視線が突き刺さる。ケーキを食べられても特に怒りはしない――もっとも、食べかけをさらわれたら横の二人から殺気が飛ぶが、カレンにはルナの食べかけをかすめ取る趣味はない。


「怖くなかったわ」

「よくやってくれたよ。あいつ、見た限りでは砦の装甲まで切り裂きかねない。まったく、人類軍も面倒な人員をよこしてくれた。そこまでして天敵を守りたいかね?」


 多少の笑いが起こる。揶揄するように。

 そもそも、ドラゴンの住む天空の島を落とす――この作戦の邪魔をするにしても、あれだけの強力な”魔物もどき”を特攻させる必要はない。

 あくまで夜明け団は、人類軍の目的を全く持ってつかめてなどいない。この言葉はただのジョークだ。


 空気が悪くなったところでスペルヴィアが横槍を入れる。ちなみに見るべき点もなく不意打ちで終わらせたクーゲルは横で会話に参加せず酒を味わっている。

 むろん、普通に暮らしていてはお目にかかれないような高級品である。


 ちなみにこの場所だが、アハトは屋内に来ないから屋上(彼だけジャンプして上った)になったが、アルカナが無駄に高度な魔術で結界を張ることなく砂が入らないようにしている。


「目的は果たしましたよ。それに、あなたからアーティファクトをいただかずとも勝っていました。”私は”」


 私は、を強調する。スペルヴィアは目を弾丸にぶち抜かれたとはいえ貫通してはいなかった。しょせんは化け物銃でも銃は銃、アーティファクト持ちを殺し切れる代物ではない。

 あそこで殺し切れたと安心したことが敵の敗因だった。つまりは緊張の糸が切れた。


「うん、そのようだ。よこした迎えも要らなかったかな。けれど、君の時間を無駄にさせるのは忍びなかったんでね。とはいえ、備えをおろそかにする意味もない。あ、それ貸して」


 ルナが戦闘の開始前に与えたアーティファクトを指さす。それは事前に設定したHPまで削れたところで入れたポーションを使用するというゲームアイテム。箱舟から持ってきたものだ。

 現実化する際にあたっては、任意で中身のポーションを無針注射器の様に打ち込むという仕様になっている。


「アハト。それとイディオティックのは……壊れてるか」


 受け取って、回数を回復させる。ふりをしてすり替える。これは回数制限を回復しないタイプのものだ。とはいえ、何個も上げるのは気が引けるから。なんか修理できそうな感じで、実は全く無駄に弄り回しながら雑談に興じる。


「というか、あれは何だったでしょうね。魔物化、というには少し……最後には意識も戻っていたみたいですし。感知系の魔眼かと思いましたが、アレそもそも眼なんてありませんでしたし」

「いや、魔眼に目が必要なんてことはないよ。ただ、発動キーを目にしてるとえぐり取られたときに使えなくなるだけだね。能力が発現するタイミングの問題さ。なくなってから発現したのなら、空っぽの眼窩だけでいい」


「なるほど。なかなかに面倒な能力ですね。……しかし、人間の相手があれほど大変だとは思いませんでしたよ。魔物なら、もっとこう単純なのですが」

「そこは仕方ない、人間なのだからね。策を弄すし、こちらに対応してくる。僕らと同じく、脳があるのさ。ただ、人間であれば話が通じるわけでもないというのが困りどころだ」


「ふふ。確かに、奴らは道理など解さない。まったく、世の道理というものを理解できる人間が少なすぎる」

「ふふ。そういう傲慢な言い方は他人にするものではないよ? ま、僕たちは他人とも言えないけど。それに、論理などというものは僕たち夜明け団にしか通じないようだから」


「――論理、ですか」


 ため息をついて。


「アハトのあれを、あなたはどう見ますか? 私にアレを倒せるかと聞かれても難しいかもしれませんが――それでも、あの戦い方は論理的とは思いません」


 言われたアハトは酒に手を付けず持ってきたレーションを口にしている。とりあえず付き合いはするが、空気で居るスタンス。


「ああいうのも僕は好きだよ? 一つを極める、どころか一つを頼みに他のすべてを捨て去るなんて、そうそうできることじゃない。そもそも彼は夜明け団に拾われるときに人間性が崩壊しているんだから」

