九州平定2
不満げな表情のまま俺を見つめる大村に、ねねがきつい口調でだめ押しをした。
「分かりましたか?
私の言葉は殿下の言葉。
従わなければ、大村殿にも処罰が待っております」
ねねの言葉に不満そうではあるが、逆らう訳にもいかない事くらい理解している大村は平伏した。
が、コエリョは不機嫌そうな表情でねねを睨み付けたままである。
異国の伴天連には、天下人 ねねのオーラも通じないらしい。
「下がりなされ」
コエリョの態度に不機嫌そうにねねが言うと、大村たちは下がり始めたが、相変わらずコエリョは反抗的な態度で、動こうとしない。
そんなコエリョの背後にロレンソが回り、引き下がるよう説得を始めた。
コエリョは怒りの形相のまま立ち上がると、吐き捨てるように言った。
「私の指揮下には艦隊も控えている。
南蛮寺に手を出してみろ。すぐに報復してやるからな」
コエリョの怒りは収まらないのか、足をどたどた鳴らしながら引き下がって行った。
「つまりあれだな。
神のご加護は無いから、艦隊で砲撃すると言う事だ」
サルが呑気そうに言うが、この世界の伴天連たちの艦隊の力って、どんななんだ?
俺的には、そこが不安だ。
石田も不安に思ったのか、それとも伴天連たちのいないところなら、本音を言うと思ったのか、再び俺にたずねてきた。
「殿下、伴天連たちの布教はどのように?」
ねねの言葉を変えるなら、今がチャンスと思う俺に、そんな事を許してくれなさそうな視線をねねが石田に向けている。
はっきり言って、文句があるの? 的な睨み付けである。
「ねねの申したとおりで、いいであろう」
それ以外の選択肢をねねは俺に与えてくれそうにない。
「では、守らぬ場合は?」
「そうねぇ」
俺が何か言う機会さえ、ねねはくれないらしく、ねねが俺より先にそう言った。
「私の言う事が聞けなければ、伴天連どもは追放してしまえばよろしかろう」
ねねは、きっぱり、すっきり、大きな声でそう言った。
伴天連はこの国には無い珍しいものを持ってきてくれると言うのに、マジで?
そんな目で、ねねを見た。
言った本人にも、迷いがあるのか、ちょっと戸惑い気味のようにも見える。
が、その言葉を取り消す素振りも無い。
「うむ。ねねの言う通りでいいじゃろう」
一応、天下人は俺である。
石田に命ずるのは俺の仕事。
「楽じゃのう。
ねねの考えを追従するだけなんじゃからのう」
サルが俺を少し小ばかにして言うが、無視、無視、無視。
「かしこまりました」
石田が平伏した。
これが天下人、俺の仕事だ。と、サルに自慢げに言い返しておく。
そして、ふとねねに目を向けると、小首を傾げている。
「ねね。どうしたんじゃ?
肩でもこっておるのか?」
「そうじゃないんだけどね」
心配げな俺に、ねねが笑みで返してきた。
疲れているのかも知れない。
こんな時は、風呂である。
ざぶん! と、湯船につかれば、疲れも吹っ飛ぶと言うもの。
俺が来た時、この世界にはお風呂は無かったが、ねね考案のお風呂が今はある。
人が入れる大きな鉄の釜の底から薪で湯を沸かす。
釜の底には木の板を敷いていて、やけどしないようになっているのだ。
風呂好きのねねはその釜を持ち歩かさせている。
「風呂でも入ったら、どうじゃ?
ねねは毎日お風呂に入るのが好きじゃからなぁ」
この世界の人はあまり風呂に入らないと言うのに、ねねは元の世界の俺の国の人たちがそうであったように、毎日お風呂に入りたがるのだ。
まあ、お風呂に慣れてしまえば、そうなるだろうが。
「いや、しかし、あんなお風呂を考えてまで、入りたがるのはねねくらいであろうのう」
サルが言うが、まあそうかも知れない。
「じゃあ、そうさせてもらいます」
ねねはそう言うと立ち上がって、部屋を後にした。
「三成、他にもまだ来ておるのか?」
ねねがいなくなると、まだ俺に会いたいと言う者がきているのか、石田にたずねた。
「いえ。本日は大村で最後でございます」
「そうか」
終わったぁ。
そんな気分で、立ち上がると、両腕を思いっきり伸ばした。
俺も風呂に入って、のんびりしたい。
とは言え、あの風呂は二人で入れるものでもないし、それ以前に、ねねと一緒に入ろうなんてしたら、往復ビンタもんだ。
「いや、そなんものではすむまいて」
と、サルが言う。
とりあえず、厠にでも行こうと部屋を出た。
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ブックマーク入れて下さった方いたら、うれしいなあ。
と、思いながら、お礼言っておきます。
いると信じて。ありがとうございます。
途中で出てきましたねねの「迷い」、前作読んでいただければ、この時代のねねが復活しつつあったためと言うのが分かります。




