九州平定1
九州では島津と言う大名が暴れまわっていて、大友宗麟と言う大名がしつこく俺に助けを求めて来ていた。
毛利や四国の長曾我部たちの軍勢に、黒田官兵衛を付けて、九州に派遣したのに続き、ついに俺も九州に上陸すると、弟の秀長には九州の東側から、俺は西側から島津討伐に向け、南進する事にした。
官兵衛たちの働きや俺の軍勢の数に屈し、九州の広い範囲を支配していた島津は多くの領地を放棄し、九州の南部に撤退していった。
そうなると、当然島津がいなくなった地の将たちは、自然と俺に下って来る訳で、九州平定は順調に進んでいる。
筑前にある古めかしい城の広間。
一段高いところにねねと座り、そんな者たちの謁見に付き合っている。
「殿下にご挨拶にと、大村純忠に伴われ、伴天連が来ております」
石田三成が言った。
大村純忠はすでに帰順してきていて、どうやら今回は伴天連を俺に引き合わせるのが目的らしい。
「大村はキリシタン大名であったな。
通せ」
しばらくすると、大村とその背後に首から十字架を架けた武士と二人の宣教師が現れた。
宣教師の一人は明らかに異国人で、もう一人はこの国の人間らしいのだが、ねねの顔を見て、驚いたような表情をしている。
なんだ?
そう思ったのはねねも同じようで、「なに?」的に視線をその男に向けると、目をそらした。
「関白殿下。
ここに控えます伴天連はコエリョとロレンソです」
大村が二人を紹介すると、それぞれが俺に頭を下げた。
コエリョが異国人、ロレンソがこの国の人間らしい。
そのロレンソがコエリョに顔を近づけ、耳元で何かを言っている。
「なんじゃ?」
元々耳元で言わなくても、伴天連の言葉は分からない。
分からない言葉で、ひそひそされるのは気に入らないので、ちょっとムッとした表情でたずねた。
「ロレンソが申しまするに、その当時、どなた様かは分からなかったようですが、北政所様とは安土の城でお会いした事があるそうで」
そうなのか?
そんな視線をねねに向けると、ねねが二人に向かって話し始めた。
「そうですね。
確か地球が回っているのか、星々が回っているのかと言う話をさせていただいたかと」
昔の人々は、星が地球の周り回っていると思っていたはずだ。
きっと、ねねも伴天連たちもそんな話になったはず。そう思っている俺に意外なコエリョの言葉が届いた。
「地球が回っているなどとは、何と言う不届きな考え。そのような」
えっ? と言う事は、ねねは地球が回っていると思っているのか?
驚きながら俺はコエリョの続きの言葉が聞きたくて、目を見開いてコエリョに注目していると、ロレンソが言葉を挟んできた。
「あの時、残念ながら、信長公はデウスの教えを信じませられなんだ」
ロレンソが口を挟んだおかげで、話はデウスに飛んでしまった。
「信長公はそれ以上に自らが神であるかのように振舞われようとした。
それゆえ、非業の死を遂げられたのです。
神を冒涜せず、神に救いを求めておればと思えば、残念です」
コエリョがそう付け加えた。
「ふんっ!」
ねねが鼻で笑った。不快感全開だ。
ちらりと横のねねに視線を向けると、伴天連たちを睨み付けている。
元の世界から祈りによって、この世界に飛ばされた俺的には神と言うものにはよいかかわり方はしても、否定的なかかわり方はしたくない。
困ったものだと思っている俺の横で、ねねは不機嫌そうなきっつい口調で、伴天連たちを叱責するような言葉を投げかけた。
「そう言えば、九州の一部の地では、神仏を破壊しておるようじゃな。
大村の地でも、行われておると聞く」
この世界のこの国はそうだし、元の世界の俺の国もどちらかと言うと八百万の神的なものを信じている。
一神教ではないから、デウスだろうが何だろうが寛容だが、一神教を信じる者にとっては、他の神は神なんかじゃない。
この大村の国で、元々信仰されていた神や仏を次々に破壊していると言うのは俺も聞いている。
信長を愚弄するかのような話に怒り気味のねねは、その事を咎めようとしている。
そう感じた時、コエリョがねねに反論した。
「人の手により破壊されると言う事。
これすなわち、神の力など有しておらぬ故でありましょう。
そのようなもの破却し、我らがデウスにすがる事こそ、正しい道ではありますまいか」
まずい。俺はそう感じた。
あんな事やこんな事はさせてもらっていないが、ねねとの付き合いは長い。
ねねがぶちぎれて、南蛮寺を破却すると言うに違いない。
その考えが正しかった事はすぐに証明された。
「では、私が南蛮寺を破却して見せれば、そなた達が言う神はおらぬ事の証明となりまするな」
伴天連たちも引き下がればいいものを、そんな気配を見せないばかりか、コエリョと言う異国人に至っては、ねねを睨み返している。
「殿下、デウスの教え、どうされるのですか?」
険悪な雰囲気を何とかしようと思ったのだろう。石田が言葉を挟んできた。
俺的には、神と言うものの布教を邪魔する気はない。
今までどおりでいいだろう。そう言いたいとこだが、ねねが賛同するのか?
ねねにちらりと視線を向け、様子をうかがいながら、言葉にしてみる。
「そうよなあ。今まで」
「まず条件がありますっ」
ねねが俺の言葉を遮った。
「日本古来の神や仏の破却を直ちに取りやめる事。
領民への改宗の強制を直ちに取りやめる事。
これは伴天連たちだけでなく、大村殿への命令でもあります」
「関白殿下。
北政所様の言葉は関白殿下のお言葉でしょうか?」
大村はねねの言葉が不服なんだろう。
俺にそう言ってきた。
ちらりとねねに視線を向け、「マジか?」と、目でたずねてみるが、ねねのきっつい表情は微動だにしないところを見ると、単なる脅しでもなく、本気らしい。
俺としては宗教の布教の邪魔はしたくない。
「何を考えておる。
ねねの言う事が正しいわい」
茶々と言う餌をぶら下げられ、ねねの忠実な子猿となったサルが、ねねに逆いそうな俺に言う。
それでも、まだ迷い気味の俺に、サルが条件を出してきた。
「今度、若い女子とする時は、お前に譲ってやるではないか。
ここはねねの言うとおりにすべきじゃ」
そんな条件で俺は譲る訳にはいかない。が、ねねの言う事も間違っている訳じゃない。
「当たり前じゃ」
大村達に、ねねの考えを支持する事を力強く表明した。
「本音は俺の条件に釣られただけであろうが」
サルが言う。
俺の心を読めるこいつは邪魔者だ。無視、無視、無視。
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