「それは、多かれ少なかれ誰もが似たようなものでしょう? 私も、住んでいる街を奴らに滅ぼされ、復讐を誓いました。すべてを失い、この身までも復讐に捧げた。あなたは違うのですか、ルナ」


「ふふ、どうだろうね。ただアハトの場合は違うよ」

「……? それはどういうことでしょう」


「アハトは鉄の箱の中で発見された。まあ、そこに入れた親だか兄弟だかの考えはわかるよ。そこそこ以下の街が滅ぼされるとき、相手は大量の犬と中級程度が何匹かであることが多い。鉄の箱の中なら運悪く中級に執着されない限り生き残れる。生き残ってほしいという残酷な願いさ」

「ああ、雑魚しかいないのであれば四方を鉄の壁で囲めば生き残れるということですね。それは理解できますが、何をそこまで悪い顔をしているのです?」


「一応言っておくけど、僕がやったわけでもないし、これからもやらない。中から脱出できない箱に入れるなんて”拷問”はね」

「……そんなものが、どう拷問になるというのです?」


「僕らは力がある例外――いや、手足を切り落として喉を割られた状態で入ったらどうかな? 一般人だと似たような体験ができるだろう」

「ああ、それならば。確かに怖い」


「しかも、犬どもがガリガリと鉄の壁をひっかいているんだぜ。中々に絶望的な状況――というか、まともな精神なら崩壊する。崩壊した残り、破壊衝動だけが服を着て歩いているのがアハトだよ」

「我々はどこか壊れているとでも言うのですか? ルナ。それともあなただけは別とでも言う気かしら」


「僕は別口だ。それに、人造人間として適正を持つのはそういうことだよ。これは【夜明け団】の技術だから――自然と君らとは同類ということになる」

「では、壊れていないあなたならあの病毒の化身にどう立ち向かうのか聞かせていただきたいですね」


「僕なら一刀でコアを破壊するよ」

「……それ、あなたにしかできないでしょう?」


「アルカナもできるさ。そうだね、僕が君としてアレの相手をするなら――逃げるね」


 アリス様はできないということじゃないですか、とつぶやいて。


「まさかの答え、といいますか。それだと私たちが行く意味がないのでは?」

「勘違いしないで。君たちの存在意義はヘヴンズゲートの切り札だ。人類軍との抗争はおまけにすぎない。それで死なれては支障がある。まあ、アレに砦を汚染されてはヘヴンズゲート発動以前の大問題ではあるから、間違いとは言えないのだけどね」


「ああ。ということは、逃げて砦の火力を叩き込んだ上で、それでも生き残っていればこの手で倒すということですか」

「僕なら殺すまで砦に任せるよ。さすがに砦に取りつかれたなら出ていくけどね。基本的には大一番を前だ、他の人に頑張ってもらうさ。それが彼らの仕事だからね」


「……さすがですね」

「まあね」


 別の意味ではありそうだが。


「……んくっ」


 スペルヴィアは目の前の盃を飲み干す。


「それ、私にもください」


 そういってルナの前にある大量のケーキの一つをもらう。


「君たちも遠慮しないで飲んだり食べたりしなよ――とは、言うまでもなかったかな」


 暴飲暴食、とはかけ離れている。アハト以外はゆっくりと酒や食事を楽しんでいる。

 最後の晩餐、そうするつもりはないけれど、そうなる可能性は十分あると理解している。まあ、とにかくこれはルナのおごりで、めったに食べられない超高級品だ。

 それぞれが十分に楽しんで、そのうちに夜が深まる。



 イディオティックは空気。負けたからね、でも夜明け団の流儀は失敗は問わないから普通に酒をたしなんでます。失敗は問わないけど、もちろん功績が増えないという意味はあるということで。やっぱり功績を上げなきゃ偉くも有名にもなれません。


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