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鳴かぬなら、殺してしまえ、ほととぎす

 徳川の宿泊先にあてた秀長の屋敷。


 徳川に案内された部屋の奥に、俺とねねが座り、俺たちの前に徳川が座っている。

 とりあえず、関白である俺の方が地位は上、と言う関係だけは徳川も認めている。



「家康殿、久しいですな」

「関白殿下とは、色々ござりましたなぁ」


 そう言って、にこやかな表情を作っている。

 俺もにこりと返してみる。


 ここは一つ、和やかな雰囲気を作る必要があると言う事は俺にだって分かる。

 きっと部屋の外では刀の柄に手をかけた徳川の家臣たちがいるに違いない。


 俺はありきたりの話題を徳川に振って、昔話で盛り上げた。

 一通りの話が終わり、会話が途切れた時、徳川は会話のネタを見つけた。


 ねねが持ってきた鳥かごである。



「ところで、北政所さま、その鳥かごは?」

「徳川殿にプレゼントです」

「ぷれぜんと?」


 徳川がプレゼントの意味が分からず、小首を傾げた。


「あ、すみません。贈り物です。

 ほととぎす」


 そう言って、ねねが鳥かごを徳川に差し出した。


 きっと、ねねは南蛮人と接触しているので、そんな言葉を知っているのだろう。

 だが、ちょっと知っているからと言って、カタカナ語を使うのは軽薄っぽい気がしてしまう。


 しかも、なぜにほととぎす?


 その思いは徳川も同じらしい。



「ほほぉ」


 そう言いながら、怪訝な表情で鳥かごの中のほととぎすを見つめている。


「ほととぎすと言えば、鳴き声が特徴的ですね」


 ねねの言葉に、徳川が視線を鳥かごからねねに移した。


「左様で」


 徳川も俺と同じで、ねねの言いたい事が分からないらしく、意味不明の笑みでねねの反応を探っている。


「ところがです。

 もしも、目の前に鳴かないほととぎすがいて、一句となれば、どうされますか?」

「さて?」


 徳川は小首を傾げている。


 ねねは何を言いたいんだ?

 俺も一緒に傾げてしまう。


「関白殿下なら、鳴かぬなら、鳴かせてみよう、ほととぎすと、詠まれました」


 はい?

 何の事?

 そんな事、言った覚えもないし。

 意味、分かんないんですけど。


 ねねに視線を向けると、俺ににこりとだけ微笑み返して、徳川にまた視線を向けた。


「関白殿下であらせられれば、如何にもな句でござりまするなぁ。

 しかし、なかなかご威光にも、努力にも従わぬほととぎすもいるやも知れませぬ」


 徳川はそう言って、思案顔を作ったかと思うと、一瞬俺ににやりとした。


 俺は徳川の、そしてねねの意味が分かった。

 茶々がなかなか落ちず、落とそうと頑張っているサルの姿が重なった。


「サル。これはお前の事を言っているに違いない。

 茶々の事だな」


 俺は自信満々に頭の中で、サルに言った。


「おぬし、頭は大丈夫か?

 ここで、茶々の話をしてどうするんだ?」


 それはだなあ。

 とは言ってみても、返すべき答えが見当たらない。


「さようですね。

 そのような場合、家康殿には、鳴かぬなら、鳴くまで待とう、ほととぎすがお似合いかと」

「鳴くまで待とうでございまするか?」


 また新しいほととぎすのパターンが出て来た。

 しかも、今度は俺ではなく、徳川だ。


 やっぱ茶々の話とは関係なかったのか?


 小首を傾げる俺の目に、目をつぶる徳川の姿が映った。


「鳴くまで、待つ」


 徳川はそう言い終えた後、しばらくして目を開けて言った。


「なるほど、鳴くまで待つですなぁ」


 俺には何の事だか分からないが、徳川の表情はにんまりしていて、何やら意味深だ。


「そうです。

 私なら、鳴かぬなら、殺してしまえ、ほととぎすですから」


 また、新しいほととぎすのパターンだ。


 しかも、殺すなんて、物騒な。

 ねねに視線を向けると、きっつい視線を徳川に向けていて、恫喝しているかのようだ。


「恫喝しているんじゃよ」


 サルが言う。


「天下はお前を選んではいない。

 従わないのなら、殺しちゃうよ、とねねは言っておるんじゃ」


 サルの説明のとおりにも受け取れる。

 としたら、ねねは恐ろしい女の子だ。


 味方ではない徳川の所に二人だけで乗り込んで、徳川を脅すなんて。


 徳川はどうでるのか?


 緊張する俺に、徳川の豪快な笑い声が届いた。



「はっ、はっ、は。

 これは参りましたなぁ。

 私も殺されたくはありませぬ故、関白殿下と北政所様のお役に立てまするよう、精進いたしまする」


 徳川が平伏した。


 この勝負も、ねねが勝ったようだ。



「やはり、ねねが天下人のようじゃのう」


 サルが言うが、全くその通りだ。


 天下人のオーラを纏ったままねねが徳川に言う。


「さて、それでは徳川殿、殿下になり代わり、戦陣では指揮を執っていただくこともあろうかと思われます。

 おそらく、明日の対面に際し、殿下は陣羽織を羽織っておられると思われます」


 突然、ねねの言葉の中に、明日の俺の服装の話が出て来た。


 陣羽織を着ろと言う事か?


 ねねに視線を向けて、問うてみたが、ねねは俺には何の反応も返さず、徳川に言葉を続けた。


「徳川殿が、関白殿下のために働かれると申されるのでしたら、その陣羽織を自ら賜りたいと申されるのが、よろしかろう」

「なるほど、それはぜひに」


 徳川は大きく何度か頷いてみたせ。



 結局、態度をはっきりとさせていなかった徳川だったが、その場で俺への忠誠を誓う事になった。


 天下人ともなれば、戦わずして、相手を屈服させる。


 そう言う事だ。



「いや、おぬしの関白と言う位ではなく、ねねの気迫に負けたんだと思うんじゃがのぅ」


と、サルは言うが、無視、無視、無視。




 次の日、大坂城の広間で俺は徳川家康と対面した。

 一段高いところに、どかっと座り、平伏する徳川を見下ろし、一言声をかける。



「大義である」


 亡き織田信長の盟友であり、東海に覇を唱える徳川家康でさえ、臣下となった事で、ますます俺の天下は盤石となりつつある。


 次の目標は九州平定だ。

予約更新しました。


ブックマーク入れて下さった方いたら、うれしいなあ。

と、思いながら、お礼言っておきます。

いると信じて。ありがとうございます。

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