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ある秋祭の風景  作者: Tonbo_Masaka
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風景~その1  フィクションですよー、怒らない、突っ込まない!

まだ夜の明けやらぬ北町自治会館に大型トラックが停った。微風だが、秋も中盤で空気がヒンヤリとしている。男たちは、静かにトラックへとそれを運び上げた。



時は遡る。


「ごくろうさん!最後にもういっぺんくぞ!」


「おー!」


「差してくれ!そりゃ、そりゃ!」


重さ2トンの太鼓台が150を超える担き夫たちによって、肩まで担ぎあげられる。指揮者の合図で太鼓が早打ちを始める。そして肩に担がれた太鼓台が一気に頭上へと差し上げられた。そして、放り上げ。頭上から、さらに太鼓台が何度も宙を舞う。


神田川市、秋祭。最終日の宮出しを終え、自治会館に戻ってきた北町太鼓台。この太鼓台を担ぐのは今年が最期だった。来年は、隣の飛田市・山町へと譲られることになっている。


E県東部からK県西部にかけて、太鼓祭りといわれる祭がある。その土地土地によって形は異なるが、おおむね4本の担き棒に支えられて四方を飾り幕に囲まれた本体、中には和太鼓。長さ10数m、高さ約5m、幅3.5m、重さ2.5トンの大きな神輿と思ってもらえばよいだろうか。


本体だけでも、数千万円。装飾も含めれば1億とも2億とも言われる太鼓台を、田舎の自治会がそうたやすく買えるものではない。北町も何十年もかけ、自治会費や寄付を少しずつ貯蓄し、ようやく今年、新調することができた。それとともに、これまで使っていたものは、太鼓台のない飛田市・山町へと譲渡されることになったのだ。


それが2年前のことだった。



谷町の太鼓台が山町を襲う。2輪を装着しての突っかけだから勢いがある。一度引いて、さらに突っかける。担き棒が山町の幕を引き裂いた。


初日は地区内を練り歩き、飛田市秋祭2日目、河川敷での統一寄せで10を超える市内の太鼓台が勢ぞろいするため、続々と太鼓台が集結していた。山町も、河川敷の近くまできて、き比べに備えて担き夫たちは昼食に出かけ、空き地に停めさせてもらっていた太鼓台には数人の見張りと、見物人がいるだけだった。

そこへ、先に河川敷へと向かっていた谷町が引き返してきた。そして、山町の太鼓台に突っかけてきたところだった。


若者が多く賑やかな谷町、勤め人や農家が多い静かな山町。隣どうしの町だったが、普段から山町の者は若者たちの粗暴さにたびたび苦情を言い、谷町は谷町でそんな山町をうるさく思っており、自治会の仲は険悪だった。この秋祭でも、自治会どうしで何か互いの諍いがあったのかも知れない。それにしても、谷町の突っかけは喧嘩ではなく、暴走だと後に批判されることになる。


三度、四度と当てられ、幕は外されたが、すま、四本柱といった骨組みが傷つけられながら、次第に山町太鼓台が後退してゆく。そして、五度目の当たりで、空き地の端から1mに満たない高さだが、畑へと太鼓台が落とされた。


既に誰かが連絡したのか、運営委員の何人かが現場にかけつけ、勝鬨をあげている谷町太鼓台に解体命令を出した。以後の運行は自治会への帰路まで。そこで、谷町の祭は終わる。


谷町が去った後、ようやく山町の担き夫たちが帰ってきた。青年団の若者たちの悔し涙と、担き夫たちの怒り…だが、相手はもういない。様子を見にきていた北町の若者も手伝い、畑から引き揚げられた山町太鼓台は、壊れたスマに応急処置を施し、外した幕を取り付け、やるせない気持ちで河川敷へと向かった。


山町の河川敷入りを、観客、そしてほとんどの太鼓台はおおむね同情的で温かい拍手で迎えた。だが、何度かの衝突でどこか締め付けが悪くなっていたのか、山町の太鼓台はうまく担ぐことができないまま担き比べは終わった。


「ださいのう」


「ああ?」


嘲笑しながら捨て台詞を吐いたのは、中本町の担き夫たちだった。


「中古のボロしか買えんけん、どうもならんなるんじゃ。」


「ボロって何ぞ?こいつは由緒ある神田川は北町の太鼓ぞ!」


「北町で、南町に毎年やられよるとこじゃろが。飛田の祭によその太鼓持ってくんなや。」


太鼓どうしの喧嘩ではなく、今度は人の喧嘩が始まった。すぐに運営委員と警察官が間に入り、騒動は落ち着いたが、今後に遺恨の残る出来事だった。


それが昨年のことだ。



男たちは、手配されたマイクロバスや個人の車に乗り合わせ、トラックの後に続く。到着してもなお夜は明けていない。男たちを乗せた車は、そこからほど近くにある森田運送の倉庫のある敷地に入ってゆく。敷地内の駐車場に車を停め、降りてきた男たちの数、ざっと200人。


