表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/55

ファースト・コンタクト ねね(佳奈)

歴女の佳奈ちゃん登場です。

今回は出会いのシーンだけですけど、これからしばらくは前作の色々なシーンが出てきます。

サルがねねをどう思っていたのか、サル視点をお楽しみいただけたらなと思っています。

 ここで暮らす内に、俺にもこの国が置かれている状況が分かって来た。

 信長が治める尾張の力は小さく、信長が天下人、あるいはいずれ天下人になると言う俺の考えは、全くの間違いだった。

 と言うか、前世設定とは言え、そもそも俺の元の世界の日本の戦国時代と、この世界が同じものなのか、似て非なるものなのかさえ分かっちゃあいない。


 そんな世界でここのところ、信長からの特別なミッションも無いまま、日々、信長の身の回りの世話を続けていた。

 そして、その合間を縫ってはねねの下に通い、ねねを褒め上げ、笑わせ、物を与え、それなりに手なずけていて、成果はと言うと、俺の姿を見ると、「藤吉郎殿ぅ」と駆け寄って来るまでになっていた。

 そんなねねを抱き上げてやると、嬉しそうに笑うのである。

 ねねの年齢を考えると、ねねをゲットするのはまだ何年か先だが、このミッションの成功率は格段に上がっていると、俺は感じていた。




 そんなある日の事だった。

 俺は信長がまたがる黒い馬の轡を引いて、街をふらついていた。


 街行く小汚い者たちの姿も、ちょっと匂う臭いにも、もう慣れた。

 と言うか、俺自身もその臭いの発生源の一つである。


 この世界には、お風呂と言うものはないのである。

 何日かに一回、体を拭くのが関の山。

 俺の元の世界の温泉に入る猿の方が清潔かも知れない。



「見ろ。なんちゅう、うつけぶりじゃ」

「尾張の行く末も知れたものじゃ」


 信長と街中を歩けば、聞こえてくる人々の囁きにも慣れてしまった。

 俺にとって、それらはもはや街のざわめきの一つ以外の何物でもない。


 当の信長が怒らないのだから、俺が怒る理由もない。

 それに、馬上の信長の姿を見れば、俺だってそう思わずにいられない。


 馬に後ろ向きにまたがり、おにぎりやら、柿やらを頬張る。

 腰には色んなものをぶら下げ、着ている着物の背中にはそそり立つおちん○んが描かれている。

 しかも、そんながらの着物を何種類も持っているところなんか、センス的にも信じられやしない。



「今からでも、遅うはない。

 信長に見切りをつけて、他国へ行ってもいいではないか」


 そんな時、サルはそう言うが、俺としてはねねを手に入れていない以上、ここを離れるわけにはいかない。

 この世界での俺の人生を切り拓くためには、どうしてもねねが必要なのだ。

 たぶんだが。



「あんな子供がどうして必要なのじゃ?」

と、問うサルに返す明確な答えは持っていない。が、赤い糸でつながれている以上、ねねは必要な人物なのだ。


「あえて言うなら、結婚する事で、人生が開けるのやも知れない」

 その程度の事しか、思い浮かばない。


「浅野家はわしらよりかはかなり格上じゃが、織田家の中で大したことはない。

 どうして、人生が開けるのじゃ?」

とも、サルが言うが、これまた俺には答えが無い。

 ただ、ねねが俺の人生を切り拓くために必要と信じ、この日々を繰り返すのみ。


 そんな思いがねねを引き寄せたのか、視線の先に赤い糸がぼんやりと浮かび始めて来た。

 ねねが近くにいる証拠だ。

 赤い糸の先に視線を向けた。

 大人の男たちに囲まれているのは紛れもなくねねである。



「は、は、ははは。

 この子はどこの娘っ子じゃ? 

 かわいそうに頭がいかれておるようじゃ」

「はい? 私は事実を言っているのよ。事実を。

 あんたたちなんかより、私の方がずぅぅぅぅっと賢いんだからね!」

「ほほほぉ。お前の方が賢いって? こりゃあ、面白い」


 そう言うと、街の男たちはげはげはと下品な笑い声をあげた。

 何か言い争っているらしい。 

 大人しく、静かなイメージのねねが、何やら感情的になっているようだ。


 ねねの危機?

 そんな予感に、轡を持つ手に力を入れて、足の速度を少し早める。


 ねねは男たちとの言い争いに夢中で、近づいていく俺に気づいていないらしく、視線は一向に俺に向けられてこない。

 もう、ねねは目の前。

 声をかけようとした瞬間、ねねは頭を抱えてうつむいた。


 男たちに殴られると思って、頭をかばったんだろうか?

 そんな思いで、男たちを睨み付ける。


 男たちは信長の轡を取る俺のむき出しの敵意から、今自分たちが言い争っていた少女が信長あるいは、その小者である俺と何らかのつながりがあると思ったようで、一気に顔から血の気が引いていった。

 男たちが後ずさりを始めたのを確認すると、ねねに視線を向けた。



「ねね殿、どうなされました?」


 俺の言葉に、ねねは顔をあげた。

 目が輝き、満面の笑み。

 今まで見た事が無いくらいねねの表情は輝いている。


 よほど、危ないところを救われた事がうれしいに違いない。

 俺のポイントがアップしたに違いない。


 そう思ったが、ねねの視線は俺に向けられていなかった。

 馬上のおちん○ん、もとい、馬上の後姿の信長に向けられていた。


 もしや、あのそそり立つものに、興味が?

 そう思った時、ねねの表情からさっきまでの輝きが消え去り、がっかり感満載の表情になって、視線もようやく俺に向かってきた。


 にこりとねねに向けて微笑む。

 猿顔の笑み。


「その顔、怖ぇぇぇぇ」

 頭の中で、サルが言った。


 自分で言うなよ!

 頭の中で、サルに怒った瞬間、ねねがふらついた。


「あぁぁぁ」

 そんな声をあげて、ねねが地面に倒れ込みそうになるのを、素早く手で支えた。


「ねね殿、大丈夫ですか?」

 返事が無い。

「ただの屍のようだ」


 サルが頭の中で、ふざける。

 そんなことはないと、首を横に振って、サルの言葉を振り落すと、ねねの鼻の辺りに頬をあてがい、呼吸を確かめる。

 呼吸あり。

 胸の辺りに耳をあてがう。

 ぷーんと匂う臭いも、もう慣れっこ。

 小さな胸は鼓動を打っている。


「気を失っているだけのようだ」


 俺の言葉に、馬上から信長が声をかけて来た。


「サル。そやつはねねと言うのか?」

「はい。浅野長勝様がご息女、ねね殿でございまする。

 そして、わが妻になる者でございまする」


 信長にアピールしておこう。

 ついつい、そんな感情が言葉を付け加えさせた。

 信長は右手で、自分の顎のあたりをさすりながら、俺をにまにま顔で見下ろしながら言った。


「なるほど。

 幼きうちより手なずけて、妻になると心に焼き付けておこうと言う訳か。

 猿のような顔でも、幼き頃より慣れ親しみ、妻になるものだと思い込ませておれば、大きくなってから拒絶されることは無いと言う訳じゃな。

 さすがの猿知恵じゃ」

「いや、違いますから」

「よい、よい。

 早よう、家に連れて帰ってやるがよい」


 信長に誤解されたままだが、今はねねを家に連れて帰って、寝かせる方が優先である。


「はい。

 では」


 そう言って、頭を下げると、ねねを抱きかかえて、ねねの家を目指した。

評価に、お気に入り、入れて下った方、ありがとうございます。

予約投稿しました。

これからも、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