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通り雨

作者: naco

「うわ~雨じゃん。傘ないんだけど。」

「うちも~。最悪~。」

「相合傘してる人いるじゃん。リア充なんなん。」

「うちらも相合傘すればよくね~。」

「でもどうせなら男がいいな~。誰でもいいから!」

「無理無理!好きな人じゃないと!」


窓際で騒ぎ立てる女子を横目に、雨の降る外を見る。

さっきまでカンカン照りだったのが嘘のようだ。

多分多くの人は傘を持ってこなかったのだろう。困惑のセリフがあちこちから聞こえる。

そんな中一際目立つ会話、いや、自分が意識しすぎているのだろうか、ある二人の会話が耳に入りそちらに視線が飛んだ。

「ゆりはさ、相合傘とかしたい??」

「う~ん、どうしたのよ急に。」

「今日みたいな日とかさ、突然の日ってどうなのかなとかさ!あのバカたちも相合傘の話してたしね。」

「バカとか言わないの。んー、でもそうね、好きな人、とならしてみたいかな。」

「ふ~~ん。いるんだ。」

「ちょ、ちょっと!それは違うじゃない!!」


そういう彼女たちはクラスでもそんなに目立たないがある程度の地位を築いている、ゆりちゃんとその友達。

友達の方は言及する必要がないので伏せておく。

ゆりちゃんはあまりみんなは気づいていないが、実は大人っぽくてキレイだ。

恥ずかしながら一目惚れ。

初めて見た日から彼女が気になって仕方ない。

それからした会話はすべて内容を覚えている。


「好きな人となら、か。」

僕は一人そうつぶやくと昇降口へと向かった。


大勢の人が傘がなくて困ってる中、僕はこの前忘れていった傘を取り出す。

別段、大降りというわけではないが、傘をささずに帰るには少し強い。

さっき女子が言ってた通り、相合傘をする連中が目につく。突然の雨だから仕方ないのだが。

異性だけでなく、同性同士のものも見えるが、異性同士は異質な空気を放っている。


僕もゆりちゃんと相合傘をしたらあんな感じなのかな、と考えてはみたものの、そんなことは天と地がひっくり返らない限り起こらないことだと、もはや笑みがこぼれてきた。


「突然の雨だね。困った困った。」

後ろから、声が聞こえてきて、入口のそばにいるのは邪魔だろうと歩き出そうとする。

声を聞いてゆりちゃんだ、ということは分かった。だが意識してることがバレるのは嫌だし、振り返っていないから相手が誰なのか分からない。


「ちょっと、なんで無視して行こうとするのよー。」

ゆりちゃんはそういって僕の袖を引っ張る。

振り返るとそこにはゆりちゃん一人しかいなかった。

「あ、僕に話しかけてたんだ。てっきり友達と話してるのかと。」

僕は全く同様してないフリをする。内心は僕に声をかけてるだなんて全く思ってなくて心臓バクバクだ。

「ん~、それがみぃちゃんは部活で今日は私一人なの。君こそ部活は?」

「今日はオフなんだ。」

「へぇ~、そっか。」

ゆりちゃんは自分から話題を振ったにも関わらず、興味がなさそうに返す。

僕もそこからなにも返せずに、黙り込む。

無言の時間が続く。先に歩いたらいけない気がしてその場に留まる。


「突然の雨だね。」

僕が切り出す。黙り始めてから1分も経っていなかったが、体感では5分くらい経っていた。

「そだね。」

「傘とか忘れたんじゃないの?」

「うん。さすがに持ってなかった。君は持ってたんだね。準備がいいじゃん。」

「たまたまこの前忘れただけなんだよ。」

「感心して損した気分。」ゆりちゃんはふっ、と吹き出す。

「そんなことよりゆりちゃんは傘持ってるの?」

「ううん、ないよ。」

「どうするつもり?」

と、相合傘をしようだなんて言えるわけもなく、それとなく聞くことしかできない自分の勇気のなさを恨みつつ聞く。

「濡れて帰ろうかな、とか思ってたんだ。」

チャンスだ。相合傘をしようって言うんだ!!

「そ、それなら、この傘使いなよ!!」

と、心の声を完全に無視した言葉しか口から出てこない。

「え、でも、悪いよ…?」

ゆりちゃんはバツが悪そうな顔でそう言う。

「ううん、僕どっちにしても友達待とうとしてたからいいんだよ!!」

「えー、でも、その子も持ってないんじゃない?」

「いやいや!そん時は濡れて帰るって!」

なんと言われても貸すと言った以上、借りてもらわないと気が済まないのが僕の性格。折れるつもりはない。

「ん~、じゃあお言葉に甘えようかな。」

「そうしてよ!僕バカだし風邪ひかないから!!」

ゆりちゃんは無邪気に笑う。そんな姿も可愛い。

そのまま引き止めるのもよくないなと、もったいない気はするが「それじゃ。」と言って僕は背を向ける。




「一緒に入る?って言ってくれればよかったのにな…。」




「えっ??」

「ううん。なんでもないよ~。じゃ、また明日ね~。」

ゆりちゃんは少し焦り気味で走り去っていく。その姿を見て僕はただ茫然としていた。

彼女の最後の一言をかき消すように、突如来た雨の音と彼女の後姿が脳に焼き付けられた―――――。

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