土手を降りた大型トラックの上では、幌が取り払われ、固定していたロープが外されていた。太鼓台を降ろし、2輪を履かせる頃になってようやく空は白んできた。


「何!神田川の太鼓が?」


「はい、朝から河川敷で…」


飛田の秋祭2日目、運営委員たちの耳に飛び込んできたのは、北町の太鼓が河川敷にいる、そんなとんでもないニュースだった。


飛田の秋祭と神田川の秋祭は開催日がちょうど入れ違いで、飛田の最終日の翌日が神田川の初日だった。秋祭以外のイベントでの交流はあっても、秋祭自体での交流はありえない。


河川敷には、早くから野次馬たちが集まり始めていた。祭2日目の河川敷での統一寄せは、午後1時からだ。その前に、正午過ぎから続々と各地の太鼓台が入ってくる。


「責任者の方は誰かいのう?」


「私です。ども。」


北町が対応として声をあげたのは、青年団ではなくOBで総責任者の石川だった。


「あんたら、何やっとるんか?」


「見てのとおり、祭ですわ。」


「祭て、あんたとこの祭は明日からじゃろが。そもそも、場所が違うんちゃうか。」


「すんませんな、若いもんが辛抱できん言うて出してしもたんですわ。気ぃついたらここまで来とったんですよ。」


「気ぃついたらて、そんなわけなかろうが。腹割って話しましょや。」


「腹割って?太鼓なら何ぼでも割ったりますけどね。」


「んー?まさか、喧嘩しに来たんちゃうやろな。」


ちなみに、太鼓を割るとは、太鼓台同士の喧嘩で最終的に勝敗を決めるもので、そのために太鼓の正面は担き棒が突っかけてきても突き抜けないような、地区それぞれの工夫がされている。


のらりくらりと、石川が飛田の運営委員たちに対応する。その内に警察官もやってきた。


ちなみに、神田川の祭では、機動隊が多数応援にやってくる。市内の各地域を合わせれば、機動隊のバスが6、7台は来ているはずだ。一方、飛田の祭では地元の警察の対応だけで何とかことたりている。この場にやってきたのも、管轄する警察署からやってきた署員たちだった。


「あんたら、太鼓台を運行するのに許可が必要なのはわかっとろう?」


「運行するにはね。」


「どういうこった?」


「そもそも、運行って、公道を走ることでしょう?わしら運行してませんもん。」


「でまかせ言うな!なら、どうやってここに来た言うんじゃ?」


「河川敷は公道ちゃいますけん。トラックの荷台に乗せてきただけですわ。後は河川敷をちぃと回って、ここに展示してみただけですわい。」


「あのなあ、うちの祭の邪魔せんといてくれんか。太鼓が入ってきたら、ここら一帯、人でいっぱいになるんじゃが。」


「知ってますよ。」


「だったら、早いとこ、そのトラックに載せて帰ってくれ!」


「ええですよ。ほんでも、ちょうど今、担き夫が朝飯食いに行っとるけん、全員が戻ってきてから引き揚げますわ。」


「頼むで。まあ、あんたらも早いとこ祭したいってのはわかるけんど、よそに持ってきたらいかんわな。」


実際、北町の担き夫たちは、半数が食事のため太鼓台から離れていた。時間はまだ8時前。飛田の太鼓台が集まり始める時刻までは、まだ4時間以上の時間があった。


「ちわっす。やっぱ、新調したては綺麗ですね。」


「おう、そうじゃろ、見せびらかしに来たったんよ。」


「見せびらかしにって、無茶しよりますね。」


飛田の幾つかの太鼓台から、青年団が様子をさぐるようにやってくる。多少なりとも、付き合いのある青年団もいれば、全くの初顔合わせの者たちもいた。


「昨年はぶさいくなことになって、すんませんでした。」


「なんも。しゃあないわ、そっちも色々と事情もあったんやろう。渡してしもたら、あんたらのとこの太鼓じゃけん何ちゃ気にせんでええよ。」


「ほんま悔しいけど、相手がアホやからもう気にせんことにしましたわ。」


「我慢するんも男じゃけん、そりゃ山町の男気、ええもんじゃ思うよ。」


「北町だったら、速攻持っていくんでしょねえ。」


「うちは、辛抱が足りんけんなあ、ははは。」


昨年、譲渡した山町からは青年団以外にも、担き夫たちが何人もやってきて、北町と談笑していた。昨年、突っかけてきた谷町は今年は出場停止のため、山町にとっては穏やかな祭になることだろう。


「おい、まだか?」


いつした時刻は9時をとおに回り、間もなく10時になろうとしていた。


「ほんま困っとんですわ。ここら、飯食うとこ少ないけん、国道の方まで行ったみたいなんじゃけど、ほれ、ちょうど通勤時間でしたろ。なかなか戻ってこれんみたいなんですわ。」


「ほしたら、トラックだけでも入れといたらどうじゃ?」


「そのトラックの運転手も一緒に行っとりましてな。あいつ、携帯の充電切れた言うてたから、どっかで充電器でも探しよるんかも知れませんなあ。」


「はあ?あのな、もう2時間しかないんぞ?それにぼちぼち、人も集まりはじめとろが。わかっとんか?」


河川敷には、幾つもの露店が並び、祭を盛り上げている。それにつられて、すでに観客たちも集まり始めていた。


北町の様子を見にきていた各地区の青年団たちも、それぞれの太鼓へと戻ってゆき、今は飛田市太鼓祭運営委員の面々、それに警備の警察官たちがいるだけだ。


「とにかく、運転手に連絡ついたら、すぐにここまでトラック持ってこさ…」


「石井さん、ほんまに並みでよかったんですか?」


会話をさえぎるように、同じ北町の青年団OBが牛丼を持って話しかけてきた。


「おう、すまんな。ショウガ大盛りと、味噌汁は…あるな、これでええよ、ありがとな。あ、えっと江崎さんですか、コーヒーでもどうです?」


「いや、ええ!とにかくじゃな、トラックを…」


「あれ?味噌汁じゃなしに、これ豚汁じゃろが!」


「間違うてました?」


「わし、肉は嫌いなんよ。まあええけど。」


「あのな!トラックをはよ持ってこいっ!」


「まあまあ、とりま、飯食わせてんや。朝から何も食うてないんじゃけん。それからじゃ、な?」


そう言うと、シートを敷いた地面に座り、美味そうに牛丼を食いはじめた石井を睨みつけながら、可愛らしい字で江崎と書かれた腕章をつけた運営委員は去っていった。


運営委員たちのいらだちは最高潮に達していた。


「もう11時回っとんぞ、どないなっとんじゃ!」


「言われても、トラックの運転手が…あ、もんてきたわ。」


「はよ、持ってこいっ!」


「おーい、山下。トラック持ってこいとよ。」


「えー、マジっすか?あそこに置いといたら、タイヤ、パンクしとったんすよ。誰ぞいたずらしたんじゃなかろか。」


「パンクじゃと?動かせんか?」


「まあ、早うタイヤ取り換えて動かしますけどね。」


「おい、そのトラック、どこに停めとんぞ?」


「森田運送の倉庫ですけど?」


「すぐ近くじゃがい。もうええわ、そこまでその太鼓持って行け!間にあわんなる。」


「いやあ、そうわいかんでしょう。わしら運行許可とってないし、そんなんしたら警察に捕まるやないですか。」


「ああ?許可も何も、緊急じゃ。何だったらパトカーに先導してもらうけん、出せ!」


「おお!パトカーに先導されながら、太鼓、走らすて、なかなかかっこええですな。」


「ほしたら、動かしてくれるな。すぐにパトカー呼んでくるけん頼むぞ!」



「ええんですか?ここで引いたら元も子もないですよ?」


「誰が引く言うた?2輪の固定、外しとけ。」


「2輪を?」


「おう、すぐに付け直せるようにの。」


やがて、パトカーとともに先程の江崎氏をはじめ運営委員が4人一緒にやってきた。


「頼んできたぞ。さっそく動かしてもらおか。」


「あいよ。おーい、北ー!そろそろ動かすぞ、肩入れてくれ!指揮者は、早よ乗れよ、急げ急げ言うてうるさいけんの。ほしたらいこか。ほい、ちょーーーっさーじゃ!」


おもむろに動き出した北町太鼓台に、観客が注目する。いや、それ以前にパトカーが来てからずっと注目されていた。


「ちょーーっせーじゃ?………あれ?」


「どしたんぞ?」


見るからに北町太鼓台の動きがおかしい。


太鼓台を止め、あたかも何も知らないかのように太鼓台を調べ始める青年団。


「石井さあん、2輪の留め金が壊れとりますわ!」


「何、2輪が?」


「2輪がどしたと?」


「ああ、2輪がちゃんと太鼓にとまってないみたいなんですわ。」


「ああ?そしたら2輪外して担いで行ったらよかろうが!」


「ええ、無茶言いますね。私ら、太鼓担ぐほど力ありませんがね。」


「何寝ぼけたこと言うとんじゃ。太鼓ぐらい、それだけ人数おったら担げろが!」


「まあ、担ぐだけじゃったら何とかなりますけどね。あの土手あがるの無理ですわ。」


「無理も何も、あがってもらわにゃこっちが困る!」


「うちの担き夫はこう見えて、病弱なんが多いんですよ。あんまり無茶言わんといて下さいや。」


「………」



「怒っちゃいました?」


「もうええ!もうええ!もーーーーうええっ!おどれら、河川敷の隅まで持っていって、大人しいにしとけ!」


そう言うと江崎は、河川敷の遥か片隅を指差し、あっちに持って行けという。カクカクと安定感のない2輪のまま、北町太鼓台は言われた場所へと移動しはじめた。下がる時にパトカーの先導がないのが寂しい。

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